根治・予防・共生
〜患者・社会と協働するがん研究〜
がん研究10か年戦略
文部科学省/厚生労働省/経済産業省
新たながん研究戦略1000200300
1947 1950 1960 1970 1980 1990 2000 2012年心疾患
肺炎
脳血管疾患
結核
人口 10 万対
がん
図1:主要死因別粗死亡率の推移
(1947 〜 2012)
2014年度から 新たな
「 がん研究10か年戦略」
(文部科学省、
厚生労働省、
経済産業省)
❶ ヒトがん遺伝子に関する研究
❷ ウイルスによるヒト発がんの研究
❸ 発がん促進とのその抑制に関する研究
❹ 新しい早期診断技術の開発に関する研究
❺ 新しい理論による治療法の開発に関する研究
❻ 免疫の制御機構および制御物質に関する研究
❶ 発がんの分子機構に関する研究
❷ 転移・浸潤およびがん細胞の特性に関する研究
❸ がん体質と免疫に関する研究
❹ がん予防に関する研究
❺ 新しい診断技術の開発に関する研究
❻ 新しい治療法の開発に関する研究
❼ がん患者さんのQOLに関する研究
戦略目標 がんの罹患率と死亡率の激減
❶ がんの本態解明
❷ 基礎研究の成果の予防・診断・治療への応用
❸ 革新的ながん予防・診断・治療法の開発
❹ がん予防の推進による生涯がん罹患率の低減
❺ がん医療の均てん化
対がん10ヵ年総合戦略
(厚生省)
がん克服新10か年戦略
(厚生省、
文部省、
科学技術庁)
第3次対がん10か年総合戦略
(厚生労働省、
文部科学省)
がんの
本態解明から
克服へ
がんの
本態解明を図る
がんの罹患率と
死亡率の激減を
めざして
図2:政府におけるがん対策の主なあゆみ
年次 がんの状況など がん研究関係 備考
●くろまる 1962.1 国立がんセンター 設置
●くろまる 1981 がんが死亡原因の第1位となる
●くろまる 1983.2 胃がん・子宮がん検診の開始
●くろまる 1984.4
●くろまる 1987 肺がん・乳がん検診を追加
●くろまる 1992 大腸がん検診を追加
●くろまる 1994.4
●くろまる 1998.4 がん検診などに係る経費の一般財源化
●くろまる 2001.8 地域がん診療拠点病院整備指針 策定
●くろまる 2004.4
●くろまる 2006.6 がん対策基本法 成立
●くろまる 2007.4 がん対策基本法 施行
●くろまる 2007.6 がん対策推進基本計画 策定
●くろまる 2012.6 第2期がん対策推進基本計画 策定
資料:人口動態統計
過去30 年以上にわたって、日本人の死因の第 1位はがんです。医療や保健
衛生の進歩で日本は世界第2位の長寿国となりましたが、
高齢化の進展に伴い、
がんで亡くなる方はどんどん増えています
( 図1)。がんと闘い、
がんとともに生きる患者さんとその家族の共通の思いはがんの
根治です。
加えて、
がんやがん診療に伴う身体的・精神的苦痛の軽減であり、
充実したサバイバーシップを実現する社会の構築による様々な苦労や苦痛の
軽減です。
また、
がんを予防することができれば、
それが最も望ましいことは
言うまでもありません。
こうした思いを実現するためには、
がん克服をめざし
た多様で幅広い研究を総合的に行うことが必要です。
わが国の政府によるがん対策は、がん研究をその基本に据え、
10年単位で
戦略的に進められてきました
( 図 2)
。これまでのがん研究の成果による診
断・治療法などの進歩とその普及によって、がん患者さんの5年生存率も改
善が進み
( 図 3)、現在ではがん全体で約 6割の方が完治できると考えられる
ようになってきています。
このように
「治るがん」
は増えているのですが、
世界が経験したことのない速さで
進む人口の高齢化によって、
わが国でがんに罹る方やがんで亡くなる方は、
今後も
増え続けるという予測があります。
