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雪印乳業食中毒事件の原因究明調査結果について

−低脂肪乳等による黄色ブドウ球菌エンテロトキシンA型食中毒の原因について−

(最終報告)


平成12年12月

雪印食中毒事件に係る
厚生省・大阪市原因究明合同専門家会議


I 経緯

雪印乳業(株)大阪工場(以下「大阪工場」)製造の「低脂肪乳」等を原因とする食中毒事件は、平成12年6月27日に最初の届出がなされて以降、報告があった有症者数は14,780名(汚染の疑いがない成分無調整乳等の喫食者を除く。)に達し、近年、例をみない大規模食中毒事件となった。
大阪市は、有症者の調査、大阪工場の立入検査等を実施し、当該工場製造の「低脂肪乳」について、6月28日に製造自粛、回収、事実の公表を指導し、6月29日に本事件の発生を公表、6月30日に回収を命令した。
厚生省は、患者発生が近隣府県市に及んだため、6月30日に大阪市に職員を派遣して関係府県市担当者会議を開催し、同工場が総合衛生管理製造過程の承認施設であったため、7月1日に大阪市と合同で立入検査を行った。
7月2日、大阪府立公衆衛生研究所が「低脂肪乳」から黄色ブドウ球菌のエンテロトキシンA型を検出したことから、大阪市はこれを病因物質とする食中毒と断定し、大阪工場を営業禁止とした。
7月10日、大阪市は、有症者の調査、大阪工場への立入検査等の結果に基づき、中間報告(資料I−1−1)をとりまとめ、公表した。
また、7月2日以降、大阪府警が業務上過失傷害の疑いで捜査を開始していたが、8月18日に「低脂肪乳」等の原料に使用されたと思われる同社大樹工場製造の脱脂粉乳(4月10日製造)からエンテロトキシンA型を検出した旨を大阪市に通知した。
北海道は、大阪市の調査依頼及び厚生省の指示を受けて、8月19日から同工場の調査を行い、8月23日に当該脱脂粉乳の製造に関連した停電の発生、生菌数に係る基準に違反する脱脂粉乳の使用、4月1日及び4月10日製造の脱脂粉乳の保存サンプルからエンテロトキシンA型の検出等の調査結果について公表した。
さらに、北海道は、大樹工場に対して食品衛生法第4条違反として同法第23条に基づき乳製品製造の営業禁止を命じるとともに、4月1日及び10日製造の脱脂粉乳について回収を命じた。
9月23日、大樹工場から提出された停電事故対策を含む改善計画書を受理し、10月13日に営業禁止命令を解除し、10月14日から操業が再開された。

II 大阪工場関係調査

1 発症状況

大阪市の保健所及び保健センターに届け出られた有症者3,567名のうち、大阪市に在住する者は、乳幼児や中高齢の女性を中心に3,511名(資料II−1−1)であり(以下「大阪市在住有症者」とする。)、このうち、1,272名が受診し、79名が入院した。
これらの大阪市在住有症者のうち、3,488名は、急性胃腸炎症状である下痢、腹痛、嘔吐、嘔気のうち、1以上を呈したが、他の23名は発熱、発疹等を呈し、消化器症状はなかった(資料II−1−2)。
また、これらの3,488名の有症者の潜伏期間別の分布をみると、12時間未満が2,429名(69.6%)と最も多く、不明742名(21.3%)、12時間以上24時間未満213名(6.1%)、24時間以上104名(3.0%)の順であった(資料II−1−3)。

2 喫食状況

(1)製品別喫食状況

大阪市在住有症者3,511名の喫食した製品別の分布をみると、「低脂肪乳」2,763名(78.7%)、「毎日骨太」639名(18.2%)、「カルパワー」33名(0.94%)、「特濃」2名(0.06%)、「コーヒー」47名(1.33%)、「フルーツ」1名(0.03%)、「のむヨーグルト毎日骨太」16名(0.46%)、「のむヨーグルトナチュレ」10名(0.28%)であった。
また、これらの大阪市在住有症者のうち、2,499名については喫食した製品の品質保持期限が報告されており、その範囲は、5月29日から7月12日であった(資料II−2−1)。
なお、製品の出荷量から回収量を差し引いた数量から1人当たり200mlしたと仮定して算出した推定喫食者数に対する発症率は、「低脂肪乳」0.582%、「毎日骨太」0.055%、「のむヨーグルト毎日骨太」0.008%、「のむヨーグルトナチュレ」0.004%、「コーヒー」0.004%、「カルパワー」0.002%、「特濃」0.000%、「フルーツ」0.000%であった(資料II−2−2)。

(2)喫食状況の検討

「低脂肪乳」に係る有症者数の急増は、品質保持期限6月28日以降の「低脂肪乳」喫食の有症者の増加に起因していることから、「大阪市在住有症者のうち、品質保持期限が6月28日以降の「低脂肪乳」を喫食し、黄色ブドウ球菌の食中毒症状の可能性が高い、喫食後12時間未満に何らかの消化器症状を呈した者」1,402名について、品質保持期限別喫食状況をみると、6月30日が666名(47.5%)、7月2日が444名(31.7%)であった。
この1,402名の主な症状は、下痢が1,106名(78.9%)、嘔気又は嘔吐が1,047名(74.7%)であった(資料II−2−3)。

3 検査結果

(1)有症者の糞便等(資料II−3−1)

糞便135検体、吐瀉物7検体及び胃洗浄液1検体について、黄色ブドウ球菌(エンテロトキシンA型及びその産生遺伝子を含む。)、セレウス菌(下痢型毒素を含む。)及びサルモネラ属菌等の食中毒菌の検査を行った結果は以下のとおりだった。

ア 糞便
135検体中18検体から黄色ブドウ球菌(うち5検体がB型毒素産生性)が検出されたほか、76検体中3検体からウエルシュ菌、76検体中1検体から病原大腸菌、75検体中1検体から病原ビブリオ、35検体中1検体からカンピロバクターを検出し、病原大腸菌及びウエルシュ菌を同時に検出したものが1検体あった。
エンテロトキシンA型について21体、毒素産生遺伝子について4検体、セレウス菌下痢型毒素について4検体の検査は、いずれも陰性であった。
イ 吐瀉物及び胃洗浄液
吐瀉物7検体及び胃洗浄液1検体については、吐瀉物1検体からエンテロトキシンA型非産生性黄色ブドウ球菌を検出した。

