資料5 塩酸ドキソルビシン(小児)
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抗がん剤報告書:塩酸ドキソルビシン(小児)
1.報告書の対象となる療法等について
療法名
ドキソルビシンを含む多剤併用療法
未承認効能・
効果を含む医薬品名
塩酸ドキソルビシン
未承認用法・
用量を含む医薬品名
塩酸ドキソルビシン
予定効能・効果
小児悪性固形腫瘍(ユーイング肉腫ファミリー腫瘍、横紋筋肉腫、神経芽腫、網膜芽腫、肝芽腫、腎芽腫、など)
予定用法・用量
薬剤名 用法・用量
ドキソルビシン 1日20-40mg/m2を24時間持続点滴
(1コース20-80mg/m
2を24-96時間かけて投与し、繰り返す場合には少なくとも3週間毎以上の間隔を開けて投与する)
または1日1回20-40mg/m2を緩徐に静注または点滴静注
(1コース20-80mg/m
2を投与し、繰り返す場合には少なくとも3週間毎以上の間隔を開けて投与する)
併用療法の場合、いずれも上記の用法・用量の範囲内で行う。年齢、併用薬、患者の状態に応じて適宜減量を行う。1患者における総投与量が500mg/m
2を越えないように制限する。
用法・用量等に関する参考情報
(未承認薬剤については、ドキソルビシン、エトポシド、イホスファミドについては、今回の報告書で対応)
ドキソルビシンを含む併用療法のうち、エビデンスレベルが高く、標準的治療と見なしうるものを以下に記す。
VDC療法(ユーイング肉腫ファミリー腫瘍など)
ドキソルビシン 75mg/m2を第1日から48時間で持続点滴
ビンクリスチン 2mg/m
2を緩徐に静注(第1日)
シクロホスファミド 1200mg/m2を点滴静注(第1日)
1歳未満には第一コースは上記の50%量から開始し、問題なければ第2コースは75%量、第3コース以降に100%量を投与する。
CDDP/ADR療法(肝芽腫など)
シスプラチン 90mg/m2 (1歳以上)を6時間で点滴静注(第1日)
(1歳未満の場合は3mg/kgを使用)
ドキソルビシン 1日20mg/m2を4日(96時間)持続点滴
D4A療法(腎芽腫など)
アクチノマイシンD 0.045mg/kg (体重30kg未満)
または1.35mg/m
2(体重30kg以上)静注(最大1回投与量2.3mg)
腎摘出術後5日以内に第1回投与(これを第0週の投与とする)
その後、第6,12,18,24週に1回ずつ計5回投与.
ビンクリスチン 0.05mg/kg(体重30kg未満)
または1.5mg/m
2(体重30kg以上)静注、第1週から毎週10回投与
(最大1回投与量2.0mg)
ドキソルビシン 1.5mg/kg(体重30kg未満)または45mg/m2(体重30kg以上)を第3週と第9週にそれぞれ1回ずつ緩徐に静注、その後、1.0mg/kg(体重30kg未満)または30mg/m2(体重30kg以上)を第15週と第21週にそれぞれ1回ずつ緩徐に静注.
横紋筋肉腫、神経芽腫、網膜芽腫等について、ドキソルビシンは第一選択薬として使用されるが、併用薬剤については、国、研究グループ、施設によって異なり、画一的なレジメンを一義に決定する事が困難であり、以下の薬剤を併用したレジメンを代表的なものとして参考として示す。
横紋筋肉腫:ビンクリスチン、
アクチノマイシンD、シクロホスファミド
神経芽腫:ビンクリスチン、シスプラチン、シクロホスファミド、
エトポシド
網膜芽腫:ビンクリスチン、
シクロホスファミド
2.公知の取扱いについて
(1) 無作為化比較試験等の公表論文
A. ユーイング肉腫ファミリー腫瘍
(1) Grier HE, et al: New Engl J Med 348:694-701,2003.
(2) Nesbit ME Jr, et al: J Clin Oncol 8:1664-74,1990.
(3) Burgert EO, et al: J Clin Oncol 8:1514-1524,1990.
B. 横紋筋肉腫
(1) Maurer HM, et al: Cancer 61:209-220,1988.
(2) Maurer HM, et al: Cancer 71:1904-1922,1993.
(3) Crist W, et al: J Clin Oncol 13:610-630,1995.
(4) Arndt CAS, et al: Eur J Cancer 34:1224-1229,1998.
(5) Felgenhauer J, et al: Med Pediatr Oncol 34:29-38,2000.
C. 神経芽腫
(1) Matthay K, et al: New Engl J Med 341:1165-1173,1999.
(2) Matthay K, et al: J Clin Oncol 16: 1256-1264,1998.
(3) Katzen HM, et al: J Clin Oncol 16: 2007-2017,1998.
(4) Frappaz D, et al: J Clin Oncol 18: 468-476,2000
D. 網膜芽腫
(1) Antoneli CB, et al: Cancer 98:1292-8,2003.
(2) Zelter M, et al: Cancer 68:1685-1690,1991.
(3) Doz F, et al: Cancer 74:722-732,1994.
(4) Schvartzman E, et al: J Clin Oncol 14:1532-1536,1996.
E. 肝芽腫その他の肝原発悪性腫瘍
(1) Brown PJ, et al. J Clin Oncol 18:3819,2000.
(2) Ortega JA, et al: J Clin Oncol 18:2665-2675,2000.
F. 腎芽腫その他の腎原発悪性腫瘍
(1) D'Angio GJ, et al. Cancer 47:2302,1981
(2) D'Angio GJ, et al. Cancer 64:349,1989.
(3) Tournade MF, et al. J Clin Oncol 11:1014,1993.
(4) Green DM, et al. Med Pediatr Oncol 26:147,1996.
(5) Green DM, et al. J Clin Oncol 16:237,1998.
(6) Tournade MF, et al. J Clin Oncol 19:488,2001.
(2) 教科書
ユーイング肉腫ファミリー腫瘍
(1) Ginsberg JP, et al. Ewing’s sarcoma family of tumors. pp973-1016. In Principle and Practice of Pediatric Oncology 4th ed (2002) Pizzo PA, et al.eds. Lippincott Williams and Wilkins,PA,USA.
複数の第II相試験報告におけるドキソルビシン単剤または併用による奏効率は42%である。限局性および転移性のユーイング肉腫に対して使用される世界の代表的なレジメンのほとんどはビンクリスチン、アクチノマイシンD、シクロホスファミド、ドキソルビシンを組み合わせており、外科治療、放射線治療との併用において、優れた長期生存率を示している。
(2) Ebb DH, et al. Solid tumors of childhood. pp2161-2214. In Cancer Principles and Practice of Oncology 6th ed.(2001) DeVita VT, et al.eds. Lippincott Williams and Wilkins,PA, USA.