また、多くのがんについては、依然としてその
本態が解明されていないという状況もあります。
特に難治性のがんや小児がんを
含めた希少がんについては、
有効な診断・治療法の開発を急ぐことが必要です。
そして何よりも、
がんの診断・治療後の多くの方とその家族が、
がんとともに充実
した生活を過ごすことのできる社会を作り上げることが強く求められています。
2006 年には、がん対策が法律になりました。
「がん対策基本法 」
に基づいて作ら
れた
「がん対策推進基本計画」
の全体目標は以下の3つです。
これらの目標を達成するため、
文部科学大臣・厚生労働大臣・経済産業大臣は一致
協力し、
「がん対策推進基本計画」
に基づいて、
2014年度から全力で新たな
「がん
研究戦略」
に取り組むことを確認しました。
この研究戦略で取り上げられた8つの分
野とその内容をご紹介します。
【宮城・山形・新潟・福井・大阪・長崎の6府県】
(2003-5年は滋賀を加えた7府県)
1997-1999 2000-2002
診断年
2003-2005
1993-19965年相対生存率(%)乳房
結腸
直腸 胃
子宮頸部
子宮
子宮体部
全部位
卵巣肺肝臓
女 1993年〜2005年604020080100
【宮城・山形・新潟・福井・大阪・長崎の6府県】
(2003-5年は滋賀を加えた7府県)
結腸
前立腺
直腸
肝臓肺全部位胃1997-1999 2000-2002 2003-2005
1993-19965年相対生存率(%)604020080100診断年
男 1993年〜2005年
図3:5年相対生存率の推移
(主要部位)
がんによる死亡者の減少
(75歳未満の年齢調整死亡率の20%減少)
全てのがん患者さんとその家族の苦痛の軽減と療養生活の質の維持向上
がんになっても安心して暮らせる社会の構築
言葉の説明
●くろまる ●くろまる ●くろまる
5年生存率
(ごねんせいぞんりつ)
がんと診断された人のうち、
5 年後に生
存している人の割合です。
資料:独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センター1全ての疾患対策は、病気の原因と病気が発生・進展していくメカニズムの解明、
すなわち本態解明から始まります。
そのためにはがんの特性と、
個人の特性の両
方を調べる必要があります。がんの本態を深く理解して初めて、がんの発生・進
展を強力に制御できる予防法や治療法の開発が可能となります。
具体的研究事項の例
●くろまる がんを引き起こす様々な原因を究きとめる研究
●くろまる 転移、
再発、
治療が効かなくなるなどの、
がん細胞・がん組織の特性を明
らかにする研究
●くろまる iPS 細胞などの幹細胞をはじめとする先端的な生命科学との異分野融合
によりがんの本態を解明する研究
●くろまる がん予防法や治療法の画期的な進歩につながる、
分子レベルの研究
言葉の説明
●くろまる ●くろまる ●くろまる
iPS細胞などの幹細胞
(あいぴーえすさいぼうなどのかんさいぼう)
白血球や皮膚、大腸粘膜など、専門の
役割を持つ細胞は、寿命が来ると新し
い細胞に置き換わります。
このように絶
えず入れ替わり続ける細胞を補充する
ための大元になる細胞が幹細胞です。
iPS 細胞は京都大学の山中伸弥教授が
初めて作ることに成功した、
色々な臓器
になる人工幹細胞で、ノーベル賞を受
賞しました。
がんの本態解明に新たな光をあてる
幹細胞の生物学、病理学、
ゲノム科学を統合したがん組織の解析
がんの本態解明に関する研究1免疫細胞
線維芽細胞
血管の細胞
血球細胞
がん細胞
がんの腫瘤の中でがん細胞は、がん細胞以外の他の多くの細胞とダイナミックに相互に関係しながら小さな
社会を作っています。
これを腫瘍の微小環境と言います。
白血病の細胞も、
骨髄では同様の微小環境に囲まれて