(2) 製品(資料II−3−2)

「低脂肪乳」300検体、「のむヨーグルト毎日骨太」36検体、「コープのむヨーグルト」21検体、「のむヨーグルトナチュレ」48検体、「毎日骨太」56検体、「成分無調整牛乳」40検体、「まろやか低脂肪乳」19検体、「カルパワー」16検体、「コーヒー」35検体について、一般細菌数、大腸菌群、黄色ブドウ球菌(エンテロトキシンA型及びその産生遺伝子を含む。)、セレウス菌(嘔吐型及び下痢型毒素を含む。)及びサルモネラ属菌等の食中毒菌の検査を行った結果は以下のとおりだった。
また、製品検査では、少数の検体から食中毒菌等が検出されているが、これは有症者の飲み残し品のほか、未開封品であっても大阪工場への回収品など冷蔵で保存されていない検体も含まれていることが理由と考えられ、冷蔵保存されていたと考えられる未開封品については、エンテロトキシンA型検出以外の食品衛生上の問題はなかった。
なお、製品及び原材料のエンテロトキシンA型の定量値は、回収率を補正した値であり、定量試験は、大阪府立公衆衛生研究所、大阪市立環境科学研究所、和歌山市立衛生研究所及び大分県衛生環境研究センターで実施され、他の機関では定性試験が実施された。

(注)大阪工場では、飲料乳について品質保持期限は充填日プラス7日で表示(表示:00.6.30)しているが、1日の最終充填ロットについては、プラス8日(表示:00.7.1.)としている。

ア 「低脂肪乳」
品質保持期限が6月28日から7月4日までの間の「低脂肪乳」(表示:00.6.28、00.6.29.、00.6.30、00.7.1、00.7.2.、00.7.2、00.7.3.、00.7.3、00.7.4.;6月21日、23日、24日、25日、26日充填)からエンテロトキシンA型が0.05ng/mlから1.6ng/mlの範囲で検出され、このうち6月30日は79検体中61検体(77.2%)、7月2日は97検体中82検体(84.5%)と陽性率が高く、0.4ng/ml以上検出したのも6月30日及び7月2日の両日が品質保持期限のもののみであった。
また、エンテロトキシンA型の産生遺伝子は、「低脂肪乳」161検体中118検体(73.3%)検出され、品質保持期限6月30日からは36検体中28検体(77.8%)、7月2日からは47検体中45検体(95.7%)、7月3日からは15検体中15検体(100%)から検出され、「成分無調整牛乳」の37検体中9検体(24.2%)を対照として比較しても検出率が高かった。
イ 発酵乳
品質保持期限が7月13日及び7月14日(表示:00.7.13、00.7.14;6月29日、30日充填)の「のむヨーグルト毎日骨太」からそれぞれ3検体中2検体、5検体中5検体エンテロトキシンA型が検出された。
また、品質保持期限が7月12日、7月13日、7月14日(表示:00.7.12、00.7.13、00.7.14;6月28日、29日、30日充填)の「のむヨーグルトナチュレ」からそれぞれ6検体中1検体、4検体中1検体、8検体中5検体エンテロトキシンA型が検出された。発酵乳のエンテロトキシンA型の検出値は0.05ng/mlから0.2ng/ml範囲であった。
なお、黄色ブドウ球菌はいずれの検体からも検出されなかった。
ウ 上記以外の加工乳、発酵乳、牛乳、乳飲料、クリーム類等他の製品
品質保持期限6月30日の「毎日骨太」が1検体、定性試験で陽性とされたが、他の製品については黄色ブドウ球菌及びエンテロトキシンA型いずれも検出されなかった。

(3) 施設・設備の拭き取り(資料II−3−3)

「低脂肪乳」の製造が中止された後の6月30日の立入検査時に拭き取った「低脂肪乳」に関係した施設設備(脱脂粉乳溶解機、調合タンク(T71)の内部、バランスタンク内部等)の計16検体について、大腸菌群、セレウス菌、黄色ブドウ球菌の検査を実施した。第2調合室の溶解機下床面・バタースライサー下床面、溶解機上蓋、バランスタンク内部等7検体から大腸菌群が検出された。
7月2日に営業禁止を命じた以後の7月5、6、15日に実施した拭き取り検査では、生乳受入室、第1・2調合室、タンク逆止弁、充填室、パイプ関係等125検体について一般細菌数、大腸菌群、セレウス菌、黄色ブドウ球菌の検査を実施した。T15(未殺菌「毎日骨太」)逆流防止弁内部及びT1−T2 間上部バルブC50三方コック内部から、いずれも増菌培養で黄色ブドウ球菌のエンテロトキシンB型産生菌と毒素非産生菌が検出された。

(4) 原材料(資料II−3−4)

6月30日の立入検査時に在庫の脱脂粉乳011018 ABC1検体、無塩バター00815 ACG,00728 ABC2検体、ストレージタンクT51内未殺菌ミックス2検体について、セレウス菌、黄色ブドウ球菌及びこれらの毒素産生性の検査をしたところ、無塩バター00728 ABCから増菌培養で下痢型毒素産生性セレウス菌が検出された。また、未殺菌ミックスから増菌培養でエンテロトキシンB型産生性黄色ブドウ球菌が検出された。
7月5日に収去した脱脂粉乳10検体、発酵飲料粉5検体、特粉S311検体、SPパウダー2検体、ドモビクタス(ホエー粉)7検体、無塩バター5検体、雪印北海道フレッシュクリーム3検体、バターミルク粉2検体、フローズンクリームチーズ1検体及びカルミンML1検体について、セレウス菌、黄色ブドウ球菌及びこれらの毒素産生性の検査をしたところ、脱脂粉乳011214-BA ABC1検体から増菌培養で毒素非産生性の黄色ブドウ球菌が検出され、特粉S3 00925-AA AIF1検体、ドモビクタス7検体及び無塩バター1検体から増菌培養でセレウス菌が検出された。
7月3日から26日にかけて採取したストレージタンク等タンク内の未殺菌ミックス、未殺菌成分無調整用生乳、殺菌済コーヒー、発酵前サンプル保管品、発酵調合室タンク内容物等76検体について、セレウス菌、黄色ブドウ球菌及びこれらの毒素産生性の検査をしたところ、未殺菌成分無調整用生乳(T7)2検体、未殺菌生乳(T5、T11)2検体、未殺菌回収コーヒー(T42)1検体から直接又は増菌培養で毒素非産生性の黄色ブドウ球菌が検出された。未殺菌生乳(T5、T11)2検体については、直接及び増菌培養でエンテロトキシンB型産生性黄色ブドウ球菌が検出された。
また、黄色ブドウ球菌は検出されなかったが、エンテロトキシンA型が発酵乳の回収タンクT7(「のむヨーグルト毎日骨太」専用、6月28日サージアップ(充填前のタンクに投入すること)分、30日充填と同じもの)、T8(「のむヨーグルトナチュレ」専用、6月29日サージアップ分、30日充填と同じもの)の内容液からそれぞれ0.1ng/ml、サージタンク 内容液についてはT35(品質保持期限7月14日、6月30日充填「のむヨーグルトナチュレ」)から0.2ng/ml、T40(充填せず)から0.1ng/ml、T42(品質保持期限7月14日、6月30日充填「のむヨーグルト毎日骨太」)から0.4ng/mlそれぞれ検出された。