化学療法によって原発巣の縮小が期待されると同時に、全身の微少転移のコントロールによって、無病生存期間の延長が期待できる。1973年開始のIESS-I試験において、ビンクリスチン、シクロホスファミド、アクチノマイシンにドキソルビシンを加える事で無再発生存率を改善する事が示されている。それ以降、米国の主要な臨床試験の治療レジメンはドキソルビシンを含んでいる。
B. 横紋筋肉腫
(1) Wexler LH, et al. Rhabdomyosarcoma and the undifferentiated sarcoma. pp939-971. In Principle and Practice of Pediatric Oncology 4th ed (2002) Pizzo PA, et al.eds. Lippincott Williams and Wilkins,PA,USA.
ドキソルビシンは標準的治療レジメンであるVAC療法のビンクリスチン、シクロホスファミド、アクチノマイシンDと並んで最も有効な薬剤の一つである。
(2) Ebb DH, et al. Solid tumors of childhood. pp2161-2214. In Cancer Principles and Practice of Oncology 6th ed.(2001) DeVita VT, et al.eds. Lippincott Williams and Wilkins,PA, USA.
米国のIntergroup rhabdomyosarcoma study(IRS) I〜IVの結果のまとめとして、ドキソルビシンは以下のように述べられている。(1)胎児型で術後グループII(眼窩、頭頸部、傍精巣を除く)の患者に対して、ビンクリスチンとアクチノマイシンにドキソルビシンを加える事で、無再発生存率が63%から77%に改善した(IRS-III)。しかし、IRS-IIとIRS-IIIの結果に組織学的なサブグループ解析を加えると、ドキソルビシン群により予後良好な患者が多く含まれていた。このため、現時点で胎児型術後グループIIの患者にはビンクリスチンとアクチノマイシンを推奨している。(2)術後グループIIIおよびIVの患者にはドキソルビシンの追加によって無再発生存率の向上は認められなかった。
C. 神経芽腫
(1) Brodeur GM, et al. Neuroblastoma. pp895-937. In Principle and Practice of Pediatric Oncology 4th ed (2002) Pizzo PA, et al.eds. Lippincott Williams and Wilkins,PA,USA.
単剤の第II相試験が不応性の神経芽腫を対象に行われたが、シクロホスファミド、シスプラチン、ドキソルビシン、トポイソメラーゼII阻害剤が34-45%の奏効率を示した。これらの薬剤が併用療法の基軸となっている。
(2) Ebb DH, et al. Solid tumors of childhood. pp2161-2214. In Cancer Principles and Practice of Oncology 6th ed.(2001) DeVita VT, et al.eds. Lippincott Williams and Wilkins,PA, USA.
手術後に残存病変のない群に対しては、術後化学療法の有効性は明らかではない一方、局所病変で手術を行っていない群に関する後方視的研究では、シスプラチンとテニポシドで治療された群が、それ以外の群に比べて有意に生存率が良かった(93% vs 42%;p=0.02)。転移性の神経芽腫に対しては二つの論文が強力な併用化学療法(具体的な薬剤名は記載されていない)と造血幹細胞移植の併用の効果を示しているが、これらの群は移植後2年後の無イベント生存率が6-64%と未だ予後不良である。この結果の相違は患者選択によるものと考えられる。
D. 網膜芽腫
(1) Hurwitz RL, et al. Retinoblastoma. pp825-846. In Principle and Practice of Pediatric Oncology 4th ed (2002) Pizzo PA, et al.eds. Lippincott Williams and Wilkins,PA,USA.
脈絡膜深部、視神経、毛様体、虹彩への局所進展に対して、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチンの併用が長く用いられてきた。化学療法の有効なサブグループや標準治療を特定できるような無作為比較試験は行われていない。
(2) Ebb DH, et al. Solid tumors of childhood. pp2161-2214. In Cancer Principles and Practice of Oncology 6th ed.(2001) DeVita VT, et al.eds. Lippincott Williams and Wilkins,PA, USA.
眼窩内進展のある網膜芽腫に対して、エトポシド、カルボプラチン、シクロホスファミド、ビンクリスチン、ドキソルビシンを併用した併用化学療法が推奨される。
E. 肝芽腫その他の肝原発悪性腫瘍
(1) Tomlinson GE, et al. Tumors of the liver. Pp847-864. In Principle and Practice of Pediatric Oncology 4th ed (2002) Pizzo PA, et al.eds. Lippincott Williams and Wilkins,PA,USA.
肝芽腫に対する有効性が証明されていたのは、ビンクリスチン、フルオロウラシル、ドキソルビシンである。さらにシスプラチンが導入されて切除不能患者の生存率が飛躍的に向上した。
(2) Ebb DH, et al. Solid tumors of childhood. pp2161-2214. In Cancer Principles and Practice of Oncology 6th ed.(2001) DeVita VT, et al.eds. Lippincott Williams and Wilkins,PA,USA.
術後化学療法としてのビンクリスチン、フルオロウラシル、シスプラチンの組み合わせ、およびドキソルビシン、シスプラチンの組み合わせは、共にそれぞれのステージにおいて、同じような無再発生存率と全生存率を達成している。ただし、骨髄抑制や毒性死亡は前者の方が少なかった。
B. 腎芽腫その他の腎原発悪性腫瘍
(1) Grundy PE, et al. Renal tumors. In Principle and Practice of Pediatric Oncology 4th ed (2002) Pizzo PA, et al.eds. Lippincott Williams and Wilkins,PA,USA.
組織学的に予後良好(Favorable histology: FH)であるウイルムス腫瘍のステージI,II、および退形成(anaplasia)のあるステージIは、ビンクリスチンとアクチノマイシンD(レジメンEE4A)で治療される。FHのステージIII,IV、および部分的退形成のあるステージII-IVは上記2剤にドキソルビシンの4回投与を加えたレジメンDD4Aで治療される。明細胞肉腫に対しても、ドキソルビシンは特に効果的である。
(2) Ebb DH, et al. Solid tumors of childhood. In Cancer Principles and Practice of Oncology 6
th ed.(2001) DeVita VT, et al.eds. Lippincott Williams and Wilkins,PA, USA.