存在しています。
*がん幹細胞:一人の患者さんの体の中のがん細胞も、
実は1種類の細胞ではなく、
複数の種類のがん細胞の集まりであるこ
とがわかってきました。
その中で、
がん細胞全体の大元になる細胞が
「がん幹細胞 」
です。
がんの根治を達成し、
再発や転移
を防ぐためには、
このがん幹細胞を見つけて、
根絶させる必要があると考えられています。
がん幹細胞 *
図提供:国立がん研究センター研究所分子細胞治療研究分野2基礎研究 非臨床試験 臨床試験
承認申請と
審査
薬価収載と
発売
●くろまる 切れ目のない開発を、
日本主導で ●くろまる
アンメットメディカルニーズとドラッグラグの克服は共通点が多い
言葉の説明
●くろまる ●くろまる ●くろまる
アンメットメディカルニーズ
未だ満たされていない医療ニーズで、特にある病気について、有効な治療法が
ない状態を指します。
●くろまる ●くろまる ●くろまる
免疫療法および遺伝子治療
(めんえきりょうほうおよびいでんしちりょう)
がんの治療は手術療法、放射線療法、
化学療法
( 抗がん剤)
が三大治療です
が、
その他に、
がん免疫を強化してがん
細胞を攻撃する免疫療法、抗がん剤の
かわりに遺伝子を用いる遺伝子治療な
どの開発が進められています。
●くろまる ●くろまる ●くろまる
難治性がん
(なんちせいがん)
P.6の
「ライフステージやがんの特性に着
目した重点研究領域」
を参照ください。
●くろまる ●くろまる ●くろまる
希少がん
(きしょうがん)
P.6の
「ライフステージやがんの特性に
着目した重点研究領域」
を参照ください。
●くろまる ●くろまる ●くろまる
国内適応外薬や未承認薬
(こくないてきおうがいやくやみしょうにんやく)
一般診療の中で用いることができる薬
は、法律に基づいてあらかじめ承認さ
れている必要があります。
その際、
どの
疾患に使って良いかの
「 適応症 」
が定め
られます。国内適応外薬は、日本と海
外を比較したとき、日本では一部の疾
患にのみ承認されている薬です。国内
未承認薬は、欧米では使用が認められ
ていますが、国内では承認されていな
い薬です。
海外ではすでに使われている抗がん剤などが、日本ではまだ一般診療に使えな
い状態をドラッグ・ラグと言います。その解消へ向けた研究や日本発の診断薬・
治療薬の研究開発によって、
いち早く患者さんに提供することが必要です。
また、
免疫療法および遺伝子治療をはじめとする新しい治療開発も強力に推進します。
具体的研究事項の例
●くろまる 有効で安全な新しい薬や治療法を開発し、患者さんに参加していただく
臨床試験に橋渡しするための研究
●くろまる 難治性がん、
希少がんなどを中心とした、
国内適応外薬や未承認薬の実
用化をめざした臨床試験
●くろまる 免疫療法、
遺伝子治療をはじめとする新しい治療法の臨床研究
アンメットメディカルニーズ克服は、開発各段階の充実と
切れ目のない開発体制構築で
2 アンメット
メディ
カルニーズに応える
新規薬剤開発に関する研究3ミセル製剤
抗体 ●くろまる
抗体付加
ミセル製剤
がん特異抗原 ●くろまる
がん細胞
●くろまる 抗原への
結合
細胞内 ●くろまる
取り込み
細胞内で ●くろまる
効率のよい
薬剤の放出❶❷❸❸
陽子線治療前のPET画像
黒いかたまりのような影が、
肺にできた
腫瘍にPET診断用の薬剤が集まって
いる像
CTで足の方向から見た患部と
陽子線治療の治療範囲
(赤い部分)
CTで正面から見た患部
上が息を吐いた時の腫瘍の位置に照
射している像、
下は息を吸った時には
照射されていない像
陽子線治療後のPET画像
腫瘍へのPET診断用薬剤の集まりが
なくなっている、
つまり細胞が死んで
いるのがわかる
患者さんに優しい医療技術として、
治癒可能な早期の段階でがんを発見するため
