飛行機もクリーンな乗り物に!持続可能なジェット燃料「SAF」とは?

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カーボンニュートラルな社会を目指す上では、さまざまな領域でCO2削減に取り組む必要があります。飛行機を使用する際に排出されるCO2の削減も、そうした課題のひとつです。そこで期待されているのが、ジェット機の燃料をクリーンな燃料である「SAF」に置き換えていくこと。今回の記事では、SAFとはどのようなものか、あらためて基礎知識をおさえ、原料や製造方法の今を見ていきましょう。

飛行機におけるCO2削減のカギ、「持続可能な航空燃料(SAF)」とは?

「SAF」とは、「持続可能な航空燃料(Sustainable aviation fuel)」のこと。廃食油、微細藻類、木くず、サトウキビ、古紙などを主な原料として製造され、従来使用されている化石燃料(石油など)からつくったジェット燃料とくらべ、CO2削減効果があると考えられています。たとえば、SAFの一種であり微細藻類や木くずからつくられる「バイオジェット燃料」は、燃焼させるとCO2を排出しますが、その元となるバイオマスはCO2を吸収して再生産されるため、全体として見れば大気中のCO2が増加しない燃料とみなすことができます。

SAFのライフサイクル全体でのCO2吸収・排出イメージを表した絵です。

SAFのライフサイクル排出量は、原料の栽培、収穫、製造、輸送等のサプライチェーン全体の排出量から計算される
(出典) 国土交通省 SAF(サフ)から抜粋

SAFを航空機に搭載して使用するためには、世界最大規模の国際規格標準化団体「ASTM International」が策定・発行する規格に適合していることが求められます。また、国際規格により、化石燃料からつくったジェット燃料に混合して使用することが求められ、最大で50%まで混合することが可能となっています。

飛行機のCO2排出量と、CO2削減の取り組みの難しさ

飛行機を利用した移動(航空)は、どの程度CO2を排出するのでしょうか。飛行機の利用にともなうCO2排出量は、下の図のとおり輸送量あたりの排出量で見ると、自家用乗用車にくらべれば少ないものの、鉄道などのほかの公共交通と比較すれば多いと算定されています。

輸送量当たりの二酸化炭素の排出量(旅客の場合)
自家用乗用車、航空、バス、鉄道のCO2排出量を示したグラフです。自家用乗用車がトップ、航空はそれに続く2番目の多さとなっています。

(出典)温室効果ガスインベントリオフィス「日本の温室効果ガス排出量データ」および国土交通省「自動車輸送統計」「航空輸送統計」「鉄道輸送統計」より、国土交通省作成

こうしたCO2排出量の多さから、欧州を中心に、飛行機の利用を「飛び恥」として懸念する動きも出ていることは皆さんもご存じでしょう。しかし一方で、CO2の排出量原単位(活動あたりのCO2排出量)と移動時間の関係を見れば、必ずしも「航空を使用しない」という選択肢を取れるわけではありません。特に、私たちの住む日本は島国であり、海外との往来を航空に依存しています。加えて現在は、外国人旅行者を誘致することも求められています。

輸送モード別の原単位と移動に関わる時間
航空、自動車、バス、鉄道のCO2原単位を縦軸に、1km移動にかかる時間を横軸にとったグラフイメージです。航空は低炭素かどうかで見ると排出量が多いものの、素早く移動できるかという即時性で見ると圧倒的に早い乗り物です。

(出典)第9回交通政策審議会航空分科会 国土交通省航空局作成資料「航空を取り巻く状況と今後の課題(その2)(PDF形式:3.3MB)

では、電化などの方法でCO2排出量を減らすことはできないのでしょうか?しかし、これにも問題があります。現在飛行機で使用されているジェット燃料(ケロシン)は、単位重量当たりのエネルギー密度が高い、つまりリチウムイオンや液体水素などと同じ重量でよりたくさんのエネルギーを生み出すことができるため、これをすぐに代替できる燃料は現時点では存在していないのです。

ジェット燃料(ケロシン)などの体積あたりエネルギー密度を縦軸に、重量あたりエネルギー密度を横軸にとったグラフイメージです。ケロシンは、単位重量当たりのエネルギー密度が高いことが示されています。

(出典)「Electric Flight – Potential and Limitations, Martin Hepperle, German Aerospace Center, Institute of Aerodynamics and Flow Technology(Martin Hepperle)」より国土交通省航空局作成

それでも、カーボンニュートラルを実現するためには、航空のCO2削減は必須です。世界的にも、航空産業におけるCO2排出量削減に向けた、野心的な目標が掲げられています。航空業界の国際機関である国際民間航空機関(ICAO)は、2021年以降の国際航空輸送分野のCO2排出量を、2019年のCO2排出量(基準排出量)に抑えることを目標としています。さらに2022年10月に開催されたICAOの総会では、「2024年以降は、2019年のCO2排出量の85%以下に抑える」という、きびしい目標が採択されました。

CO2削減枠組みスケジュール
航空のCO2削減枠組みスケジュールを示した表です。2027年以降は全ての対象国の事業者に排出抑制義務が生じます。

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SAFは、こうした目標を達成するための手法のひとつとして求められているのです。

下の図は、ICAOが作成した、国際航空輸送分野におけるCO2排出量予測と削減目標のイメージです。このシナリオでは、SAFを使うことによる「CO2削減寄与率」は2050年時点で55%となっており、SAFに大きな期待がかけられていることがわかります。

国際航空からのCO2排出量予測と排出削減目標のイメージ
国際航空輸送分野におけるCO2排出量予測と削減目標のイメージ図です。SAFによる削減量が55%、そのほか新技術で21%、運航改善で11%となっています。

(出典)ICAO LTAG Reportから抜粋(IS3:ICAOによる野心的なシナリオ)

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SAFの原料・製造技術の今とこれから

ただ、2022年時点における世界のSAF供給量は、約30万キロリットル。これは、世界のジェット燃料供給量の0.1%程度にしかすぎません。

現在、SAFの製造方法として確立しているのは、腐食油などを原料にする「HEFA」と呼ばれる技術です。しかし、腐食油は世界的な需要の増加によって供給量が不足し、価格が高騰しています。

SAFの原料のうち、理論的な総量(賦存量)が多いと見られているのは、米国・ブラジル産のバイオエタノールなどです。今後は、これらの原料からSAFを製造する「Alcohol to Jet」技術が確立することが見込まれていますが、バイオエタノールの原料となるのはサトウキビやトウモロコシなどで、このような可食原料(食べることのできる原料)は、欧州が利用を制限しています。そのため、マメ科の植物「ボンガミア」など、非可食原料の開拓といった原料の多角化も必要となっています。

SAFの原料・技術の類型
SAFの原料と技術を分類した表です。廃食油などを使ったHEFA、バイオエタノールを使ったATJ、CO2を使った合成燃料などの製造技術があります。

また、CO2と水素を合成して製造される「合成燃料」(「エンジン車でも脱炭素?グリーンな液体燃料『合成燃料』とは 」参照)由来のSAFについても、技術確立に向けた研究開発が進められています。製造技術予測では、合成燃料由来のSAFは、2050年にはSAF原料のおよそ半分を占めるようになると見込まれています。

欧州の機関が発表した、将来のSAFの製造技術予測
将来のSAFの製造技術予測です。2030年以降、ATJと合成燃料が伸びると予測されています。

(出典)Sky NRG「A Market Outlook on SAF

今後、SAFの導入を拡大していくためには、安定的な原料確保に向けた取り組みが必要不可欠です。さまざまな技術開発が進むことでSAFの利用がさらに促進され、航空のグリーン化へとつながることが期待されています。

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