・200301:2003年(平成15年) 水俣豪雨災害
【概要】
(1)被害の概要
平成15年7月18日から20日にかけ、九州北部の対馬海峡に停滞していた梅雨前線に向かって、九州南西海上から暖かい湿った空気が舌状に流れ込み(「湿舌」と呼ばれる現象)、九州各地に局地的な集中豪雨をもたらした。
1被害状況
この豪雨によって発生した土砂災害や洪水被害により、熊本県、鹿児島県、福岡県、長崎県の各県であわせて23名が犠牲になった。
特に、熊本県においては、20日未明、熊本県水俣市の深川新屋敷(ふかがわ・しんやしき)地区と宝川内集(ほうがわち・あつまり)地区の2つの地区で発生した土石流災害により19名が犠牲になり、また、物的被害の額も県南地域を中心に県下50市町村で176億円にのぼった。
表1 水俣豪雨災害の主な被害状況(熊本県)
2主な災害箇所(水俣市)
図1 水俣市の主な被害箇所
(出典)水俣市総務課防災危機管理室『平成15年水俣土石流災害記録誌〜災害の教訓を伝えるために〜』平成20年3月。
(2)災害後の主な経過(熊本県、水俣市)
・水俣市では、午前5時、水俣市災害対策本部を設置し、直ちに警察、消防本部等に対し協力要請するとともに、午前5時20分、水俣市長は水俣市全域に避難勧告を出した。また、午前5時57分、水俣市長は県に対し自衛隊の災害派遣要請の連絡を行った。
・熊本県は、水俣市長からの連絡を受け自衛隊に対し災害派遣要請の一報を行うととともに、警察本部等から水俣市で死者が発生しているとの情報を受け、午前6時30分、熊本県災害対策本部を設置した。
・熊本県は7月31日、それまでの「災害対策本部」を「災害情報連絡本部」に変更するとともに、地元の芦北地域振興局に「水俣芦北地域災害復旧対策本部」を設置した。また、水俣市では8月4日に「市災害対策本部」を解散し、「災害復旧本部」へと移行した。
表2 災害後の主な経過(熊本県、水俣市の取組状況)
【参考文献】
1) 水俣市『2008年市勢要覧』平成20年3月。
2)熊本県総務部危機管理、防災消防総室防災班『平成15年7月県南集中豪雨〜水俣市土石流災害等〜』平成17年4月。
3)水俣市総務課防災危機管理室『平成15年水俣土石流災害記録誌〜災害の教訓を伝えるために〜』平成20年3月。
・熊本県は7月31日、それまでの「災害対策本部」を「災害情報連絡本部」に変更するとともに、地元の芦北地域振興局に「水俣芦北地域災害復旧対策本部」を設置し、また、本庁には、「被災者支援対策連絡会議」「災害復旧対策連絡会議」「災害防止対策連絡会議」を設置して、災害復旧対策と災害防止対策に体制を移行させた。
・熊本県は、水俣市、学識経験者、地元住民による「水俣市土石流災害検討委員会」及び「水俣市土石流災害復旧計画検討会」を設置した。「水俣市土石流災害検討委員会」では土石流災害の発生と被害拡大の原因究明、復旧の方法や警戒避難体制等の検討を行い、「水俣市土石流災害復旧計画検討会」では、地元住民や行政等の意見集約と被害再発防止対策や早期復興の検討を行った。
・水俣市では8月4日に「市災害対策本部」を解散、市長を本部長とする「災害復旧本部」へ移行した。本格復旧に向けて復旧計画の住民説明会を実施し、順次着手した。
【参考文献】
1)国土交通省中部地方整備局富士砂防事務所『災害から明日を築く−土砂災害地域復興の教訓集−』平成20年2月。
○しろまる復旧・復興計画の策定経緯
・本災害では全体を統括した復興計画は立案されていないが、復旧計画の立案にあたっては、砂防担当部局がリーダーシップを発揮した。再被災の防止を前提とした砂防施設計画を早期にまとめ、保安林を担当する林務担当部局との調整を進めながら、災害の発生から約45日後にあたる9月4日の第1回復旧計画検討会に計画案を提示することができた。
○しろまる復旧・復興計画の基本方針
・特に大きな被害のあった宝川内集地区においては、熊本県による県営事業として治山事業、砂防事業、農地災害関連区画整備事業を組み合わせ、一体的な復興を図るという方針で、各機関が連携して復旧事業を行うこととなった。以下に、宝川内集地区復旧計画の基本方針を列挙する。
1効率よく、できるだけ早い復興を図るため、関係機関が連携して事業を行う。
2不安定な土砂に対して、治山事業と砂防事業が連携して対処する。
3崩壊地については山腹工で不安定な土砂を抑え、斜面の緑化を図る。山腹工の計画においては地下水の処理に留意する。
4渓流については、階段状に治山施設(谷止工)を設置し、山脚を固定するとともに、縦断勾配を緩和し、土砂等を緩やかに流す。
5農地復旧は、効果的な営農が図れるように、被災していないところまで含めた区画整理方式で行う。
6地区内にある転石等をなるべく有効利用し、自然景観に配慮する。
○しろまる主な復旧計画
・宝川内集地区の復旧、・林地復旧、道路復旧、・農地災害関連区画整備事業による宅地と農地の再生
○しろまる主な復旧・復興事業
・災害関連緊急治山事業、林地荒廃防止施設災害復旧事業、災害関連緊急砂防事業、農地災害関連区画整備事業
○しろまる住民への対応
・事業を実施するにあたって、事業説明会を通じて、県や市が地区住民とのコミュニケーションを早い段階から図っていたため、その後の対応を円滑に進めることができた。
写真 区画整理後の宝川内集地区
(出典)国土交通省中部地方整備局富士砂防事務所『災害から明日を築く−土砂災害地域復興の教訓集−』平成20年2月。
【参考文献】
1) 農林水産省農村振興局防災課災害対策室『災害復旧の円滑な実施のために(災害復旧の実務)』平成18年1月。
2)国土交通省中部地方整備局富士砂防事務所『災害から明日を築く−土砂災害地域復興の教訓集−』平成20年2月。
○しろまる復興事業の進捗状況と概要
・被害の大きかった宝川内集地区においては県施工の治山事業、砂防事業、農地災害関連区画整備事業を組み合わせて一体的な復興を図る方針で事業が進められている。
○しろまる教訓等
・農地については、単なる災害復旧方式ではなく、農地の効率的な集約と宅地の確保という観点から農地災害関連区画整備事業が実施された。農地だけの復旧という案もあったが、地区全体の復興をめざして被災していない農地・宅地も含めて集約するというやり方が地区の再建上は有効だと判断された。
・宝川内集地区では、地権者も各事業について重複していたため、まず全体の事業計画の説明が県主導で早期に行われ、その後、個別事業の説明を行うという方法をとった。説明会には県、市、関係機関、集落の人たちが集まり、計画事業の了解を得て進めた。
・当地区は、昔から人のまとまりの強い地区であるといわれ、県や市が事業に関して説明会等を通じて地区とのコミュニケーションを早い段階から図っていったことがその後の対応を円滑に進めることができた要因にもなった。
表 事業概要