第120回、第121回の自動車損害賠償責任保険審議会(以下「自賠審」という。)は、平成17年1月20日、21日に開催し、料率検証の結果等の審議が行われ、平成17年4月1日からの自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)の基準料率を平均で6.3%引下げることが了承されました。この結果、平成17年4月1日からの自賠責保険に係る契約者負担額は、保険料等充当交付金の減額による負担増加分を加えたトータルで平均5.4%の増加となります。
1
.最近の自賠責保険料改定に関する動きについて
(1)
自賠責保険について
自賠責保険は、自動車事故被害者の保護等を目的とする自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)が昭和30年に制定され、自賠責保険又は自賠責共済の契約が締結されているものでなければ自動車等を運行してはならないこととされました(自賠法第5条)。これを受けて、自賠責保険の基準料率(注1)は、自賠法第25条(注2)により利潤や不足が生じないよう算出することとされています(いわゆるノーロス・ノープロフィットの原則)。
(注
1)基準料率とは?
基準料率とは、損害保険料率算出団体が算出する保険料率の一つで、損害保険料率算出団体の会員保険会社は、損害保険料率算出団体が算出した基準料率を自社の保険料率として使用するという届出の手続きをすれば、保険業法に基づいた認可を取得したものとみなされます。現在は、損害保険料率算出機構が自賠責保険の基準料率を算出しており、自賠責保険を取り扱っている全ての保険会社がこれを使用しています。
(注
2)自賠法第25条
第25条 責任保険の保険料率及び責任共済の共済掛金率は、能率的な経営の下における適正な原価を償う範囲内でできる限り低いものでなければならない。
(2)
自賠責保険制度変更の内容(平成13年6月自賠法改正)
自賠責保険制度については、規制緩和要望等を踏まえ、制度自体や運用を見直した結果、平成14年4月に政府再保険の廃止等を内容とする改正自賠法が施行されることに伴い、過去の政府再保険の滞留資金の運用により生じた累積運用益の還元方法が制定されました。具体的には、平成13年度末における自賠責再保険特別会計の累積運用益の20分の9を自動車事故対策等に充て、20分の11をユーザーに還元することとされました。これを受けて政府は、平成14年度から平成19年度までの間に効力を生じる自賠責保険又は共済契約について、特別会計より保険料等充当交付金を交付することとしました。
(3)
従来(平成14年4月改定)の自賠責保険料の基本的考え方
自賠責保険の基準料率については、政府再保険制度が平成13年度末に廃止されるまでは、過去の累積運用益及び将来の運用益を先取りする形で料率が設定されていたため、赤字料率となっていました。これでは制度として持続可能なものとは言えないため、収支が均衡するように料率を設定する方式に変更し、基準料率を算定しました。契約者は現在本来の保険料(基準料率)から保険料等充当交付金を控除した金額を負担する形になっています。
また、自賠法附則第7項により、保険料等充当交付金の交付対象期間は平成19年度までの6年間とされ、当初3年間は厚めに還元を行い、後半3年間で残額を還元することにより、6年後に急激な契約者負担額の増加が生じることを防ぐこととされました。なお、平成9年5月の保険料改定では平成16年度まで保険料を維持することを予定していたことを踏まえ、当初3年間の交付金充当後の契約者負担額は、従来の水準と変わらないように設定されました。
2
.今回の自賠責保険料(契約者負担額)の改定について(平成17年4月〜)
(1)
保険料等充当交付金
保険料等充当交付金については、国土交通省が予算を所掌しており、平成13年度末の政府の自賠責再保険特別会計の累積運用益の20分の11(約1兆700億円)を財源として、平成14年度から平成19年度までに効力を生じる自賠責保険契約に対して交付されることとなっています。
このうち、平成16年度末までの当初3年間は従前の負担額と同じ水準になるように厚めに交付され、平成17年度以降の残りの3年間は、再計算しつつ残額を交付することになっています。平成16年度末までに約6,900億円が保険料等充当交付金として契約者に還元される見込みとなっていますが、平成17年度以降の3年間で交付可能な金額は約1,200億円となる見込みです。
保険料等充当交付金は、政府の特別会計から交付されますので、平成17年度の交付額は、17年度予算の成立により正式に決定されますが、交付額の減額により、基準料率が現行の水準に据え置かれた場合、契約者負担額の上昇率は平均で11.7%上昇するものと見込まれていました。
(2)
自賠責保険基準料率の収支状況と引下げ
一方、自賠責保険の基準料率の収支状況は、今回の料率検証結果による平成17契約年度の損害率は100.4%となっており、平成14年4月1日の保険料率改定における予定損害率103.3%と比較すると小幅な乖離(2.9%)に止まっていました。しかしながら、平成16年度末の保険会社の累積運用益等が当初見込みを上回る状況にあったことから、自賠審において、この保険会社の累積運用益等を平成17年度から平成20年度までの4年間で契約者に更に還元する形で自賠責保険の基準料率を引下げ、契約者の負担増を緩和することとされました。
具体的には、基準料率を平均で6.3%引下げることとしました。
(3)
平成17年度の契約者負担額
基準料率の改定を行わない場合には、保険料等充当交付金の減額により契約者負担額は平均で11.7%の増加となりますが、基準料率を平均で6.3%引下げることにより、契約者負担額は平均で5.4%の増加となります。
この負担増は、改定後の基準料率から保険料等充当交付金を控除した金額で、実際に契約者が負担する金額であり、平成17年4月1日に保険始期が始まるものから適用されることになります。
なお、保険料等充当交付金は平成17年度予算の成立により正式に決定されますので、それまでは見込み額ということになります。
・自家用乗用車24か月契約の契約者負担額の例
現行
33,470円
5,840円
27,630円
改定
31,730円
1,950円
29,780円
改定額
△しろさんかく 1,740円
△しろさんかく 3,890円
+ 2,150円
改定率
△しろさんかく 5.2%
△しろさんかく 66.6%
+ 7.8%
(4)
平成18年度以降の契約者負担額
平成18年度及び19年度の具体的な契約者負担額については、保険料等充当交付金の水準が、今後の再保険金及び交付金の支出状況に基づいて、予算を所管する国土交通省と財政当局との間で再度計算が行われたうえで確定されることとなること等から、現在のところ確定していません。また、平成20年度以降に効力を生じる自賠責保険に係る契約者負担額については、平成19年度中に効力を生じる保険契約分までで保険料等充当交付金の交付が完了することに伴い、基準料率がそのまま契約者負担額となる見込みです。