それぞれのステージにおいて、以下のような治療が推奨され、以下のような生存率である。
病期
抗がん剤(療法名)
4年全生存率
4年無再発生存率
I
ビンクリスチン、アクチノマイシンD
95.6%
89.0%
II
上記+ドキソルビシン
91.1%
87.4%
III
同上
90.9%
82.0%
IV
上記+シクロホスファミド
80.9%
79.0%
(3) peer-review journalに掲載された総説、メタ・アナリシス
A. ユーイング肉腫ファミリー腫瘍
(1)Rodriguez-Galindo C, et al: Med Pediatr Oncol 40:276-287,2003.
米国で行われてきた臨床試験により、最初にアルキル化剤とアントラサイクリン(ドキソルビシンを含む)の併用による術後化学療法の重要性が示され、次いで、早期の強力な化学療法の重要性が示された。その後、ビンクリスチン、アクチノマイシンD、シクロホスファミド、ドキソルビシンを併用した化学療法と局所療法の併用が標準治療として確立した。その後、高リスクの特徴を持った群に対してはイホマイドの有効性が示され、さらに、エトポシドとの相乗効果を期待した併用療法が効果的であることが示された。
B. 横紋筋肉腫
(1)Pappo AS,et al: J Clin Oncol 13:2123-2139,1995.
米国Intergroup rhabdomyosarcoma study (IRS) group研究のI,II,IIIによって、過去19年の間に横紋筋肉腫の治療開発が行われてきた。この間、無増悪生存率および全生存率の向上が得られたが、492人中の434人(88%)が、ドキソルビシンとVAC療法(ビンクリスチン、アクチノマイシン、シクロホスファミド)を併用した治療を受けた。IRS-IIIのVAC群とVAC+ドキソルビシン群の比較試験で有意差を認めず、VAC療法が標準治療法として認識された一方、術後グループIIの胞巣型応紋筋肉腫や骨盤部病巣に対してはドキソルビシンの価値が見直されている。
(2)Ruymann FB, et al: Cancer Invest 18:223-241,2000.
IRS-IIIにおいては、IRS術後グループIIの患者に対してドキソルビシンの優越性が示された。IRS-Iにおいて、術後グループIIIの患者に対して行われたVAC群とVAC+ドキソルビシンの比較試験では、ドキソルビシンの優越性は証明できなかった。術後グループIVにおいても、VAC療法以上の治療強化の効果は認められなかった。
C. 神経芽腫
(1)Weinstein JL, et al: Oncologist 8;278-292,2003.
ドキソルビシンについては化学療法の中心的薬剤として記されている。米国の小児悪性腫瘍グループ(COG)による神経芽腫のリスク分類の中間リスク群と高リスク群において、ドキソルビシンを含む併用療法は第一選択として使用され、高リスク群ではこの併用療法の後に造血幹細胞移植を用いた大量化学療法を行う。高リスク群におけるドキソルビシン併用療法の寛解導入率は70-80%に達している。
D. 網膜芽腫
(1)Meeteren S, et al: Med Pediatr Oncol 38:428-438,2002.
進行した骨、骨髄、軟部組織への転移例には、エトポシドとカルボプラチンにドキソルビシンを追加するとより良い奏効率が得られたとする報告がある。
E. 肝芽腫その他の肝原発悪性腫瘍
(1)Schnater JM, et al. Cancer 98:668-78,2003.
肝芽腫はビンクリスチン、シクロホスファミド、フルオロウラシル、シスプラチンに高度感受性である。シスプラチンとドキソルビシンの組み合わせは肝芽腫の予後を改善し、現在でも国際小児がん研究グループ(SIOP)研究の原則的治療となっている。
F. 腎芽腫その他の腎原発悪性腫瘍
(1)Kaplapurakal JA, et al: Lancet Oncol 5:37-46,2004.
3つの高度に効果的な薬剤、すなわち、アクチノマイシンD、ビンクリスチン、ドキソルビシンが、第一選択薬剤として使用される。これらの薬剤の併用療法が無効な症例に対しては、4つの他の薬剤、すなわち、シクロホスファミド、イホスファミド、カルボプラチン、エトポシドが使用される。
(4)学会又は組織・機構の診療ガイドライン
米国国立がん研究所(NCI)ホームページにあるPDQ(physician Data Query)の記載
http://www.cancer.gov/cancerinfo/pdq/treatment/ewings/healthprofessional/
限局性および転移性のユーイング肉腫に対する米国の標準治療はビンクリスチン、ドキソルビシン、シクロホスファミドとイホスファミド、エトポシドの交代療法であると記載されている。
http://www.cancer.gov/cancerinfo/pdq/treatment/neuroblastoma/healthprofessional/
高リスク神経芽腫の標準治療として、シクロホスファミド、ドキソルビシン、イホスファミド、シスプラチン、カルボプラチン、エトポシド、ビンクリスチンを併用した化学療法、局所腫瘍切除と骨髄破壊的な化学療法プラス自家造血幹細胞移植である、と記載されている。一方、中間リスク神経芽腫に用いられる化学療法は、中等量のシクロホスファミド、ドキソルビシン、カルボプラチン、エトポシドの組み合わせである、と記載されている。
http://www.cancer.gov/cancerinfo/pdq/treatment/childrhabdomyosarcoma/healthprofessional/
ドキソルビシンを含む併用療法は有効ではあるが、VAC療法単独と比べ有効であると示した研究結果は得られていない、としてtreatment options under clinical evaluationに位置づけられる。
http://www.cancer.gov/cancerinfo/pdq/treatment/retinoblastoma/healthprofessional/
眼内の網膜芽腫にはビンクリスチン,ドキソルビシン,シクロホスファミドの併用、または ビンクリスチン,カルボプラチン,エトポシドの併用による化学療法が転移を防ぐために行われる。
眼外進展の網膜芽腫には、放射線照射や化学療法が施行されているが、有効性ははっきり証明されていない。化学療法ではビンクリスチン,ドキソルビシン,シクロホスファミドの併用, ビンクリスチン,カルボプラチン,エトポシドの併用、さらに自家幹細胞移植との組み合わせが試みられ、CNS以外の転移症例に有効である。
http://www.cancer.gov/cancerinfo/pdq/treatment/childliver/healthprofessional/ ステージI〜IVの肝芽腫において、標準治療レジメンは、シスプラチン+フルオロウラシル+ビンクリスチン、または、シスプラチン+ドキソルビシンである。外科手術との組み合わせによって、5生率はステージI/IIで90%以上,ステージIIIで60-65%,ステージIVで50%を達成する。
http://www.cancer.gov/cancerinfo/pdq/treatment/wilms/healthprofessional/