(5)脱脂粉乳

大樹工場で4月10日に製造され、大阪工場でも使用されたと思われる脱脂粉乳の保存サンプルを大阪府警が押収し、大阪府立公衆衛生研究所に鑑定依頼していたところ2検体(011007 ACQ)から4ng/gのエンテロトキシンA型が検出されたことが8月18日判明した。
6月に大阪工場で使用された脱脂粉乳のエンテロトキシンの検査結果が大阪府警から提供され、上記ロット以外からは検出されなかったことが確認された(資料II−3−5)。
また、大樹工場で4月1日に製造された脱脂粉乳からもエンテロトキシンA型が検出されたことも大阪府警からの資料で確認された。

注 検査の方法(資料II−3−6)

4 施設調査結果

(1) 原材料の使用状況(資料II−4−1)及び製品検査結果との整合性の検討

製品の検査の結果、「低脂肪乳」、「のむヨーグルト毎日骨太」及び「のむヨーグルトナチュレ」からエンテロトキシンA型が検出されているが、これらの共通の原材料は、脱脂粉乳のみである。

ア 発酵乳(資料II−4−2)
発酵乳等の原材料の調合を行う第1調合室の使用記録には、国産脱脂粉乳が毎日使用されていたにもかかわらず、使用ロットが記録されているのは2、3日に1回程度であった。
国産脱脂粉乳は、還元乳タンクで溶解されて還元乳として、発酵乳の発酵ベース等に使用されていた。6月20日から6月28日までにサージアップされた発酵乳に使用された還元乳の原材料となった脱脂粉乳のロットが記録により確認できたのは、23日使用の011007 ACQ及び26日使用の011012 ABCであった。
一方、製品検査においてエンテロトキシンA型が検出された製品に使用された還元乳が調製された還元乳タンクT6には、23日に脱脂粉乳011007 ACQが使用されており、この還元乳は、
しろまる 6月25日に発酵タンクT19に送られて、品質保持期限7月11日の「コープのむヨーグルト」
しろまる 6月25日に発酵タンクT11に送られ、、品質保持期限7月12、13、14日の「のむヨーグルトナチュレ」、品質保持期限7月11、12、13日の「のむヨーグルト毎日骨太」
しろまる 6月26日に発酵タンクT20に送られ、品質保持期限7月11、12日の「コープのむヨーグルト」
しろまる 6月26日に発酵タンクT12に送られ、品質保持期限7月14日の「のむヨーグルト毎日骨太」に使用された。
これは、製品検査において、品質保持期限7月12、13、14日の「のむヨーグルトナチュレ」、7月13、14日の「のむヨーグルト毎日骨太」からエンテロトキシンA型が検出されたこと及び6月28日に調合されたサージタンクT42内の充填前の製品からエンテロトキシンAが検出したことと整合する。
また、同じ6月23日調合の還元乳タンクT6の還元乳を使用したにもかかわらず、品質保持期限7月11、12日の「のむヨーグルト毎日骨太」からエンテロトキシンA型が検出されなかった理由は、別の発酵タンクで発酵されたベースミックスと混合したのち充填され、希釈されたことが原因と考えられる。
品質保持期限7月11日及び12日「コープのむヨーグルト」については、前者については検体数が5検体であること、後者については調合日の異なる還元乳を使用したロットがあるためと考えられる。
なお、品質保持期限7月14日の「のむヨーグルトナチュレ」、サージタンクT35及びT40の充填前の製品からエンテロトキシンA型が検出されているが、これらに使用された脱脂粉乳のロットは、記録からは確認できなかった。しかし、25日にロット不明の脱脂粉乳を原材料とした還元乳タンクT4の還元乳がこれらの製品等に共通に使用されていたことが確認され、当該還元乳に脱脂粉乳011007 ACQが使用されていたと考えられた(資料II−4−3)。
イ 「低脂肪乳」(資料II−4−4)
製品の検査では、前述のとおり品質保持期限6月28、29日(表示:00.6.28、00.6.29.;6月21日充填)、品質保持期限6月30日(表示:00.6.30;6月23日充填)、品質保持期限7月1、2日(表示:00.7.1、00.7.2.;6月24日充填)、品質保持期限7月2、3日(表示:00.7.2、00.7.3.;6月25日充填)、品質保持期限7月3、4日(表示:00.7.3、00.7.4.;6月26日充填)の「低脂肪乳」からエンテロトキシンA型が検出された。
このうち、大阪市において検査されたものについては、期限表示の詳細が確認されており、製造工程を遡ることで確認が可能である。
しろまる 品質保持期限6月30日(表示:00.6.30;6月23日充填)の「低脂肪乳」については、29体中23検体(検出範囲0.05ng/ml〜1.6ng/ml)からエンテロトキシンA型が検出されており、これはストレージタンクT52内で6月22日に調合された際、使用された脱脂粉乳がエンテロトキシンA型に汚染されていたことによると考えられる(同じ日に充填されたもう1つのストレージタンクであるT53由来の製品からは不検出。)。また、品質保持期限7月1日(表示:00.7.1;6月24日充填)から1検体検出(0.05ng/ml)しているのは、同じストレージタンクT52で調合されたものがT54由来のものと混合され、6月24日に充填されたためか、23日の回収乳が使用されたためと考えられる。
品質保持期限7月2日(表示:00.7.02.;6月24日充填)から13検体中11検体(0.05ng/ml〜1.6ng/ml)からエンテロトキシンA型が検出されているが、これはストレージタンクT51で6月24日に調合された際、使用された脱脂粉乳がエンテロトキシンA型に汚染されていたためと考えられる。このストレージタンクT51で調合された「低脂肪乳」は、サージタンクT64、T33を経由して品質保持期限7月2日(表示:00.7.02;6月25日充填)にも使用されており、28検体中20検体から0.05ng/mlから0.8ng/mlの範囲でエンテロトキシンA型が検出された原因と考えられる。
しろまる 品質保持期限7月3日(表示:00.7.03.;6月25日充填)から0.1ng/ml検出した原因は、T53での調合の際、前日充填のT51調合の「低脂肪乳」からの回収乳を1割程度使用したためと考えられる。さらに、品質保持期限7月3日(表示:00.7.03;6月26日充填)から11検体中5検体から0.05ng/mlから0.2ng/mlのエンテロトキシンA型が検出しているのも、このT53調合の「低脂肪乳」を翌日に繰り越して充填したためと考えられる。
しろまる 品質保持期限7月4日(表示:00.7.04.;6月26日充填)から0.1ng/ml検出した原因については、6月25日に充填された回収乳を使用したためと考えられる。
一方、脱脂粉乳011007 ACQからエンテロトキシンA型が検出されているが、「低脂肪乳」については、6月25日に当該ロットがサージタンクT53に原料として使用されたことが第2調合室の記録から確認され(資料II−4−5)、T53で調合された「低脂肪乳」からエンテロトキシンA型が検出された原因の一つとも考えられる。
また、脱脂粉乳011007ACQは、大阪工場に6月20日に278袋搬入されたことが大阪鉄道倉庫の伝票により確認された(資料II−4−6)。6月20日から30日の間の脱脂粉乳の使用記録をみると、大阪工場倉庫に搬入後5日以内に使用される傾向にあり、脱脂粉乳011007ACQが6月21日から6月25日の間の5日間に使用されたとすれば、上記製造過程とも整合する。
なお、品質保持期限6月28日及び29日(表示:00.6.28、00.6.29.;6月21日充填)の低脂肪乳からもエンテロトキシンA型が1検体ずつ検出されている原因については、記録から確認できなかったが、大阪工場に搬入された当日に脱脂粉乳011007ACQがストレージタンクT53での調合に一部使用されたと考えられる。
ウ その他
「毎日骨太」(品質保持期限6月30日)からもエンテロトキシンA型が1検体でのみ検出されているが、原因は確認できなかった。
以上のことから6月20日から25日の間に大阪工場で使用され、かつ、6月22日の調合に5,263kg、6月24日の調合に2,881kg使用された脱脂粉乳に相当量含まれ、本食中毒の原因となりうる脱脂粉乳のロットは011007ACQ以外にはないと考えられた。