の技術や、
身体に負担の少ない治療技術、
治療の効果を高め、
かつ副作用を抑え
るドラッグデリバリー技術などの研究開発を進めます。
具体的研究事項の例
●くろまる 早期発見が困難ながんや、
転移・再発の早期診断の開発研究、
画像診断技
術とバイオマーカーの組み合わせによる分子イメージングの開発研究
●くろまる 粒子線治療、
次世代のX線治療など、
革新的な放射線治療技術の研究
●くろまる 機能補完など再生医療を活用した、
根治をめざす治療法の研究
●くろまる 薬物の投与方法や形態を工夫することにより、体内に拡がったがん細胞
にも高効率に薬を到達させるドラッグデリバリー技術の開発研究
言葉の説明
●くろまる ●くろまる ●くろまる
ドラッグデリバリー技術
(どらっぐでりばりーぎじゅつ)
下の
「次世代 DDS 製剤の開発」
を参照
ください。
●くろまる ●くろまる ●くろまる
バイオマーカー
血液や尿などの体液、あるいはがん組
織などに存在する分子で、病気なのか
正常なのか、あるいは病気の性質や程
度を反映するものを言います。
腫瘍マー
カーもバイオマーカーの一種です。
●くろまる ●くろまる ●くろまる
粒子線治療
(りゅうしせんちりょう)
放射線治療で有名なのは、
X 線やガン
マ線ですが、これらは電磁波の仲間で
す。
それに対し、
粒子である原子核を高
速に加速して体の外からがん細胞にぶ
つけて治療するのが粒子線治療です。
●くろまる ●くろまる ●くろまる
次世代のX線治療
(じせだいのえっくすせんちりょう)
X 線を使う放射線治療の分野でも、CT画像を用いて腫瘍の3 次元的な形に合
わせて多方向から強さの違う放射線を
照射して放射線を集中する方法や腫瘍
の動きをとらえて治療する新しい技術な
どの開発が進んでいます。
PET*はがん細胞の代謝活動をとらえる分子イメージング技術の一つです。
肺がんのような呼吸に伴って位置が
変わる腫瘍では、
CT 画像を利用し呼吸に合わせて照射する技術と陽子線治療を組み合わせることで、
正常な肺
へのダメージを抑えて腫瘍を消失させることが出来るようになってきています。
*PET:
「 陽電子放出断層撮影」
の略。
半減期の短い放射能を持つ薬剤を体内に注射して、
放出される放射線を特殊なカメラで
とらえて画像化します。
用いる薬剤の分子の性質により、
がんなどの病変部位に集積する様子がわかる、
分子イメージングの
一種です。
患者に優しい新規医療技術開発に
関する研究
分子イメージング技術と組み合わせた陽子線治療
次世代 DDS 製剤の開発3DDS
( Drug Delivery System/ドラッグデリバリーシステム)
は、
薬を特殊な粒子に詰め
込むことにより、
がんなどの体内の病変部分に、
薬を効率よく集中的に送り込み、
治療
効果を高め、
副作用も軽減します。
DDSを生み出すものは日本が世界をリードしている
ナノテクノロジー
( 超微細技術 )
です。
今後、
様々な DDS系の抗がん剤が開発されてい
くと期待されています。
DDSはすでに臨床第III相試験が行われていますが、図はミセ
ル体を用いた、
次世代の DDS 製剤を示しています。
❶ がん細胞だけを見つけて結合する抗体を、
薬が詰め込まれた超微小な
ナノ粒子カプセルに付ける
❷ 抗体結合ナノ粒子カプセルは、
正常な血管より透過性が高くなっているがんの
血管から、
選択的に漏れ出る
❸ がん組織内に漏れ出たナノ粒子カプセルは、
その表面の抗体ががん細胞に
結合することにより、
カプセルごとがん細胞内に取り込まれる。
ついでカプセルから抗がん剤が放出され、
結果としてがん細胞だけが死滅する4第III相試験
3〜4つに1つ
第II相試験
第I相試験
●くろまる 総合評価による
決勝戦
●くろまる 200〜3,000人
新しい標準薬・標準治療
標準薬・
