陽だまりから

将来の生活設計を立てていますか?
福島県弁護士会会員 小池 達哉

1 本稿執筆時、新型コロナウィルス感染拡大へ向け、新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)に基づく緊急事態宣言が継続されている。2019年度は日弁連副会長に従事させていただいたが、緊急事態宣言が発せられる数ヶ月前には、日弁連執行部として、オリンピック・パラリンピックの開催を踏まえて7月から8月にかけての会議自粛を呼びかけるなど、中国の出来事を人ごとのように思っていた。ところが、3月に入ると我が事となり、当月の会議自粛を呼びかけ、2020年度執行部に変わった4月以降は、弁護士会館を事実上閉鎖し、当面の会議等の中止等を要請する事態に至っている。
このような状況にいると、東日本大震災・原子力発電所事故後の福島の状況が脳裏によみがえる。以前から福島の会津に居を構えているが、当時、福島県民は「放射能」という見えない相手をおそれ、できるだけ閉鎖された空間で過ごし、やむを得ず外出する際には、帽子をかぶり、マスクを着用していた。物資も不足し、節電が励行され、町全体が暗く重い雰囲気の中、常に風向きを気にしながら、いつ明けるか分からない闇の中を歩んでいた感があった。今もウィルスという見えない相手をおそれ、外出自粛が強く要請されている。当時も今も、誰も予想できない事態であったと思われるが、将来を見据え、そのときにできる最善の策を講ずるほかない。

2 原発事故や新型コロナ感染のように、予測し得ない事態が生ずることは避けがたい。しかし、将来に備え、今できることはある。
弁護士は独立が保証され、自己実現・自己統治が可能な魅力ある職業であるが、裁判官・検察官のように退職金制度はなく、将来の確たる保証はない。弁護士の不詳事例の中には、熟年世代が経済的に困窮して道を踏み外す事例も見受けられる。誰も不祥事を起こしたいはずがなく、因果の流れで行き着いた要素が大きいと思われるが、他方で、将来に対する備えが不十分であったのではないかと感じる事案も見受けられる。日弁連としても、不祥事対策は永年にわたる課題であり、将来への備えはその重要な方策の一つと考えられる。そして、その方策の有力候補の一つとして、日本弁護士国民年金基金が挙げられる。

3 日本弁護士国民年金基金は、日弁連を母体として平成3年8月に設立され、現在、1万人近い加入者が存在する。その運用は堅調で、今後、弁護士数が増加するにしろ減少する可能性は乏しいことから、破綻の可能性はほぼない。掛金は全額所得控除の対象となる(上限81万6000円)。経費で将来設計ができるという優れものである。
弁護士国民年金基金の理事兼推進委員を務めている関係もあり、新入会員研修、弁護士会総会、各委員会、そして各種懇親会の際に、加入勧奨させていただいている。ところが、なぜか関心の度合いは低く、中には日本弁護士国民年金基金の存在すら不知という方もいる。大切なのは将来よりも今であり、管財業務に例えれば、将来の10万円より今の1万円が大事といった感覚なのかもしれない。
しかしながら、「老い」は必ずやってくる。いくら遺伝子工学が発展しても、これだけは避けられない。他方で医療水準は日々向上し、ますます超高齢化が進む。高齢者と呼ばれる年齢はどんどん引き上げられていくと思われるが、やはり年齢から来る肉体的・精神的・能力的衰えは避けがたい。法律家にとって、将来予測を立てた上での予防法務が重要な職務であるが、自分の人生の予防法務はより重要である。もちろん「今」が重要であるが、「今」は次々と流れゆき、「将来」はやがて「今」になる。

4 もちろん、何かを始めるにはインセンティブが必要であるが、例えば、弁護士1年目を迎えた、独立開業した、開業1年目を迎えたといった際に加入すれば、さらなる向上の決意が固められる。専従配偶者も一緒に加入できるので、結婚あるいは出産を機に加入すれば、家族思いとの評価がうなぎ登りとなる。同期よりも先に加入すれば優越感を味わえる。まずは掛金毎月最低単価から始め、毎年定額を上乗せしていけば、業務拡大の精神的礎にもなり、業務が順調に推移していることの証ともなる。早く加入すればするほど、リターンは大きく、将来設計が確固たるものとなる。

5 日本弁護士国民年金基金は良いことずくめの制度といって過言ではない。加入は将来を見据えていることの表れであり、掛金を納付できるという余力の表れである。それは、予防法務にも通暁する能力と弁護士業務を立派にこなしていることの現れといえる。既に加入されている場合は、是非、周囲に自慢して欲しい。加入者の増加が、不祥事予防に寄与し、弁護士業界全体の信頼度アップに繋がるはずである。

6 本稿が日本弁護士国民年金基金加入のもう一つのインセンティブとなり、日本弁護士国民年金基金が将来の「陽だまり」となることを願ってやまない。

陽だまり 2020 No.48より

AltStyle によって変換されたページ (->オリジナル) /