ステージIIIおよびIVのウイルムス腫瘍に対してはビンクリスチン、アクチノマイシンD、ドキソルビシンの組み合わせが用いられる。2年無再発生存率は組織学的に予後良好タイプであればステージIで94.5%、ステージIVでも80.6%を達成する。
(5)総評
代表的な小児悪性固形腫瘍であるユーイング肉腫、横紋筋肉腫、神経芽腫、網膜芽腫、肝芽腫、腎芽腫のすべての癌腫において、塩酸ドキソルビシンが第一選択の薬剤として使用されている事が、上記の主要論文、総説、教科書の記載、および米国国立がん研究所(NCI)のホームページの記載、のいずれにおいても確認できる。以上の根拠からみて、小児悪性固形腫瘍に対しての本剤を含む多剤併用療法の有効性、安全性は医学・薬学上公知であると判断できる。
3.裏付けとなるデータについて
臨床試験の試験成績に関する資料
本報告書に記載した論文は,米国National Institute of Healthの機関であるNational Center for Biotechnology Information内にある文献データベースNational Library of Medicineの PubMed(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi)にアクセスし、 Review,Randomized Controlled Trial,Practice Guideline, Meta-analysis,Editorial,Clinical Trial別に、各疾患名をキーワードとしてchemotherapyと掛け合わせ検索した。その中で、本報告書の趣旨に関係が無いもしくは関係が薄い論文は選択せず、症例数が多い論文や各疾患に対する治療開発の歴史から考えて特に重要と思われる論文を重点的に抽出した。毒性情報については記載のある限り引用した。
A. ユーイング肉腫ファミリー腫瘍
限局性のユーイング肉腫342例の適格例に対して、治療1(VACA
*+局所放射線)、治療2(VAC+局所放射線)、治療3(VAC
**+局所放射線+全肺放射線)への割付(グループ1は治療1と2の比較、グループ2は治療2と3の比較)を行った。ドキソルビシン60mg/m
2x6コースを含む治療1は5年無増悪生存率60%を達成し、ドキソルビシンを含まない他の群に比較して有意(p<0.001)に優れていた。(
**VAC: ビンクリスチン, アクチノマイシンD,シクロホスファミド.
*VACA: VAC+ドキソルビシン)
(Nesbit ME Jr, et al.: J Clin Oncol 8:1664-74,1990.)
骨盤外原発のユーイング肉腫に対する第III相無作為割付比較試験。治療1はビンクリスチン+ドキソルビシン(75mg/m
2) およびビンクリスチン+シクロホスファミドの3週毎の交代療法(計12コース)で108例、治療2はビンクリスチン+シクロホスファミドの1週間毎の治療を基本に、10週毎にドキソルビシン (60mg/m
2)とアクチノマイシンDを使用する標準アーム106例。5年全生存率は77%対63% (p<0.05)でドキソルビシンのdose-intensityが高い治療1の方が有意に優れていた。
(Burgert EO, et al: J Clin Oncol 8:1514-1524,1990.)
これらの結果を受けて、VDC療法(ビンクリスチン2mg/m
2, ドキソルビシン 75mg/m
2 [48時間持続静注],シクロホスファミド 1200mg/m
2)が標準治療と見なされるようになった。これを3週毎に繰り返す標準治療アームと、VDC療法およびIE療法(イホスファミド 1800mg/m
2,エトポシド 100mg/m
2)を3週毎に交互に繰り返す試験アームとの第III相比較試験 (転移例を含む全398例) において、5年無病生存率は54%対69%と試験アームが優れ、標準治療となる可能性があると結論された。一方、治療関連合併症死は12例に発生した。そのうち7例は感染症,4例は心毒性,1例が出血であった。
(Grier HE, et al.: New Engl J Med 348:694-701,2003.)
B. 横紋筋肉腫
Intergroup rhabdomyosarcoma study (IRS)-Iでは、新規診断の横紋筋肉腫、術後病期IIIとIVに対して、pulse VAC+放射線照射にドキソルビシン (60mg/m
2一回投与を8-10週毎、計4回)の有無で比較試験を行い、ドキソルビシンを加える利益は有意には示されなかったものの、術後病期IVの寛解持続期間および生存率で、それぞれ19%対41% (p=0.10)、14%対25% (p=0.34)とドキソルビシン群で良い傾向が見られた。毒性はドキソルビシンを併用された205例で毒性死亡7例、対照となるVAC療法群で6例であり、これらはいずれも白血球減少と感染症に起因していた。生命を脅かす重篤な有害事象はドキソルビシン併用で24例、VAC群で19例。ドキソルビシン併用群では6名(3%)に心毒性が発現した。うち3例が軽症(心電図変化2、心肥大1)、3例が重症(心電図変化1、鬱血性心不全1、心肥大1)であった。
(Maurer HM, et al: Cancer 61:209-220,1988.)
IRS-IIにおいて、術後病期IIIおよびIVに対して、VAC+放射線照射群とVACの一部でアクチノマイシン-D(0.015mg/kg/d
×ばつ5日)をドキソルビシン(30mg/m
2/d
×ばつ2日)に変更した群での比較試験を行い、5年の無病生存率および全生存率で有意差を認めなかった。ドキソルビシンを使用した群285例における毒性は以下の通り。毒性死亡11例(感染症9、白質脳症1、脊髄脳幹の脱髄1)、生命を脅かす重篤な有害事象は67例、心毒性は26例(8%)に認め、軽症11例、中等症5例、重症5例であった。
(Maurer HM, et al. Cancer 71:1904-1922,1993.)
IRS-IIIでは、合計1062例を登録し、8種類のレジメンを複雑なデザインで比較している。予後良好部位原発を除いたGroupII胎児型横紋筋肉腫においてVA+放射線照射にドキソルビシンの有無で比較試験を行い、ドキソルビシン非投与群(n=23)投与群(n=51)においてそれぞれ5年全生存率 54%、89%(p=0.03)、5年無病生存率56%、77% (p=0.08)とADR投与に優越性を認めた。また、GroupI/II胞巣型に対してpulsed VAdrC-VAC+シスプラチン+放射線療法の治療を行い(n=99)、IRS-IIでのVAまたはVAC+放射線療法(n=89)と比較し、それぞれ5年全生存率 71%、80% (p=0.01)、5年無増悪生存率59%、71% (p=0.02)とドキソルビシンとシスプラチンの追加が有意に優れていた。毒性のデータは以下の通り。シクロホスファミドを使用しないレジメンでは毒性死亡はなかったが、VACにドキソルビシンとシスプラチンを併用した33例中4例が毒性死亡した。IRS-III全体での毒性死亡32例中22例が好中球減少時の敗血症で死亡している。他の死亡原因は、呼吸窮迫症候群1、心毒性2、放射線毒性3、代謝異常2、中枢神経障害1、血小板減少に伴う出血と誤燕1。5例の急性骨髄性白血病が発生しているが4例はエトポシドが投与されていた。ドキソルビシンを投与された616例中57例(9%)に心毒性が出現し、28例が重症、2例が毒性死亡した。
(Crist W, et al: J Clin Oncol 13:610-630,1995.)