標準治療
●くろまる 有効性でスクリーニング
●くろまる がん種別の展開
●くろまる 40〜100人
●くろまる 毒性で足切り
●くろまる 第II相試験での推奨用量決定
●くろまる 15〜30人の患者さんの参加4半数弱が
開発中止
3〜4つに1つ
早期胃がん・大腸がん
乳がん・胃がん・
大腸がん・食道がん
早期
頭頚部がん
食道がん
小児白血病・リンパ腫
食道がん
乳がん
外科的切除
(手術) 術後補助照射
放射線治療
化学放射線療法
術前化学
放射線療法
術前補助化学療法
術後補助化学療法
薬物治療
(化学療法・遺伝子治療)
手術療法、放射線療法、抗がん剤治療などを組み合わせて最大の治療効果を発
揮させる
「 集学的治療 」
を中心に、
現時点で最も推奨される
「 標準治療 」
を、
きち
んとした組織のもとで多くの病院が共同で行う臨床試験を通して開発していきま
す。その際、アジアを中心とした国際共同研究も積極的に進めるとともに、治療
法のみならず、
QOL 向上をめざした支持療法の臨床開発も行います。
具体的研究事項の例
●くろまる 個人や集団に、
より最適化された標準治療開発のための多施設共同臨床研究
●くろまる がん患者さんに対する苦痛の緩和、
栄養療法、
リハビリ療法などの支持療
法の開発とその効果判定手法開発に関する研究
図のようにがん治療では、
治療効果と安全性を
最大限にするために、
がんの種類やその進行状
態に合わせて手術療法や放射線療法、
抗がん剤
治療などを組み合わせながら進めます。このよ
うな治療を集学的治療と呼び、
臨床試験を通し
て開発します。
言葉の説明
●くろまる ●くろまる ●くろまる
QOL向上をめざした支持療法
(きゅー・おー・えるこうじょうをめざしたしじり
ょうほう)
痛みをやわらげる、栄養状態を改善す
る、
リハビリテーションを行うなどによ
り、
がん患者さんのQOL
(Quality of Life=
クオリティー・オブ・ライフ、
生活の質)
を高め、
がん治療を支援する様々な治療
を含みます。
がんの集学的治療
臨床試験はスクリーニング
新たな標準治療を創るための研究48つの研究分野の紹介5ライフステージを踏まえたがん研究の推進
基礎-臨床
公衆衛生-政策
情報
予防
診断
治療QOL❶ 小児がんに関する研究
乳幼児から思春期、若年成人まで幅広い年齢に発症し、希少で多種多様な
がん種からなるといった多様性に着目した治療開発研究とともに、
未承認薬
や適応外薬の早期実用化をめざした臨床研究を強化します。 ●くろまる
❷ 高齢者のがんに関する研究
自律機能が低下している、
他の疾患も複数かかえている、
老化の個人差も大
きいなどの高齢者の特性や、高齢者のがんの特徴を踏まえた予防・診断・
治療法の開発を推進します。また、高齢者に最適な治療法や QOLの維持向
上をめざした支持療法開発のための臨床試験の推進も行います。 ●くろまる
❸ 難治性がんに関する研究
難治性がんとは、
膵がんをはじめとして、
現在の診断・治療法では治療が難
しいとされるがんです。適応外薬や未承認薬のドラッグ・ラグの解消をめざ
した研究の推進とともに、日本発の治療法の開発をめざした研究を強力に
推進します。また、早期発見が困難であることから
「 難治性 」
となっている
がんに対する革新的診断技術の開発や、転移・再発したがんを克服する
ための第一歩として、
浸潤・転移を解明する研究をさらに推進します。 ●くろまる
❹ 希少がんなどに関する研究
これまでのがん研究は、
いわゆる5大がんが中心でしたが、
今後は民間企業
による研究開発が進みにくい希少がん
( 肉腫、
悪性脳腫瘍、
口腔がん、
成人
T細胞白血病など。
「 希少」
の目安の一例は、
毎年の病気の発生率が人口10
万人あたり6人未満)
や、日本をはじめとするアジアに多いがんに対しても、
