96/07/16 「快適で健康的な室内環境に関する研究」の成果

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 平成8年7月16日(火)
    「快適で健康的な室内環境に関する研究」の成果
 平成7年度において、標記の研究課題に対し厚生科学研究費補助金を交付したが、こ
のほどその成果がまとまったため、以下にその概要を示す。
 (1)研究実施の背景について
 我が国においては、多くの建築物に空調設備が設けられているが、夏季の冷房時に
 は、在室者に足腰の冷え等による不快感が生じたり、いわゆる冷房病といった健康障
 害が発生する等の指摘がなされている。また、冬季の暖房時には暑すぎる割には足元
 が寒いといった指摘がある。
 このような状況をできる限り改善していくことが必要であるが、新しく開発された
 成層空調方式の理論によると、適切な温熱環境の管理が技術的に可能と推測されたこ
 とから、この空調方式の効果等の検証を目的として、厚生科学研究費補助金による研
 究を行った。
 (2)研究者について
  主任研究者 池田耕一 (国立公衆衛生院建築衛生学部長)
  研究協力者 川上茂久 (株式会社紀尾井社長)
    大薮和太郎(KSK空調システム研究会幹事)
 (3)研究の成果等について
  成層空調とは、温度によって比重差を生ずる空気の性質を利用した空調方式で、
 床上すぐから吹き出した空気により、床から天井に向かって温度の上昇勾配を形成
 し、居住域内(床上1.7m程度まで)の上下の温度差を2〜3°C程度にできる方
 式(従来の空調方法では室内の上下で5〜7°Cの温度差が生じることがあり、冷房
 時には足腰が冷え、暖房時には暑く感じる割には足元が寒いこと等がある。)であ
 る。空調の方法としては、調整した空気を床上すぐから水平方向に吹きだし、比重
 差による拡散を利用し、居室の隅々まで一様な水平温度分布と垂直温度勾配を形成
 できるものである(図-1及び2省略)。
  冷暖房時における被験者を用いた実験で、従来空調と成層空調を比較検討したと
 ころ、従来空調では実験の継続とともに足部温度の低下がみられたが、成層空調に
 おいては足部の温度はほぼ一定であった。また、被験者の不快感においても、従来
 空調では全体的に高い傾向が見られたが、成層空調では、全体的に不快感が低い傾
 向がみられた。これらのことから、成層空調では空調が原因となる足元の冷え等の
 抑制や不快感の伴わない室内温熱環境の管理が行え、従来から問題となっているい
 わゆる冷房病等の発生や足腰の冷えの防止にも役立つことが示された。以上のこと
 を含め、下表に成層空調方式と従来空調方式との違いを示した。
  また、室内空気の質についても、導入する外気を床上すぐから供給し、天井等に
 配置した吸い込み口から排気する置換換気方式となることから、換気効率が上昇し
 、室内で喫煙しても煙の熱により、速やかに上昇して排煙される等、衛生的にも優
 れた室内空気環境を確保できる。
 (4)今後の普及について
  既設のファンコイルエアコンに関しては置き替えすることのみで設置でき、空
  調設備がすでに設置されている建築物への適応も可能であり、この方式の普及が
  期待される。
 表 成層空調方式と従来空調方式の違い
 成 層 空 調 方 式  従 来 空 調 方 式
 床上すぐから調整した空気(目  一般的に天井またはファンコ
  標温度より冷房時には2〜3°C低 イルユニットから調整した空気
 く、暖房時には2〜3°C高くする (冷房時には目標温度より8〜
 )を吹き出し、床上1.7m(設定  15°C低い空気)を吹き出し、
 変更可)で空気を吸入し循環させ  室の空気全体を冷暖房するため
 る。  、室内の上下の温度差が大きく
 床上すぐから吹き出した空気が 、また、空調空気が流れる場所
  室内を均一化するため、暖房時に では冷え過ぎたり、暑すぎたり
 おいても足下の温度は低くならな する。特に暖房時は暑いわりに
 い。冷房時においても目標温度と は足元が寒かったり、冷房時に
  の差が少ないため冷えすぎない。 は、足腰が冷えすぎたりするこ
  床上1.7m以上(設定変更可)  とがある。
  の空気は空調した空気と無関係で  暖房時には、暖かい空気は上
  あり、省エネルギーの面でも非常 昇するため、室全体を暖房する
  に効率的(特に天井の高い室等)で ため、大きなエネルギーを要す
  ある。  る。冷房時にも照明等の熱の影
   響を受け、エネルギーを消費し
   やすい。
                参考資料
1 「快適で健康的な室内環境に関する研究」について