中間リスク(3年無増悪生存率65%程度)の横紋筋肉腫30例に対して、上記のユーイング肉腫の治療と同様のVDC-IEの交代療法(ドキソルビシン 75mg/m
2 を2日間[18時間x2]かけて投与)を施行し、85%の3年無増悪生存率を達成した。発熱性好中球減少はVDC療法191コース中67回、血尿は全403コース中14回(うち10例は膀胱・前立腺原発)、経験された。1例が心駆出率低下のために最後の2コースのドキソルビシンを投与できなかったが、薬物投与を必要とする心毒性は発生していない。
(Arndt CAS, et al: Eur J Cancer 34:1224-1229,1998.)
C. 神経芽腫
高リスク神経芽腫小児189人に対して初期化学療法としてドキソルビシン 30mg/m
2(day2)とシスプラチン 60mg/m
2(day0),エトポシド 100mg/m
2(day2,5),シクロホスファミド1,000mg/m
2(day3,4)及びイホスファミド2.5g/m
2 (day0-3)の併用療法を28日ごとに5サイクルを行い、その後の地固め療法として骨髄破壊的大量化学療法+移植群と化学療法群に割り付ける無作為割付比較試験が行われた。大量化学療法+移植群で3年無病生存率は34.4%、化学療法群で22.4%であった。治療関連毒性としては,初期化学療法中に敗血症が17例に認められた.地固め療法として化学療法を施行された群では,治療中に重篤な感染症および敗血症が各々52%,28%に認められた.NCI-CTCのgrade 3/4の腎障害が化学療法群の8%、大量化学療法群の18%で認められた。治療関連死亡は化学療法群では3%であった。
(Matthay K, et al: New Engl J Med 341:1165-1173,1999.)
ステージIIIの局所進行性患者に対する同じ治療の成績も報告されている。予後良好群で、4年無病生存率は100%,と良好であり、予後不良群でも54%と良好な成績であった。
(Matthay K, et al: J Clin Oncol 16: 1256-1264,1998.)
欧州でもほぼ同様の治療方針であり、転移性神経芽腫小児99人にエトポシド 100mg/m
2(day2-5)とドキソルビシン60mg/m
2(day2), シクロホスファミド300mg/m
2(day1-5),ビンクリスチン 1.5mg/m
2、シスプラチン 40mg/m
2(day1-5)の併用療法が行われた。地固め療法として骨髄破壊的大量化学療法と自家造血幹細胞移植が行われた。評価可能72人の7年の無増悪生存率は29%であった。造血幹細胞移植を受けた患者29例中の毒性死亡は4名(13%)、全てが造血幹細胞移植の間に発生した。1例が治療第270日で原因不明の突然死を来した。
(Frappaz D, et al: J Clin Oncol 18: 468-476,2000.)
転移性の乳児神経芽腫に対して、初期化学療法としてドキソルビシン30mg/m
2と シスプラチン60mg/m
2, エトポシド 100mg/m
2×ばつ2, シクロホスファミド900mg/m
2×ばつ2 の併用療法(CCG-3881研究)、あるいはドキソルビシン10mg/m
2×ばつ3とシスプラチン 40mg/m
2×ばつ3, イホスファミド 2.5g/m
2×ばつ4, エトポシド125mg/m
2×ばつ4 の併用療法(CCG-3891研究)が行われた。寛解導入療法後にCCG-3881研究、CCG-3891研究ともに骨髄破壊的大量化学療法を行った。奏効率は発症年齢が2ヶ月以上の患児では3年生存率は93% (70人)、発症年齢が2ヶ月以下では3年生存率は71%(40人)と良好であった。
(Katzen HM, et al: J Clin Oncol 16: 2007-2017,1998.)
D. 網膜芽腫
1987年から2000年までに経験した眼球外進展の網膜芽腫83例のケースシリーズの成績。1期(1987-1991;43例)はシスプラチン 90mg/m
2 (day 1)+teniposide 100mg/m
2 (day 3)とビンクリスチン 0.05mg/kg (day 1)+ドキソルビシン 2mg/kg (day 1)+シクロホスファミド30 mg/kg (day 1)の交代療法を主とし、 2期(1992-2000:40例)はシスプラチン90mg/m
2 (day 1)+teniposide 100mg/m
2 (day 3)およびイホスファミド1800mg/m
2 (days 1-5) + エトポシド 100mg/m
2 (days 1-5) の交代療法とした。5年全生存率は1期が55.1%、2期が59.4%で有意差はなかった。1期では、治療後7年後と9年後に2例が骨肉腫、2期では1例が骨髄性白血病を発症した。
(Antoneli CB, et al: Cancer 98:1292-8,2003.)
1977年から1991年の期間に一施設で経験した33例の眼窩内進展を来した網膜芽腫のケースシリーズの成績。時期により治療方針に違いがある。ビンクリスチン 1.5mg/m
2 (days 1 and 5)+ドキソルビシン 60mg/m
2 (day 5)+シクロホスファミド 300 mg/m
2 (days 1-5)からなるCADO療法とシスプラチン 100mg/m
2 (day 1)+teniposide 160mg/m
2 (day 3)のPE療法の3週毎交互投与は10例に施行され、観察期間中央値29ヶ月で5例が生存中である。
(Zelter M, et al: Cancer 68:1685-1690,1991.)
1987年から1993年までの期間、単施設で治療を行った116例の前向き研究。進行度別の治療方針で、進行度II(眼窩病変)に対しては、ビンクリスチン0.05mg/kg (day 1)+ シクロホスファミド 40mg/kg(day 1) +ドキソルビシン 0.67mg/kg(1時間点滴静注:day 1-3)、進行度III(中枢神経浸潤),IV(遠隔転移)に対してはこのレジメンとシスプラチン 3mg/kg (24時間点滴静注:day 1)+エトポシド(3.3mg/kg days 1-3) を3週間毎に交互投与。進行度別生存率は、観察期間中央値39ヶ月で進行度I 97%, II 85%, III 0%, IV 50%。毒性により化学療法が中断される事はなかった。好中球減少性発熱が18エピソード、ドキソルビシンの静脈外漏出が1例、出血性膀胱炎と、カテーテル感染が1例ずつ認められた。
(Schvartzman E, et al: J Clin Oncol 14:1532-1536,1996.)
