平成10年8月7日
オダイン錠(R)(フルタミド)投与に伴う重篤な肝障害に関する緊急安全性情報の配布について
1.医薬品名
- 一般名:フルタミド
販売名:オダイン錠
(承認:平成6年10月)
(発売:平成6年12月)
製造・販売:日本化薬株式会社
販売実績:年間約80億円
2.経緯
- (1)フルタミドは抗アンドロゲン作用を有する前立腺癌治療薬であり、米国、EU各国等約70ヶ国で広く使用されている。
- (2)フルタミドの肝障害については、開発時よりGOTやGPTの上昇等の検査値異常が認められており、また、諸外国においても重篤な肝障害が報告されていたことから、使用上の注意に「外国において重篤な肝障害が報告されている」との記載がなされていた。発売後、我が国においても重篤な肝障害による死亡例が報告されたことから「重篤な肝障害(平成7年12月)」、「劇症肝炎(平成8年7月)」をそれぞれ使用上の注意に追記し、注意喚起を行ってきた。
- (3)しかし、本日までに、合計8例の死亡に至った重篤な肝障害(劇症肝炎を含む)が報告された。このうち5例は本年に入ってからの報告症例であるため、更に注意を喚起するため、今般、添付文書に「警告」欄を新たに設け、
- (1)劇症肝炎等の重篤な肝障害による死亡例が報告されているので、定期的(少なくとも1ヶ月に1回)に肝機能検査を行うなど、患者の状態を十分に観察すること
- (2)GOT,GPT,LDH,Al−P,γ−GTP,ビリルビンの上昇等の異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
- (3)副作用として肝障害が発生する場合があることをあらかじめ患者に説明するとともに、食欲不振、悪心、嘔吐、全身倦怠感、掻痒、発疹、黄疸等があらわれた場合には、本剤の投与を中止し、直ちに受診するよう患者を指導すること。
- を追記し、更に「肝障害のある患者」を禁忌とするとともに、緊急安全性情報を配布することとした。
3.今後の対応
- (1)厚生省
- 平成10年8月7日に開催された副作用第一調査会において、以下のような対応をとることとされた。
- (1)日本化薬(株)に対し、上記の如く添付文書の改訂を行い、「緊急安全性情報」の作成及び医療機関等への配布を指示する。
- (2)厚生省の発行する「医薬品等安全性情報」において医療機関に対し、フルタミドの肝障害について情報提供を行う。
- (2)日本化薬(株)
- (1)緊急安全性情報を配布し、医療機関に対して、フルタミドの肝障害に関する情報の速やかな伝達を行う。
- (2)添付文書を改訂し、肝障害に関する警告を冒頭に記載するとともに肝障害のある患者を禁忌とする。
本件照会先
(1)日本化薬株式会社 薬制部 3237−5151
担当:中村、横内
(2)厚生省医薬安全局安全対策課 [現在ご利用いただけません]
担当:松田(2748)
三宅(2756)
桂 (2751)
重要
平成10年8月
98−1号
緊急安全性情報
前立腺癌治療剤
オダイン(R)錠(フルタミド)による重篤な肝障害について
本剤の投与により劇症肝炎等の重篤な肝障害が発症し、本剤との関連性が否定できない死亡例が8例報告されております(推定使用患者数:約8万人)。
このため、従来の禁忌及び使用上の注意に加えて、新たに「警告」を追加致しました。今後、本剤の使用にあたっては、下記の事項に十分にご留意下さい。
肝障害が発現した場合には、弊社の医薬情報担当者にご連絡をお願い致します。
1.劇症肝炎等の重篤な肝障害による死亡例が報告されているので、定期的(少なくとも1ヵ月に1回)に肝機能検査を行うなど、患者の状態を十分に観察すること。
2.GOT、GPT、LDH、Al-P、γ-GTP、ビリルビンの上昇等の異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
3.副作用として肝障害が発生する場合があることをあらかじめ患者に説明するとともに、食欲不振、悪心・嘔吐、全身倦怠感、そう痒、発疹、黄疸等があらわれた場合には、本剤の服用を中止し、直ちに受診するよう患者を指導すること。
裏面のとおり、「警告」を新設し、禁忌及び使用上の注意を改訂致しましたので、併せてご連絡致します。
