・200101:2001年(平成13年) 芸予地震
【概要】
(1)被害の概要
1発生日時
平成13年3月24日(土)15時27分頃
2震源地
安芸灘(北緯34.1度、東経132.7度)
3震源の深さ:46km
4規模:マグニチュード6.7
5各市町村の最大震度(震度6弱以上)
震度6弱:広島県河内町、大崎町、熊野町
震度5強:広島県川尻町、倉橋町、府中町、下蒲刈町、能美町、三原市、海田町、音戸町、安芸津町、豊浜町、豊町、向島町、大柿町、千代田町、豊栄町、本郷町、呉市、黒瀬町、山口県和木町、愛媛県今治市ほか
図1 芸予地震の震度分布図
(出典)大阪管区気象台HP「平成13年芸予地震について」
6被害状況
芸予地震による主な被害状況(人的被害・住宅被害)は下表のとおりである。死者の50%、負傷者の67%、住宅被害(全壊)の93%が広島県に集中している。
被害の特徴として、一つには、擁壁・宅地の被害が多発した。たとえば、呉市などでの階段状の宅地における石垣崩壊による全壊被害の建物が多く発生した。二つ目には、降雨による二次災害防止のための避難勧告が呉市など5市町で発令され、呉市では最大217世帯507名(3月30日20時30分)が避難した。
表1 芸予地震の主な被害状況
(出典)内閣府「平成13年芸予地震について(平成15年9月19日)」
(2)災害後の主な経過
・地震後の応急対策について、呉市は、地震発生直後の3月24日午後3時30分に「呉市災害対策本部」を設置すると同時に、災害危険地の二次災害防止のため、「呉市災害危険地対策本部」を設置し、実施した。
・また、復旧・復興対策については、4月13日に「呉市芸予地震災害復興本部」を設置し、被災住民の生活再建、生産活動の支援、土木・農林水産施設などの本格的な復旧などに取り組んだ。
表2 災害後の主な経過(広島県呉市の取組状況)
【参考文献】
1)東京大学地震研究所ホームページ『平成13年芸予地震の震度分布』。
2)内閣府『平成13年芸予地震について』平成15年9月。
3)呉市『平成13年芸予地震 呉市の被害と復興への記録』平成14年7月。
・被害調査は専門家と消防が協力して実施。
・芸予地震の当時は明確に基準がなく職員には「阪神の時の基準を参考に判断」するよう伝えた。
・損害保険会社や簡易保険などそれぞれが独自に判定していた。損害保険会社は被害認定の基準が緩く「全壊」が多かった。損害保険の判定により被災者は「全壊」と思っても、行政からは「半壊」と判断される場合もあり、トラブルが生じたこともあった。
・半壊と一部損壊については、支援が大きく異なるため、一部損壊と判断された被災者からの苦情が多く、何度も再調査を行った。
・被害調査だけでも、被害概況把握の調査、救助法適用に向けた調査、り災台帳作成のための調査等、目的により複数の被害調査を実施した。
・応急危険度判定は住民からの要望により実施したが、その都度、職員が説明をするため、特に混乱はなかった。
○しろまる被害調査
・被災の翌日(3月25日)から消防局が被害調査を開始した。
・消防局の調査は、件数が多いため目視で判断した。そのため、基礎の石垣が崩れていないが傾いた等の被害は当初把握することができなかった。
・全壊、半壊の判断基準がないため、判断に時間がかかり何度も再調査を実施した。全壊戸数の最終確定に1週間以上かかった。
・再調査も消防局が担当した。建築士の資格のある職員が同行した場合もあった。
・り災証明の発行については、全被災戸数の確定の前であったが4月5日から開始した。納税課が担当した。
○しろまる応急危険度判定
・応急危険度判定についても、被災の翌日から建築指導課が調査を開始した。
・応急危険度判定士の資格を持つ職員を中心に、場合によっては建築士に同行してもらい調査を実施した。
○しろまる宅地危険度判定
・土木関連の職員が調査を担当した。人数不足のため、土木の経験があれば、異動して別な部署にいる職員も動員した。
・急傾斜地に宅地が密集している呉市の宅地事情を考慮した場合、専門家による正式な基準による判定を実施すると、地震の被害の有無にかかわらずほとんどの地区が危険と判定されてしまう。そのため、ある程度事情を把握している職員で対応した。
・現場に行った際に住民から相談を受ける場合もあった。回答できる範囲についてはその場で対応し、必要に応じて担当部署の紹介などを実施した。
・災害救助法適用の判断は県が実施するが被害の判断が難しかった。
・例えば、島しょ部は、水道を本土から送っているが、断水が適用の範囲になるかの判断に時間がかかり、適用に29日までかかった。
・適用に必要な調査は市町村が実施した。市町村の場合は、主に調査の中心が消防になる。しかし、消防は人命救助などが主要な任務となるため、被害調査の実施が遅れてしまう。
・呉市の例でみると、市が最初に提出する被災状況は、戸数で報告するため、世帯数までは分からなかった。報告を市から受け、県が1戸あたりの世帯数の確認をした。世帯数の確認のデータは市から提供された。
