平成11年7月2日
照 会 先
老人保健福祉局 老人保健課
課長補佐 関 英一(内3941)
課長補佐 則安俊昭(内3942)
TEL 03-3595-2490(直 通)
○しろまる 壮年期からの疾病予防と健康増進を図るため、市町村において昭和58年以来、3次にわたる計画に基づき実施されてきた老人保健事業(医療等を除く)につき、今後の在り方を13回にわたって検討。
○しろまる これまでの保健事業の評価(3ページ参照)を踏まえ、老人保健事業第4次計画(平成12〜16年度の5年間の計画)として、以下を推進することを提言。
1 重点的に取り組むべき対象疾患の明確化
・高齢期の生活を重視する観点から、痴呆、骨粗鬆症、歯周疾患等にも取り組む。
・これらの疾患等について、健康日本21との整合を図りつつ、目標を設定し、その達成に向けた取組みを推進。
2 要介護状態になることの予防に対する重点的な取組み
・脳卒中等の疾病の予防に加え、転倒などの事故や、閉じこもりなど社会的活動の低下にも着目した事業を展開。
3 介護に携わる家族の健康管理支援
・ショートステイ等の効果的活用や、共通の悩みを持つ者が支えあう取組への支援も重視。
4 保健サービスの体系的な実施(ヘルスアセスメントに基づくサービス提供)
・これと併せて基本健康診査の情報を活用し、更に、対象者一人ひとりの健康についての評価(ヘルスアセスメント)を行い、その結果に基づいて、ふさわしい保健サービス(個別健康教育、集団健康教育、訪問指導等)を計画的に提供。
5 個別健康教育など新たな保健事業の展開
・(1)高血圧、(2)高コレステロール血症、(3)耐糖能異常(糖尿病の前段階)、(4)喫煙については、一定の要件を満たす対象者に対し、一定の手法を用いて生活習慣の改善への取組を促す個別健康教育(対象者と指導者が1対1で実施)を段階的に導入。
・ヘルスアセスメントの結果を活用し、生活習慣改善のためのグループワーク等による集団健康教育、栄養指導、運動指導等についても、効果をあげている実施方法の普及定着を図る。
【要介護状態となることの予防等】
・要介護状態の予防に重点をおいた機能訓練、生活習慣病の予防や保健・医療・福祉サービスの調整を図るための訪問指導を引き続き重視。
・寝たきりを予防する地域リハビリテーションの取組を推進。
【健康診査等】
・乳がん検診については、マンモグラフィ併用方式の漸次導入を、他のがん検診については、現行の手法による取組みを引き続き推進することを推奨。
・歯周疾患検診、骨粗鬆症検診を、節目検診(40歳、50歳)として独立した検診項目として実施。
・高齢者に対し薬についての啓発を行うなど、新たな啓発活動を地域の実情に応じて実施。
6 保健・医療・福祉の連携
・保険者による保健事業と、市町村の老人保健事業との整合性確保を重視。
7 基盤づくり
・人的資源の確保や研修を重視。また、健康づくりに関係したボランティア活動や高齢者自身による取組をさらに推進。
・痴呆を含め介護に関する研究を充実。高齢者の健康指標の標準化や保健事業の評価に資する長期縦断研究を推進。
平成11年7月2日
医療保険福祉審議会老人保健福祉部会
高齢者保健事業の在り方に関する専門委員会
− 目 次 −
(1)事業量目標の達成状況
(2)死亡率低減目標の達成状況
(3)その他審議会において提言された事項等に関する進展
(4)がん検診の有効性評価
(5)評価に伴い今後の課題と考えられた事項
(1)高齢者の健康状態の現状
(2)重点的に取り組むべき対象疾患等の選定に当たっての基本的考え方
(3)重点的に取り組むべき対象として検討すべき疾患等
(1)新しい保健事業の計画について
(2)サービス提供の体系化について
(3)健康のアセスメント
(4)個人または集団に対する保健技法
(5)保健と医療・福祉の連携の強化
(6)保険者による保健事業との連携及び整合性の確保について
(1)老人保健6事業について
(2)地域リハビリテーション対策について
(3)痴呆対策について
(4)家族介護に携わる者の健康管理について
(1)人的資源の充実
(2)情報基盤の整備
(3)研究の充実
1 はじめに
○しろまる我が国は、世界でも最高水準の長寿を達成するとともに人口の高齢化が急速に進んでおり、少子化ともあいまって、20年後には国民の4人に1人が65歳以上の高齢者という超高齢社会を迎えることが予測されている。21世紀に向け、社会の活力を保ち、明るい社会を実現していくため、国民一人ひとりが、高齢期を健康で生活できるようにしていくことがますます重要な課題となっている。
