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目前に迫る水素社会の実現に向けて〜「水素社会推進法」が成立 (後編)クリーンな水素の利活用へ

目前に迫る水素社会の実現に向けて〜「水素社会推進法」が成立 (後編)クリーンな水素の利活用へ

2050年カーボンニュートラルに向けては、発電のみならず、脱炭素化が難しい分野、たとえば鉄鋼・化学・モビリティなどの産業において、どのようにGX(グリーントランスフォーメーション)を進めるかが課題です。そのカギを握るエネルギーのひとつが「水素」です。日本は早くから水素に関する研究開発や実証実験をおこなってきましたが、さらなる社会への普及を目指して、2024年5月に「水素社会推進法」が成立しました。今回は、この法律の目的や内容について、詳しくご紹介します。

国の支援で水素の利活用を後押し

水素は使うときにCO2を発生せず、つくる方法によってはカーボンフリーなエネルギーとなることから、次世代エネルギーとして注目されています。

水素エネルギーの開発・推進に関しては、国が前面に立って支援をしています。2023年に制定された「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」(GX推進法)では、「GX経済移行債」を国債として発行し、20兆円の先行投資に充てるという方針が打ち出され、その中には水素等への支援も含まれています。

そうした中、2024年5月には、水素をエネルギーとして普及させ、活用を後押しするための法律である「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律」(水素社会推進法)が成立しました。

この法律が定められた背景として、水素を利活用する事業者への支援の必要性が挙げられます。水素は発展途上のエネルギーのため、既存の燃料に比べてまだコストが高いのが現状です。また、今後、水素を大規模に活用していくには、事業者の初期投資や運営費もかかります。そこで、水素の供給や関連する利活用をおこなおうとする事業者についてその計画を審査し、認定された事業者に対して、支援することを主な目的としているのです。

水素等と既存燃料の「価格差」に注目した支援

では、「水素社会推進法」の内容を見ていきましょう。

活用が促進されるのは「低炭素水素等 」

法律では、脱炭素化が難しい分野において、「低炭素水素等の活用を促進することが不可欠」とあります。ひと口に水素等といっても、つくり方によっては必ずしも環境負荷が低いとは言えないため、「低炭素」な水素等を使うことを規定しているのです。この「低炭素水素等」の定義は、以下の2つです。

1その製造にともなって排出されるCO2の量が一定の値以下であること

ここでの「CO2の量」とは、「単位量当たりの水素を製造する際に排出されるCO2量」のことを指しており、これを「炭素集約度」といいます。

「炭素集約度」は、2023年の「G7気候・エネルギー・環境大臣会合」(G7札幌)の成果文書のなかにも明記された、新たな概念です。これまで、水素はつくる方法によって、「グレー水素」「ブルー水素」「グリーン水素」などと分類されてきました(「次世代エネルギー『水素』、そもそもどうやってつくる?」参照)。

グレー水素、ブルー水素、グリーン水素それぞれの製造方法について、図で示しています。

しかし、この分類では、実際にどのくらいCO2を排出しているのかは分かりません。そこで、今、「炭素集約度」によってCO2の排出量を数値化し、それによって水素等の環境負荷を評価しようという国際的な議論が進んでいるのです。

炭素集約度については、現在、国際的に合意された計算方法によって算定する基準(国際標準)の作成や、国や地域をまたいだ水素取引でも相互認証ができる認証スキームの構築が進められていれます。これにより、国際サプライチェーンの活発化も期待できます。

なお、「水素社会推進法」における「低炭素水素等」の基準値については、燃料によって製造プロセスなども異なることから、各燃料の性質に応じた基準値を設定する必要がありますが、「化石燃料由来のグレー水素等から約7割削減」という、欧米と同様の考え方に基づき、国際的に遜色ない値とする方向で検討されています。

