石綿にばく露(石綿から生ずるか、又は石綿を含有する鉱物、材料若しくは製品から生ずるかを問わず、浮遊して吸入されやすい石綿繊維又は石綿粉じんにさらされることをいう)される機会は職業性のものが最も多いとされています。直接的なばく露もあれば間接的なばく露もあります。直接的な職業ばく露とは、石綿鉱山、石綿製品製造工場、断熱作業などで直接石綿や石綿を含有する製品を製造・取り扱うことによるばく露です。間接的な職業ばく露とは、直接石綿を取り扱うことはないが、石綿を取り扱う現場で作業をすることによって石綿ばく露を受けることを指し、造船業や車輌製造業などの場合にしばしばみられます。中皮腫の場合には間接的なばく露を受けた者でも発症がみられることがあります。
思いがけない石綿ばく露が原因で胸膜中皮腫を発症することがあります。例えば、手術用ゴム手袋を再生利用する際にタルク(滑石)粉を用い、そのタルクに不純物として含有する石綿を吸入したり、外国から輸入された石綿原料の入った麻袋を、ソファー等の裏打ち材に再利用していたために家具製造の際に石綿を吸入するといった例です。なお、1988年以降はタルクに石綿が不純物として混入しているかどうかをチェックするようになりました。また、1977年以降、石綿原料はビニール袋で運搬されるようになりました(旧ソ連産は一時期まで紙袋の時期がありました)。
職業ばく露以外には、傍職業性家庭内ばく露として、石綿工場に働く夫の作業衣を洗濯することによりばく露を受ける妻や、空になった石綿袋を家に持ち帰り、子供がそれで遊んだりすることによるばく露があります。また傍職業ばく露として、家で石綿含有シートを切断するなどの作業を行うことによる、DIYによるばく露もあります。さらに、近隣ばく露として、石綿鉱山及び石綿工場の近隣住民でのばく露による中皮腫が報告されています。
出典:平成24年3月29日付基発0329第2号「石綿による疾病の認定基準について」
※(注記)石綿関連疾患の発症リスクは、これらの石綿ばく露作業にどのくらいの期間従事し、どのくらいの量の石綿を吸入したかによって異なります。
疾患 | 対象者 | ばく露分類※(注記)3 | 計 | |||
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(ア) | (イ) | (ウ) | (エ) | |||
中皮腫 | 療養者・未申請死亡者 | 3,358 | 178 | 126 | 2,338 | 6,000 |
施行前死亡者 | 1,433 | 45 | 58 | 1,408 | 2,944 | |
肺がん | 療養者・未申請死亡者 | 1,096 | 10 | 9 | 91 | 1,206 |
施行前死亡者 | 103 | 4 | 0 | 6 | 113 | |
石綿肺 | 療養者・未申請死亡者 | 31 | 0 | 0 | 2 | 33 |
施行前死亡者 | 33 | 1 | 0 | 1 | 35 | |
びまん性胸膜肥厚 | 療養者・未申請死亡者 | 136 | 0 | 3 | 7 | 146 |
施行前死亡者 | 6 | 1 | 0 | 2 | 9 | |
計 | 6,196 | 239 | 196 | 3,855 | 10,486 |
出典:環境再生保全機構「石綿健康被害救済制度における平成18〜令和元年度被認定者に関するばく露状況調査」
※(注記)1 未申請死亡者:日本国内で石綿を吸入することにより指定疾病にかかり、認定の申請を行う前に指定疾病に起因して救済法または改正政令施行以後にお亡くなりになった方で、そのご遺族が未申請死亡者に係る特別遺族弔慰金等の請求を行い、認定を受けた方
※(注記)2 施行前死亡者:日本国内で石綿を吸入することにより指定疾病にかかり、指定疾病に起因して救済法または改正政令施行前にお亡くなりになった方で、そのご遺族が施行前死亡者に係る特別遺族弔慰金等の請求を行い、認定を受けた方
※(注記)3 ばく露分類について
平成18年度から令和元年度までの14年間で得られたアンケート結果によると、女性の胸膜中皮腫認定患者さん1,347人のうち、130人(9.7%)が家庭内でのばく露があったと回答しています。