○しろまる高齢期のの健康をを保持増進しし、疾病や要介護状態を予防する主体は高齢者自身であり、行政施策としての保健事業は、その自主的な取組みを支援する形で展開することを基本とするべきである。
○しろまるのような基本的な考え方に基づき、我が国においては、昭和58年の老人保健法施行以来、老人の医療の確保と併せ、高齢期における健康の保持増進を図るため、住民に最も身近な市町村を実施主体として壮年期からの予防に取り組むための保健事業が推進されてきた。さらに、平成2年度から実施されている高齢者保健福祉推進十か年戦略(ゴールドプラン)の一環として、寝たきり老人ゼロ作戦が展開されてきた(以下、本文中では、これらの予防に重点を置いた高齢期における健康確保対策を総称して「保健事業」という)。
○しろまる保健事業は、これまで3次にわたる計画に基づき推進されてきており、平成4年度から実施されている第3次計画は、平成7年度における中間見直しを経て、平成11年度に終期を迎えることとなっている。この間、市町村及び都道府県における老人保健福祉計画の策定(平成5年)、地域保健法の施行及び新ゴールドプランの策定(いずれも平成6年)が行われた。
○しろまる成9年には介護保険法が制定され、要介護認定を受けて保健、医療、福祉にわたる介護サービスの給付を総合的に提供する介護保険制度が平成12年度から実施されることとなっている。また、「健康日本21」計画が打ち出され、21世紀初頭の10年間において取り組むべき疾病等の課題及び達成すべき目標を設定するための検討が進められている。
○しろまるこうした状況を踏まえ、平成12年度以降の保健事業の推進に資するため、医療保険福祉審議会老人保健福祉部会に設置された本専門委員会においては、平成10年12月以来、13回にわたって、
等の論点を中心に幅広く審議・検討を行ってきたところであり、その結果を以下のとおり本専門委員会の意見としてとりまとめた。
2 これまでの保健事業の評価
○しろまる保健事業の実施については、従来より、国において、老人保健法第24条に基づき、その実施の基準を定めるとともに、市町村が保健事業の計画を作成する際の参考とするため、基本方針及び全国的総事業量に関する厚生省の考え方を示すという趣旨で第3次計画を定めて推進してきたところである。
○しろまる第3次計画においては、平成11年度末における事業量等の目標(別添1)及び3大成人病による壮年期(40〜69歳)の死亡率の低減目標(別添2)等を掲げている。
(1)事業量目標の達成状況
○しろまるこれまでの事業実績(平成9年度までの状況)について見ると、健康教育については、一般教育、重点教育とも、計画量を大きく上回る実績が得られている。
健康相談についても、計画量を上回る実績が得られている。
○しろまる基本健康診査については、全国レベルでの受診率は、目標値には達していないものの、年々増加している。一方、受診率には都道府県間、市町村間の格差が依然として大きく、今後の課題である(平成8年度において、第3次計画上の当該年度の目標値に達している市町村は全体の50.3%)。
受診者の利便を考慮し、医療機関における個別健康診査の普及・促進が図られ、その実績は増加している。生活習慣改善指導事業の実施件数も増加している。
○しろまるがん検診については、全国レベルでの受診率は、目標値には達していないものの、年々増加している。胃がん検診、子宮がん検診、大腸がん検診についてはほぼ全ての市町村で実施されているが、肺がん検診については200程度、乳がん検診については70程度の市町村が実施していない(別添3)。
○しろまる総合健康診査は、第3次計画において導入され、基本健康診査とがん検診を併せて実施することに加え、節目検診として、歯周疾患検診及び骨粗鬆症検診が行われている。総合健康診査については、実施市町村の割合及び受診率が極めて低く、その原因として、実施に当たっての柔軟性の面での課題などが考えられている。
○しろまる機能訓練については、実施か所数は、目標値には達していないものの、年々増加しており、参加延べ人員等も増加している。寝たきりを予防する観点から虚弱老人に対する支援の充実を図るため、従来のA型(基本型)に加えて、平成8年度からB型(地域参加型)が行われているが、未実施の市町村が少なくなく、特にB型については、実施市町村は2割以下に留まっている。いずれについても、未実施の市町村が少なくない。
