(ii) 平成11年1月ころ、相手方が強化指定選手制度を設けた際に、平成10年度強化指定選手としての決定を受けて強化指定選手となり、平成12年10月に開催されたシドニー・パラリンピック大会(以下「シドニー大会」という)の代表選手として選考され、女子200m自由形リレーの第2泳者として出場し、世界新記録で優勝し金メダルを受賞した。
(ii) 申立人は、平成12年10月24日同大会において女子200m自由形リレーに出場し金メダルを獲得した翌日の10月25日に相手方の外出許可を得て外出したが、選手村に帰るバスの中で気分が悪くなり、選手村に到着時には意識消失状態となった。救急車で選手村内の診療所に運ばれ、深夜までの治療となった。外出時には予備のステロイド薬を携帯していなかった(以下「シドニー事件」という)。
(ii) これを知ったA氏は、平成15年8月13日付で、国際パラリンピック委員会(IPC)水泳部門(Swimming)の肩書きで、申立人に対し、「あなたが私(A氏を指す。以下この引用文において同じ)の世評を傷つけるような私についての誤った引用による情報を提示していること」、「あなたは私の許可なく私の写真を使用して」いること、「その情報と写真をただちに貴ウェブサイトから削除してほしい」こと、「もし、それがなされない場合は、これらの重大な違反を申し入れるための適切な法的措置をとること」になる旨通知し(乙第10号証の2、英文とその和訳)、申立人はこれに応じて削除した。
(ii) スポーツ仲裁における仲裁判断の基準として、日本スポーツ仲裁機構の仲裁判断の先例によれば、「日本においてスポーツ競技を統括する国内スポーツ連盟-相手方もその一つである-については、その運営に一定の自律性が認められ、その限度において仲裁機関は国内スポーツ連盟の決定を尊重しなければならない。仲裁機関としては、国内スポーツ連盟の決定がその制定した規則に違反している場合、規則には違反していないが著しく合理性を欠く場合、または決定に至る手続きに瑕疵がある場合等において、それを取り消すことができるにとどまると解すべきである。」と判断されており(2003年8月4日日本スポーツ仲裁機構JSAA-AP-2003-001仲裁判断)、当仲裁パネルも基本的にこの基準が妥当であると考える。
(ii) 本決定に至る実質的な決定が平成15年3月15日の強化指定選手選考会であり、その医学的判断の基礎となったチームドクターとの検討が、その前日の3月14日であるが、他方、申立人に対しては申請書類を送らない(事実上強化指定選手の対象としない)との決定は、他の選手への申請書類送付時期である平成15年2月頃がなされていたと考えられる。この点、申立人は知人を通じて申請書類不送付の理由を質したところ、相手方Y2より、シドニー大会の際の体調不良を指摘され、医師から競技を制約されている選手には文書を送付できないとの回答を受けたと主張している(申立書9頁、21頁)。このことは当時すでに相手方は、申立人の健康問題を理由に選考の対象外とすることを事実上決めていたことがうかがわれる。しかしながら、その判断をいつ誰が行ったかについては、疑問なしとしない。
(ii) 年齢基準についても、平成13年2月改正の本規定で設けられたものであるが、その目安として40歳以上を挙げていたにもかかわらず、当時44歳であったN選手を平成14年度の強化指定選手に選出するなど、不透明な運用をしており、平成15年の本規定の改正の際に、年齢基準を本規定から削除するなど、ちぐはぐな対応をしており、申立人において自己を恣意的に排除しているのではないかと強く疑わせることとなったと思われる。この点、相手方Y2は、証言において、不選出の理由として障害者の健康問題を挙げることはデリケートな問題があるので、あえて年齢問題で説明したと証言しているが、そのような不透明な説明はかえって申立人の疑念を強くしただけであり、相手方としては、適切な医師の所見に基づき下した正当な判断であるのであれば、毅然として真実の理由を伝えるべきであったと思料する。