  補助金の名称 平成7年度厚生科学研究費補助金
           (厚生行政科学研究事業)
  主任研究者  池田耕一 (国立公衆衛生院建築衛生学部長)
  研究協力者  川上茂久 (株式会社紀尾井社長)
      大薮和太郎(KSK空調システム研究会幹事)
2 空調機の概要及び原理
  空調システムは、一般的に、1.外気を導入して室内の空気成分を快適な状況に保
 つ機能、2.温湿度を快適な状態に保つ機能から構成されている。図-1に成層空調
 方式のシステム図を示すとともに図-2に成層空調システムの室内空気循環図を示
 す。屋上には室内の空気成分を快適な状態に保つための外気処理空調機が設置され
 ており、除塵及び温湿度の調節がなされ、室内の成層空調ファンコイルユニットに
 供給される。
  室内には成層空調を実現する成層空調ファンコイルユニット(図-3に外観図、図
 -4に内部構造図を示す。基本的には導入外気用通路と熱交換器からなる。)を設
 置し、換気用外気と温度調節用冷水又は温水を供給している。成層空調ファンコイ
 ルユニットは従来型ファンコイルユニットとは逆の上部吸い込み・下部吹き出し構
 造になっており、室温に近い空気を床面付近からゆっくり吹き出す。
  冷房時、成層空調ファンコイルユニットから吹き出される空気は、目標温度(一
 般的には25〜28°C)に近いため寒く感じないが、周囲に比べ温度が低く比重も
 大きいことより床面を這うように拡散する。
  導入外気も下部から供給され、室内の発熱体(人体、事務機器など)による上昇
 気流を利用し、天井等から排出される。この空気循環を模式的に表したのが図-2
 である。
  なお、暖房時においても下吹き出し方式は足下の冷え等の対策に有効であり、在
 室者にとって快適なことも本研究において検証されている。
3 冷房病と従来の空調方式について
  夏期、冷房を行っている居室等において、利用者から体のだるさ、関節の痛み、
 下痢等の症状が訴えられることがある。冷房によると考えられるこれらの症状は一
 般的に冷房病といわれている。冷房病の原因としては、冷房によって体が長時間冷
 やされることや、冷房の効いた居室と暑い室外等との出入りに伴う短時間の急激な
 温度変化によって起こると考えられているが、これらの症状は悪化すると神経痛、
 生理障害などにもつながるため、適正な室内空気環境の管理が必要である。
  従来の空調方式の特徴としては、冷房時、目標温度より8〜15°C低い空気を天
 井面等から強く(室内の風速は普通20cm/秒程度であるが、従来の冷房機の吹
 き出し口付近ではその5〜10倍になる。)送り出し、室内の空気と混合させて空
 調を行う点が挙げれられるが、冷房機から出る気流が壁などに当たる場合には、気
 流は壁から床に向かって流れ、床近くに風速の大きな部分ができる。このような位
 置では、在室者の足下等を過度に冷やすことになり、冷房病を引き起こす一因にな
 ると考えられている。
4 省エネルギーの効果
  従来の空調方式は、冷房時、居住者にとって本来空調の必要がない天井付近に対
 しても空調を行うことになるが、この部分は照明器具等からの発熱により熱的負荷
 が特に大きく、省エネルギーの観点からみても無駄の多い方式といえる。
  一方、新しい概念に基づく成層空調方式は、目標温度より数度低い空気を床面付
 近から静かに送り出し、また、成層空調ファンコイルユニットは居住区域上部(床
 上1.7m付近)から空気を吸い込んで循環させるため(図-1及び2)、天井付近
 の温度の高い空気は冷房負荷にはならず、省エネルギーの観点から見ても望ましい
 方式である。
  また、その省エネルギーの効果は財団法人省エネルギーセンターが募集した「第
 6回(平成7年度)省エネバンガード21<21世紀型省エネ機器システム>」に
 おいて『省エネルギーシステム』として推薦され、財団法人省エネルギーセンター
 会長賞を受賞する等、高い評価を得ているところである。
 図-1 成層空調方式のシステム図(省略)
 図-2 成層空調システム室内空気循環図(省略)
 図-3 成層空調ファンコイルユニットの外観図(省略)
 図-4 内部構造図(外気用通路・室内空気用熱(省略)
   交換器と送風機)
 問い合わせ先 厚生省生活衛生局企画課
   担 当 金井(内2415)
 電 話 (代)[現在ご利用いただけません]
 (直)3501-4865
 担 当 国立公衆衛生院建築衛生学部
   部 長 池田
   電 話 (代)3441-7111

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