(2)製造工程

ア 製造ラインの共用
クリーム類の製造ラインは専用であるが、他の製品については、調合室、ストレージタンク、殺菌機、サージタンク、充填機、回収乳タンクが共用される。例えば、第1調合室では「特濃」、「コーヒー」、「フルーツ」のミックス、発酵乳の還元乳が調合され、第2調合室では「低脂肪乳」、乳飲料の「毎日骨太」、「カルパワー」のミックスが調合される。しかし、「低脂肪乳」と発酵乳の製造ラインについては共用されるところはない。
イ 仮設ホースの使用
大阪工場におけるホースの使用は、原料乳の受入れをはじめ回収乳タンクT41から回収乳タンクT46、T47に回収乳を送り込む際、屋外での調合作業時に移動式脱脂粉乳溶解機との接続、再製乳の調合室への引込みなど各所で使用されていた。仮設ホースは、合成樹脂製で長さ2mから数10mのものまであり、作業内容、状況に応じて使い分けていた。
ウ 屋外における調合作業
ストレージタンクにおけるミックスの最終成分調整のために行われ、成分濃度が高い場合には冷却水を、低い場合には移動式脱脂粉乳溶解機(80L)を使用して脱脂粉乳溶解液をストレージタンクに投入していた。
実施頻度は前者が毎日、後者は月2回程度だった。
エ 再製品の使用
製造後出荷されずに冷蔵庫に残った製品及び出荷後発注ミス等により返品された製品を原料として再利用する場合と日付ミスや漏れ等の工程中にトラブルが発生した製品を冷蔵庫に保管し再利用する場合がある。

