基本方針の決定(基本方針)

基本方針

災害被害を軽減する国民運動の推進に関する基本方針

平成18年4月21日

中央防災会議決定

はじめに −安全・安心に価値を見出し行動へ−

近年の度重なる自然災害や事件・事故により、安全・安心の価値がこれまでになく社会の中で認識されるようになってきた。自然災害からの安全・安心を得るためには、行政による公助はもとより、個々人の自覚に根ざした自助、身近な地域コミュニティ等による共助が必要であり、社会のさまざまな主体が連携して減災のために行動すること、それらの主体がしかるべき安全のための投資を行うことが必要である。そしてこの行動と投資を持続させるための社会の仕組みを作っていかなければならない。

この動きが社会全体に広がっていき、個人や家庭、地域、企業、団体等が日常的に減災のための行動と投資を息長く行う国民運動を展開することにより、災害の被害を軽減し、一人でも多くの人を救うことにつなげていかなければならない。

これまで、防災への取組は、ともすれば専門家や防災担当者に任せて行うものと考えられていたが、最近、様々な主体の連携による新しい取組の萌芽が見られる。国民運動の展開に当たっては、防災活動へのより広い層の参加を確保し、参加者に正しい知識を分かりやすく提供することが必要である。さらに、防災知識を身につけ、防災意識を持った参加者が、企業や家庭において防災のための投資を促進し、幅広いネットワークを組織することが必要である。

このような取組を、国民一人一人、各界各層において、息長く続けていかなければならない。

そこで、以下の事項を基本方針として、国民運動の展開を図っていくこととする。

1.防災(減災)活動へのより広い層の参加(マスの拡大)

(1)地域に根ざした団体における身近な防災への取組
自治会・町内会等、PTA、婦人会、青年会議所、商工会議所等の地域に根ざした団体は、従来防災に関心を持ってこなかった人々に関心を持たせ、知識を提供するため、家具の固定など身近な防災への取組を行う。
様々な団体の日常的な環境、福祉、防犯、消費者保護、青少年育成、社会教育、地域慈善等の活動に防災の要素を取り入れる。例えば、防犯パトロールに防災の視点を加える、定期的なイベントがあるときはそこに防災のプログラムを組み込む、地域の祭りやスポーツのイベントに防災のコーナーを設ける、などの工夫を行う。
(2)予防的な取組を加味した防災訓練の工夫
地震時に家庭や職場で死亡、負傷することのないようにすることが大事であることを周知し、地域、学校、職場等において従来行われてきた防災訓練の内容を、ハザードマップの確認、家具や備品の固定、飛散防止フィルムの貼り付け等、被害減少のための予防的な取組を積極的に加味したものに工夫する。
災害時に的確な防災行動をとるためには、予報・警報等を正しく理解し、それに基づいて的確に行動することが重要であることを認識し、地域、学校、職場等において、例えば津波警報や洪水警報が発表された場合を想定した実践的な訓練の実施等の取組を推進する。
(3)地域における耐震補強の取組の面的な広がりの推進
地震による死傷者を減らす上で最も効果が高い対策である住宅の耐震補強について、近年、自治会・町内会等、NPO、企業、自治体等様々な組織が連携して取り組み、効果をあげつつある地域が出ていることから、類似の地域への面的な広がりを推進する。
(4)防災教育の充実
小学校、中学校、高等学校等の教育機関は、少年期からの教育が重要であることから、防災に関する教育の充実に努め、その際、郷土の自然災害の歴史等を学ぶ機会の確保に努める。また、中高生が地域の防災活動の担い手となる例も見られることから、それらの事例を周知し、このような取組を促進する。
大学生に対しては、地域での有力な支援要員になりうることから、防災の担い手としての観点を含めた意識啓発を進める。例えば大学と様々な団体の連携のプログラムとして、あるいは、大学生の課外活動として、防災セミナーなどを開催する。
公民館等社会教育施設は、身近な地域の防災活動の拠点として防災教育の推進に努める。例えば、消費者の視点も加味した主婦向けの防災講座の開催等を行う。
(5)トップから一人一人まで参加者への動機づけ
これらの活動の展開に当たっては、人々の災害への漠然とした関心を明確化し、活動への参加の動機付けを行う。また、減災活動を実践する人の姿やその成果を身近に見せることにより、周りの人々の行動を促す契機を数多く作り出す。また、減災活動のキーマンとなる人材を発掘する。
地域社会及び各組織における防災活動への取組が、社長、首長等組織のトップ及び自治会・町内会等の長等地域社会のリーダーの資質に関わる重要事であるということの周知を徹底する。

2.正しい知識を魅力的な形でわかりやすく提供(良いコンテンツを開発)

