厚 生 労 働 省 発 表
平成20年5月20日
担
当
株式会社ニッセイ基礎研究所
主任研究員 松 浦 民 恵
研 究 員 村 松 容 子
電話 03-3512-1798
担
当
雇用均等・児童家庭局職業家庭両立課
課 長 定 塚 由美子
育児・介護休業推進室長
阿 部 充
課長補佐 堀 泰 雄 電
話 03-5253-1111(内線)7856
03-3595-3274 (ダイヤルイン)
今後の仕事と家庭の両立支援に関する調査結果
人口減少社会が到来する中で、男女ともに労働者が仕事と家庭を両立し、安心して働き続けることができる環境を整備することは、ますます重要な政策課題となっている。
このような中で、今後の仕事と家庭の両立を容易にするための更なる方策等の検討に役立てることを目的として、厚生労働省は、企業および従業員を対象とした「今後の仕事と家庭の両立支援に関する調査」を(株)ニッセイ基礎研究所に委託して実施し、このほど、結果の概要をとりまとめた。
(備考)本調査の実施・分析は(株)ニッセイ基礎研究所への委託による。また、調査の設計・分析にあたっては「今後の仕事と家庭の両立支援に関する研究会(座長:佐藤博樹東京大学社会科学研究所教授)」から助言を得た。
今後の仕事と家庭の両立支援に関する調査の概要
(1)調査の対象
[1]企業調査
全国の規模10人以上の企業4,000社。うち、回収・有効回答は763社(有効回答率19.1%)。なお、回収された9人以下の企業の調査票についても、有効回答として分析対象に含めている。
[2]従業員調査
企業調査の対象企業に勤務する従業員のうち、40歳以下のいわゆる正社員12,000人。うち、有効回答は1,553人(有効回答率12.9%)。なお、回収された「正社員以外(雇用期間の定めなし)」の調査票についても、有効回答として分析対象に含めている。
※(注記)分析対象の主な属性については16ページを参照されたい。
(2)調査時期
平成19年11〜12月。
(3)調査方法
郵送配付、郵送回収。従業員調査は企業経由で依頼・配布したが、調査票は直接返送してもらった。また、企業票、従業員票に対となる番号を記載し、分析の際に双方のデータをマッチングできるようにした。
調査結果のポイント
両立支援制度の導入状況
両立支援制度導入に向けた課題と示唆
両立支援制度の利用状況や利用意向
両立支援制度運用上の課題
両立支援制度の導入状況
I 法律を上回る育児休業制度導入企業は、全体では4社に1社、企業規模1000人以上では2社に1社。
育児休業制度について、[1]対象となる子の上限年齢、[2]対象となる従業員の範囲、[3]子1人について取得可能な回数、[4]休業期間中の金銭支給、のいずれかについて法律を上回る対応をしている企業は24.6%となっている。内容別にみても、法律を上回ると回答した企業の割合は全般に低く、[1]対象となる子の上限年齢(11.0%)、[4]休業期間中の金銭支給(11.7%)が1割をわずかに超える程度である。
法律を上回る育児休業制度の導入割合を企業規模別にみると、規模299人以下は2割を切っている一方で、規模1000人以上では55.2%と過半数を占めている。
図表1 : 法律を上回る育児休業制度の導入状況(企業調査)
図表2 : 法律を上回る育児休業制度の導入割合(企業調査)
注:規模別の9人以下(38社)は、サンプルが少ないので表示していない。
II 企業規模が大きいほど、女性正社員の働き方で多いパターンとして「子を出産しても継続して就業している」の割合が高い。
企業に対して、会社全体でみた場合に女性正社員の働き方としてどのようなパターンが多いかをたずねたところ、全体としては、「子を出産しても継続して就業している」が40.5%を占めているが、「妊娠・出産を契機に退職する」(18.2%)、「結婚を契機に退職する」(14.2%)も合わせると3割を超えている。
