エネルギー政策を考えるための、4つの理想

イメージ画像

電気・ガス代やガソリン代の高騰、新しい発電技術の実験、災害による停電、原子力発電の再稼働、気候変動対策を話しあう国際会議...などなど、エネルギーに関連するニュースを見ない日はありません。そうしたニュースを見ていて、なぜエネルギーの問題はすぐ解決できないの?カンタンな話じゃないの?と思ったことはありませんか。実はエネルギー政策は、どうしても複雑なものになってしまうのです。なぜなら、私たちの生活や仕事に大きな影響をあたえるエネルギーは、さまざまな"理想"を同時に追求し、バランスをとっていく必要があるからです。今回は、エネルギーを考えるカギとなる、4つの"理想"を見ながら、エネルギー政策のあるべき姿について考えてみましょう。

理想のエネルギー1「絶対に安全なものを使いたい」

どのエネルギーを使うか選ぶにあたって、まずは安全性が気になるという人は多いでしょう。「安全性(Safety)」は、実際の日本のエネルギー政策を考える時にも、大前提とされているものです。

東京電力福島第一原子力発電所で起こった原子力発電事故の経験や、それに対する反省と教訓は、2011年以降、日本のエネルギー政策の原点となっています。

福島第一原子力発電所の写真です。

福島第一原子力発電所の1号機〜4号機(2020年撮影)

また、今や身近な存在となった太陽光発電では、自然災害で発電設備が飛散したり崩落したりする事故も起こっており、こうした新しい電源(電気をつくる方法)についても安全対策が必要となっています。

安全に「絶対」はありません。どのエネルギーを使うにせよ、安全性の高いものを追求していくことが求められています。

太陽光パネルが自然災害で崩落した事例の写真です。

太陽光発電所の自然災害による被災例(「大雨でも太陽光パネルは大丈夫?再エネの安全性を高め長期安定的な電源にするためには1」参照)

理想のエネルギー2「いつでもどこでも安定して使えるようにしてほしい」

ロシアによるウクライナ侵攻で、あらためて、エネルギー輸入にともなうリスクが注目されています。ひとつの国や地域からの輸入に依存すると、国際情勢の変化により、供給があやうくなる日が来るかもしれません。

あわせて、輸送ルート上のリスクも考えておかねばなりません。特に、ホルムズ海峡やスエズ運河などの「チョークポイント」、船舶の往来が集中する重要ポイントで何か起これば、輸送はむずかしくなります。さまざまなエネルギー源を、さまざまな国から、チョークポイントを通過しないルートで輸送することが望まれます。

世界のチョークポイントの一覧
世界地図上でチョークポイントを示した図です。

大きい画像で見る

輸入リスクにそなえるためには、自給率を高めていくことも大切です。また、近年増えている自然災害に強いエネルギーシステムをつくることも、安定したエネルギー供給には必要です。エネルギーは生活や仕事に必要不可欠なものなので、「エネルギーの安定供給(Energy Security)」を考えさまざまな対策をうっておくことは、重要な政策です。

主要国の一次エネルギー自給率比較(2019年)
主要国の一次エネルギー自給率を示したグラフです。日本は2019年で12.1%、35位と低くなっています。

大きい画像で見る

理想のエネルギー3「値上がりすると生活が苦しい。安いものがいい」

2021年から、ガソリン代や電気料金が上がっています。その理由は、世界情勢の影響で、燃料の需給がひっ迫しているためです。新型コロナウイルス感染症からの経済回復によるエネルギー需要の急拡大、天候不順や災害、石炭や石油採掘への投資控え、2022年初頭のロシアによるウクライナ侵攻など、複数の要因が燃料の、ひいてはエネルギー価格の高騰をもたらしています。

ほかにも、再生可能エネルギーの拡大により増加している「賦課金」(電気料金に上乗せされている、再生可能エネルギーの買い取りコスト)や、少ない燃料で大量のエネルギーをつくることができているかといった効率性も、エネルギー価格に影響をあたえます。

固定価格買取制度導入後の賦課金(ふかきん)の推移
賦課金(ふかきん)の推移を示したグラフです。

大きい画像で見る

エネルギー価格は、みなさんの生活や仕事に広く影響をおよぼす可能性があるため、エネルギー政策では、「経済効率性(Economic Efficiency)」を考えることも大切です。

理想のエネルギー4「地球のため、環境にやさしいものを選びたい」

「カーボンニュートラル」「脱炭素」など、気候変動対策としてのCO2削減が大きな注目を集めています。エネルギーからのCO2排出は日本のCO2排出量の多くを占めるため、エネルギーにもCO2を排出しないクリーンエネルギーへの転換が求められています。個人や企業の間でも、クリーンなエネルギーへのニーズは高まっています。

日本の温室効果ガス排出量(2019年度)
2019年度の日本の温室効果ガス排出量を示した円グラフです。エネルギー起源CO2は85%となっています。

大きい画像で見る

また、「環境にやさしい」という観点では、発電時だけでなく、モノが生まれてから廃棄されるまで一連の流れのなかで排出されるCO2つまり「ライフサイクルCO2」の量や、SOx(硫黄酸化物)やNOx(窒素酸化物)といった大気汚染物質の排出、あるいは放射性廃棄物などについても考えなくてはなりません。このような「環境適合(Environment)」も、エネルギー政策で重要となる要素のひとつです。

「S+3E」をバランスよく実現し、ベストなエネルギー政策を考える

ここまで見てきた4つの"理想"は、どれも重要なものです。でも、4つをまとめて叶えられるような夢のエネルギーは見つかっていません。そこで、さまざまなエネルギーを組み合わせて、4つの"理想"をできるだけバランスよく実現し、リスクを低くできるようなエネルギー政策が必要となるのです。

4つの"理想"は、頭文字をとって「S+3E」と呼ばれ、日本のエネルギー政策の基本的方針となっています。みなさんも4つの"理想"をふまえつつ、どんなエネルギー政策がいいか考えてみてはいかがでしょうか。

お問合せ先

長官官房 総務課 調査広報室

(注記)掲載内容は公開日時点のものであり、時間経過などにともなって状況が異なっている場合もございます。あらかじめご了承ください。

最新記事

AltStyle によって変換されたページ (->オリジナル) /