E. 肝芽腫その他の肝原発悪性腫瘍
全病期の肝芽腫154例に対してシスプラチン 80mg/m
2 24時間持続点滴+ドキソルビシン 60mg/m
2 48時間持続点滴を 4コース施行の後、手術を実施しさらに2コース同療法を実施した。154例中138例が手術まで到達し、113例(82%)がPRに達した。待期的手術を実施した115例のうちで、106例が腫瘍を全摘出できた。5年全生存率75%,無病生存率66%であった。38例が死亡し、内訳は腫瘍死25例(66%)、化学療法毒性3例、手術7例(うち2例は術中の心停止、1例は出血、1例は静脈閉塞性疾患)であった。他の3例は、それぞれ先天性代謝異常、診断後17ヶ月時のウイルス感染による肝不全、治療4年後の緑膿菌敗血症、であった。
(Pritchard J, et al. J Clin Oncol 18:3819,2000.)
21歳未満の全病期の肝腫瘍242例が登録されたが、適格症例228例のうち、 182例が肝芽腫、46例が肝細胞癌であった。9例は組織学的予後良好群のステージIのため、ドキソルビシン 20mg iv x3日間を4コース行われて治療終了。残りの患者が術前4コースの化学療法に関して割付を行われ、92例がレジメンA(5-FU 600mg/m
2, ビンクリスチン 1.5mg/m
2, シスプラチン 90mg/m
2)、83例がレジメンB(シスプラチン 90mg/m
2+ドキソルビシン 80mg/m
2を96時間持続点滴静注)に割り付けられた。5年無病生存率および全生存率は、57%対69%および69%対72%(p=0.09)で有意さを認めなかったが、4年後の進行率はレジメンAの方が有意に高かった(39%対23%,p=0.02)。一方、毒性は好中球減少75%、血小板減少46%、貧血32%、口内炎23%、心毒性7%は、いずれもレジメンBの方が高度で、統計学的に有意であった。
(Ortega JA, et al: J Clin Oncol 18:2665-2675,2000.)
F. 腎芽腫その他の腎原発悪性腫瘍
米国ウイルムス腫瘍研究(NWTS)-2。登録755例中、適格例513例を無作為割付。グループI(腎限局で完全切除できた例)の患者188名は手術後放射線治療なしで全員がアクチノマイシン Dとビンクリスチンの治療(VA療法)を受け、その後、VA療法6ヶ月、または15ヶ月のアームに割り付けられた。2年無病生存率は88%で両群に差はなかった。グループII(腎外浸潤あり完全切除)、III(腹部限局で完全切除不能)、IV(遠隔転移)の患者は手術後に放射線治療を受け、その後VA群とドキソルビシン 60mg/m
2を含むAVA群に割り付けられた。2年無病生存率は62%対77%(p<0.004)で、グループII-IVの患者にはドキソルビシンの投与が推奨される。毒性として、ドキソルビシンを使用したAVA群では骨髄抑制が著明(グループII-IVの140名において、白血球<1000が17.1%、血小板<50,000が7.6%、ヘモグロビン<8が30.9%)であったが、他の毒性に差はなかった。心毒性のための死亡が1名で4歳、グループIVで胸部に放射線治療を受け、ドキソルビシン総投与量330mg/m
2の治療を受けていた。また、放射線照射を受けた325名の患者のうち、20名(6%)が肝腫大と肝機能障害を来した。513名のうち10名が感染症により死亡した。
(D'Angio GJ, et al. Cancer 47:2302,1981)
米国NWTS-3の結果。ドキソルビシンに関連する事項のみ解説する。ステージIIの予後良好な組織型(favorable histology:FH)の患者は、2x2のデザインによって、手術後に放射線治療20Gyの群と放射線治療なしの群に割り付けされ、その後VA群とAVA群に割り付けされる(VA放射線なし70例、VA放射線あり71例、AVA放射線なし68例、AVA放射線あり71例)。ステージIIIのFHの患者は、手術後に放射線治療20Gyの群と、10Gyの群に割り付けされ、その後VA群とAVA群に割り付けされる(VA放射線10Gy 69例、VA放射線20Gy 66例、AVA放射線10Gy 73例、AVA放射線20Gy 72例)。4年無再発生存率は、VA放射線なし87.4%、VA放射線あり90.1%、AVA放射線なし87.9%、AVA放射線あり86.9%で、ステージIII VA放射線10Gy 71.4%、VA放射線20Gy 76.8%、AVA放射線10Gy 82.0%、AVA放射線20Gy 85.9%であった。無再発生存割合についてステージIIとIIIを合わせて解析、またはステージIIのみで解析してもサブグループに差は認めなかったが、ステージIIIのみで比較すると、VA群対AVA群の比例ハザードモデルによる再発のリスク比が1.6(p=0.04)であった。腹腔内再発はAVA群134例中4例、VA群141例中11例、とドキソルビシン使用群で少ない傾向にあった。ステージIII患者の腹腔内再発の11例中7例は10GyでVA群の患者であった。この事から、ステージIII患者に関しては、ドキソルビシンを加える事によって腹部への放射線照射を20Gyから10Gyへ減量できる事が示唆された。ステージII-IVのAVA群339例における重症毒性の出現は、血液毒性(初回コース)94例、肺毒性41例、心毒性45例、肝毒性40例であった。
(D'Angio GJ, et al. Cancer 64:349,1989.)
欧州国際小児がん研究グループ(SIOP)における大規模臨床試験の報告。全登録症例数は509例。Stage IINIとstage IIIに対する初期治療を,アクチノマイシンD 15μg/kg x 3日,ビンクリスチン1.5mg/m
2 x 1日毎週を4週間のレジメン(INTVCR)の群と,ビンクリスチン1.5mg/m
2 x 1日毎週を4週連続(以後4週毎),塩酸ドキソルビシン50 mg/m
2 x 1日、3週毎のレジメン(ADRIA)の群とに無作為割付。2年無病生存率はINTVCR群で49%,ADRIA群で74%.ドキソルビシンの投与を推奨。全登録例のうち10例が非腫瘍死。
(Tournade MF, et al. J Clin Oncol 11:1014,1993.)
