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東京大学大学院理学系研究科教授
昭和32年5月28日、福岡県生まれ
昭和55年、東京大学理学部卒業
昭和60年、東京大学大学院理学系研究科博士課程修了
理学博士(東京大学)
日本学術振興会奨励研究員
オーストラリア国立大学博士研究員
昭和63年、東京大学理学部助手
平成 6年、筑波大学生物科学系助教授
平成 9年、大阪大学大学院理学研究科教授
平成18年、東京大学大学院理学系研究科教授
現在に至る
平成16年、日本植物学会JPR論文賞
平成18年、日本植物生理学会論文賞
平成22年、日本植物学会JPR論文賞
日本生態学会賞
平成25年、日本生態学会Ecological Research論文賞
<「葉の組織分化の生理生態学的研究」に関する功績>
寺島一郎氏は、群落光合成の研究によって構築された植物群落内での光利用に関する理論体系を植物体内、とくに1枚の葉、というミクロスケールの光利用に適用した画期的研究により生態学の幅を広げたパイオニア的研究者であるとともに、植物生理学・形態学と生態学を結ぶ希有な存在である。
寺島氏は、植物の葉の内部構造と光吸収に関する研究、葉緑体による緑色光の利用効率に関する研究、 強光下での葉内での緑色光の役割に関する研究でユニークな成果を挙げたほか、個葉の光合成能力における葉の微細構造の重要性を明らかにし、葉内のCO2の拡散とアクアポリンの役割について研究を進め、ストレス環境下で細胞間隙CO2濃度について計算によって求めた数値が過大推定となることがあると指摘した。
より具体的には、
1)寺島氏は、葉の内部構造と光合成量の関係を明らかにし、表面に近く強い光を受ける柵状細胞の葉緑体は、強光を十分に利用できる陽葉型に、裏面に近く弱い光を受ける海綿状細胞の葉緑体は、弱光を利用するのに適した陰葉型に分化し、1枚の葉の中で、光環境に応じた分化がみられることを明らかにした。
2)また、海綿状組織と柵状組織を同じ色素量あたりで比較すると、海綿状組織では細胞間隙が発達しており複雑な構造をもつため、柵状組織より光を散乱させ光を吸収しやすいことを示し、葉の中で柵状組織と海綿状組織の分化が葉全体の光吸収を大きくし、葉の光合成量を増加させていることを示した。
3)その他の研究成果として、上記に付随して、赤・青・緑の光が葉内で吸収される度合いの差異に着目した「植物の葉が何故緑色であるのか」という問題の解明、樹形の葉と木質部の量的関係について説明を可能とする「パイプモデルと樹木の枝分かれの前後で木質部の断面積の総和が変化しないというダヴィンチ則」の理解、群集生態学関連では個体サイズの二山分布の成立要因についての斬新な論文がある。
以上の研究は、植物群落内での光利用に関する理論を植物の葉の内部の光利用というミクロスケールに適用したもので、マクロレベルの生態学を、ミクロ(葉内)レベルの植物形態学・解剖学、さらには分子レベルの植物生理学と結びつけ、植物の光利用の機構をより深く解明したパイオニア的な研究であり、高く評価されている。
研究業績を纏めると、これまでに120報以上の論文として国際的な雑誌に発表している。「気孔開度の不均一性」の研究に関するTerashima et al. (1988)をはじめとするこれらの論文は、世界中で数多くの研究論文に引用されており、寺島氏の研究業績は、関連分野の国際的な研究活動の進展にも大きく寄与していると判断される。
著書としては、「植物の生態」2013年 裳華房;「植物生態学」2004年 朝倉書店(分担執筆);「光と水と植物の形」2003年 種生物学学会編・文一総合出版(分担執筆)などをはじめとして、多数の日本語の教科書や事典の編集、執筆に携わっており、これらを通じて植物の光利用に関する葉の構造の仕組や、樹木の光合成そのものに対する理解の増進に寄与した。
その他の貢献として、これまでのマクロからミクロに及ぶ研究成果を統合し、植物生態学と分子生理学の融合領域となる新学術領域研究「植物高CO2応答」を立ち上げ、21世紀の高CO2下の植物界の変動に関する統合的基礎研究を進展させた。この成果は、化学と生物総説集「植物の高CO2応答」(2014)にまとめられている。
これら一連のみどりの基礎研究は、植物生理生態学における大きな貢献に止まらず、「高CO2下」の地球環境下における近未来の植物界の変化の方向を探る学問的基盤を創出しており、日本と世界の植物生態学や分子生物学にリンクした、植物生理・生態学の発展に多大な貢献をしたところである。