第2回国際マクロ経済問題研究会議事概要
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第2回国際マクロ経済問題研究会議事概要
1.日 時:平成10年10月26日(月)15:30〜17:00
2.場 所:経済企画庁官房特別会議室(729号室)
3.出席者:
近藤剛座長、小島明、中山真一、高阪章、黒柳雅明、岡田靖、奥田英信、石本聡、小川英治、大坪滋の各委員
中名生総合計画局長、染川計画官他
4.議 題:
�世界経済の現状−通貨・金融危機とその影響−
�通貨・金融危機は何故起きるのか
�過去の危機との比較
5.審議内容:
�「世界経済の現状−通貨・金融危機とその影響−」について
事務局から説明の後、討議。委員からの主な意見は以下のとおり。
- 日本の問題がアジアにどれほどのインパクトを与えてきたか、あるいは与えているかという点を押さえておくことも必要。日本の金融機関も国内でインターバンクマーケットが収縮する中で国内の金融デフレがあるが、同時にオフショアでもジャパンプレミアムがあって採算にのらずどんどん撤退しているという日本発の信用収縮についても最近議論されており、そのあたりを押さえておくことも必要。
- 短期の危機からの脱出、あるいは短期の問題を論じるためには、IMFなどの処方箋をどうするかということを触れなければならない。成長率の見込みを半年毎に下方修正をしているプロセスをみると、アジアは民間部門、特に金融仲介システムの問題があって、それに対する引き締め政策のインパクトを過小評価してしまったことがIMF型処方箋の最大の問題であったと思う。そうであるならば、将来に向けては処方箋ということになるだろうし、過去に向けては診断の誤りということで、どこかで論じる必要がある。
- 今回、円、ドルのレートが大きく振れたことで危機を引き起こしたということもあろうかと思うので、「先進国の間で政策協調をして、世界経済を安定させる」という議論も必要。
- 金融危機の対処というのは、まず中期的な解決策があって、それに沿ってどういう順番に短期策を施すかということになる。
- 市場移行国がグローバルマーケットに参入してきたことと危機の発生に関係があるのか否か。例えば、中国がアジアの直接投資を吸い上げて、タイ等を焦らせたというのならば分かるが、ロシア、東欧の場合は疑問がある。90年代当初は、市場移行国のポテンシャルが高いので世界的に貯蓄不足になり、高金利の時代を迎えるのではないか、という議論があったが、実際は先進国が不況で、かつ市場移行国のリスクも大きく、プライスメカニズムの働くような場面で市場移行国が金利を押し上げるというような役割をほとんど果たさなかった。メキシコの94年の危機が起こったときも、アメリカの金利が上がり始めて、お金が逃げ始めたように、先進国のビジネスサイクルが大きな影響を与えている。
- 中長期な視点に立った時にヨーロッパがどういう役割を果たすかという点が議論のベースに入っている必要がある。
�「通貨・金融危機は何故起きるのか」について
- 資産価格、アジアの株価下落について。ASEANの株価のピークは、マレーシアは92年、タイは93年、95〜96年の時点ではピークの半分ぐらいの株価平均であり、バブルはその時点で終結したと認識した。不明なのは土地であり、土地統計がないためそこを見誤った。資産価格について論じるときは、アジアの場合は、株価だけでなく、土地についても考慮すべき。
- インドネシア問題について。一番大きいのはスハルト大統領の問題。20年も前からスハルトがいなくなったら非常に混乱するということは周知。それがたまたま昨年のASEANサミットの直前にスハルトが倒れて、freefall(暴落)状態になった。インドネシアの問題は慎重に扱う必要がある。タイから発生した通貨危機の影響というのはルピアが2500から4000になったところで、4000から10000になり15000になったというのは、スハルト政権の次の政権が不確実であったという問題が影響した、そこを分けて考えないと見誤る。
�「過去の危機との比較」について
- アジアの資本市場について。今回危機が発生している国は時価総額でみてもさして大きくない。さらに政府がバックアップして時価総額を押し上げている国が表に出てしまう点は注意する。タイはむしろ小さい。株価ピークは90年代初頭に来ている。その後、むしろ南米に資金が流れて、南米で株価が上がって、メキシコ危機の後南米の株価が上がるのにアジアが上がらなかったようなことを考えると話が5年ぐらいずれているのではないか。
- この時期は投資比率がものすごく高い投資ブーム。また、特に家計部門の貯蓄率が低下している。国民貯蓄率で見ると、公共部門の貯蓄率が増えているために、トレンドで上昇しているように見える。しかし、公共部門が上昇しているのに特に東南アジアを中心にして全体では上がっていない。家計部門まで降りると、データの信頼性の問題はともかく、全体としては非常な消費ブームと言える。それはマレーシア、タイ、フィリピンについても同様。貯蓄関数の計測をやると、消費者ローンのGDP比率がよく効く。この時期は、どの国も対外と同様、国内の金融自由化も熱心にやっている。貯蓄理論のセオリーの通り、流動性制約が外れたため貯蓄率が低下している。したがって、いわゆるI−Sバランス論で経常収支の赤字は説明できる。
- 「金融仲介の脆弱さは、十数年来の課題」はその通りだが、途上国全体を見渡すとアジアは割とまともにやってきた方である。もちろん、右肩上がりの成長をしていたために、ボロが見えなかったということはある。インプルーブする余地はもっとあったと思うがそれ自体が問題ではなく、むしろ、資金が大量にできてしまって、使い途がなくて、それを誤ったというのが原因ではないか。