(3)衛生管理

ア 貯乳タンク内の温度管理
(ア) タンク内の乳温を7°C以下で保存し、48時間以内に使用する旨の基準が総合衛生管理製造過程の申請書類に記載されていたが、回収乳タンクについては記載されていなかった。
(イ) 平成12年6月14日から27日までの「サージタンク・配乳タンク・繰越管理記録」を確認したところ、「特濃」及び「コーヒー」の未殺菌ミックスについては、7.3 〜10.4°Cの間で乳温が7°Cを超え、その回数はそれぞれ10回及び9回であった。
(ウ) 乳飲料である「毎日骨太」の回収乳について、乳温が10°Cを超えた記録は6月17日の12°Cがあったが、「調合・工程管理記録」では使用時の乳温が6°Cであった。
(エ) 「低脂肪乳」の未殺菌ミックス及び殺菌ミックスが翌日に繰り越された場合の乳温については問題は見られなかった。
(オ) 低脂肪乳の調合に使用されていた回収乳について乳温が10°Cを超えた記録は6月17日の12°Cがあったことから、ストレージタンク内の最終成分調整後の乳温を「牛乳・加工乳検定表」で確認したが、記録の記載が不明瞭で確認できなかった。「調合・工程管理記録」では、その回収乳使用時の乳温が6°Cであり、そのタンク内の前日及び翌日の乳温はそれぞれ3.4°C及び3.5°Cであった。
(カ) 発酵乳について平成12年6月14日から29日までの「調合−計量−サージアップ管理表」及び「タンク温度チェック表」を確認したところ、エンテロトキシンA型が検出された発酵乳が調合された23日以降の記録において、6月24日のナチュレ及び毎日骨太用ベースの調整タンクT13、T17の温度がそれぞれ20.0°C、16.0°Cだったが、これは聞き取り調査から当日発酵乳の製造がなかったため冷却はされていたもののタンク内の攪拌が行われず、かつ温度測定時に攪拌を行ってから測定するところをそのまま測定したためである(25日の当該ベースを使用したサージタンク内の充填前の製品サンプル保管品及び製品からエンテロトキシンA型は検出されていない。)。
(キ) 6月26日以降のATBバルクスタータータンクT29の温度が11.9〜13.9°Cと10°Cを超えていたが、これは聞き取り調査からタンクのチルド水の循環が悪かったためである(当該バルクスターターを使用した「のむヨーグルトナチュレ」及び「のむヨーグルト毎日骨太」用ベースからエンテロトキシンA型は検出されていない。)。調整タンクT13及びT17、バルクスタータータンクT29については「調合−計量−サージアップ管理表」の検査記録からも問題はなかった。
イ 洗浄
(ア) CIP
タンク、ライン、充填機、プレート式殺菌機については、コンピュータ制御により全自動でCIPを行うが、第1調合室及び第2調合室における還元乳ライン及びバターラインについてはそれぞれ手動でCIPラインを作成しており、6月14日から27日までの「CIP記録表」、「第1調合循環洗浄記録」、「第2調合循環洗浄記録」、「プレート管理記録表」を確認したところ、記録上適正な頻度で実施されていた。
(イ) 手洗浄
(1) 逆止弁
中性洗剤でブラシを用いて手洗浄し、水または温水で濯ぐこととしており、洗浄結果については「清掃洗浄点検計画表」に記載されるが、6月の「清掃洗浄点検計画表」では、実施頻度が週1回であるにもかかわらず最長で21日間洗浄されていなかった逆止弁もあった。
(2) 仮設ホース
第1調合室では、洗剤を用いて手洗浄することとされていたが、使用後水洗のみのものもあった。ローリー受入ホースの一部の洗浄記録以外に仮設ホースの洗浄記録は確認できなかった。
(3) 移動式脱脂粉乳溶解機
タンクに温水(温度は不明)を貯めたのち、アルカリ粉末洗剤を入れ、循環洗浄を行う(約15分)。その後、洗浄水を捨て、温水を入れてブローしながら循環させる。フェノールでアルカリ反応を確認する場合がある。蓋をして保管する(屋外)。作業手順書に洗浄方法が規定されているが、洗浄記録はなく、大阪工場の従業員からの聞き取りでは、実際に適正な洗浄がなされていたかは確認できなかった。
(4) 移動式再製乳タンク
アルカリ洗剤でブラシを使用して手洗浄し、水または温水で濯ぎ、蓋をして外部に保管する。

5 大阪工場関係調査結果に基づく、報告された有症者の類別(資料II−5−1)

(1) 届け出られた有症者のうち、次のいずれかに該当する者を除いた数は、14,780名であり、これを基礎数とした。

ア 大阪工場では製造していないバタ−や「食べるタイプのヨ−グルト」等の喫食者
イ 大阪工場で製造されてはいるが汚染の疑いがない「成分無調整牛乳」等の喫食者
ウ 京都工場や神戸工場等他工場で製造された製品を喫食したことが明らかな者
(2)製品の喫食と発症との関係があると推定される次の条件を全て有する者は、13,420名であった。
ア 潜伏時間が24時間未満、又は潜伏時間が不明の者(患者診定基準検討委員会決定)
イ 下痢、腹痛、嘔吐、嘔気のいずれかの症状を呈した者(患者診定基準検討委員会決定)
ウ 発熱が38.5°C未満である者(患者診定基準検討委員会決定)
エ 次の製品の喫食者
(1) 低脂肪乳、毎日骨太、カルパワー、特濃4.2牛乳(品質保持期限6月26日以前の製品、品質保持期限7月6日以降の低脂肪乳及び毎日骨太及び品質保持期限7月9日以降のカルパワ−及び特濃4.2牛乳の喫食者、並びに6月19日以前に喫食又は発症している者を除く。)
(2) のむヨーグルト毎日骨太、のむヨーグルトナチュレ、コープのむヨーグルト(品質保持期限7月4日以前の製品及び品質保持期限7月15日以降の製品の喫食者、並びに6月20日以前に喫食又は発症している者を除く。)
(3)製品の喫食と発症との間の関係がほぼ確実である次の条件をすべてを有する者は、4,852名であった。
ア 潜伏時間が12時間未満
イ 大阪工場の製品の喫食が製造所固有記号で確認されている者
ウ 当該脱脂粉乳からの毒素が混入したと判断され、検査によって毒素を検出した次の製品を発症前に喫食。
(1) 品質保持期限が6月28日から7月4日までの低脂肪乳
(2) 品質保持期限7月12日から7月14日までののむヨーグルト毎日骨太、のむヨーグルトナチュレ、コープのむヨーグルト

III 大樹工場関係調査

1 施設調査結果

(1)脱脂粉乳の製造(資料III−1−1)

大樹工場の脱脂粉乳製造工程は、生乳受入、クリーム分離、貯乳タンク及び配乳タンクを経て、濃縮、乾燥、サイロ貯粉、包装が行われていた。
大阪工場で6月下旬に使用された脱脂粉乳011007ACQは、大樹工場で4月10日に製造されたことが確認された。

(2)4月10日製造の脱脂粉乳の製造状況(資料III−1−2)

ア 4月10日においては、4月1日製造の脱脂粉乳939袋のうち、449袋を水に溶解し、生乳から処理された脱脂乳と混合して、再び脱脂粉乳を製造した。
イ この再利用された脱脂粉乳は、4月1日の製造後、同工場の自主検査により細菌数が<300〜98,000cfu/g検出されており、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令の脱脂粉乳の成分規格(50,000cfu/g以下)に適合しないものもあった(社内基準は9,900cfu/g以下)(資料III−1−3)。
ウ 製造工程における温度管理の状況は、概ね適切に行われていたことが記録からも確認されており、黄色ブドウ球菌の増殖及びエンテロトキシンの産生を疑わせる事実は認められなかった。

