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VOL.202 APRIL 2025
ENJOYING JAPANESE SAKE, NIHONSHU 世界に広まる日本酒の魅力と楽しみかた


平出ひらいで 淑恵としえさん
日本酒の国際化から観光立国を目指す「株式会社コーポ さち」の代表取締役として、日本酒の海外向け販売促進事業・酒器などの伝統工芸品を紹介するためのコンサルティング、講演などを行う。1983 年に日本航空入社、国際線担当客室乗務の傍ら1992年日本ソムリエ協会認定ソムリエ、1997年シニアソムリエ資格を取得。 日本航空在職中の2006年に、社外活動として若手の蔵元の全国組織「日本酒造青年協議会」の酒サムライ事業に参画。また、世界最大規模のワインコンペティション(IWC)の日本酒部門創設に尽力。

2024年に日本の「伝統的酒造り」がユネスコの無形文化遺産に登録され、後世に残すべき文化として世界に認められました。日本酒文化を幅広く世界に普及する活動に尽力してきた平出ひらいで 淑恵としえさんに、日本酒の魅力や楽しみかたについて話を聴いた。

平出さんは日本酒を世界に周知する活動を続けていらっしゃいますが、そのような活動を始めた経緯を教えていただけますか?

私は日本の航空会社で客室乗務員として勤務しながら、日本ソムリエ協会のソムリエ資格を1992年、シニアソムリエの資格を1997年に取得しました。海外のさまざまなワイン関係者と交流を持ち、お酒に関する情報交換をしているときに、日本酒の知名度の低さを痛感するようになりました。しかし、日本酒は世界に誇れるコンテンツなのではないかという思いが強くなり、この日本を代表する醸造酒である日本酒をワインと同じように世界に通用するお酒にして、インバウンドを酒蔵のある地方への誘客につなげたいと考え、日本酒の普及活動を始めました。

その中で、世界的なワインの教育機関WSET(Wine and Spirits Education Trust)に日本酒に関する資格講座ができれば、日本酒の知名度も上がり、同時に海外における日本酒の普及啓発活動ができる人材を育成することもできるのではないかと考えました。そのうち、2003年に有志の蔵元1とのWSETのロンドン本校での日本酒セミナーを企画、実現し、その際に出会ったワイン専門家とのご縁で若手の蔵元の全国組織「日本酒造青年協議会」がパートナーとなり、2007年にはロンドンで行われる世界最大のワインのコンペティション「IWC( International Wine Challengeの通称)」2にSAKE部門をつくることができました。権威あるコンペティションにSAKE部門ができたことは、グローバルな価値を創出するきっかけになったのではないかと思います。結果的には2014年、「世界標準知識」として日本酒を学べる国際的な講座・資格として「WSET SAKE」がロンドンのWSETで開講しました。2017年からは日本でも開講されており、現在、WSETが展開する74か国中、26か国と3地域でSAKE講座が開催されています。


2024年のIWC授賞式(SAKE部門)の様子
Photo: Coop SACHI

そういった平出さんのご活躍もあって、日本酒は昨今、海外でも「SAKE」として親しまれるようになってきました。特に2010年頃から輸出量も増加しています。海外における、言わば「SAKE」ブームとなっている理由や背景についてどのようにお考えでしょうか。

近年日本酒の海外への輸出は増え続けており、全国約1,700の酒蔵が所属する日本酒造組合中央会の発表では、2022年度(1月から12月)の日本酒輸出総額は474.92億円に達し、13年連続で前年を上回る金額になりました。輸出数量も同年、35,895キロリットルと過去最高を記録しています。(出典:財務省貿易統計)。これは各蔵元の努力の賜物ではないでしょうか。海外でより受け入れてもらえるよう、酵母を増やして日本酒らしい風味はそのままに、アルコール成分を少し減らしてワインのような飲みやすさのある日本酒を醸造する蔵元も増えました。ただ、世界のワインのマーケットの中でみると、日本酒マーケットは、まだブームとは言えないほど本当に小さいです。しかし、私は今後もまだ広げていけると確信しています。


昨年、外務省職員への研修で日本酒の講座を行う様子
Photo: Coop SACHI

ワインなどほかのお酒と比べての、日本酒の特徴や魅力などをお教えいただけますでしょうか。

ワインの品質は毎年のぶどうの出来に大きく影響を受けるため、ヴィンテージワインは造られた年によって大きく価格も違ったりします。日本酒も厳密にはその年のお米のでき具合による影響はありますが、ワインに比べて年による品質の違いは少ないと思います。それは杜氏とうじ3と呼ばれる製造責任者が、日本酒のできに毎年の違いが出ないように心血を注いでいることが大きいと思います。昨年(2024年)12月にユネスコ無形文化遺産として日本酒を含む「日本の伝統的酒造り」が登録されましたが、ワインともまた違う、こうじ菌を使うこの伝統的な酒造りの価値についても、世界中の方々に広めていきたいと思います。


平出さんは日本酒をワイングラスで楽しむことを推奨している。

和食・洋食を含めた料理とのペアリングや酒器の選定など、日本酒をより深く楽しむ方法についてご紹介ください。

私は海外のかたと日本酒を飲むときには、ワイングラスを使うことを心がけています。少量を猪口ちょこ4に注いで飲む日本スタイルも良いのですが、海外のウイスキーやブランデーといった蒸留酒の飲みかたと似ているため、日本酒も蒸留酒だと誤解されてしまうのです。ワイングラスで、醸造酒ならではの香りを楽しみ、味わっていただくことをおすすめしています。