企業規模別には、規模が大きいほど「子を出産しても継続して就業している」パターンが多いとする割合が高くなっており、規模1000人以上では63.5%と過半数を占める。一方、規模30〜99人では4社に1社が「妊娠・出産を契機に退職する」、規模100〜299人では2割を超える企業が「結婚を契機に退職する」を、女性正社員の働き方で多いパターンとしてあげている。
図表3 :女性正社員の働き方で多いパターン(企業調査)
注:規模9人以下(38社)はサンプル数が少ないので表示していない。
III 短時間勤務制度の導入が進む一方で、規模間格差も顕著。
両立支援制度の導入割合をみると、「(育児のための)短時間勤務制度(規定と運用を含む)」(59.6%)、「時間外労働の制限」(48.9%)、「深夜業の免除」(45.6%)が上位3位となっている。
短時間勤務制度の導入割合を企業規模別にみると、規模1000人以上では86.5%にのぼる一方、規模10〜29人では42.3%にとどまっている。
図表4 :両立支援制度の導入割合(企業調査)
図表5 :育児のための短時間勤務制度の導入状況(企業調査)
注:規模9人以下(38社)はサンプル数が少ないので表示していない。
両立支援制度導入に向けた課題と示唆
IV 短時間勤務制度の対象者やニーズが少ないと考える未導入企業でも、当該企業の従業員は制度を利用したいと考えている。
育児のための短時間勤務制度を導入していない企業は全体の38.8%、規模10〜29人では57.3%にのぼる。未導入企業に対して導入しない理由をたずねたところ、「育児中の人等、制度の対象となる従業員が少ない」(58.8%)、「短時間勤務になじまない業務が多い」(28.4%)、「制度の対象となる従業員はいるが、短時間勤務のニーズがない」(20.9%)が上位3位となっている。しかし、「育児中の人等、制度の対象となる従業員が少ない」、「制度の対象となる従業員はいるが、短時間勤務のニーズがない」と回答した企業に勤務する従業員の4割程度は、短時間勤務制度を利用したいと考えている。
図表6 :育児のための短時間勤務制度を導入していない理由(企業調査)
注1:育児のための短時間勤務制度が「ない」企業について。
注2:複数回答。
図表7 :企業の未導入理由と従業員の利用意向(企業調査、従業員調査)
V 短時間勤務制度導入企業はさらに充実、未導入企業は現状維持〜制度の充実度合いが今後二極化していく懸念。
全企業に短時間勤務制度に関する今後の考えをたずねたところ、「現状どおりでよい」が65.9%と過半数を占める一方で、「既存の制度を充実したい」も23.1%みられる。
既存の短時間勤務制度の導入タイプ別に今後の考えをみると、「育児のみ(について短時間勤務を認めている)」、「育児と育児以外(の事由で短時間勤務を認めている)」については3割強が「既存の制度を充実したい」と考えている。一方、「いずれの短時間勤務も認めていない」、「育児以外のみ(の事由で短時間勤務を認めている)」という企業では、「現状どおりでよい」が各77.9%、76.7%と高い割合を占めている。
このように、育児のための短時間勤務制度を導入している企業ではさらに制度を充実する動きがみえる一方で、制度のない企業では現状維持という割合が高く、短時間勤務制度の充実度合いが企業によって二極化していくことが懸念される。
図表8 :短時間勤務制度に関する今後の考え(企業調査)
注:短時間勤務制度の導入タイプは、次のような考え方で類型化している。
・育児のみ:育児のための短時間勤務を制度又は運用として導入しているが、育児以外の事由(介護、子どもの看護、その他、適用事由に制限なし)では短時間勤務を認めていない。
・育児と育児以外:育児のための短時間勤務を制度又は運用として導入しており、育児以外の事由でも短時間勤務を認めている。
・育児以外のみ:育児のための短時間勤務は導入していないが、育児以外の事由で短時間勤務を認めている。