○しろまる訪問指導については、被指導延べ人数は、目標値には達していないものの、年々増加している。第3次計画においては、痴呆性老人に対する訪問指導ならびに寝たきり者等に対する訪問栄養指導および訪問口腔衛生指導が実施されている。寝たきり等の対象者について実施されている機能訓練及び訪問指導については、介護保険により給付されるサービスとの関係を整理する必要が生じている。
○しろまる新寝たきり老人ゼロ作戦に関しては、普及啓発事業が都道府県のみならず市町村においても推進されてきている。また、退院した脳卒中患者に対し、在宅で必要な保健・医療・福祉サービスを提供できるよう、脳卒中情報システムの普及が図られており、その実績は伸びている。
○しろまる市町村保健センターの整備及び保健婦の配置については、年々整備が進められている。また、保健婦未設置市町村は相当程度解消されてきている。
○しろまる以上をまとめると、第3次計画における事業量等のうちに関しては、健康教育及び健康相談については、目標値を上回って実績を伸ばしている。その他の事業についても、概ね着実に実績を伸ばしている。しかし、多くの事業において目標値には達していないこと、総合健康診査の受診率が極めて低いこと、機能訓練など一部の事業について未実施の市町村が少なくないことなどが問題である。
(2)死亡率低減目標の達成状況
○しろまる生活習慣病のうち、3大成人病全体、心臓病及び脳卒中の壮年期年齢調整死亡率は、目標値には達していないものの、いずれも低下傾向であったが、男性の心臓病については増加傾向であった。胃がん、子宮がんの壮年期年齢調整死亡率は、目標値には達していないものの、いずれも低下傾向であった。肺がん、大腸がん、乳がんについては引き続き増加傾向を示していた。
○しろまる治療技術の進歩など、保健事業以外の種々の要因があり、各要因の寄与する程度を厳密に評価することは困難であるが、保健事業の充実による一次予防及び二次予防対策が死亡率の減少に一定の役割を果たしているものと考えられる。
(3)その他審議会において提言された事項等に関する進展
○しろまる健康教育において用いられている手法については、保健学級、講演会等の形式が一般的であったが、内容面での充実を図るため「健康教育ガイドライン」が作成された(平成4年度)。近年においては、血圧測定や健康相談を併せて実施したり、運動や体操を取り入れる等、市町村において種々の工夫が加えられている。
○しろまる健康診査については、生活習慣改善指導を効果的に推進するための項目として、基本健康診査に、HDL-コレステロール、γ-GTP、グルコース、ヘモグロビンA1C等が追加され、これらの項目も含めた「健康診査マニュアル」が作成された(平成5年度及び8年度)。
○しろまる健診の効果を確保していくためには、検査方法や健診結果の管理等に関する精度管理が不可欠であり、基本健診及びがん検診について、都道府県に設置される成人病検診管理指導協議会がその役割を担っている。また、市町村及び都道府県における取組みの充実に資するため、「がん検診の精度評価に関する手引き」が作成された(平成10年度)。
○しろまる市町村における総合的な事業の推進に資するため、市町村が自ら事業の評価を行う際の指針として、様々な指標や評価手法を示した「保健事業評価マニュアル」が作成されており(平成7年度)、こうした取組みは今後においても重要と考えられる。
(4)がん検診の有効性評価
○しろまるがん検診については、近年、一定の科学的手法に基づき、がんによる死亡の低減に果たす効果を評価する研究が精力的に行われてきている。その主な結果は、以下の通りである。
(5)評価に伴い今後の課題と考えられた事項
○しろまる第3次計画においては、事業量等に関する目標及び生活習慣病のうちの3大成人病による壮年期死亡率の低減目標を掲げているところであるが、医療や介護を要する状態になることの予防を図る観点から、これらをより鋭敏に反映した目標を設定することが今後の課題である。
○しろまる保健事業の評価については、現在健康マップ等によって国民に示されているところであるが、今後、更に分かりやすい情報提供のあり方について検討を行う必要がある。
○しろまるいずれの保健事業についても、都道府県間、市町村間の格差が依然として大きく、今後に課題を残している。また、全体的に見て、健康診査等の事業における情報の時系列的把握や事後指導の充実を図る必要がある。につき、全般的に見て、なお課題を残している。また、検診については、精度管理に関する不断の努力が特に重要と考えられる。