お問い合わせ先:日本化薬株式会社
医薬事業本部 薬制部
(電話 03-3237-5113)
警告、禁忌及び使用上の注意
警告を新設、禁忌及び慎重投与の記載を変更、重大な副作用の重篤な肝障害に初期症状を追加及びGOT等の肝機能検査値異常をその他の副作用に移行。
【警 告】
(1)劇症肝炎等の重篤な肝障害による死亡例が報告されているので、定期的(少なくとも1ヵ月に1回)に肝機能検査を行うなど、患者の状態を十分に観察すること。
(2)GOT、GPT、LDH、Al-P、γ-GTP、ビリルビンの上昇等の異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
(3)副作用として肝障害が発生する場合があることをあらかじめ患者に説明するとともに、食欲不振、悪心・嘔吐、全身倦怠感、そう痒、発疹、黄疸等があらわれた場合には、本剤の服用を中止し、直ちに受診するよう患者を指導すること。
【禁 忌】(次の患者には投与しないこと)
(1)肝障害のある患者
[重篤な肝障害に至るおそれがある。]
(2)本剤に対する過敏症の既往歴のある患者
【使用上の注意】
1.慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)
(1)薬物過敏症の既往歴のある患者
(2)ワルファリン投与中の患者
[「2.相互作用」の項参照]
2.相互作用
併用注意(併用に注意すること)
ワルファリン
[ワルファリンの抗凝固作用を増強するとの報告がある。]
3.副作用
<概要>
総症例5,856例(承認時201例、使用成績調査5,655例)における副作用及び臨床検査値異常の発現率は27.0%であり、主なものは女性型乳房3.1%、下痢1.7%、悪心・嘔吐1.1%、ポテンツ低下0.6%、GOT上昇11.7%、GPT上昇11.7%、γ-GTP上昇5.2%、LDH上昇3.1%、Al-P上昇2.8%、赤血球減少1.7%、ヘマトクリット値低下1.5%などであった。
〔安全性定期報告第3回〕
(1)重大な副作用
-
1) 重篤な肝障害(0.5%):劇症肝炎等の重篤な肝障害(初期症状:食欲不振、悪心・嘔吐、全身倦怠感、そう痒、発疹、黄疸等)があらわれることがあるので、定期的(少なくとも1ヵ月に1回)に肝機能検査を行うなど患者の状態を十分に観察すること。異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
2)間質性肺炎(0.1%未満):発熱、咳嗽、呼吸困難、胸部X線異常、好酸球増多等を伴う間質性肺炎があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、副腎皮質ホルモン剤の投与等の適切な処置を行うこと。
(2)その他の副作用
1%以上
1%未満
肝 臓
GOT上昇、GPT上昇、γ-GTP上昇、LDH上昇、Al-P上昇
ビリルビン上昇
内分泌
女性型乳房
ポテンツ低下
消化器
悪心・嘔吐、食欲不振、下痢
胸やけ、胃痛、胃部不快感、口渇
血 液
貧血
白血球減少、血小板減少
腎 臓
クレアチニン上昇、BUN上昇、尿蛋白陽性
精神神経系
めまい、ふらつき、立ちくらみ、頭痛、脱力感、傾眠、不眠、混乱、うつ状態、不安感、神経過敏症
過敏症
発疹、光線過敏症
皮 膚
そう痒
その他
浮腫、全身倦怠感、発熱、潮紅、発汗、味覚障害、尿糖陽性、血清総蛋白減少
4.高齢者への投与
本剤の臨床試験成績から、高齢者と非高齢者において副作用の発現率及びその程度に差がみられていない。しかし、本剤は主として肝臓で代謝されており、高齢者では肝機能等の生理機能が低下していることが多く高い血中濃度が持続するおそれがあるので、用量に留意して患者の状態を観察しながら慎重に投与すること。
5.適用上の注意
薬剤交付時:PTP包装の薬剤はPTPシートから取り出して服用するよう指導すること。(PTPシートの誤飲により、硬い鋭角部が食道粘膜へ刺入し、更には穿孔をおこして縦隔洞炎等の重篤な合併症を併発することが報告されている)
6.その他
本剤の投与により尿が琥珀色又は黄緑色を呈することがある。
■しかく症例紹介
No.