- アジアの場合ローンの動きが重要である。機関投資家の動きは、証券のフローなので、マージナルだと思う。基本的には、短期の融資を素早く引き上げられたのが一番の問題。特に、韓国の場合は株のバブルがあった訳でもなく、海外子会社の海外での借入が、通貨当局の目の届かないところで起こったというのが非常に大きいと言われている。そういう意味では、「アジア型の場合はローンが問題、南米の場合は債券が問題」という認識をするのが大切。
- ファンダメンタルズだけで言えば今回のアジア危機は決して悪いところで起こったわけではなく、問題はファンダメンタルズの定義の問題であって、フローベースでは問題なく、オフショアマーケット経由の資金が流入して膨れ上がったというストックベースのファンダメンタルズが問題であった。従来のものと違うとすれば、経済をフローの実物経済で判断して健全性を考えるのか、それともマネー経済の中で考えるのか、ということ。
- コンテイジョンについては、ニューヨークやロンドンなどの商業銀行や投資銀行とヘッジファンドは不可分で、人的交流も頻繁である。ビジネスエコノミストの変遷は、メーカー→商業銀行→投資銀行→ヘッジファンドとなっており、ノーベル賞をもらったような優秀な人材はヘッジファンドに集まっている。そういったことで、内部の人間が共通なのでアジアでこういうシナリオでスタートすると、計量経済的に関係がなくとも、そのコミュニティの中で流動性選好やリスク回避が高まっていくと、それがあっという間に途上国に広がっていく。それがアメリカ国内ですら広がっている。
- ストックとフローの問題と長期と短期の問題を分けて考える必要があるということの他に、もう一つ、アメリカ経済の景気循環局面の問題が背景にある。それがグローバルな物価安定、あるいは、アメリカの交易条件を改善しつつ、アメリカに向かって所得移転が起こっていくというプロセスの中で起こった現象のように見える。センセーショナルな発想かもしれないが、ルービン長官に代表されるような考え方がある程度マーケットに受け入れられて、失業率は5%を切るような状況で、なぜ賃金上昇やインフレが起こらないで少なくとも1年以上景気拡大が予想した以上伸びているのか。こういうものとアジア危機が発生した時期が期を一にしていることは決して偶然ではない。グローバルな有効需要の所得の分配のパターンをアメリカに優利に持っていかざるを得ないような環境下で、必要とされる調整がある意味、今回のグローバルな危機ということではないか。結果的には、グローバルな有効需要の不足を通じてアメリカに舞い戻ってくるのだが、早い段階でグリーンスパン議長が「すでにマーケットは根拠なき熱狂にある」と言っているが、その段階である程度スローダウンするような政策が採れれば恐らく危機は起こらなかった。言い換えれば、アメリカサイドで経常収支の赤字が拡大するような状況を継続させるためには、流動性の拡大や資本流入が必要となり、途上国サイドでの大規模な調整と交易条件の悪化と所得の減少が必要とされていたような気配がある。そういう意味で言うと、実は今回のテーマ全体で言えることだが、長期の問題は10年もあった話が多くて、それが突然出てきて危機を引き起こす原因ではないのではないか。前からストックを中心とした極めて短期の、それもアメリカの今回の景気循環のピーク近傍局面の非常に特殊なファクターとグローバルなキャピタルマーケットの構造、自由化が歪んだ状況で進んでしまったということの組み合わせの結果起こったのではないか、という見方をするアナリストが多い。
- 波及効果の同質性について。厳密に、期間、波及した国、その深さを見て欲しい。確かに、メキシコ危機のときのコンテイジョンがあったが、今回はロシアやブラジルまで入れるかどうかは問題だが、仮に一連のものとみれば、今回はかなり長い期間に、世界中に渡っている。また、ヘッジファンドが損を出し、その貸出銀行の株価が半分になり、また、メキシコの時はIMFとかアメリカが救うという姿勢があったが、今回、タイのスタートのところでその姿勢がないということが問題になっている、そういう意味で同じだと見るか見ないかで相当議論が違ってくる。
- 同質性・異質性について。議論の整理が必要。大量の資本流入の発生については、規模で見た場合、例えばGDPでみると今回は前回に比べかなり大きい。資本勘定の自由化が大きな違いとしてある。また、市場予想の役割というのが非常に大きい。マーケットセンチメントが大きな役割を果たしてしまって、それがコントロールできないとすれば、それを前提としてアーキテクチャアを考え出さなくてはいけないという問題が前回にはなかった問題である。
- どのくらい資本の流入により影響を受けたかというと、タイの場合はGDP比20数%まで上がっているが、マレーシアの場合は10%くらいで特に海外からの資本流入が影響をしているという面はない。また、資本の急激な流出については、CapitalFrightがだらだらと続いているという気がしている。こういう状況ではコンフィデンスが戻らない限りお金は逃げ、為替も安定しないのではないか。
- 韓国の金融危機は、97年初めに政府が保護してきた企業を倒産させるという政策の変更があって、その変更が徹底されないうちに海外で国内の半分程度ものお金を借りていたということがあった。タイの場合も、為替レートの防衛を実施したり、ファイナンス・カンパニーが債務不履行に陥ったという経緯があった。何も問題のないところには問題は起こらない。かといって、早期警告ができるかといえば難しく、今回の危機は短期債務がどれくらい増えているかということがひとつの指標になったわけであるが、次の危機はそこからは起きないのではないか。
6.今後のスケジュール:
次回の国際マクロ経済問題研究会(第3回)は11月17日16:00〜17:30に開催する予定。
なお、本議事概要は、速報のため、事後修正の可能性があります。
(連絡先)
経済企画庁総合計画局国際経済班
Tel03−3581−0464