○しろまる機能訓練及び訪問指導については、近年の研究成果により有効性が示唆されている。今後、科学的手法を用いた評価を踏まえた効果的な事業の推進に努めていくことが重要である。
○しろまる各種マニュアルが都道府県及び市町村においてどのように活用されているかの実態を踏まえ、内容の充実を図るとともに、地域の特性に応じた柔軟な活用を促すことも重要である。
3 今後重点的に取り組むべき疾患等
(1)高齢者の健康状態の現状
○しろまる保健事業の対象である40歳以上の国民の間における健康状態を把握するため、この年齢層における死亡、有病、受療などの現状や動向の把握・分析が行われてきた。こうした指標のいくつかを通してみた国民の健康状態の現状について、(別添4)に示す。
(2)重点的に取り組むべき対象疾患等の選定に当たっての基本的考え方
○しろまる今後、効果的に保健事業を推進していくためには、対象となる疾患等を特定し、それぞれの課題に関して達成すべき目標を設定して取り組むことが必要である。重点的に取り組むべき対象の選定に当たっては、以下の点を考慮する必要がある。
(3)重点的に取り組むべき対象として検討すべき疾患等
○しろまるこのような考え方に基づき、当面、死亡や生活の質の低下を直接もたらす、ものとして重点的に取り組むべき疾患として、がん、脳卒中、心臓病、がん、糖尿病を、また、これらの疾患の発生の危険を高める疾患や状態として、脳卒中や心臓病の危険を高める要因として、高血圧、高脂血症、糖尿病が挙げられる。なお、糖尿病は、脳卒中や心臓病の危険を高める要因としても重要である。なお、上記に掲げた各これらの疾患をもたらす危険因子を、生活習慣の改善の観点から軽減するため、喫煙、食事・栄養、運動、ストレス、飲酒に関する対策が重要である。
○しろまる上記の疾患等に加えて、高齢期の生活の質を考慮した場合に、取組みが不可欠である疾患として、痴呆(老人性痴呆疾患)、骨折及び骨粗鬆症、歯周疾患も重点的に取り組むべき対象として考えられる。また、肝疾患、腎疾患についても検討が必要であを加える。ただし、これらの疾患については、対策技法の効果の実証や目標設定の面で、今後の研究成果に待つべき部分が多いことにも留意が必要である。
○しろまるこれらの疾患以外にも、生活の質を向上させていく観点から、壮年期・高齢期における感覚器の疾患、骨・関節の変性疾患、高齢期の精神疾患等についても対象として考慮すべきとの意見があり、これらの疾患等に関する予防技法の効果等について、今後の研究が必要である。
○しろまる生活の質を重視する観点からは、疾患対策としての捉え方のみならず、介護保険制度の実施を控え、要介護状態になることを予防していくという視点を従来にも増して重視していくべきである。
○しろまる要介護状態になることの予防には、その要因となる脳卒中などの疾病の予防が重要であることは言うまでもないが、要介護状態となる過程においては、転倒や配偶者の喪失などを契機として閉じこもりがちになるなど、社会的活動の低下が重要な要因となっている面がある。また、緩徐に進行する運動機能の低下も重要な要因である。したがって、疾病の危険因子のみならず、社会的な要因や生理的な老化の過程にも着目した幅のある保健事業の展開を図っていくべきである。その際、高齢者の健康増進のための活動、福祉サービス及びや住民の自主的活動との連携に配慮することが重要である。
○しろまる介護保険制度の実施を踏まえ、家族介護に携わる者の健康管理に対する支援が重要であり、具体的な対策を講じるべきである(別添5)。
4 今後における事業評価
○しろまる今後の保健事業の推進に当たっては、重点的に取り組むべき疾患等に対応した目標値に照らして、保健事業が実際に所期の効果をあげているかどうかを常に評価し、その結果に応じて必要な見直しを行っていく姿勢が重要である。こうした事業評価を推進していくには、事業の計画段階から評価を行うための仕組みを設けておくことが必要となる。
○しろまる具体的には、市町村、都道府県(保健所)のそれぞれのレベルにおける保健事業の評価について一層の充実を図るとともに、国において保健事業の評価を定期的に行うための場を設定することが重要である。