患 者
使用方法
副 作 用
性・年齢
使用理由
経 過 及 び 処 置
1
男・
70歳代
前立腺癌
<Stage:D2>
375mg/日
経口投与
投与期間:135日間
『
劇症肝炎』
投与開始
130日後
むかつきとともに嘔吐、食欲不振が持続。かゆみ(-)、熱(-)。本人や家族は黄疸に特に気がつかなかった。
135日後
オダイン錠の投与を中止。
136日後
黄疸著明のため入院。
141日後
意識障害出現。プロトロンビン活性40%以下。劇症肝炎と診断。血漿吸着浄化療法などを行う。
147日後
死亡(劇症肝炎)、剖検肝は650gと縮小していた。
検 査 項 目
投与前
投与後11日
投与後38日
投与後136日
投与後141日
投与後143日
投与後145日
総ビリルビン (mg/dL)
0.6
0.5
0.3
10.4
19.3
21.8
24.1
GOT (KU)
14
19
31
2,184
697
517
286
GPT (KU)
7
10
24
2,098
1,101
776
475
プロトロンビン活性 (%)
125
−
−
37.4
18.4
13.7
5以下
ヘパプラスチンテスト (%)
104
−
−
27
14
8
4以下
併用薬:塩酸ロペラミド 併用療法:去勢術(投与開始12日前)
2
男・
60歳代
前立腺癌
<Stage:D2>
375mg/日
経口投与
投与期間:120日間
(27日間休薬)
『
劇症肝炎』
投与開始
107日後
総ビリルビン、GOT、GPTが上昇。
145日後
2〜3日前から食欲不振、黄疸出現との連絡あり。
147日後
オダイン錠の投与を中止し、緊急入院(泌尿器科)。
148日後
重症肝炎のため内科に転科。
149日後
プロトロンビン15%と著明に低下。全身管理目的でICUに入院。血漿交換を5日間施行。プレドニン60mgから漸減、グルカゴン-インシュリン療法。
151日後
夜から意識レベル低下。肝性昏睡2〜3度。
153日後
肝性昏睡3〜4度。
154日後
呼吸困難増悪。
155日後
死亡。
検 査 項 目
投与前
投与後107日
投与後147日
投与後148日
投与後149日
投与後151日
投与後154日
総ビリルビン (mg/dL)
1.5
1.1
25.4
20.8
28.4
16.9
17.6
GOT (KU)
16
111
1,998
1,810
1,258
372
245
GPT (KU)
8
143
1,569
1,400
1,158
284
188
プロトロンビン活性(%)
−
−
22
−
15
−
25
ヘパプラスチンテスト (%)
−
−
15
−
11
−
17
併用薬:酢酸リュープロレリン、ファモチジン、テプレノン
3
男・
80歳代
前立腺癌
<Stage:C>
375mg/日
経口投与
投与期間:38日間
『
劇症肝炎』
投与開始
38日後
オダイン錠の投与を中止。
40日後
同日頃より体調不良。
44日後
近医にて黄疸、肝機能障害を指摘されICUに入院。入院時GOT 4000台、プロトロンビン時間15.3%、肝性昏睡1〜2度(羽ばたき振戦はなし)で、CTにて著明な肝萎縮。同日より血漿交換、血液透析濾過を3日間、同時にグルカゴン−インシュリン療法、アミノレバン、H2ブロッカー、ドパミン、ラクツロースの投与を行った。
46日後
深昏睡となり、肝は更に萎縮。
47日後
多量の腹水。
48日後
血圧低下、代謝性アシドーシス、全身性痙攣頻発。
49日後
死亡。
検査項目
投与前
投与後44日
投与後45日
投与後46日
投与後47日
投与後48日
総ビリルビン (mg/dL)
0.6
13.7
10.2
10.2
10.3
15.7
GOT (IU/L)
30
4,680
1,261
798
419
453
GPT (IU/L)
26
3,180
822
472
256
318
プロトロンビン活性 (%)
−
15.3
33.1
−
41.4
17.8
併用薬:酢酸ゴセレリン、エトドラク、トロキシピド
緊急安全性情報
No.
