陽だまりから

今日もマスワリ目指して
横浜弁護士会会員 三谷 淳
運命的な出会い?
修習生の時に、ふとしたきっかけからビリヤードと出会った。玉屋(ここではビリヤード屋の意味)の近くに住み、週9回は通った。最初は「いらっしゃいませ」と出迎えてくれた店員さん達からも、1日に何度も店に顔を出すと「お帰りなさい」と声をかけられるようになった。ビリヤードは初心者にとってはなかなか難しいスポーツだが、店員さんに教わりながら少しずつ上達していった。2つ、3つと球を連続で落としていった爽快感は格別である。
弁護士になったら、さすがに球なんぞ撞く時間はないだろうと思っていたが、ビリヤード熱は冷めることがなく、相変わらず玉屋のそばに部屋を借り、寸暇を惜しみ、睡眠時間を削って球を撞く毎日が続いた。一体ビリヤードの魅力とは何か。ビリヤードは常に次の次を考えてゲームを組み立てる戦略性が要求される。これに上級者が必ず勝つとは限らないという「運」の要素が加わって、単純だけど実に奥の深いゲームになっているのだ。しかし、そんなことより、酒を飲まない私は、ビリヤードに集中することで仕事を忘れ、仕事と関係のない友達とわいわい話をすることでストレスを発散しているのだと思う。
麻雀を始めた人が1度は役満をあがりたいと思うように、ビリヤードを始めた人のあこがれはマスワリである。マスワリとはブレイク(ゲームのスタート)から最後の9番ボールまで一度もミスすることなくパーフェクトで落とすことである。これを初めて達成したときの感動は今でも忘れられない。
そんな私も結婚し、妻との2人暮らしとなった。結婚したらさすがにビリヤードはやめるだろうと思っていたが、いまだ玉屋の近くに新居を借りて、週に数回玉屋に通う毎日が続いている。マイキュー(自分専用の球を撞く道具)もいつの間にか4本に増えた。ビリヤードのプロに指導を仰ぎ、お店が主催する試合にも参加するようになった。マスワリを達成した回数も数え切れなくなり、念願の初優勝も経験した。それでも、練習すればもう少し上達できるのではないかという向上心がある限り、もうしばらく玉屋通いに飽きることはないのではないかと思っている。

年金基金との出会い
さて、今回、「若いのに夫婦で年金基金に加入している」という理由で、この原稿の執筆を依頼された。この執筆依頼の理由を聞いて夫婦で笑ってしまった。
私の場合、弁護士には定年がないとはいえ、還暦を2度迎えることを人生の目標としているので生涯現役でいる自信はない。会社勤めの身分と違い、退職金や厚生年金のない老後に対する漠然とした不安はあった。国民年金だけでは雀の涙ほどの年金しかもらえない上に、将来本当にもらえるかすら疑問がある。加えて、確定申告をするようになり、初めて税金の仕組みを知り、年金基金は全額社会保険控除になると知ったこと、若いうちに加入すればそれだけ掛け金が少なくて済むことを知り、上積み年金である年金基金に興味を持つようになった。
そして、結婚して家族が増えたことを契機に、生命保険とこの年金基金に加入することとなった。私は、生命保険を早死に保険だとすれば、年金は長生き保険だと思っている。私の世代の人たちの中には「年金をもらえるほど長生きしない」とか、「年金はもらう額より支払う額の方が多いから損だ」といった話をする人がいるが、老後の最低限の備えがあってこそ夫婦で安心して長生きができるものだ。

今日もマスワリ目指して
そんな家族想いの私だが、ビリヤードに関してはいまいち妻の理解が得られていない。やはりビリヤードと聞けば娯楽というイメージが強いのだろう。たまにはビリヤードで気分転換をしていらっしゃいとは言ってくれるものの、妻の言う「たまに」はせいぜい月に2、3度。週に9回玉屋に通っていた私とは認識の相違があるようである。
なにはともあれ、ビリヤードは体力差によるハンデが少ない競技で年をとっても楽しめる。試合では1球ごとに自分にかかるプレッシャーは並ではなく、体力よりむしろメンタル面が勝敗を分けるからである。今後も妻の理解が得られる範囲で玉屋通いを続けていきたいと思っている。
ここで、年金基金に加入していれば、老後も玉屋の場代には困らないであろうと書くのは、いかにも月並みというものだろうか。

陽だまり No.23 `03.11より

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