(3) 4月1日製造の脱脂粉乳の製造状況(資料III−1−2)

ア 停電の発生
(ア)工場構内全体の停電状況
3月31日に工場内電気室の屋根へ氷柱が落下し、屋根の破損部分から氷雪の溶解水が浸入したため、配線に短絡が発生し、さらに保護装置が作動したため、工場構内全体が11時から14時まで(雪印乳業(株)からの報告では、10時57分から13時49分まで)の約3時間停電したことが従事者からの聞き取りから確認された。
その後同日18時51分から19時44分までの間、復旧作業のため、さらに1時間、工場構内全体の通電が止められた。
(イ)短絡箇所の送電範囲の停電状況
最初の停電の原因となった短絡箇所の送電範囲は、脱脂乳の濃縮工程中のライン乳タンクの冷却器に冷媒を供給する冷凍機及び粉乳工程の送排風機であり、これら機器は最初の停電から復旧作業のための停電が終了するまでの間、停止していた。
イ 停電当日黄色ブドウ球菌の増殖至適温度帯にあった工程
脱脂粉乳製造工程のうち、黄色ブドウ球菌が分裂増殖する温度帯である20〜40°Cに加温される工程は、クリーム分離工程、濃縮工程及び濃縮乳タンクであるが、停電時に乳が滞留していた箇所はこれらの工程のうち、クリーム分離工程中の分離器及びその前後の工程並びに濃縮工程のライン乳タンクのみであった。
ウ クリーム分離工程
停電当時、生乳の加温からクリーム分離、冷却の過程で、通常は数分間で冷却工程に送られるべきものが、20〜50°Cに加温された状態で滞留し、11時から最初の停電復旧後、廃棄されずに停電前後の脱脂乳とともに貯乳タンクに貯乳され、そのまま脱脂粉乳の製造に使用された可能性があることが立ち入り検査の再現作業において示唆された(雪印乳業(株)の報告では、当該脱脂乳は廃棄されたとされている。)。
この乳が低温の貯乳タンク内に投入されるまで、20〜30°Cに保持された時間は停電発生からクリーム分離器の作動が確認されたことが記録された15時10分までの4時間程度(雪印乳業(株)からの報告によると、当該装置のCIPの開始時間である14時40分頃までの約3時間40分)である。
エ 濃縮工程の状況(資料III−1−4)
停電当時、濃縮工程では前夜からの脱脂粉乳製造が終了し、当該工程のバランスタンクからフィードタンク、加熱缶、殺菌機、濃縮缶に至る工程はCIPが終了して使用されておらず、濃縮タンクがCIPの過程にあったことがCIPの記録から確認された。
一方、濃縮工程に残った脱脂乳及びこれを回収するために使用した水(以下「ライン乳」。)を貯めるライン乳タンクには、前夜からの作業終了に伴い、9時22分以降、バランスタンクから濃縮缶までの工程のライン乳800L(雪印乳業(株)の報告によると、再現作業により確認。)が投入されていた。
このライン乳タンク内のライン乳は付属の冷却器により冷却される構造となっているが、この冷却器はライン乳タンク投入終了時の10時21分以降(開始時間は不明)、最初の停電時である10時57分まで作動したものの、停電により停止し、停電の復旧作業が終了した19時44分以降に再作動されるまでの間、9時間以上ライン乳タンク内で40°Cに加温されたライン乳が冷却されず放置された(雪印乳業(株)の報告によると、再現試験では、停電前に最大限冷却されたとしても液温は28°C、従事者からの聞き取りでは、再作動の時間は20時30分頃、冷却の終了は23時頃とされている。)。

2 エンテロトキシンA型及び細菌検査結果

大樹工場に残されていた脱脂粉乳の保存サンプルについて、北海道においてエンテロトキシンの検査に加え、黄色ブドウ球菌や大腸菌群等の検査を実施した結果、4月1日製造の6検体と4月10日製造の9検体から、1g当たり3.3〜20.0ng(ナノグラム)のエンテロトキシンA型が検出された(資料III−1−3)。
なお、平成12年は、3月28日以降、脱脂粉乳が15回製造されているが、上記の脱脂粉乳を除き、エンテロトキシンA型は検出されなかった(資料III−2−1)。

3 脱脂粉乳製造工程における黄色ブドウ球菌による汚染、エンテロトキシンA型産生に関する検討

上記1及び2の調査結果からエンテロトキシンA型により脱脂粉乳が汚染された経緯を問題となる2つの工程について、それぞれ、汚染源及び増殖条件に関する検討を行った。

(1) クリーム分離工程

ア 汚染源
生乳処理を行う最初の工程であり、生乳に存在する黄色ブドウ球菌が汚染源と考えられる。これは、通常の生乳から黄色ブドウ球菌の検出例が報告されていることからも可能性があると考えられる。
イ 増殖条件
4月1日製造の脱脂粉乳の製造過程において、3月31日に発生した停電事故により製造ラインが停止し、加温からクリーム分離、冷却の工程の650L(バランスタンク間で約1,000L)の乳が加温されたままの状態で3時間30分から4時間滞留したことが判明している。実験室内の再現試験によれば、汚染菌の濃度が102レベルであっても菌株よっては6時間でエンテロトキシンA型が検出されている(資料III−3−1)。

(2) 濃縮乳の回収工程

ア 汚染源
濃縮乳工程における黄色ブドウ球菌の汚染源は調査の過程においては、明らかとなっていない。
従事者からの聞き取りでは、昨年12月10日に行ったライン乳タンクの冷却器のプレートの組み違い(本年7月19日に判明)により生じたデッドスペースに、停電当日の早朝にライン乳が操作ミス等で数時間滞留したとの情報もあることから、当該ラインの開放部分からの汚染がデッドスペースの内容物を汚染し、さらに滞留したライン乳を汚染したおそれもある。
しかし、130°C、4秒以上の殺菌が通常どおりが行われていれば黄色ブドウ球菌の汚染源と考えるのは難しく、また、水は近隣の河川水を沈殿処理、塩素添加して使用していたので、黄色ブドウ球菌の汚染源と考えるのは問題もある。
イ 増殖条件
ライン乳タンクで約800Lのライン乳が9時間以上冷却されずに放置されており、冷却プレートの組み違えにより冷却能力が落ちていれば、約30分の冷却が停電前に行われているものの、黄色ブドウ球菌が存在すれば、十分な増殖条件があったと考えられる。

