このページはJavaScriptを使用しています。JavaScriptを有効にしてご覧ください。

近代フランスの教育史・教育思想史を専門としています。特に、啓蒙主義の時代として知られる18世紀末から、今日の学校教育の基本的なかたちが出来上がる19世紀末にかけての時期を対象としています。自律的な主体形成や市民形成をはじめ、<教育>についての自覚的な問いかけや意識が、近代的子ども観や近代家族、近代社会の誕生を背景に教育理論として顕在化するのが近代という時代だからです。

出発点となったのは、デュルケームの『フランス教育思想史』という書物です。一般に、思想史というと、ある特定の人物の思想を対象とするものや、列伝を思い浮かべますが、同書は、フランスの中等教育を対象とした思想史です。同書の特色は、フランスにおいて、職業人や専門的知識の教育ではなく、一般的な人間形成を目的とする教育観がいつ誕生し、どのような文化的、歴史的経緯によって現在に至っているのかを、キリスト教的精神と異教的精神、知識・教養観、コレージュ(学寮・学院)の発展、主要な教育思潮をとりあげながら克明に明らかにしていることにあります。職業教育や専門教育への社会的な要請が高まるなかで、より大きな歴史的枠組みのなかに教養問題を位置づけなおしていること、フランスの教育観を相対化するための視点を提示していることも特筆すべき点として挙げられます。

異文化の教育を対象とし、これを思想史的な観点から明らかにすることは、私たちが当たり前と見なしている教育観を問い直し、教育のリアリティを別様にみることを可能にします。私自身は、フランスの教育にみられる知識観や教養観について、デュルケーム以前と以後の時代に対象を広げながら考察をしています。現代フランス中等教育における哲学教育をめぐる考察も、こうした関心の延長線上にあります。教育を知的文化との関わりで研究するためには、西洋の歴史、人間観、自然観、言語観、哲学、社会的背景などについての幅広い理解が必要となることにも気づかされます。そのような意味で、教育について知るとは、総合知をもって可能になると言えます。17専攻から成る慶應義塾大学文学部は、教育についての幅広い知的探求に最適な条件を揃えています。急速な変化が求められる現代にあって、近代の枠組みでは捉え難い教育の側面にも目を向け、人文・社会科学の新しい方法論にも学びながら、教育を問いなおしてゆきたいと考えています。


(注記)所属・職名等は取材時のものです。

AltStyle によって変換されたページ (->オリジナル) /