・明らかに被害が大きければ認定に時間はかからないが、呉市の場合のように、急傾斜地の被害の判断に時間がかかったり、被害自体が被災者生活再建支援法の適用範囲を多少超える程度の場合には、適用の判断に時間がかかってしまう。
・国会議員や中央省庁からの視察について県は、危機管理室が対応した。呉市など、被災地の市町村からも担当者が来て対応していた。
・急いで最新の資料を用意したり、要望書も作成しなければならない。各課の要望書のとりまとめは財政課が担当した。
・視察は急に来る。しかし、必ず来ることは分かっているのだから、基本となる書式や、どのような情報を報告するべきかについて事前に検討しておく必要がある。
・国会議員等の視察窓口は企画課が担当し、必要に応じ担当部署の職員を集めて対応した。
・国会議員が個人で視察に来る場合は、突然連絡が来ることが多く、災害対策特別委員会等の視察など団体で来る場合よりも、対応に苦労した。
・本省の職員が調査のために数日滞在するような場合も、そちらに担当者を割り振らなければならないために苦労した。
○しろまる二次災害が発生する恐れのある危険区域の早急対応に向け、災害対応の実践機関間の意思疎通を図り迅速な対応策の検討を実施するために、「災害危険地対策本部」を設置した。
○しろまる新しい要綱を検討することは、一つの部署ではできないが、関係機関の部長、理事クラスが集まって検討することで早期決定が可能となった。
○しろまる災対本部会議となると、市長は陳情など対外的な活動で不在なことが多いため、このような組織を作ったことでスムーズに意思決定ができた。
・呉市では、地震から約3週間が経過し、緊急の課題であった被災住民の生活再建、生産活動の支援、土木・農林水産施設などの本格的な復旧などに取り組むため、市長を本部長とする「呉市芸予地震災害復興本部」を4月13日に設置した。
・復興本部は、市長を本部長とし、助役を副本部長とし、下表に掲げる職にある者をもって組織された。また、災害復興本部及び事務局の庶務は、総務部総務課で処理することとした。
・復興本部では、各部署で取り組んでいる災害応急対策や災害復旧対策を進める上での問題点や各種情報を共有し、市全体の業務を把握することにより、市民への対応や復興対策を円滑に進めることとした。
表 災害復興本部の組織表
(備考)この表に掲げる次長、参事補及び主幹の職に二人以上の者が就いている場合には、災害対策を担当する者をもって事務局員とする。
・今回の災害において復興計画は策定されていない。
・但し、災害復興本部における下記業務の内(「呉市芸予地震災害復興本部設置要綱」第2条)、とくに(1)の災害復旧については、現行の各種法令の規定により恒久的災害復旧計画を作成し、速やかに応急復旧を実施することとされているため(「呉市地域防災計画」第4章災害復旧計画」)、それぞれの所管部署では復旧計画に基づき事業を実施することになる。
(1)土木・農林水産その他の施設の災害復旧に関すること。
(2)被災住民の生活再建・生産活動の支援に関すること。
(3)その他災害復興及び災害対策の調整に関すること。
○しろまる実施の経緯
・被災者が早急に再建をするには、一括補給を実施することが効果的であると判断し、今回の災害のみの特例として実施した。
・被災者への周知や申し込み手続きは市町村が対応した。
表 住宅金融公庫の利子補給制度等の利用推移 [単位:件、千円]平成15年1月16日現在
・民間擁壁については、基本的には被災者が各自で対応していたが、被害が大きいところについては、災関緊急特例事業で対応した。(次頁参照)
・その他、がけ地近接等危険住宅移転事業については、通常78万円の補助金に新たに122万円を上積みし、計200万円を補助した。上積み分については県と市が1/2ずつ負担した。
○しろまる災関緊急事業
・事業の主体は県であるため、市は事業開始前までの被害の把握、事業の説明、土地所有者の所在確認等を実施。また、土地所有者との用地折衝も市が対応した。
・対象となった土地は呉市に提供することになり、従前居住者には呉市が市営住宅を提供した。
・個人の財産権の問題や、単なる用地折衝と異なり被災者でもあることを配慮して対応しなければならないため、どこまで介入するかが難しかった。
・災関事業は平成13年度までであり、平成14年度は市の事業として実施(平成14年度限り)。
表 芸予地震に係る災害関連緊急急傾斜地崩壊対策事業の採択基準に関する特例措置
○しろまる被害があった物の補修については、平常時からある文化財の補修の制度を適用した(所有者に対し、県から1/2、残りを市町村が費用負担する)。
○しろまる補修等で重要なのは、文化財の価値を損なわないようにすることであり、他の被害対応と異なり、単純に急いで修復することは適切でない。技師や専門家に確認してもらいながら、連携して取り組んでいくことが必要である。
○しろまる被災時は、文化財だけではなくその所有者の建物のほうに被害が発生する場合が多いため、所有者からの報告が後回しになりかねない。所有者、地元の教育委員会、県との連携を密にしておく必要がある。