○しろまるまた、事業実施によりもたらされた結果をより適切に評価するためには、実施した事業に必ずしも鋭敏に反応しない死亡指標に加え、疾病の有病、罹患、予後に関する指標(高血圧の有病率等)、住民の間における危険因子(喫煙率等)の分布や日常生活の活動性(ADL等)などについても考慮することが適当であり、その情報を把握できるシステムを、地域において整備することが必要となってくる。その際、全国的に収集すべき一般的な情報と、地域を特定して継続的に収集すべき詳細な情報があることに留意した上で、両者を適切に組み合わせて評価を行うことが重要である。
〇 保健事業の推進を図る上では、こうした健康情報システムの構築・維持についても重視すべきであり、この点における保健所等の果たすべき役割についての検討が特に重要である。
○しろまる重点的に取り組むべき対象疾患等に関する目標値の設定を行うとともに、事業評価のための情報基盤等について具体的な取組みの方策を示すため、健康日本21における検討とも整合性を図りつつ、更に検討が必要である。
5 今後の事業推進に当たっての基本的方向性
(1)新しい保健事業の計画について
○しろまる平成12年度以降の保健事業は、これまでの3次にわたる計画の実績の上に行われるものであり、その推進のための計画を「保健事業第4次計画」として打ち出していく必要がある。
○しろまる第4次計画の計画期間は、老人保健福祉計画、介護保険事業計画を考慮して、平成12年度から平成16年度までの5年間とし、3年を経過した時点で見直しを行うことが適当である。
(2)サービス提供の体系化について
○しろまるこれまでの保健事業においては、市町村によっては事業相互の連携が必ずしも体系化されていない場合がありおらず、一人ひとりの対象者について、保健サービスの必要性を総合的に勘案した上で系統的にサービスを提供することは、当該市町村の事業実施担当者の力量と努力に委ねられてきた面がある。
(3)健康のアセスメント
○しろまる具体的には、まず、健康手帳の交付時や、健康相談・健康診査の機会など、利用者と保健事業との接点となる機会を幅広くとらえ、特に重点的に取り組むべき疾患等に対応した、個々の対象者の健康状態生活環境、生活習慣及びサービス利用に関する最も基本的な情報を把握するために、の「生活習慣行動の把握調査」(仮称)を行い、これを保健事業の出発点として位置付けることが必要である。
○しろまるまた、健康診査は疾病の早期発見・早期治療が主な目的であるが、基本健康診査については、これと同時に疾病の危険因子の存在を認識してその改善を図っていくための手段としての位置付けを一層重視すべきである。そのためには、生活習慣行動に関する調査の基本情報と健診情報等を有効に利用するための情報システムの普及を図り、これにより対象者一人ひとりの健康度をについて評価し(ヘルスアセスメント)、ふさわしい保健サービスを計画的に提供していくべきである。
○しろまる生活習慣行動の把握法調査や、ヘルスアセスメントの基本的内容や、及び具体的な実務の進め方については、今後早急に検討する必要がある。
(4)個人または集団に対する保健技法
○しろまる保健サービスの質を確保し向上させていくため、個々の保健技法(介入手法)について、改善及び新たな技法の開発のための努力を行うことが重要である。
○しろまるハイリスク者に対する個別重点的なアプローチについては、手法の標準化を図ること及び一定の科学的手法により有効性を実証していくことが必要である。健康教育など、具体的な進捗がみられるものについては、重点的に事業を推進する。一方、訪問指導、栄養指導などについては、手法の標準化等について早急に検討を行い、より効果的な事業展開に資するための努力が必要である。
○しろまる健康な生活習慣づくりを促すための環境の整備や地域住民全体を対象とする情報提供等の、いわゆるポピュレーション・アプローチは重要な手法であり、に関しては、今後の関係学会等の動向も踏まえ、有効性に関する適切な評価研究に基づいた上で、具体的な手法を開発していくことが必要である。
(5)保健と医療・福祉の連携の強化
○しろまる高齢者の健康保持を図るためには、従来の保健事業のみでは効果に限界があり、健康増進活動や生きがい対策を含む、保健・医療・や福祉(生きがい対策を含む)との連携や連携や一体的な提供が不可欠である。
○しろまる介護保険制度の施行を踏まえ、これまで寝たきり老人ゼロ作戦の実践において推進されてきた、保健・、医療・、福祉のサービスを一体的に提供できるよう、相互の連携を一層密接なものとし、また、こうした連携が、あらゆる地域で現実に実践されるようにしていくことが必要であり、そのための保健・医療・福祉の連携システムの構築が重要である。
市町村及び都道府県において作成する老人保健福祉計画を、こうした連携の確保に結び付けていくことが必要である。