全登録症例数1687例のうち、高リスクに分類されるStage IIIもしくはIVのfavorable histology (FH)とstage IからIVのanaplastic histologyに対して,ドキソルビシン 20 mg/m
2 x 3日の13週毎をビンクリスチン 1.5mg/m
2 x 1日毎週,アクチノマイシン D 15μg/kg x 5日と併用(レジメンDD; 標準群284例).ドキソルビシン 45 mg/m
2 x 1日(時期によって30mg/m
2)をビンクリスチン 1.5mg/m
2 x 1日毎週(時期によって2.0 mg/m
2),アクチノマイシンD 45μg/kg x 1日6週毎と併用(レジメンDD-4A; 試験群290例)。2年無再発生存率は標準群90.0%、試験群87.3%で同等であった。レジメンDDとレジメンDD4Aの重症毒性の割合を比較するとヘモグロビン値94.7 vs 89.1%、好中球74.0 vs 61.6%、血小板31.7 vs 24.0%、肝毒性1.5 vs 3.4%であった。試験群のレジメンDD-4Aは、標準群と同様に有効であり、毒性も増強せず、入院期間の短縮、医療費の軽減が可能となるスケジュールであるために推奨される。
(Green DM, et al. J Clin Oncol 16:237,1998.)
米国NWTS1,2および3に登録された腎原発明細胞肉腫120例についての解析。ビンクリスチンとアクチノマイシンDで治療された群8例が6年無再発生存率25.0%に対して、上記2剤にドキソルビシンを加えたレジメンで治療された58例は63.5%(p+0.09)であった。
(Green DM, et al. Med Pediatr Oncol 26:147,1996.)
4.本療法の位置づけについて
他剤、他の組み合わせとの比較等について
現時点で小児悪性固形腫瘍に対して保険上の承認が得られている薬剤はごく限られており、科学的に考えて、現行の承認薬剤のみを用いた治療に有効性を求めるのは非常に困難である。この背景において、ドキソルビシンは、ほとんど全ての小児悪性固形腫瘍に対する第一選択の併用療法に含まれる重要な薬剤であり、小児悪性固形腫瘍に対して早急な適応取得が望まれる薬剤の一つである。ドキソルビシンは、用法・用量は併用する場合の抗がん剤により、多少の違いがあるものの、全ての小児悪性固形腫瘍の治療に不可欠な治療薬である。1.の予定用法・用量に示した併用療法のいずれかを参考とし、全ての小児悪性固形腫瘍に対応可能と考えられる。
小児悪性固形腫瘍において、科学的に議論しうるデータが収集可能な6疾患について、文献収集を行い、ドキソルビシンを用いた併用療法の科学的妥当性を示すデータを上記2.および3.に紹介した。絶対症例数の少ない網膜芽腫を除いては、いずれの疾患も無作為比較試験を含む複数の臨床試験によってドキソルビシンの有効性が示されており、網膜芽腫においても複数のケースシリーズ、前向き第II相試験が示す高い有効性のデータから、第一選択薬のひとつである事は疑いない。このうち、ユーイング肉腫ファミリー腫瘍、肝芽腫、腎芽腫およびその関連疾患においては、米国にて施行された大規模臨床試験の結果を踏まえ、併用療法の中で用いられているドキソルビシンの使用量等から、小児固形癌に対する効能・効果及び用法・用量を設定した。ドキソルビシンを含み、現在、標準治療レジメンとして認められるレジメンを参考として、上記1.に記載した。一方、神経芽腫および網膜芽腫においては、国、研究グループ、施設によって、独自なレジメンを使用されている事が多いので、標準治療法として一義に決定する事が困難であるため、上記1.に示した用法・用量のドキソルビシンと、小児がん専門医師が妥当であると考える併用薬剤の用量設定において使用する。横紋筋肉腫においては、標準治療であるVAC(ビンクリスチン、アクチノマイシンD、シクロホスファミド)療法に対するドキソルビシン追加の優越性は必ずしも証明されているとはいえないが、限られた進行度および組織型の患者に対しては依然利益があるものと考えられ、また、標準治療に無効な一群では積極的に使用されるべき薬剤であると考えられる。
これらの事実は、教科書および総説の記述でも確認され、また米国国立がん研究所(NCI)のホームページにも紹介されている内容と矛盾しないものであり、ドキソルビシンが小児悪性固形腫瘍の治療の第一選択薬剤である事は、医学薬学上公知であると考えられる。
5.国内における本剤の使用状況について
公表論文等
文献検索システム「JMEDPlus」において、小児悪性固形腫瘍に対するドキソルビシンを含む併用療法に関して、代表的な疾患名とドキソルビシンというキーワードで検索を行い、さらに明らかに本剤を投与したと考えられる,ないし本剤投与症例が含まれると考えられた原著論文、学会発表、使用状況と成績を示す総説の三種類に絞って以下に挙げた。無作為比較試験はなく、多施設のデータを集めた観察研究、1施設のケースシリーズ、症例報告のみであるが、我が国における日常的な使用の状況を示す論文発表、学会発表が多数なされている。いずれも海外文献で示されている用法・用量を外挿しており、海外で報告されている成績と同等な有効性を示し、かつ、安全性においても、毒性の強度、プロファイル共に大きな相違はないと判断される。
(A. ユーイング肉腫ファミリー腫瘍)
横山 良平ほか
小児がん 37:497-501:2001
阿部 哲士ほか
整形外科 48:499-504:1997
村上 裕ほか
耳鼻と臨床41:896-901:1995
前田 剛ほか
日整外誌 69:845:1995(抄録)
Ozaki Tほか
Hiroshima J Med Sci 42:89-96:1993
家原 知子ほか
Med J Kyoto Second Red Cross Hosp 24:13-18:2003
程塚 明ほか
小児の脳神経26:385-389:20010
(B. 横紋筋肉腫)
北 雅史ほか
日泌尿誌 94:696-700:2003
小森 和彦ほか
泌尿器科紀要49:349-352:2003
井口 広義ほか
癌の臨床 49:49-53:2003
鈴木 康弘ほか
日大腸肛門病会誌54:403-409:2001
笠原 勝幸ほか
京大医療短大紀要 22:1-10:2003
奥村 昌央ほか
泌尿器科紀要44:611-614:1998
多和 昭雄ほか
日児誌 98:1206-1211:1994
島袋 誠守ほか
癌と化学療法20:657-660:1993
宮島 雄二ほか
小児科臨床45:1135-1139:1992
西田 篤ほか
泌尿器科紀要36:1089-1092:1990
石田 也寸志ほか
日児誌 94:1201-1206:1990
清水 興一ほか
小児がん 26:99-100:1989
河原 優ほか
泌尿器科紀要35:1801-1805:1989
岡本 英一ほか
臨床泌尿器科42:913-916:1988
