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ERCA 独立行政法人 環境再生保全機構

コラム

フレイル健診について

2020年4月から後期高齢者(75歳以上)医療制度の健康診査(健診と言われるものです)でフレイル健診という15項目の質問に答える新しい健診がスタートしました。

フレイルという言葉は、もとは単に虚弱と訳されていましたが、身体的な衰え、精神・心理的衰え、社会活動的衰えの総合的表現としてフレイルという言葉が使われるようになりました。フレイルとは、加齢によって身体と心の活力が低下した状態のことといえます。

私はまだそんな年齢ではないと安心される方もいらっしゃるかもしれませんが、年齢を重ねることによっておこる事象の予防は若いうちからの生活習慣にもかかわってきますので、少しお付き合いください。

環境再生保全機構 すこやかライフ編集委員長 昭和大学特任教授 田中一正環境再生保全機構 すこやかライフ編集委員長
昭和大学特任教授 田中一正

多くの皆さんはメタボ(メタボリック症候群)という言葉はよくご存じだと思います。過食や脂質や塩分の多い食事は体重増加、肥満を招き糖尿病、高脂血症、高血圧など健康維持に障害となる病気を引き起こすことが啓蒙され、2019年までメタボ健診という言葉での健診が重要視され、生活習慣予防策が示されました。多くの方が生活習慣に関わる食事に気を付けておられると思います。

メタボでは体重増加と健康を表す指標にBMI(ボディーマス指数)が使われ、日本人標準指数は22でそれ以上数値が高くなると肥満度が増し、心筋梗塞や脳卒中など重篤な病気につながり総死亡が増すと話題でした。近年、高齢者では逆に過体重は総死亡リスクにならず、BMI22以下の痩せの方が死亡リスクに関連することが報告されています。高齢者では痩せのグループ比率が高いことから、その危険因子としてのフレイルが注目されるに至っています。

ではなぜフレイルは起こるのでしょうか。

後期高齢者では健康な生活をしている方でも若年時に比べ食が細くなり、体重が減り、筋力が衰え、体力が衰えます。70代以上の方では50代に比べ食事量が約15%減少しているといわれ、後期高齢者の方は前期高齢者(65歳〜74歳)と比べてフレイルの進行がさらに顕著になるといわれています。たとえ筋肉のもとになるタンパク質(肉や魚)を摂っていても、運動不足であれば虚弱が進む恐れがあります。逆にいくら運動をしていてもタンパク質の必要量を摂っていなければ虚弱が進行します。

食事量の減少には、唾液の減少、味覚嗅覚の減退、嚥下障害、消化器官機能の減退や記憶力の低下、うつ・認知症の進行、経済力の不足や社会的活動の低下、さらには基礎疾患の慢性炎症の進行や薬の影響、食事療法の影響などがあげられます。

高齢者が栄養障害に陥ると筋肉量の減少、筋力の低下、骨塩量の低下、骨粗鬆症の進行につながり、動くことが嫌になり、日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)を低下させ、自立障害を引き起こします。

このような状態をサルコペニアといい、フレイルに至る大きな要因となります。

COPDやぜん息の病歴の長い方では、動くと苦しくなることからなるべく動かない状態を作り、食欲も低下してきます。急性増悪により疾病の悪化を起こし、さらに食事量の低下から低栄養状態となり活動量が減り、社会的活動が低下して閉じこもりや寝たきりの状態に近づいてしまいます。ちょうどサルコペニアといわれる日常生活動作に障害を起こしたものと同じ状態になります。この状態では風邪にかかりやすく、転びやすく、骨折もし易くなり、人の手を借りないと生活できない、いわゆる要介護状態となってしまいます。

これを病気だから仕方がない、あるいは、年を重ねることで仕方ないとしてよいでしょうか。

過去、すこやかライフNo.52では、身体を動かさない生活にならないための生活動作を確認するCOPDのリハビリテーションを特集してご紹介しております。(参照:すこやかライフNo.52特集)。

苦しくなる動作を強制するものではありません。呼吸をする筋肉は姿勢を保つ胸や背中、腹などの筋肉です。これらの筋肉をリラクゼーションさせゆっくり大きな呼吸が整えられるよう日々呼吸体操を行い、下肢筋トレーニングとしての歩行を継続することは大事です。だからと言って坂道を登って鍛える必要はありません。苦しくなってからするのではなく継続して呼吸を整え歩くことと日常生活動作を工夫しながら続けることを心掛けます。姿勢は大事です。鏡の前で姿勢、容姿を正しましょう。おしゃべりは吸ったり吐いたりの呼吸法につながります。歌を歌ったり新聞記事や雑誌の音読をし、記事や歌の小節の末語を息の続く限り延ばして発声してみてください。声を出しきった後にはたくさんの息を吸いたいという欲求とともに、続けていると大きく息を吸えるようになります。無理な運動トレーニングをする必要はありません。身体を日々動かすことと、楽しくタンパク質が十分に取れる食事を1日1回人と一緒に取ることを心掛けてはいかがでしょうか。呼吸器の病気があるからではなく、高齢になるにしたがって衰える体力の源になる酸素の取り込みを行う呼吸を意識した生活が大切です。

後期高齢者を踏まえた健康状態を総合的に把握するための「後期高齢者の質問票(フレイル質問票)(別ウィンドウで開きます)」はこちらから確認できます。ご自身でチェックしてみてください。

環境再生保全機構 すこやかライフ編集委員長 昭和大学特任教授 田中一正環境再生保全機構 すこやかライフ編集委員長
昭和大学特任教授 田中一正

用語解説

ロコモ(ロコモティブシンドローム)

ロコモティブシンドロームとは、加齢や病気、ケガなどが原因で、歩行や日常動作など、移動に関連する骨や関節、筋肉に障害が起こって運動能力が低下する状態です。「歩きづらい」「動きづらい」といった日常生活の運動機能が低下するのが特徴で、フレイルの前段階といわれています。
なお、ロコモ状態は運動習慣を取り入れることで、改善が期待できます。

サルコペニア

加齢によって筋肉量が少なくなり、全身の筋力が低下する状態です。特に嚥下障害につながるおそれが高く、最初の発症部位も口腔器官に多いという特徴があります。
サルコペニアで嚥下障害が強まると、食事による栄養が摂取しづらくなります。そのため、高齢者は日頃から口腔ケアの習慣を身につけるのが大切です。

フレイル

ロコモティブシンドロームやサルコペニアを含む、加齢によって要介護状態が高まった状態のことです。

日本人の食事摂取基準のタンパク質について

「日本人の食事摂取基準」は5年ごとに改定を重ねてきました。前回の2015年版では、70歳以上の高齢者のタンパク質摂取推奨量を1日当たり男性60g、女性50g、総エネルギーに対する摂取目標量を男女ともに13〜20%としていました。

今回の改定では、年齢区分を50歳から64歳、65歳から74歳、75歳以上と細分化。さらに、摂取目標量も50歳から64歳で男性14〜20%(65g)、女性14〜20%(50g)、65歳〜74歳と75歳以上では男性15〜20%(60g)、女性15〜20%(50g)に。

このように、タンパク質の摂取基準を全体的に引き上げたのが特徴です。

健康な身体機能を維持するためにタンパク質の摂取を心がけましょう。

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