環境庁は、昭和61(1986)年度〜平成2(1990)年度までの5年間に大気汚染健康影響継続観察調査、平成4(1992)年度〜平成7(1995)年度までの4年間に窒素酸化物等健康影響継続観察調査と、2期にわたり学童のぜん息を中心とした健康状態の継続調査を実施しました。
埼玉、京都、大阪の7地区計8小学校の学童約5,000人を対象に、ATS質問票(環境庁改訂版)による調査、呼吸機能検査、血清中の非特異的IgE抗体の測定を行っている。調査前3年間の二酸化窒素(NO2)濃度年平均値と調査年毎の喘息様症状有症率との関係では、1988年の女子及び男女計、1989年の女子で有意な相関がみられた。
しかし、大気汚染状況と喘息様症状有症率の関係を全体的にみると、有意な相関がみられなかったものが多く、大気汚染濃度の9年間平均値と5年間の喘息様症状有症率の平均値についても、NO2濃度との間に有意な相関はみられなかった。
喘息様症状有症率が高学年になっても低下しない傾向がみられ、従来多く報告されていた「高学年ほど有症率が低い」という調査結果と異なる知見が得られた。
各地区とも喘息様症状有症者については、アレルギー疾患の既往が「ある者の割合」が「ない者の割合」より極めて多かった。
また、アレルギー素因を有すると考えられる非特異的IgE抗体陽性者の分布には、NO2濃度による地区差みられなかった。
「アレルギー既往あり群」の男子及び男女計でNO2と喘息様症状有症率の間に有意な相関がみられ、「喘息様症状有症群」及び「喘鳴様症状有症群」の非特異的IgE抗体陽性率は、「アレルギー既往歴あり群」及び「呼吸器症状、アレルギー既往歴ともなし群」と比較して有意に高率であったと報告している。
調査開始時症状なし群についてみると男子及び男女計では概ねNO2濃度が高い地区では喘息様症状の新規発症率が高率になる傾向があり、両者に有意な相関がみられた。
一方、女子ではNO2濃度と喘息様症状の新規発症率との間に有意な相関はみられなかった。
また、全追跡対象者については、男子で喘息様症状新規発症率とNO2濃度及び浮遊粒子状物質(SPM)濃度との間に有意な相関がみられたとしている。
この調査は、継続調査の特徴を活かし、喘息様症状の新規発症率と大気汚染との関連性をわが国で初めて検討したものであり、また対象者のうち相当数についてIgE抗体検査を実施して、アレルギー素因との関係を客観的に検討したものである。
6都府県の11調査地域(19対象校)で実施され、各地域約300人から1,800人で4年間の述べ対象者数は3万8,330人(実人数1万5,140人)であった。
調査項目は、ATS質問票に眼・鼻粘膜症状に関する症状項目の追加と関連項目の若干の改訂を行った呼吸器症状調査、血清中の非特異的IgE抗体検査及びフローボリューム記録計を用いた肺機能検査の3項目である。
呼吸器症状調査は対象地域の全学童を対象とした。
IgE抗体検査及び肺機能検査の対象の選定は対象校毎に異なっていた。
新規発症率を関連要因別にみた場合、居住年数については発症率に差はみられなかった。
家屋構造については、「木造一戸建・窓木枠」の世帯で発症率が高かった。
家族喫煙、暖房器具の種類、室内ペットについては発症率に差はみられなかった。
アレルギー性疾患の既往、花粉症症状、気道過敏性については「あり」群の発症率が高かった。
継続調査対象者について喘息様症状及び喘鳴症状の継続性・変動性を検討したところ、東京と神奈川の対象地域で「何らかの症状あり」群や症状継続群の割合が多い傾向がみられた。
性別では、「何らかの症状あり」群、症状継続群のいずれも男子で高く有意差がみられたが、その他の関連要因については症状の変動傾向に大きな差は認められなかった。
性別、学年、家屋の構造、家族の喫煙状況等の影響を除くため統計的な処理を行った各地域の喘息様症状(現在)の有症率と各対象地域の二酸化窒素(NO2)、窒素酸化物(NOx)、浮遊粒子状物質(SPM)濃度の年平均値との間に統計的な関連性はみられたが、オキシダント濃度との間には関連性はみられなかった。
喘息様症状の新規発症率については、継続調査の結果により、性別、学年、家屋の構造、家族の喫煙状況の影響を除くため統計的な処理を行った各地域の新規発症率と最寄りの大気汚染常時測定局のNO2の年平均値との間の統計的な関連性はみられなかった。
各症状群の非特異的IgE幾何平均値を4年間の計でみると、男女ともに高い方から喘息様症状群(現在)、喘鳴症状群、喘息様症状(既往)群、症状なし群の順となった。
症状群別IgEの累積度数分布を比較したところ、症状なし群と喘息様症状(現在)群の分布に差がみられ、喘息様症状(既往)群と喘鳴群の分布はこれらのほぼ中間の分布を示した。
なお、喘息様症状(現在)を有するものの血清中の非特異的IgE値が低いものがあり、逆に非特異的IgE値が高くても喘息様症状がないものが多く含まれていることが示され、喘息様症状発症の多様性が示唆された。
非特異的IgE値が250IU/ml以上を陽性として検討した結果、調査対象の選定が調査年度、調査校により異なることから各校別に得られた結果がその地域を代表するとは考えにくいものの、喘息様症状(現在)群の陽性率は低濃度地域群>中間地域群>高濃度地域群の順に高率であった。
さらに症状なし群でもIgE陽性率は中間地域群が高濃度地域群よりわずかに低いものの、低濃度地域群で最も高率であったと報告している。