またお料理とのペアリングは、日本酒は、間違いなくほかの醸造酒よりも多くの料理に合いやすいと思います。それは原材料が米だからかもしれません。ワインに合いにくいと言われる食材に日本酒を合わせてみるとわかりやすいと思います。例えば、オムレツなどの卵料理には赤ワインなどは合わないと言われますが、日本酒にはすんなり合います。また、キャビアにはシャンパン、牡蠣にフランスの白ワイン、シャブリ5というのが食通の常識ですが、魚卵や牡蠣かきなどの貝類には、日本酒はピッタリです。スパークリングの日本酒もありますので、是非、こうしたペアリングを試していただきたいです。

また、私が講師を務めている日本の外交官の方々を対象とした海外赴任前研修での日本酒講座では、日本酒の中でも香りが高く食べ物を合わせ難いと言われることもある大吟醸6のおつまみとしてオレンジマーマレードをおすすめしています。こちらは意外なペアリングということで、海外のかたへのサプライズになりますので、機会があればお試しください。


日本酒は、食材によってはほかのお酒よりもそのおいしさを引き立てる場合があると平出さん

日本を訪れる外国人観光客のかたが、日本酒を楽しめる場所やイベントなどについて、平出さんのおすすめがあればお教えください。

日本では、各地の人気の居酒屋7さんで、手軽に日本酒を楽しめますが、せっかく日本にいらしたのですから、外国からの訪問者を受け入れてくれる酒蔵を訪問していただきたいです。日本には海外にあるワインの名産地にあるシャトーと比較しても遜色ない、100年以上の長い歴史を持つ、伝統ある蔵元がたくさんあります。ぜひ足を運んでいただいて、日本の伝統技術と歴史を感じていただきたいです。


酒蔵の見学では日本酒の製造の様子を学ぶことができる。試飲ができる酒蔵も多い。

また、全国的に有名な日本酒のイベントとしては、3月初めに新潟県新潟市で開催される「にいがた酒の陣」や、3月末に、佐賀県鹿島市で開催される「鹿島酒蔵ツーリズム®️」があります。後者は、さきほど申し上げた世界的なワインコンペティションでチャンピオンとなった銘柄があり、その酒蔵が所在する地域も世界に同時に発信された事がきっかけとなって始まったまち歩きのお祭りです。その他、10月中旬に広島県東広島市の西条で開催される「酒まつり」が有名ですが、各地の酒の産地でも開催されています。

また、先ほど申し上げたワインのコンペティションのSAKE部門に、普通酒8部門というのができたのですが、その部門に出品される日本酒は、おいしいだけでなく価格も驚くほど手頃であることで、地元の人に支持されています。まさに地方を背負う蔵元のプライドを感じます。地方の普通酒は首都圏には出ていませんので、地方を訪れた際には、その土地の普通酒をぜひ飲んでいただきたいです。地方の蔵元の酒造りへの意気込みやその品質の高さを感じていただけると思います。

平出さんは日本酒の価値を世界的に上げていくことを目指し、グローバル展開やインバウンド誘客などを進める活動をされていらっしゃいます。海外へ向けた日本酒の展開に向けたお考えがございましたらご紹介ください。

私はお酒を通して日本の魅力を伝えたいと考えています。米と水からできている日本酒は、大量に水を使います。原料となる米を作るのにも水は必要ですし、お酒の製造過程においてはできあがるお酒の10倍ほどの水を使うと言われています。つまり、古くから日本各地に酒蔵があり、現在も多くの酒蔵で酒造りが行われているということは、日本の国土がきれいな水に恵まれていて、良質の米が毎年収穫できる、そういった豊かな自然が何百年も守られてきたからこそ可能になっている、ここが大切だと思います。

さらに家業として酒造りを継承してきた蔵元たちは、その歴史は100年以上が当たり前、創業200年から300年ということが珍しくありません。日本酒の背景には、各地のそうした家業を守ってきた蔵元の歴史があります。語り継がれた技術と伝統の重みを背負いながら、皆さん酒造りと真摯しんしに向かい合っています。私はそんな蔵元の皆さんの姿を見ていると、責任感の強い日本人の魅力、日本の文化風土の魅力が日本酒には詰まっていると強く感じます。それを少しでも海外のかたにお伝えできたら幸いですね。

  • 1. 酒蔵や酒造会社の経営者や、酒蔵そのものを指す。
  • 2. 「インターナショナル・ワイン・チャレンジ」。イギリス・ロンドンで毎年4月に開催される世界的なワインのコンペティション。
  • 3. 酒造家で酒を醸造する職人のおさ。 また、酒つくりの職人を指す。
  • 4. 一口で飲める小ぶりなサイズの酒器。
  • 5. フランス中東部のブルゴーニュ地方シャブリ地区に産する、シャルドネ種のぶどうを用いた白ワインのこと。
  • 6. 清酒の特定名称の一つで、吟醸酒のうち、精米歩合50%以下の白米を用いてつくり、色沢が特に良好なもの。
  • 7. (昔、酒屋の店先で飲む酒を居酒といったことから)店内にテーブル席、小座敷などを用意し、酒と食べ物を出す店。
  • 8. 普通酒は、吟醸酒・純米酒・本醸造酒といった特定名称の酒として区分されない日本酒を指す。価格も比較的手頃で、家庭の食卓や行楽などでの普段使いの酒として親しまれている。

By MOROHASHI Kumiko
Photo: Co-op SACHI Ltd.; PIXTA

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