適応外薬や未承認薬の開発ラグの解消をめざした研究を含む治療開発に積
極的に取り組む必要があります。こうした希少がん研究から得られる知見
は、
他の多くのがん種に対しても役立つことが少なくありません。 ●くろまる
ライフステージやがんの特性に
着目した重点研究領域
言葉の説明
●くろまる ●くろまる ●くろまる
5大がん
(ごだいがん)
我が国で多い、主要ながんで、
「がん対策推
進基本計画 」
では肺がん・胃がん・肝がん・
大腸がん・乳がんとしています。
●くろまる 未承認薬や適応外薬を対象とした小児がん
治療薬の実用化をめざした臨床研究
●くろまる 難治性小児がんなどに対する治癒率の向上
をめざした新規治療開発研究
●くろまる 小児がん治療の長期的な安全性、
QOL向上
をめざした研究
●くろまる AYA
(Adolescent and Young Adult)
世代のがん
の実態解明と治療開発のための研究
●くろまる 高齢者のがんの特性を解明するための研究
●くろまる 高齢者に最適かつ安全な標準治療開発の
ための臨床研究。
高齢者のQOLを維持する
ための支持療法の開発を含む。
●くろまる 高齢者の機能補完など、
再生医療を組み込
んだ研究
●くろまる 難治性がんに対する、適応外薬や未承認
薬の実用化をめざした臨床試験
●くろまる 効果的な治療法が開発されていない難治
性がんに対する新規治療開発研究
●くろまる 現在早期発見が困難ながんの早期発見を
めざした革新的なバイオマーカーや高度画
像診断など、
がんの存在診断の開発研究
●くろまる 転移・再発といったがんの特性に着目した
新規治療法の開発研究
●くろまる 適応外薬や未承認薬の実用化研究を含む、
民間主導の研究開発が進みにくい希少がん
に対する新規治療開発研究
●くろまる 日本をはじめとするアジアに特徴的ながん
などに対する新規治療開発研究
●くろまる 希少がんに関するヒトがん動物モデルの開
発と、
それを用いた研究
具体的研究事項の例
ライフステージを踏まえたがん研究の推進56
がんの予防と早期発見手法に関する研究
一人ひとりに合わせた
( 個別化された)、より効率的な予防・早期発見の実現
日本人のためのがん予防・
がん検診
−2014年現在、
広く国民に推奨される、
科学的根拠に基づいたがんの予防・検診法−
今後はさらに一人ひとりに
最適化された予防・検診法の
開発をめざします。
簡単で幅広く実施できる新しい予防法や早期発見法の開発とともに、
未知の発がん
要因の探索も必要です。
また、
遺伝素因など生まれ持っての体質からのリスクや、生活習慣、
感染、
環境要因などの変えていくことができるリスクなど、
発がんリスクに
ついての評価を個人毎に的確に行い、
個人に最適化されたリスク低減手法の提供を
めざします。
そのためには薬の臨床試験のように、
新しい予防法の有効性や安全性
を実際に人の集団で検証する研究も必要です。
具体的研究事項の例
●くろまる 遺伝情報や感染・他の疾患の有無、
喫煙・食生活・運動などの生活習慣、
職住環境などによる個人の発がんリスクの同定と評価をめざした研究
●くろまる 個人の発がんリスクに応じたリスク低減手法の開発研究
●くろまる がん検診に活用できる診断技術の開発研究
●くろまる がんの予防法や新たな検診手法の実用化をめざし、
多くの人に参加して
いただく研究
がんの予防法や早期発見手法に
関する研究
●くろまる 固定リスク
(遺伝素因など)
●くろまる 変動リスク
(生活習慣・生活環境、
感染など) 対象者
(ハイリスク群)
選択
●くろまる 生活習慣・生活環境
●くろまる 感染制御
●くろまる 化学予防など
がんにならない
個別化予防
がんによる寿命前の死や
QOLの低下を防ぐ
1次予防
●くろまる 内視鏡・画像診断
●くろまる 検査
(血液など)
●くろまる 病理診断
確定診断