○しろまるこのような連携を効果的に推進するため、疾病のにおける各段階とその各段階に応じて提供されるべき適切な保健・医療・福祉サービスについて明らかにしていくための調査を行うことも重要である。
○しろまるまた、地域住民の保健医療や福祉に対する需要を総合的に把握した上でサービスを提供することが重要である。このため市町村保健センター等における総合相談窓口の設置を進めるとともに、個々の対象者に対して提供する保健サービスに関し、保健・医療・福祉にわたる担当者間の協議(ケース・カンファレンス)等を通じたサービス調整を更に推進すべきである。
(6)保険者による保健事業との連携及び整合性の確保について
○しろまる一方、各保険者においては、健康保険法、国民健康保険法等に基づく保健事業が進められており、老人保健事業の推進におけるこうした保険者の役割について、その意義を再確認しておくことが必要である。
○しろまる被用者保険の保険者における保健事業の実施については、各保険者における自主的な事業運営を尊重すべきものであるが、今後の保健事業の更なる重要性に鑑み、国において提示する事業実施の指針(例えばヘルスアセスメント等)を斟酌しながら事業を推進するなど、老人保健事業との整合性を確保していくことが重要である。国民健康保険における保健事業の取組みについても同様である。
○しろまる老人保健事業と保険者による保健事業の効果的な連携を図るための場としては、すでに都道府県における職域保健連絡協議会が存在するが、平成9年度には、15道県に設置されているにとどまっている。今後、国民健康保険団体連合会の参画等も含めその活動の活性化を図るとともに、国においても相互の連携を図るための協議の場を持つことが重要である。
6 取組みの具体的方向性
<健康手帳>
○しろまる健康手帳については、健康状況などを自ら記入すること、保健サービスを利用した際の情報を的確に記入して蓄積すること、医療及び介護サービスの提供を受ける際にも活用すること等を念頭におきつつ、そのこうした保健、医療にわたる活用を促進するための様式の改善を図る必要がある。
<健康教育、健康相談>
○しろまる健康教育については、先に述べた新たな事業を推進するに当たっての基本的方向性を踏まえ、講話等の形態によるものは、段階的に、個々の対象者の危険因子等の状況に応じて、生活習慣の改善を一定のプログラムを用いてきめ細かく支援していく形態へと、その重点を移行していく必要がある。なお、重点的に取り組むべき疾患等の予防を図る手法として、一部の市町村によってはおいては、集団を対象としたて参加者相互のグループワーク等により効果をあげているものがあるが、こうした取組みについては、今後ともその普及定着を図っていく必要がある。
○しろまる生活習慣改善のための支援をさらにきめ細かく実施していくため、当面、科学的な有効性が示されているプログラムの存在する、高血圧、高コレステロール血症、耐糖能異常、喫煙の4領域において、対象者と指導者が1対1で個別に行う効果的な健康教育を、地域の実情等を踏まえつつ、重点的かつ計画的に導入・推進していく必要がある。これらのプログラムにおいては、栄養状態等のアセスメント並びにその結果を活用した栄養指導等及び効果評価を含めて考えるものとする。
○しろまるまた、その他の重点対象疾患等についても、より効果的な方法による健康教育を実施していくことが必要である。このため、健康教育の有効性に関する研究を実施し、科学的な有効性が示されたプログラムに重点を移行して実施していくことも重要である。
○しろまる一方、こうした取組みとは別に、高齢者の薬のトラブルを防ぐための啓発活動など、新しい観点からの取組みについては、地域の実情に応じて導入していくことも重要である。
○しろまる住民の心身の状態に応じたきめ細やかな助言等を行うためには、市町村保健センター等の総合相談窓口を活用するなど、住民にとって身近なところで総合的な相談に応じられる体制が必要であり、このような観点から、健康相談については、家族介護に携わる者への相談等、新たな需要にも対応できる体制を確保しつつ、今後も引き続き取組みを進めていくことが重要である。
<健康診査>
○しろまる基本健康診査については、新たな検査項目の導入は行わず、測定条件や検査方法の統一などの精度管理の充実を図るとともに、年齢や健康リスクに応じた検査項目の選定、健診データの事後管理のための判定区分の設定等の技術的事項について、更に検討する必要がある。