・いずれの短時間勤務も認めていない:育児のための短時間勤務も、育児以外の事由での短時間勤務も認めていない。
両立支援制度の利用状況や利用意向
VI 育児休業制度や短時間勤務制度を利用したいという男性は3割を超える。
育児休業制度を「利用したいと思う」割合は、男性が31.8%、女性が68.9%、育児のための短時間勤務制度を利用したい割合は男性が34.6%、女性が62.3%となっている。このように、男性がこれらの制度を利用したいという割合は3割を超えており、男性の実際の制度利用率の低さを考慮すると、制度を利用したいと思っているものの実際には利用していない男性が少なからずいることが推察される。
育児休業制度を利用したい理由をみると、女性は「子どもが小さいうちは、自分で育てたいから」(84.1%)が、男性は「子どもが小さいうちは、育児が大変だから」(79.1%)がトップにあげられている。短時間勤務制度については、男女とも「勤務時間が短縮できる分、子どもと一緒にいられる時間が増えるから」、「保育園、学童クラブ、両親等に預けられる時間が限られているから」が上位2位となっている。
図表9 :両立支援制度の利用意向(従業員調査)
図表10 :制度を利用したい理由(従業員調査)
注1:各制度を「利用したいと思う」と回答した従業員について。
注2:複数回答。「その他」、「わからない」、「無回答」は表示していない。
VII 子を持つ母親の望ましい働き方として、子が1歳までは育児休業の支持率が最も高く、子が小学校就学前までは短時間勤務、残業のない働き方が上位2位となっている。
従業員調査で、子を持つ母親の働き方として望ましいと思うものを、子どもの年齢ごとにたずねたところ、1歳までは「育児休業」(45.7%)が最も高く、「子育てに専念」(42.4%)が僅差でそれに続いている。
「短時間勤務」や「残業のない働き方」は、子どもの成長過程における長い期間において望ましい働き方として支持されている。中でも「短時間勤務」は3歳まで(30.7%)、小学校就学前まで(41.0%)において最も高い回答割合となっている。
図表11 :子の年齢別にみた、子を持つ母親として望ましい働き方(従業員調査)
注:図表を見やすくするために、5.0%未満はデータを表示していない。
両立支援制度運用上の課題
VIII 企業が思うほど、従業員は育児休業制度や育児のための短時間勤務制度の内容を認知していない。
企業調査では、制度利用(希望)者、管理職、それ以外の一般の従業員それぞれについて、育児休業制度の内容、休業中の労働条件(賃金、昇給・昇格、勤続年数への算入等)の認知状況をたずねている。従業員調査では、図表12【育児休業制度】のA〜Eの項目それぞれについて、自分がどの程度知っているかをたずねている。
育児休業制度が「認知されている」と回答した企業に勤務する従業員(制度利用(希望)者、管理職、一般従業員)が、実際に制度を認知しているかどうかをみるために、企業データと従業員データをマッチングしたところ、「制度の対象」、「休業期間」について「認知されている」とする企業で実際に従業員が「知っている」割合は、制度利用(希望)者と一般従業員では7割前後だが、管理職では6割弱にとどまる。「休業中の賃金、その他の経済的給付」、「休業後の昇給・昇格の取り扱い」、「休業期間の勤続年数への算入」については、制度の認知に関する企業と従業員の認識ギャップはさらに広がっている。
次に、育児のための短時間勤務制度についても、企業調査では、制度利用(希望)者、管理職、それ以外の一般の従業員それぞれについて、制度内容、制度利用中の労働条件(賃金、昇給・昇格の取扱い等)、業務内容・量や職責の認知状況をたずねている。一方、従業員調査では、図表12【育児のための短時間勤務制度】のA〜Fの項目それぞれについて、自分がどの程度知っているかをたずねている。