(治療必要性判断を含む)
●くろまる 検査
(血液、
尿、
便など)
●くろまる 内視鏡・画像診断
スクリーニング
(検診)
2次予防
●くろまる
バイオ
マーカー
(血液など)
内視鏡・
画像診断
早期治療
●くろまる 胃内視鏡画像
健常な胃 慢性胃炎68つの研究分野の紹介
喫煙
たばこは吸わない。
他人のたばこの
煙をできるだけ避ける
飲酒 飲むなら、
節度のある飲酒をする
食事
食事は偏らずバランスよくとる
●くろまる 塩蔵食品、
食塩の摂取は最小限に する
●くろまる 野菜や果物不足にならない
●くろまる 飲食物を熱い状態でとらない
身体
活動
日常生活を活動的に
体形 適正な範囲に
感染 肝炎ウイルス感染検査と適切な措置を
がん検診の
種類
検診内容
【対象者/受診間隔】
胃がん
問診および胃X 線検査
【40歳以上/年1回】
子宮がん
問診、
視診、
子宮頸部の
細胞診および内診
【20歳以上/ 2年に1回】
肺がん
問診、
胸部 X 線検査および
喀痰細胞診
(喫煙者のみ)
【40歳以上/年1回】
乳がん
問診、
視診、
触診および乳房
X 線検査
(マンモグラフィー)
【40歳以上/ 2年に1回】
大腸がん
問診および便潜血検査
【40歳以上/年1回】7言葉の説明
●くろまる ●くろまる ●くろまる
緩和ケア
(かんわけあ)
患者さんとその家族に対して、がんに
伴う体と心の痛みやつらさを予防した
り、
和らげたりすることで、QOL(クオリ
ティー・オブ・ライフ、生活の質 )
を改
善するアプローチのことです。
充実したサバイバーシップを
実現する社会の構築をめざした研究
充実したサバイバーシップを実現する社会の姿
サバイバーシップとは
「 診断・治療後を生きている状態、
あるいは生きていくプロ
セス全体を指す」
と定義されます。
がん患者さんをはじめ、
家族、
一般市民全体を
対象とし、
精神心理的不調を含めた様々な問題と、
高齢化社会における在宅医療
や緩和ケアなどの医療提供体制を含めた社会的要因に着目し、
その是正をめざし
た研究やがん患者さんの健康増進に関する研究を行います。
また、
国民にがんに
ついての正しい知識を発信するために、
がん教育のあり方に関する研究やがんに
関する国民への情報提供と相談支援のあり方に関する研究も推進します。
具体的研究事項の例
●くろまる がん患者さんとその家族の健康維持増進と精神心理的、
社会的問題に関する研究
●くろまる 緩和ケアや在宅医療、
標準治療の普及、
がん医療提供体制のあり方に関する研究
●くろまる 国民に対するがん教育を含めたがんに関する情報提供と相談支援に関する研究7医療機関での診断
がんと診断されて
落ち込む
がんについての
情報を集める
外来化学療法
(再発予防、
合併症の予防)
家族の支えと
社会の支援 仕事に復帰する
(会社)
仕事に復帰する
(畑仕事)
がん体験者として
他の患者さんを支援する
在宅医療
緩和ケア
子どもと遊ぶ
「がん患者さんと家族の心と生活」
を支える
がん体験者、
医療関係者、
NPOを含めた社会に暮らす人々
全てが支援者であり、
当事者
「がんを知る」
を支える
疫学、
予防、
診断、
対処法の正しい情報提供と相談支援
「必要な時に、
必要な医療を利用できる」
を支える
医療資源の適正配置
入院治療8がんの実態はどうか
罹患率
がんの実態を把握するためのサーベイランスシステム
(がん登録・記述疫学)
・指標開発
がんの基礎研究
疫学研究・
効果予測
検診法開発・
評価研究
診断法開発・
評価研究
診療ガイドライン
予防・検診ガイドライン
予防
生活習慣・
モニタリング
受診率・
精度管理
診療実態把握
罹患率
がんサーベイランスシステム
(がん登録・記述疫学)
死亡率 生存率 QOL
早期発見 診断 治療
治療法開発・
臨床試験
QOL向上方法
開発・評価