(1)多様な媒体の活用による防災教育メニューの充実
教育機関及び民間団体等は、絵本や写真集、紙芝居、漫画、ゲーム等様々な媒体を活用してより魅力的な防災教育を行う。また、インターネット上のホームページ等で防災教育メニューの充実に努める。
(2)災害をイメージする能力を高めるための質の高い防災教育コンテンツの充実
災害現象や防災の研究を専門とする学協会などの知恵を結集し、災害をイメージし、的確に行動する能力を高めるための防災教育ツールを開発する。特に、家庭や職場にあって被災時の行動を予測するためのツールを開発する。また、報道機関や専門的な研究機関の協力を得て、実写やシミュレーション映像等を用いた質が高く啓発効果の高いコンテンツを作成する。
生活に密着した切実な災害の体験談を収集し、防災教育に役立てることにより、災害の記憶や教訓を自らのこととして個人に実感させる。
郷土の災害史などを報告書や啓発書、演劇、記念碑、イベント等様々な媒体で継承し、各地域での防災教育に役立てる。その際には、自然がもたらす災害と恩恵の多面的、総合的な理解を通じて、地域に根ざした防災意識をはぐくむよう努める。
防災教育の教材開発が効果的に行われるよう、それらを活用する学校や公民館等が、ツールやコンテンツを提供する側と直接対話する機会を設ける。
障害者、高齢者や外国人等を勘案し、防災教育教材のユニバーサルデザイン化や多言語化を進める。
(3)災害のリスクや対策等に関する情報の作成、公開、周知の徹底
被害想定やハザードマップ等地域の災害リスクに関する情報、市町村等の地域を対象とした防災気象情報等の充実及び地震防災戦略に基づく地域目標等の作成、公開を進め、周知を徹底し、災害被害の軽減に役立てる。その際には、将来、身近に起こりうる災害イメージを分かりやすく想起できるような工夫をする。
提供開始に向け準備が進められている緊急地震速報は、極めて短い時間であっても強い揺れが到達する前に地震発生の旨を知らせ、防災対応を促すことにより被害の軽減を図るための情報であり、その特徴が広く認知されて初めて混乱なくかつ有効に機能することから、国民一人一人がこの情報の特徴を理解して的確な行動をとれるよう、普及啓発を進める。

3.企業や家庭等における安全への投資の促進(投資のインセンティブ)

(1)企業や家庭等における安全への投資の促進
政府及び自治体は正しい防災知識の普及、インセンティブの一層の周知に努め、物資の備蓄、耐震補強等安全への投資を促す。また、防災関係技術の展示会や製品見本市等の開催を推奨する。
企業及び家庭は、命を守る上でも、復旧・復興にかかる多大なコストに比べても、事前の減災投資がはるかに効果的であることを認識し、正しい防災知識とインセンティブを積極的に理解するよう、社内・家庭内や企業・家庭相互に意識を高め、職場や自宅での安全への投資に努める。
(2)ビジネス街、商店街における防災意識の醸成
ビジネス街、商店街における防災への積極的な取組によりまちの安全性を高め、これを対外的にまちの魅力として周知する。また、防災への自主的な取組は地域や組織が自己点検で活性化できる絶好の機会となることを周知し、言わば「守る防災から攻める防災へ」の意識を醸成する。
(3)事業継続計画(BCP)への取組の促進
企業の事業継続は、企業の活動のみならず、地域住民の生活を支えるのに不可欠であることから、災害時に重要業務を継続するための事業継続計画(BCP)を策定し継続的に改善するよう努めることが望ましいので、政府は企業防災の取組を促進する。また、政府、自治体等も災害時の業務継続に取り組む。

4.より幅広い連携の促進(様々な組織が参加するネットワーク)

(1)企業と地域社会の連携
企業と地域社会は、組織的な救援や物資の提供に資する新たな連携を進める。これらを契機として協定参加者や登録者の平時の防災意識の高揚を図る。
(2)様々な主体が連携した地域における防災教育の推進
国の機関、自治体、大学、学校、公民館、PTA、企業、ボランティア団体等は、連携して地域での防災教育を推進する。
(3)災害に関する情報のワンストップサービス
災害に関する予報・警報、発災時の安全情報、安否情報や各種ライフラインの復旧情報など、各地域ごとの情報を、分かりやすくワンストップで提供する仕組み作りを進める。また、平時においても、防災に関するあらゆる情報にアクセスできるインターネット上の場づくりを進める。これらの情報提供に新しい媒体を積極的に活用する。
(4)防災ボランティアの地域社会との積極的な連携
防災ボランティアに対し、身近な地域において自治体や他の団体との連携、災害時だけでなく平時の減災のプログラムへの積極的な参画等、身近な地域社会と力を合わせて減災を図る取組を日常的に進めることの重要性を訴える。

5.国民一人一人、各界各層における具体的行動の継続的な実践(息の長い活動)

(1)国民運動の継続的な推進枠組みの形成
現在の防災週間推進協議会をもとに、国民運動の継続的な推進のための全国的な枠組みを作り、防災週間及び防災とボランティア週間を最大限に活用して防災意識を高揚するための様々な取組を行い、全国民の参加を呼びかける。また全国火災予防運動、建築物防災週間等、広く防災に関連する記念日、週間等の機会を活用する。
(2)地域における防災活動の継続的な推進の枠組み作りの促進
国の地方機関、自治体と自治会・町内会等、PTA、婦人会、青年会議所、地域の経済団体等の各団体、企業等が参加する、都道府県及び市町村レベルの防災活動の継続的な推進の枠組作りを促す。各地の災害の記念日などを含めた防災関連のイベントにより意識啓発を進める。また、日常の防災活動においても、地域における安全・安心のまちづくりの実践を進める。
(3)防災活動の優良な実践例の表彰
様々な分野での優良な実践例を全国的にあるいは地域ごとに継続的に表彰することにより、多数の応募者の防災活動を経年的に促進する。
(4)人材育成のためのプログラムの開発
様々な組織の防災担当者、防災に関する知識の解説者、実践のリーダー等、キーとなる人材の育成を行うためのプログラムの開発を積極的に進める。
(5)インセンティブの拡大の検討
政府及び民間部門は、自発的で持続的な防災への取組のためのインセンティブの拡大につき検討を進める。

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内閣府政策統括官(防災担当)

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