制度利用(希望)者、一般従業員について「制度の対象」、「勤務時間、勤務日数」、「利用できる期間」の結果をみると、「認知されている」とする企業で実際に「知っている」割合は7〜8割程度にのぼる。一方、「制度利用中の昇給・昇格の取り扱い」、「業務内容、量や職責の変更の有無」をみると、「認知されている」とする企業の従業員が「知っている」割合は、制度利用(希望)者が4割程度、一般従業員が5割程度と比較的低い。なお、管理職については、全ての項目について、短時間勤務制度が「認知されている」とする企業に勤務する者の8割程度が「知っている」と回答している。ただし、管理職についてはサンプル数が少ない(39人)ため、結果の解釈は慎重に行う必要がある。
図表12 :従業員の立場別にみた、制度内容に関する認知状況の相違(企業調査、従業員調査)
・制度利用(希望)者:制度を「現在利用している」または「利用したいと思う」と回答した従業員。
・管理職:自分の仕事内容について「管理職」と回答した従業員。
・一般従業員:上記以外の従業員。
IX 男性は企業規模にかかわらず、女性は規模が小さいほど、育児休業制度を取得しにくい。
育児休業の取得しやすさについて、女性が取得する場合は71.2%の企業が取得しやすいと回答している一方で、共働きの男性が取得する場合になると、取得しにくいとする割合が76.7%を占めている。従業員調査でも、女性の場合は取得しやすい割合が73.5%である一方、共働き男性の場合は取得しにくい割合が86.3%を占める。
企業調査、従業員調査ともに、女性が取得する場合は、企業規模が小さいほど取得しやすい割合が低下し、共働きの男性が取得する場合は、規模にかかわらず取得しやすい割合が低い。
図表13 :ケース別にみた育児休業制度の取得しやすさ(企業調査、従業員調査)
X 制度の利用しやすさに関する認識についても、企業と従業員でギャップがある。
育児休業制度を「取得しやすい」と回答した企業に勤務する従業員が、実際に「取得しやすい」と感じているかどうかをみるために、企業データと従業員データをマッチングした。その結果、女性が取得する場合については、「取得しやすい」とする企業で実際に女性従業員が「取得しやすい」と回答している割合は85.1%と高い。一方、共働きの男性が取得する場合について、「取得しやすい」としている企業に勤務する共働きの男性従業員の回答をみると、取得しやすいという割合は21.4%に過ぎず、企業と従業員の間に大きな認識のギャップがみられている。
短時間勤務制度についても同様に企業データと従業員データをマッチングしたところ、「利用しやすい」とする企業で実際に従業員が「利用しやすい」と回答している割合は59.0%と過半数にのぼるものの、両者の間に相当の認識ギャップが存在しているという見方もできる。
図表14 :ケース別にみた、育児休業制度の取得しやすさに関する認識の相違
(企業調査、従業員調査)
図表15 :育児のための短時間勤務制度の利用しやすさに関する認識の相違
(企業調査、従業員調査)
XI 短時間勤務制度を利用しにくい理由は、業務遂行への支障、制度内容等の理解不足、上司の無理解、昇給・昇格への悪影響等。
従業員調査で、「利用しにくい」と回答した従業員に対してその理由をたずねたところ、「制度を利用すると業務遂行に支障が生じる」(63.9%)、「制度の内容や手続きがよくわからない」(37.5%)、「制度利用に対して上司の理解が得られない」(31.9%)、「制度を利用すると昇給・昇格に悪影響を及ぼす懸念がある」(28.1%)が上位4位となっている。
男女別にみると、男性は「制度を利用すると業務遂行に支障が生じる」(67.5%)、「制度の内容や手続きがわからない」(45.7%)の回答割合が女性に比べて高い。
図表16 :育児のための短時間勤務制度を利用しにくい理由(従業員調査)
分析対象の主な属性
業
調
査 企業規模
業
員
調
査 性別
【男性】
【女性】
の働き方
(共働きの従業員
n=862)
注:( )内は男女別の内訳。四捨五入の関係上合計が合わない所がある。
有無