2CO2の排出量の算定に関する国際的な決定に照らしてその利用が日本のCO2の排出量の削減に寄与するなどの要件に該当するもの

この法律では「低炭素水素『等』」とある通り、水素だけでなく、水素と同様に脱炭素に向けた次世代燃料として期待されているアンモニアや合成燃料、合成メタンなども対象となっています。CO2を利用することで排出削減に貢献する合成燃料や合成メタンですが、燃焼時にはCO2を排出するため、CO2の排出量の算定に関する国際的な決定に照らして、その利用が日本のCO2削減に寄与するものであることが確保される必要があります。

事業者は計画を提出し、認定を受ける

低炭素水素等を国内で製造、あるいは輸入して供給する事業者は、利用する事業者と事業計画を一緒に作成して提出し、審査を受けて認定されれば、供給開始から15年間の支援を受けることができるとともに、支援終了後の10年間は供給義務がかかることになります。このように長期間にわたる支援となるため、認定基準としては、計画が経済的・合理的であること、助成金を受ける場合は低炭素水素等の供給が一定期間内に開始され、一定期間以上継続的におこなわれると見込まれることなど、以下のような項目を満たすことが必要です。

水素社会推進法において事業者が支援を受けるための認定基準を箇条書きで示しています。

認定された事業者が受けられる支援の内容

認定された事業者に対しては、独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)によって、「価格差に着目した支援」「拠点整備支援」に関する助成金の交付などがおこなわれます。

「価格差に着目した支援」とは、低炭素水素等と既存原燃料との価格差に対する支援を指します。前述したように、低炭素水素等はまだコストが高く、既存の原料・燃料と大きな価格差があります。そこで、水素等の国内製造にかかるコストや、海外製造・海上輸送にかかるコストなどを支援対象とし、助成金が交付されます。

「拠点整備支援」とは、事業者が低炭素水素等を輸送・貯蔵する際に新しくタンクやパイプラインを創設するなどのインフラ整備をおこなう場合、それを支援することを目的に、助成金が交付されます。

価格差支援と拠点整備支援の範囲
事業者が「価格差に着目した支援」「拠点整備支援」を受ける際に、支援対象となる事業の範囲について図で示しています。

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このほか、事業がおこなわれるにあたって、スピーディーな対応ができるよう、港湾法、道路占用などによる許可が必要な場合に、ワンストップで許可をとれる特例制度や、高圧ガス保安法の特例として、認定計画に基づく設備などに対しては、一定期間、都道府県知事に代わり、国が一元的に許可や検査などをおこなうことができる制度も設けられました。

供給事業者の判断基準についても策定

事業で使用する水素等は、製造時にCO2を排出しないものが望ましいのですが、現時点では製造できる量がまだ少なく、化石燃料由来のものが大半を占めています。今後はこれをできるだけ低炭素な水素等に変えていくため、事業者に自主的に取り組みを進めてもらうべく事業者が取り組むべき目標(判断基準)を定めています。

海外でも水素の「値差支援」制度を導入

今、世界でも水素への注目度は高く、国際機関の見通しによれば、2050年の世界全体の水素の需要量は2022年の約5倍になると推定されています。各国でも支援や規制制度を定めており、その内容も従来の技術開発支援から、社会実装支援へと変化しつつあります。

たとえば、米国の「インフラ抑制法」(IRA)という制度では、国内で水素を製造する場合、最大で1kgあたり3ドルの税額が控除されます。英国やドイツでは、「値差支援」制度を定めており、天然ガスや石炭など既存の原燃料よりコストの高い水素やアンモニアの活用に対し、そのコスト差を長期にわたり補助しています。日本の「水素社会推進法」でおこなう支援制度は、英国やドイツの制度を参考にしたものです。

各国の支援と規制・制度例
日本、米国、英国、EU、ドイツにおける水素活用の主な支援制度や規制制度を表で整理しています。

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「水素社会推進法」の成立を受けて、低炭素水素等を活用する事業が活発化していくことが期待され、現在すみやかな施行をめざしています。

お問合せ先

記事内容について

省エネルギー・新エネルギー部 水素・アンモニア課

スペシャルコンテンツについて

長官官房 総務課 調査広報室

(注記)掲載内容は公開日時点のものであり、時間経過などにともなって状況が異なっている場合もございます。あらかじめご了承ください。

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