石田 也寸志ほか
小児科臨床40:2341-2346:1987
(C. 神経芽腫)
北内 誉敬ほか
泌尿器科紀要48:71-73:2002
吉岡 秀人ほか
小児科診療64:1597-1600:2001
市野 みどりほか
日泌尿会誌92:632-635:2001
林 富ほか
日小外誌 30:924-929:1994
浮山 越史ほか
小児がん 28:348-352:1991
Hiyoshi Yほか
Kurume Med J 31:1-6:1984
(D. 網膜芽腫)
初川 嘉一ほか
眼科臨床医報95:62-65:2001
(E. 肝芽腫)
浅桐 公男ほか
小児がん 40:236-239:2003
藤野 寿典ほか
小児がん 40:214-218:2003
草深 竹志ほか
小児外科 35:622-627:2003
藤村 純也ほか
小児外科 35:615-621:2003
田尻 達郎ほか
小児外科 35:575-578:2003
渡辺 健一郎ほか
小児外科 35:569-574:2003
大沼 直美ほか
小児外科 35:517-521:2003
西村 真一郎ほか
小児がん 39:171-176:2002
上田 幹子ほか
小児がん 39:159-164:2002
八木 啓子ほか
小児がん 39:31-36:2002
永田 俊人ほか
小児がん 36:57-61:1999
山本 隆行ほか
小児外科 26:909-912:1994
坂口 千晃ほか
小児科臨床45:1873-1878:1992
広田 貴久ほか
小児がん 28:428-430:1991
荻野 教幸ほか
小児外科 23:1039-1044
寺田 克ほか
小児がん 27:132-139:1990
Ogita Sほか
Jpn J Surg 17:21-27:1987
(F. 腎芽腫その他の腎腫瘍)
篠原 剛ほか
小児外科 34:1416-1420:2002
設楽 利二ほか
小児がん 38:56-59:2001
大竹 伸明ほか
日泌尿会誌86:1298-1301:1995
鷲尾 節子ほか
小児がん 28:59-61:1991
比嘉 エリザベットほか
小児科臨床 45:1275-1278:1992
西角 淳ほか
小児がん 24:354-357:1988
木村 敬文ほか
小児科臨床42:115-120:1989
河村 英治ほか
大阪労災病院医学雑誌 7:66-77:1983
6.本剤の安全性に関する評価
本剤を併用療法で使用する場合には骨髄抑制やその他の副作用が増強される可能性があるが,G-CSF製剤投与や輸血などの支持療法を積極的に行うことで対処が可能である。また、本剤に特徴的である心毒性も5-10%程度の患者に出現しているが、1患者に対する総投与量を最大500mg/m2に限定することにより、ある程度回避しうるものと期待できる。ただし、この心毒性は若年患者にはより高頻度に出現するというデータがある(Cortes EP, et al. Cancer Chemother Rep 1975;6:215-25, Pratt CB, et al. Cancer Treat Rep 1978;62:1381-5)ため、特に乳児患者においては総投与量をさらに減じて考慮するべきであると考えられる。また、胸部や腹部に放射線治療を受けた患者も心毒性のリスクが高いため、同様の考慮が必要である。
小児悪性腫瘍の化学療法においては、長期無病生存を期待しうる高い有効性を期待できるが故に、成人の化学療法に比較してより強力に行われる傾向にある。このため、予想しうる副作用に十分に支持療法を行ったとしても、重篤な出血や敗血症をはじめとした重症感染症などを合併する危険が回避出来ない場合があり、合併症死に至る症例が少数ながら存在する。よって、本剤を用いた併用療法を行う場合においては小児悪性腫瘍に対するがん化学療法を熟知している専門的な小児腫瘍専門医師が使用する、もしくは専門医師の監督下において使用されるべきである。ただし,本報告書作成時点で本剤添付文書にはG-CSF製剤を用いた支持療法に関する項以外は同様の記載が既になされているため、今回の使用にあたって特段の注意を払うべき新しい安全性情報があるわけではない。
7.本剤の投与量の妥当性について
ユーイング肉腫ファミリー腫瘍、横紋筋肉腫,神経芽腫,網膜芽腫,肝芽腫その他肝原発悪性腫瘍,腎芽腫その他腎原発悪性腫瘍などの小児悪性固形腫瘍に対する本剤の有効性及び安全性について、これまでに公表された臨床試験結果を考察し、さらに海外の教科書ならびに信頼できる海外の学術雑誌に掲載された総説および治療ないし診療ガイドラインに基づき、本剤を含む併用化学療法全般から本剤の有用性を評価し、本剤の効能又は効果として前記疾患を追加することは妥当であると考えられる。ならびに、使用において、標準的と考えられる併用療法を組み合わせた用法及び用量で使用することはこれらの併用療法での有効性及び安全性から妥当と考えるが、当該効能について現時点で未承認のものを含むものであり、これらについては現時点では参考的に示すものであり、未承認薬剤に対する承認に関するエビデンスの収集は引き続き行うべきものである。
一部、絶対症例数の少ない網膜芽腫や肝芽腫に関しては、本剤を含む併用化学療法が標準治療であると科学的に証明できるだけの臨床試験が行われていたとは言いきれないものの、そのような疾患においても組織型や進行度によっては十分な利益をもたらすことは客観的なデータとして十分に示されていると判断される。
ドキソルビシンの投与量の設定においては、各疾患に対する臨床試験の代表的なレジメンから、頻用される用法・用量を比較・検討し、用量および用法の幅を設定した。少なくともドキソルビシンに関して、この用法・用量を逸脱して投与することは、有効性または安全性に関して問題を生じるものであると判断される。また、患者年齢、患者の状態、併用薬剤によって、小児がんの専門医師の判断により、適切な用量変更が必要である。
用法・用量の上では、現状では認められていない24時間の持続点滴静注を導入する必要があるが、これは同用量であれば、現状の静注および短時間の点滴静注よりも心毒性の発生率を低く抑える事ができると考えられるため、科学的に妥当な用法拡大であると考えられる(Legha SS, et al. Ann Intern Med 1982;96:133-139, Lum BL, et al. Drug Intell Clin Pharm 1985;19:259-264)。
強力な併用化学療法による重症有害事象および治療関連合併症死のある頻度での発生が懸念されるが、致死的疾患である小児悪性固形腫瘍患者の大部分が、長期無病生存を含めた恩恵に既に浴している背景を考慮すると、小児悪性固形腫瘍に対する本剤の使用とその投与量の設定において、適応拡大を行う事は妥当と判断した.
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