○しろまるがん検診については、乳がん検診に関して、有効性の評価が確立されたと考えられるマンモグラフィ併用方式を、取り組み可能な地域から漸次導入していくことを推奨する。その他のがん検診については、現行の手法による取組みを引き続き推進すべきである。
○しろまる精度管理に関しては、国及び都道府県における支援を更に充実させる必要がある。国において、全国の健康診査(がん検診を含む)の実施状況に関する集計を引き続き実施するとともに、健康診査の有効性と精度管理に関する科学的情報を定期的に収集・分析し、その結果を公表することが重要である。
○しろまる健診データについては、保険者の実施する健診事業等におけるデータとの連携に配慮することも重要である。
○しろまる実施市町村の創意工夫により、受診者の便宜に配慮した総合的な健診の実施に引き続き取り組むべきであるが、現行の総合健診については、実施率が極めて低いことなどに鑑み、今後は、歯周疾患検診及び骨粗鬆症検診については、節目健診として定期的に実施する独立した検診項目とすることが適当である。
○しろまる歯周疾患検診については、歯科保健対策の一環として、骨粗鬆症検診については、転倒や骨折の予防等の健康教育などと効果的に組み合わせて実施するとともに、若年期からの取組みとも連携した効果的な対策を検討する必要がある。
<機能訓練>
○しろまる機能訓練は、閉じこもりがち、活動性が低いといった傾向のある虚弱老人に対して、要介護状態になることを予防し、自立の促進を図るための事業として推進すべきである。
〇 介護保険法の施行に伴い、介護保険サービス(通所リハビリテーション、通所介護)を受けることができることとなる者については、原則として、機能訓練の対象ではなくなるが、介護保険サービスと機能訓練の連携等の工夫(合同実施など)により、地域の実情に応じて柔軟に事業を展開できるよう配慮することも必要である。
<訪問指導>
○しろまる訪問指導は、疾病や要介護状態となることを予防する事業として、また、予防を目的とする事業相互の調整を図る観点から家庭を訪問して行うことが効果的と考えられる者を対象として実施していくべきである。
○しろまる住民の自主的なグループ活動は、それぞれのグループ構成員の健康に係るニーズや志向の違いに柔軟に対応できる側面があり、こうしたグループ活動との連携を重視することも必要である。
○しろまる寝たきり老人等に対する介護保険給付と重複するサービスは行わないこととすべきであるが、生活習慣病の合併症予防や、介護保険の対象とならない医療・ 福祉サービスを含めた調整を図るために行われる訪問指導は、引き続き重要性を有するものと考えられる。
(2)地域リハビリテーション対策について
○しろまる「寝たきりは予防できる」ということに関する普及啓発に加えて、リハビリテーション前置主義(脳卒中など要介護状態の原因となる疾患にかかった者が、病状が安定する時期にいたるまでの過程において適切なリハビリテーションサービスを受けられるようにすることを重視する立場)の実践に重点を置き、脳卒中情報システムの推進と併せて、都道府県リハビリテーション協議会、地域リハビリテーション広域支援センター等を軸とする地域リハビリテーション支援体制整備推進事業の取組みを進めていくことが必要である。
ハビリテーションサービスを受けられるようにすることを重視する立場)の実践に重点を置き、脳卒中情報システムの推進と併せて、都道府県リハビリテーション協議会、地域リハビリテーション広域支援センター等を軸とする地域リハビリテーション支援体制整備推進事業の取組みを進めていくことが必要である。
〇 寝たきりを予防するため、寝たきりに至るまでの過程について、環境要因を含めて解明することが急務である。
○しろまる地域におけるリハビリテーション実施体制を確保していくため、国における調査、指針づくり等の取組みを推進していくための協議の場を設けることが必要である。
(3)痴呆対策について
○しろまる痴呆対策については、国民の間における偏見の解消など、痴呆に対する正しい理解を促進するための取組みが極めて重要である。
○しろまるまた、脳血管性痴呆を予防する観点からも脳卒中対策を推進するとともに、アルツハイマー型痴呆を含めた老人性痴呆疾患について、早期からの対応が必要と考えられるが、その具体的な実践に向けた検討を更に進める必要がある。
(4)家族介護に携わる者の健康管理について