4 その他

(1) 4月1日製造の脱脂粉乳の二峰性の濃度分布についての検証

脱脂粉乳は乾燥工程後、サイロに貯められたのち、包装される。4月1日包装分については、Bサイロに前日の残余約50袋分の脱脂粉乳の上に3月30日生乳受入を行った約430袋分が投入され、その後、3月31日生乳受入を行った脱脂粉乳が約50袋分が積層され、ついでサイロAに投入されたと考えられる。
北海道が確認した二峰性の濃度分布(資料III−1−3)は、2つのサイロに投入された脱脂粉乳のエンテロトキシンA型濃度が次第に高濃度となる場合、出現することを確認した雪印乳業(株)の再現試験結果が提出されている。
したがって、濃縮乾燥工程に入った脱脂乳は次第に濃度が高くなっていた可能性が高い。

(2) 4月1日包装脱脂粉乳から検出された細菌

北海道の検査の結果、4月1日製造の脱脂粉乳のサンプル(資料III−1−3検体番号7)からはEnterococcus faecium及びStaphylococcus hominisが103レベル、Bacillus licheniformisが102レベルで検出された。
大樹工場での4月の検査結果に比較して8月の北海道の検査において生菌数の検出レベルが低いのは、これらの細菌が時間の経過とともに死滅していったことによると考えられる。
また、製品からこれらの非芽胞形成性細菌が検出されていることは、4月1日包装の脱脂粉乳製造の際に、

(1) 130°C、4秒の殺菌が殺菌機の異常又は乳質の異常により十分に行われなかった
(2) 殺菌は適切に行われたものの、濃縮乳タンク等殺菌以降の工程で菌が汚染、増殖した
(3) 殺菌前に脱脂乳がこれらの細菌に高濃度汚染されていて、殺菌後もこれらの菌が生残した
ことが理由として考えられる。
さらに、黄色ブドウ球菌が検出されていないが、これは
(1) 黄色ブドウ球菌の汚染濃度が低く、北海道の検査までに死滅した
(2) 黄色ブドウ球菌は殺菌前に増殖して殺菌され、これらの細菌の増殖は殺菌後に生じた
ためと考えられる。

IV 関連事例の調査結果

雪印乳業(株)の神戸工場及び福岡工場並びに八ヶ岳雪印乳業(株)においても、大樹工場で製造された黄色ブドウ球菌のエンテロトキシンA型に汚染されたと考えられる脱脂粉乳が製品に使用されていたが、大阪工場のような確実な有症者が確認されず、食中毒と断定するに至らなかったことが次のとおり報告された。

1 神戸市

(1)神戸工場製品による有症苦情

ア 原材料として脱脂粉乳を使用している製品による苦情は380件届け出られ、このうち、大樹工場製脱脂粉乳を使用していた可能性のある期間の製品による苦情は310件であるが、苦情品や製品の検査により、エンテロトキシンが検出されなかったことが確認された品質保持期限の製品による有症苦情の件数を除くと、33件であった。苦情内容を症状別に検討すると、エンテロトキシンA型による食中毒の主徴である嘔吐又は嘔気は26.8%にとどまり、下痢は92.3%にのぼる。これはエンテロトキシンA型感受性の高い小児においても同様の傾向が見られる。
イ 神戸工場製品による苦情は、すべて大阪工場製品による食中毒が報道されて以降に届けられたものであり、報道による心理的影響及び固有記号表記による消費者の混乱といった影響も大きいと思われる。

(2) 大樹工場製造の脱脂粉乳の使用状況及び製品への推定毒素量

ア 大樹工場製造の脱脂粉乳は、010928-AC ACQロットが1,250kg、011007-BA ACQロットが800kg入荷しているが、使用記録があるのは011007-BA ACQロット476kgのみである。
イ 使用されたことが判明している製品について、調合割合から製品中の毒素量を推定すると、最大でも0.090ng/mlなり、発症に必要なエンテロトキシンA型量を100ngとすると、当該製品を1,111ml摂取しなければ発症しない。使用記録のない1,574kgについては、6月19日から30日までに調合されたいずれかの製品に使用されたと考えられる。010928-AC ACQロット1,250kgについては、北海道の検査でエンテロトキシンA型が検出されていないロットのものであり、汚染されていないと仮定して製品中の毒素量を推定すると、最大で0.162ng/mlとなり、当該品を617ml摂取しなければ発症しない。当該脱脂粉乳が4ng/g汚染されていたと仮定すると、最大で0.388ng/mlとなり、257mlの摂取で発症も考えられる。
この場合、特定のロットの製品について顕著な苦情があるはずであるが、このような事実はない。

(3) 検査結果

苦情品24件、未開封製品37件及び原材料15件について行政検査を行っているが、エンテロトキシンは一切検出されていない。
以上のことから、神戸工場製品による苦情を、汚染された脱脂粉乳を使用したことによる食中毒であると判断することは困難である。

2 福岡市

福岡工場においては、本年6月9日大樹工場の脱脂粉乳011007ACQ 40袋を乳飲料製造に使用したが、当該製品に係る苦情は報告されなかった。これは、他の調合タンク由来の原材料と混合され、エンテロトキシンA型が希釈されたためと考えられる。

3 長野県

八ヶ岳雪印牛乳(株)茅野工場において、本年8月14日及び15日、大樹工場4月1日製造の脱脂粉乳010928AA-ACQ 46.2Kg及び010928AB-ACQ 1030.2Kgが乳飲料及びはつ酵乳の製造に使用された。当該製品を喫食したことによる苦情が7件あったが、黄色ブドウ球菌エンテロトキシンによる食中毒と断定するには至らなかった。

V まとめ

1 本食中毒事件の病因物質は、多くの有症者の潜伏期間が短く、嘔吐又は嘔気、下痢を主徴としていること、多くの有症者が喫食した低脂肪乳から黄色ブドウ球菌の産生するエンテロトキシンA型が検出されていることから同毒素と判断される。

2 原因食品については、雪印乳業(株)大阪工場で製造された「低脂肪乳」に加えて、エンテロトキシンA型が検出された「のむヨーグルト毎日骨太」、「のむヨーグルトナチュレ」も疑われる。

