胸膜、心膜、腹膜の位置のイラスト
内臓は膜におおわれており、この膜の表面をおおっているのが中皮です。具体的には、胸膜、心膜、腹膜などの表面をおおう薄い細胞層を指します。
中皮細胞から発生する悪性の腫瘍を中皮腫といいます。中皮腫は、1か所で大きくなっていくタイプ(限局性:げんきょくせい)と膜全体に広がっていくタイプ(びまん性)がありますが、多くがびまん性に広がっていきます。2014年9月に報告されている厚生労働省の人口動態統計に基づく中皮による死亡数の年次推移(平成7年から25年)によると、2016年の中皮腫による死亡総数は1,550人であり、1995年の死亡総数500人と比較して3倍強に年々増加しています。悪性中皮腫の発症原因の1つとしてアスベスト(石綿)が知られています。ばく露後40年前後の潜伏期間を経て発症することが報告されており、1970から80年代からアスベストが使われていた過去の経過を踏まえて、日本においては今後増加すると考えられています。これらの悪性中皮腫の患者さんのうち、8割程度が悪性胸膜中皮腫、2割弱が悪性腹膜中皮腫、残りがその他の部位からの発症となっています。
胸膜中皮腫のイラスト
胸膜中皮腫は悪性腫瘍の1つであり、まれな腫瘍ですが、その発症にはアスベスト(石綿)が関与していることが知られています。胸痛、咳(せき)、大量の胸水による呼吸困難や胸部圧迫感が起こります。また、原因不明の発熱や体重減少がみられるときもありますが、これらは中皮腫に特徴的な症状とはいえず、早期発見が難しい病気です。
腹膜は、おなかの内側(腹腔)をおおっています。同じように腹膜から発生するがんである、腹膜がんとは別の疾患です。悪性腹膜中皮腫は検診の方法が確立していません。また、腹腔内の病気であるため、早期では症状が出ない、という特徴があります。進行すると腹水貯留による腹部膨満感(お腹が張った感じ)、腹痛、腰痛、食欲低下、排便の異常、腹部のしこりなどお腹の症状を感じます。
そのほかに、非常にまれですが、心臓及び大血管の起始部を覆う心膜、精巣鞘膜にできる中皮腫があります。
石綿との関係のイラスト
胸膜中皮腫の原因の大部分はアスベスト(石綿)の吸入が原因とされています。通常、発症には石綿を吸い込んでから30〜40年かかります。石綿は、極めて微細な天然鉱物で、微細ゆえに、体内に取り込まれやすく、体内にとどまった石綿は、絶え間なく細胞を刺激し続け、やがて中皮腫になるといわれています。そのため、石綿を扱う場所で働いていた人だけでなく、その家族やアスベスト関連の工場周辺に住んでいた人にも発生しています。
石綿は、1970年から1990年にかけて耐熱性、耐摩耗性などに優れているため、建材をはじめ、さまざまな用途に用いられてきた歴史があります。そのため、1970年の20年後の1990年頃から中皮腫による死亡者が増え始めました。今後、増加することが予想されています。