QOL向上
情報提供・
政策立案
死亡率 生存率 QOL
開発・評価
何が有効な
方法か
普及・実践
どうすればうまく
実施できるか
正しく実施
されているか
目的は
達成されたかPlanDo
Check
Act 評価を踏まえてさらなる対策を練る
研究成果を確実に患者さん・国民や社会に還元するためには、
科学的根拠に基づ
いた施策を立案し、
効果的に実践していく必要があります。
まず、
実態を把握するた
めのデータを収集し、
そのデータに基づいて、
新たな施策について、
適切な目標を
設定し、
実現可能性、
経済性、
効果の評価方法など総合的に検討し、
有効と判断し
たものを実行します。
しかし、
施策は実施されて終わるものではありません。
その施
策が計画通り実施されているか、
成果はどうかなどについて、
しっかりと計測し、施策の評価を行うことが大切です。
さらに、
うまくいかなかった場合には、
その問題
点を洗い出し、
施策自体や実施方法を改善する
「PDCA
(Plan-Do-Check-Act)
サイク
ル」
を回していくことが必要となります。
このような分野もがん対策を効果的かつ確
実に進めるための基本となる重要な研究です。
具体的研究事項の例
●くろまる 予防・早期発見・診断・治療に関するエビデンス-プラクティスギャップを
解消するための研究
●くろまる 医薬品・医療機器開発のためのレギュラトリーサイエンス研究
●くろまる がん対策の経済評価研究
●くろまる 小児がんや遺伝性腫瘍など、
個々の疾患に着目した情報集積や、
がん登録を
基盤とした、
診療情報の集積と大規模データ解析を進めるための研究
●くろまる がん対策の推進におけるPDCAサイクルの構築に関する研究
言葉の説明
●くろまる ●くろまる ●くろまる
エビデンス-プラクティスギャップ
科学的根拠
(エビデンス)
のある治療法
や疾患の予防法があるのに、
それが実践
(プラクティス)
されていない状態を指し
ます。
たとえば、
がん予防のための禁煙や、
便潜血検査による大腸がん検診が有効
であるというエビデンスが十分あるにも
かかわらず、
必ずしも国民の予防・検診行
動に結びついていないといったことです。
●くろまる ●くろまる ●くろまる
レギュラトリーサイエンス
第4次科学技術基本計画では
「科学技
術の成果を人と社会に役立てることを目
的に、
根拠に基づく的確な予測、
評価、
判断を行い、
科学技術の成果を人と社会
との調和の上で最も望ましい姿に調整す
るための科学」
と定義しています。
ここで
は主として、
新しい医薬品・医療機器の
有効性と安全性を評価するための科学、
それらを社会に導入する際に適切な判
断を下すための科学を指します。
がん対策の効果的な推進と
評価に関する研究
がん研究・がん対策の新たな課題を抽出するPDCAサイクル88つの研究分野の紹介9本冊子は、
文部科学大臣・厚生労働大臣・経済産業大臣による
「がん研究 10 か年戦略」
(2014 年 3 月)
に基づき、
平成 26 年度厚生労働科学研究費補助金
「第 3 次対がん総合戦略全体の報告と評価に関する研究」
班が作成しました。
これらの8つの研究をしっかりと続け、
発展させるためには何よりも人が大切です。
様々な分野の、
柔軟な発想を持った若者たちをがん研究に取り込むように、
一貫した戦略的な研究者育成と、
安定した支援システムを作ることをめざします。
その際、
女性研究者の参加を促すとともに、
国際的な視野・舞台で活躍できる人材を
たくさん育てることが特に求められており、
若手研究者の国際交流を強力に支援していきます。
研究者をはじめとする、
がん研究・がん対策を支える人材の育成には、
バイオベンチャーを含む企業の皆さんを巻き込むことで、
幅広い議論を行っていきます。
新たながん研究戦略を
支えるために