3 雪印乳業(株)大阪工場の調査の結果、6月に同工場で使用された脱脂粉乳のうち同社大樹工場で製造された脱脂粉乳の特定のロットからのみエンテロトキシンA型が検出され、当該ロットの脱脂粉乳が「低脂肪乳」、「のむヨーグルト毎日骨太」及び「のむヨーグルトナチュレ」に使用されたことが確認又は推定されたことから、本脱脂粉乳が本食中毒の原因であったと判断される。

4 同社大樹工場の調査の結果、4月10日製造の脱脂粉乳製造時に再利用された4月1日製造の脱脂粉乳の製造過程において発生した停電の際に、生乳中又は製造ラインに滞留したライン乳中に由来する黄色ブドウ球菌が増殖し、エンテロトキシンA型を産生したと考えられる。

5 黄色ブドウ球菌のエンテロトキシンA型産生は、クリーム分離工程又は濃縮工程のライン乳タンクで起こったと考えられる。これらの工程における汚染要因については前者が、増殖要因については後者が合理的な説明が可能であるが、調査において確認された事実からはこれ以上の解明は困難と考える。

VI おわりに

本食中毒事件の調査において、原因食品の汚染源となった脱脂粉乳の製造工程の黄色ブドウ球菌の増殖に係る要因が推定されたことから、類似の食中毒事例の再発を防止するため、衛生基準の策定、HACCPの導入等の措置を講ずることが必要と考えられる。

一方、本食中毒事件の原因企業である雪印乳業株式会社は、事件公表の遅延による被害者の増加、大阪工場及び大樹工場におけるずさんな衛生管理、製造記録類の不備等の食品製造者として安全性確保に対する認識のなさを猛省する必要があり、安全対策の基本部分からの再構築が強く望まれる。

本食中毒の調査の実施及び結果のとりまとめに多大な御協力をいただいた関係機関の各位に対して深く感謝する。


(資料)
黄色ブドウ球菌のエンテロトキシンA産生の確認試験結果

黄色ブドウ球菌が増殖し、エンテロトキシンA型を産生する温度条件は、10°C〜46°Cの温度帯であるとされているが、同工場における停電事故においては、乳が加温された状態のままクリーム分離工程で3時間半を超えて滞留したことが従事者による再現作業で確認されており、道立衛生研究所において、この条件を想定した黄色ブドウ球菌のエンテロトキシンA型産生試験を実施した。

(1) 15ml×ばつ105cfu/mlのブドウ球菌を添加し、40、45及び50°Cの3段階の培養温度を設定したところ、40°C、3時間で0.18ng/ml、6時間で0.28ng/ml のエンテロトキシンAが産生された。(資料)

(2) ×ばつ103 cfu/mlであっても、40°Cでは6時間後からエンテロトキシンAが産生された。(資料)

(3) ×ばつ102cfu/mlを添加した場合には、40°C、6時間で2.0ng/mlのエンテロトキシンAが産生されており、試験に用いるブドウ球菌によって活性に差のあることが推察された。


雪印乳業食中毒事件の原因究明調査結果について

−低脂肪乳等による黄色ブドウ球菌エンテロトキシンA型食中毒の原因について−

平成12年12月19日
厚生省生活衛生局

明日午後、大阪市役所において、第3回雪印乳業食中毒事件厚生省・大阪市原因究明専門家会議を開催を予定しており、現時点における結論の案は以下のとおりですので、お知らせします。

1 本食中毒事件の病因物質は、多くの有症者の潜伏期間が短く、嘔吐又は嘔気、下痢を主徴としていること、多くの有症者が喫食した低脂肪乳から黄色ブドウ球菌の産生するエンテロトキシンA型が検出されていることから同毒素と判断される。

2 原因食品については、雪印乳業(株)大阪工場で製造された「低脂肪乳」に加えて、エンテロトキシンA型が検出された「のむヨーグルト毎日骨太」、「のむヨーグルトナチュレ」も疑われる。

3 雪印乳業(株)大阪工場の調査の結果、6月に同工場で使用された脱脂粉乳のうち同社大樹工場で製造された脱脂粉乳の特定のロットからのみエンテロトキシンA型が検出され、当該ロットの脱脂粉乳が「低脂肪乳」、「のむヨーグルト毎日骨太」及び「のむヨーグルトナチュレ」に使用されたことが確認又は推定されたことから、本脱脂粉乳が本食中毒の原因であったと判断される。

4 同社大樹工場の調査の結果、4月10日包装の脱脂粉乳製造時に再利用された4月1日包装の脱脂粉乳の製造過程において発生した停電の際に生乳又は製造ラインのデッドスペースに滞留したライン乳中に由来する黄色ブドウ球菌が増殖し、エンテロトキシンA型を産生したと考えられる。

5 黄色ブドウ球菌のエンテロトキシンA型産生は、クリーム分離工程又は濃縮工程のライン乳タンクで起こったと考えられる。これらの工程における汚染要因については前者が、増殖要因については後者が合理的な説明が可能であるが、調査において確認された事実からはこれ以上の解明は困難と考える。


雪印乳業食中毒事件の原因究明調査結果について

−低脂肪乳等による黄色ブドウ球菌エンテロトキシンA型食中毒の原因について−

(最終報告)

資料

平成12年12月

雪印食中毒事件に係る
厚生省・大阪市原因究明合同専門家会議



雪印食中毒事件に係る厚生省・大阪市原因究明合同専門家会議委員名簿

(にじゅうまる座長)

小沼 博隆 国立医薬品食品衛生研究所衛生微生物部室長
品川 邦汎 岩手大学農学部教授
山本 茂貴 国立感染症研究所食品衛生微生物部長
大島 寛 大阪市立大学工学部教授
にじゅうまる 小崎 俊司 大阪府立大学農学部教授
小林 和夫 大阪市立大学医学部教授
柴田 忠良 大阪府立公衆衛生研究所食品衛生部課長
杉田 隆博 大阪市立環境科学研究所長
中澤 秀夫 大阪市保健所長
本田 武司 大阪大学微生物病研究所教授
(敬称略)


照会先
厚生労働省医薬局食品保健部監視安全課
乳肉水産安全係 蟹江 (2476)

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