陽だまりから

周囲に迷惑をかけない老後を
奈良弁護士会会員 西村 香苗

1 はじめに
私が国民年金制度を意識したのは、大学を卒業し就職2年で司法浪人生活に入ったときでした。就職と同時に加入していた社保から抜け、再び親の扶養に入ることになるわけですが、とうてい国民年金保険料など払える身分ではなかったので浪人中はずっと滞納しておりました。後で気がついたのですが大学在学中も年金保険料を払わなければならない年になっていたのに全然気がついていませんでした。合格して司法修習生になって再び国民年金保険料を払うようになり、遡って5年までの追納もしました。それで満足していました。サラリーマン家庭に生まれ育った私は、年をとって仕事ができなくなっても国民年金があるから国が面倒を見てくれるとどこまでも脳天気人間でした(だって年齢にかかわらず月々2万近くの保険料ですよ?どんだけ積み立ててるのと思うじゃないですか)。

2 国民年金だけでは足りない!!
弁護士になってから学生無年金障害者訴訟に加わり、国民年金保険料を払っていないことで思わぬ不利益を被ることがあること、また、国民年金だけでは将来生活できない金額しかもらえないということも分かってきました。
私は弁護士の始まりが共同事務所でしたので、こういった保険関係は税金関係とともに事務所でまとめてやってもらっていました。自分が実際に何の保険に入っているのか、税金はどれだけ払っているのかを知ったのは事務所を独立したときでした。
あれ?弁護士国民年金基金に加入しているようだが最低額しか入ってない、これによれば私は弁護士辞めたら月々しろまる万円しか入らないではないか!!と遅まきながら気がつきました。そこで一気に最高額にすればよかったのかもしれないのですが、独立したばっかりで心細かった私は毎年誕生日ごとに掛金を上げることしか思いつかなかったのです。知らぬ間に年をとって・・知らぬ間に上限に来てしまいました。これ以上かけられません。今のままでは健康で文化的な最低限度の生活は送れるでしょうけど、有料老人ホームには入れません。やむなくほかの生命保険を併用しております。
陽だまりを読んでおられる皆様ですでに基金に加入されている方は、安定した老後が確約されているかと思いますが、あのときこうしていれば、と思う弁護士が1人でも減るよう、弁護士国民年金基金に「考えて」加入するようお勧めしています。

3 老後に備えて今から準備を
さて、私は現在後見業務を数多く手がけております。高齢者が被後見人の場合、身寄りのない独居老人および入院中であるケースが多いのですが、私が後見人に就任するくらいですから、とうてい自立した生活に戻ることはできません。いきおい、施設探しが始まるわけですが、このご時世、これだけ高齢者用の施設があふれかえっているにもかかわらず、年金の金額によって選択の幅が変わってくるのです!!最高級老人ホームだと頭金が数千万円および月々の施設利用料が30万円は下りません。もちろん年金以外に資産がある方は別として、年金だけで施設利用料をまかなわなければならない方は、どうしても年金の金額に応じた施設を探さざるを得ません。グループホームも20〜25万円はかかる、有料老人ホームもピンからキリまでありますが、月々15〜17万円の年金では探すのに一苦労します。軽費老人ホームは自立が前提です。特別養護老人ホームは収入に応じた扱いをしてくれますが、要介護度4か5、しかも何年も順番待ちということも珍しくない。日々こういう業務をしていると「ああ、自分のときは子どもたちに迷惑をかけたくないなぁ」と強く思うのです。
もちろん、生涯弁護士、最後まで収入を絶やさないとか、年をとっても1人で何でもこなし、自宅で自立して暮らすことができればそれに越したことはないですが、それができるという保証はどこにもありません。80歳で働けなくなるのか70歳で働けなくなるのか、誰もわかりません。もしかすると明日突然働けなくなるかもしれません。
子孫に美田を残さず、と言いますが、経済的に迷惑をかけることなく老いていきたいなと思う次第です。

陽だまり 2023 No.51より

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