【特 集】
平成18年10月31日、第165回国会に
「貸金業の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案」が提出されました。
この法律案は、現在、多重債務問題が大きな社会問題となっている状況を踏まえて、貸金業の適正化や、過剰貸付けに対する規制、出資法の上限金利の引き下げ等の措置を行うものです。
この法律案の具体的な内容は、大きく分けて
1
.貸金業の適正化
2
.過剰貸付けの抑制
3
.金利体系の適正化
4
.ヤミ金融来策の強化
5
.多重債務問題に対する政府をあげた取り組み
からなっています。以下では今回の改正案の内容を紹介します。
1
.貸金業の適正化
(1)
貸金業への参入条件の厳格化
•
今回の改正案では、貸金業の適正化を図る観点から、貸金業への参入条件を厳格化し、現行、貸金業を行う上で必要とされる純資産額(個人300万円、法人500万円)を5,000万円以上とします。なお、実施については、法が施行されてから1年半以内に2,000万円以上、2年半以内に5,000万円以上に順次引き上げていくものとしています。(貸金業法6条)
•
また、法令遵守のための助言・指導を行う貸金業務取扱主任者について、資格試験を導入し、合格者を営業所ごとに配置することを義務付けます。(貸金業法4条、6条12条の3、24条の7〜50)
(2)
貸金業協会の自主規制機能強化
•
貸金業協会を、認可を受けて設立する法人とし、貸金業者の加入を確保するとともに、都道府県ごとの支部設置を義務づけます。
•
貸金業協会に広告の内容、方法、頻度や過剰貸付防止等について自主規制ルールを制定させ、当局が認可する枠組みを導入します。過剰貸付けを防止するルールとしては、例えば、リボルビング契約における各回の返済額を借入額の一定以上とすることで、返済期間が長くなりすぎたりしないようにすることとしています。(貸金業法25条〜41条の12)
(3)
行為規制の強化
(ア
) 取立規制の強化
現在も夜間や早朝などに取立てを行ったり、債務者などを脅したりする行為が禁止行為として例示されていますが、改正案では債務者などの保護を強化するため、日中の執拗な取立行為などについても禁止行為に追加します。(貸金業法21条)
(イ
) 書面交付義務の強化
貸付けにあたり、トータルの元利負担額などを説明した書面の事前交付を義務づけることとし、借り入れを行う人にとって自分の返済プランがよりわかりやすくなるようにすることとしています。(貸金業法16条の2(内閣府令))
(ウ
) 生命保険契約に締結に関する書面交付義務、自殺による保険支払の禁止
貸金業者が借り手を被保険者として保険契約を結ぶ場合には、保険契約の内容を説明する書面を交付することを義務付けます。また、保険契約については、借り手の自殺を保険事故とする契約を禁止します。(貸金業法12条の7、16条の3)
(エ
) 公正証書にかかる規制の強化
公正証書作成に委任する内容の委任状を貸金業者が取得することを禁止します。それに加えて、利息制限法の金利を超える貸付けの契約について、公正証書の作成を公証人に嘱託することを禁止します。(貸金業法20条)
(オ
) 連帯保証人に対する説明義務の強化
連帯保証人の保護を徹底するため、貸金業者に対し、連帯保証人になろうとする者への催告・検索の抗弁権がないことの説明を義務付けます。(貸金業法16条の2、17条)
これまで規制に違反した業者への処分としては、登録取消や業務停止しか規定されていませんでした。改正案では規制違反に対して機動的に対処するため、業務改善命令を導入することとしています。(貸金業法24条の6の3)
2
.過剰貸付けの抑制
(1)
指定信用情報機関制度の創設
信用情報の適切な管理や全件登録などの条件を満たす信用情報機関を指定する制度を導入し、貸金業者が借り手の総借入残高を把握できる仕組みを整備します。これにより、貸金業者が借り手の総借入残高を把握し、過剰な貸付けとならないか、確認できるようにします。(貸金業法41条の13〜38)
※(注記)
指定信用情報機関とは、貸金業者等から借り手の信用に関する情報を集め、貸金業者に提供する信用情報機関のうち、法案で求める一定水準以上の情報管理・交流の体制整備等の要件を満たす信用情報機関として金融庁が指定した機関のことを指します。
(2)
総量規制の導入
貸金業者に借り手の返済能力の調査を義務づけ(借り手が個人の場合、指定信用情報機関の信用情報を使用して調査することを義務づけ)、借り手の返済能力を超えた貸付けを禁止します。特に、住宅ローンなどを除き、他の貸金業者からの分を含めて、年収の3分の1を超える貸付けを原則として禁止します。(貸金業法13条〜13条の4)
3
.金利体系の適正化
(1)
上限金利の引下げ
現行法上の「みなし弁済」制度(グレーゾーン金利)を廃止し、出資法の上限金利を20%に引下げることとしています。施行後にこれを超える金利で契約を締結した場合、罰則の対象となります。(貸金業法43条、出資法5条)
(2)
金利の概念の見直し
•
業として行う貸付けの利息には、契約締結費用及び債務弁済費用も含むこととします。ただし、公租公課やATM手数料といった費用については、この利息から除かれます。(利息制限法6条、出資法5条の4)
•
貸付利息と借り手が保証業者に支払う保証料を合算して上限金利を超えた場合には、超過部分については、原則として、保証料を無効とし、保証業者に刑事罰を科すこととしています。(利息制限法8、9条、出資法5条の2、5条の3)
(3)
日賦貸金業者及び電話担保金融の特例の廃止
これまで出資法の上限金利(29.2%)の例外とされてきた日賦貸金業者や、電話担保金融についても、今回の改正にあわせて特例を廃止します。(出資法一部改正法附則8項〜16項)
4
.ヤミ金融来策の強化
改正案では、ヤミ金融に対する罰則の強化も行うこととしており、年利109.5%を超えるような超高金利での貸付けや、無登録営業を行った場合の罰則は従来、懲役5年でしたが、これを10年としています。(貸金業法47条、出資法5条)
5
.多重債務問題に対する政府をあげた取り組み
改正案では以上の内容の施策に加えて、政府は、関係省庁相互の連携強化により、多重債務問題解決のための施策を総合的かつ効果的に推進することとしています。(貸金業法附則66条)
●くろまる
経過措置について
(1)
施行スケジュール
法案が成立してからの各規定の施行については、
•
罰則の引上げ
...
公布から1ヶ月後
•
本体施行
...
公布から1年以内
(取立規制の強化、業務改善命令導入、新貸金業協会設立など)
•
貸金業務取扱主任者の試験開始
左側3項目括り括弧
施行から1年半以内
•
指定信用情報機関制度(指定の開始)
•
財産的基礎引上げ(2,000万円)
•
本体施行(再掲)
...
公布から1年以内
左側5項目括り括弧
公布から概ね3年を目途
•
「みなし弁済」廃止、出資法上限金利の引下げ等
左側4項目括り括弧
施行から2年半以内
•
総量規制導入
•
財産的基礎引上げ(5,000万円)
•
事前書面交付義務導入
となっています。
(2)
見直し規定
改正案の附則では、以下のことについて見直しを行うこととしています。(貸金業法附則67条)
•
貸金業制度のあり方について、施行から2年半以内に、総量規制などの規定を円滑に実施するために講ずべき施策の必要性について検討を加え、その検討の結果に応じて所要の見直しを行うこととします。
•
出資法及び利息制限法に基づく金利規制のあり方について、施行から2年半以内に、出資法及び利息制限法の規定を円滑に実施するために講ずべき施策の必要性について検討を加え、その検討の結果に応じて所要の見直しを行うこととします。