〇家族介護に携わる者の健康管理は、従来、保健事業の対象として体系的に取組みが行われていなかったが、近年の調査結果等により、健診や通院のための時間も十分でない等の状況が明らかとなってきている。このため、家族介護を担っている者に対して、健康相談、訪問指導、訪問健康診査等の保健サービスを提供することが必要である。その際、ショートステイ等の介護保険サービスや福祉サービスを有機的に組み合わせることが重要である。
〇また、家族介護に携わる者の心身のリフレッシュを含めた健康管理及び健康増進についての取組みや、経験者や共通の悩みを持つ者が支えあう取組みを支援していくことも重要である。
7 基盤づくりの具体的方向性
(1)人的資源の充実
○しろまる保健事業について、対象者のヘルスアセスメントに基づき体系的に実施していく仕組みとしていくことや、新たに開発された効果的な技法を導入していくことは、保健事業を担う担当者の質・量の両面にわたる充実があってはじめて可能となる。このため、新たな事業の導入に当たっては、必要となる人的資源についての推計を的確に行うとともに、漸進的に導入を図っていくことが重要である。
○しろまるまた、新たに開発された保健技法を実地に保健サービスの提供場面で活用したり、保健事業の評価のための指標を測定・分析する上での技術を向上させるための研修を、重点的かつ計画的に実施していく必要がある。
○しろまる高齢者の健康の保持・増進を図る上では、高齢者の自主的な健康づくりの取組みが重要であり、全国に13万4千クラブ、890万人の会員を擁する老人クラブ等地域の高齢者による様々な健康づくりの取組みを今後とも支援していくべきである。
○しろまるまた、地域に根ざした保健事業の有機的な展開を考えるに当たっては、食生活改善推進員等の住民参加による健康づくりボランティア活動をさらに推進することが重要である。
(2)情報基盤の整備
○しろまる今後の保健事業を一層推進していくためには、事業の評価に関する適切な情報基盤の整備が重要であり、必要とされる情報やその収集方法等について、専門家による検討を行う必要がある。
(3)研究の充実
○しろまる保健事業の推進のための新たな技術の開発、事業評価の面での研究を充実させるとともに、保健事業の評価のための指標の確立及び高齢者の健康指標の標準化のための研究が重要である。
○しろまるこうした目的に資するため、今後、わが国においても、長期コホート研究(ある集団について、長期間継続して観察を行い、生活習慣等の要因と疾患の罹患や死亡などとの関連を明らかにしようとする研究)を推進していくことが重要である。
○しろまるまた、痴呆を含め、要介護状態になることを予防する取組みの重要性が極めて大きいことに鑑み、介護に関連する研究の充実も必要である。
○しろまる以上の点に関しては、現在、長寿科学総合研究等における取組みが進められているが、これらの課題に重点をおき、充実強化を図っていくべきである。
8 おわりに
○しろまる以上、今後における高齢者保健事業の在り方について、その基本となる考え方を当専門委員会の意見として示した。国においては、平成12年度からの新たな保健事業実施に向けて更に検討が必要とされる技術的な事項等について、早急に検討を行い、本意見書に示された考え方を反映した具体的な事業展開がなされるよう取組みを進められたい。
別添1
※(注記)実績については、老人保健事業報告による。
但し、「医療機関における個別健康診査の普及・促進」及び「脳卒中情報システムの普及」については老人保健課調べ。
別添2
老人保健事業第3次計画における死亡率低減目標と実績
(自治医科大学公衆衛生学教室 中村好一教授による)
別添3
(平成9年度実績)
別添4
[資料]
人口動態統計(平成9年度)
患者調査(平成8年度)
国民医療費(平成8年度)
平成8年10月1日現在推計人口
なお、上記のほか、疾患ごとの実態調査等による以下のデータがある。
別添5
○しろまる 介護上の問題点 (ある 80%, ない 20%)
[画像:図1]
○しろまる 健康上の問題点 (ある 79%(85歳以上では92%), ない 21%)
[画像:図2]
○しろまる 介護者自身のために必要とされるサービス
別添6
○しろまるこれまでは、各保健事業が必ずしも一貫した体系により実施されていなかった。
○しろまる今後は、下図のように、生活習慣行動の把握と健康診査の結果に基づく健康度の評価(ヘルスアセスメント)を行い、対象者個々人にふさわしい保健サービスを計画的に提供。
[画像:図3]
高齢者保健事業の在り方に関する専門委員会委員名簿