患 者
使用方法
副 作 用
性・年齢
使用理由
経 過 及 び 処 置
4
男・
50歳代
前立腺癌
<Stage:D2>
375mg/日
経口投与
投与期間:95日間
『
肝障害』
投与開始
82日後
GOT、GPT、γ-GTPの上昇あり。グリチロン内服開始。
95日後
オダイン錠の投与を中止。
103日後
GOT 2570、GPT2230、LDH 1380、γ-GTP 401、ヘパプラスチンテスト 30%と肝障害を認めたため内科入院となる。入院後よりアデラビン9号、ケイツー、強力ネオミノファーゲンシー 100mLなどの肝疾患治療薬及び消化管出血の予防をはかりながら薬剤投与。低アルブミン血症があり、適宜アルブミン投与。
120日後
GOT、GPT 100前後及びヘパプラスチンテスト30%前後と徐々に低下したが、総ビリルビン28.9とむしろ上昇し、黄疸も入院時と変らず続き、亜急性肝炎の経過をたどる。
164日後
死亡。死亡後の肝生検では、亜急性広範囲壊死の像を呈していた。
検査項目
投与前
投与後25日
投与後82日
投与後103日
投与後104日
投与後111日
投与後120日
投与後150日
投与後162日
総ビリルビン (mg/dL)
1.8
0.6
1.1
−
16.5
31.5
28.9
42.7
37.2
GOT (KU)
21
29
382
2,570
1,445
499
138
170
156
GPT (KU)
22
44
388
2,230
1,499
513
107
58
22
プロトロンビン活性 (%)
−
−
−
−
−
−
−
51
−
ヘパプラスチンテスト (%)
−
−
−
30
33
24
26
32
−
併用薬:酢酸ゴセレリン 併用療法:前立腺癌の手術(投与開始前)
5
男・
60歳代
前立腺癌
<Stage:C>
375mg/日
経口投与
投与期間:137日間
『
肝機能障害』
投与開始
136日後
易疲労感、黄疸を自覚。近医に受診し採血。
137日後
採血結果と共に当科受診。治療のため内科入院。安静、肝庇護剤投与開始。オダイン錠の投与を中止。
142日後
肝機能改善せず。ステロイド投与開始。
143日後
絶食、グルカゴン−インシュリン療法開始。ビリルビン吸着療法開始
(連日)。
148日後
黄疸改善。ビリルビン吸着療法終了。
149日後
食事開始。ステロイド及びグルカゴン−インシュリン療法継続。
その後、肝機能完全緩解。
検査項目
投与前
投与後4日
投与後93日
投与後137日
投与後138日
投与後143日
投与後147日
投与後154日
総ビリルビン (mg/dL)
0.52
0.79
0.43
9.99
13.37
31.47
12.67
4.46
GOT (KU)
42
28
38
968
704
263
78
45
GPT (KU)
85
78
48
1,129
927
405
205
91
プロトロンビン時間 (秒)
−
−
−
12.8
12.4
13.1
11.5
11.6
併用薬:酢酸ゴセレリン、塩酸クレンブテロール