消費税の転嫁を阻害する行為等に関する消費税転嫁対策特別措置法,独占禁止法及び下請法上の考え方
平成25年9月10日
公正取引委員会
改正:平成27年4月1日
はじめに
1 本考え方の趣旨
「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」(平成25年法律第41号。以下「消費税転嫁対策特別措置法」という。)は,平成26年4月1日及び平成29年4月1日に予定されている消費税率(地方消費税率を含む。以下同じ。)の引上げ(以下「消費税率引上げ」という。)に際し,以下の特別措置を講ずることにより,消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保することを目的として制定されたものである(平成25年10月1日施行)。
[1]消費税の転嫁拒否等の行為の是正に関する特別措置
[2]消費税の転嫁を阻害する表示の是正に関する特別措置
[3]価格の表示に関する特別措置
[4]消費税の転嫁及び表示の方法の決定に係る共同行為に関する特別措置
消費税率引上げはこのように2段階にわたるものであることもあり,中小事業者を中心に,消費税の価格への転嫁について懸念が示されていることから,これらの中小事業者等が消費税を価格へ転嫁しやすい環境を整備していくことが極めて重要な課題である。このため,消費税の転嫁拒否等の行為に対して,公正取引委員会だけではなく,主務大臣又は中小企業庁長官に指導又は助言の権限が付与され,政府一丸となって実効性のある監視・取締りを徹底していくこととなっている。
公正取引委員会は,消費税転嫁対策特別措置法の執行の統一を図るとともに,法運用の透明性を確保し,違反行為の未然防止に資するため,本考え方において,前記[1]の特別措置に関する解釈の明確化を図るとともに,運用方針を示すこととする。また,前記[4]の特別措置について,どのような行為が問題となり,また,どのような行為が問題とならないのか,具体的に示すこととする。
さらに,消費税率引上げに際し,「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)及び「下請代金支払遅延等防止法」(昭和31年法律第120号。以下「下請法」という。)上,どのような行為が問題となるのかについても併せて具体的に示すこととする。
2 構成
第1部 消費税の転嫁拒否等の行為関係
第1 消費税の転嫁拒否等の行為に係る消費税転嫁対策特別措置法上の考え方
1 概要
消費税転嫁対策特別措置法第3条において,「特定事業者は,平成26年4月1日以後に特定供給事業者から受ける商品又は役務の供給に関して」消費税の転嫁拒否等の行為を行うことが禁止されている。
(1) 特定事業者
「特定事業者」とは,消費税転嫁対策特別措置法第2条第1項各号に規定される事業者であり,次のものをいう。
なお,消費税転嫁対策特別措置法上の「事業者」とは,同法第10条のように特段の定義をしているものを除き,独占禁止法及び景品表示法上の「事業者」と同じである。
ア 「大規模小売事業者」
「大規模小売事業者」とは,一般消費者が日常使用する商品の小売業を行う者(特定連鎖化事業を行う者を含む。)であって,その規模が大きいものとして公正取引委員会規則で定めるものをいう。
(ア) 「一般消費者により日常使用される商品の小売業を行う者」
「一般消費者により日常使用される商品の小売業を行う者」とは,一般消費者により日常生活の中で使用される商品の小売業者という趣旨であり,事業者に使用されるような生産財のみを小売りしている事業者は含まない。一方,生活協同組合,農業協同組合であっても実態として消費者に販売している場合には,これに該当する。
サービス提供事業において商品を販売する場合には,その販売が客観的にみて当該サービス提供事業の付随的な業務と認められる場合には,小売業を行っていることにはならない。
なお,通信販売業者のように店舗を有しない者も小売業を行う者に該当し得るが,一方で,ショッピングセンター等を運営する事業者については,当該事業者が小売業者に営業場所を賃貸しているだけであって,自ら消費者に商品を販売していない場合には,小売業を行う者に該当しない。
(イ) 「その規模が大きいものとして公正取引委員会規則で定めるもの」
「その規模が大きいものとして公正取引委員会規則で定めるもの」とは,「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法第2条第1項第1号の大規模小売事業者を定める規則」(平成25年公正取引委員会規則第3号)において,次のa又はbのいずれかに該当する者である旨定められている。
a 前事業年度における売上高(特定連鎖化事業を行う者にあっては,当該特定連鎖化事業に加盟する者の売上高を含む。)が100億円以上である者
b 次に掲げるいずれかの店舗を有する者
(a) 東京都の特別区の存する区域及び地方自治法(昭和22年法律第67号)第252条の19第1項の指定都市の区域内にあっては,店舗面積(小売業を行うための店舗の用に供される床面積をいう。以下同じ。)が3000平方メートル以上の店舗
(b) 前記(a)に掲げる市以外の市及び町村の区域内にあっては,店舗面積が1500平方メートル以上の店舗
(注)売上高や店舗面積の考え方は,「『大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法』の運用基準(平成17年公正取引委員会事務総長通達第9号)」の第1の1と同様である。
イ 法人である事業者であって,資本金の額又は出資の総額が3億円以下の事業者や個人事業者等から継続して商品又は役務の供給を受けるもの
「継続して」との要件は,継続的取引関係にある事業者間においては,取引の一方当事者の立場が強くなりがちであることから設けられたものであり,「継続して」に該当するか否かは,取引の回数のほか,取引の間隔,取引される商品や役務の性質,当該取引に関する商慣習など,様々な事情を総合的に勘案して個別の事案ごとに判断することとなる。
なお,「継続して」とは,事業者間に継続的取引関係がある場合を指しており,個別の商品ごとに継続的取引関係が必要となるものではない。
また,これまで取引したことのない相手方から商品を1回限りの取引で購入する場合などは,「継続して」に該当しない。
(2) 特定供給事業者
「特定供給事業者」とは,消費税転嫁対策特別措置法第2条第2項各号で規定される事業者であり,前記(1)の特定事業者に継続して商品又は役務を供給する事業者である。前記(1)アの特定事業者(大規模小売事業者)に継続して商品又は役務を供給する事業者は,資本金の額又は出資の総額の大小にかかわらず,全て「特定供給事業者」に該当する。一方,前記(1)イの特定事業者に継続して商品又は役務を供給する事業者については,資本金の額又は出資の総額が3億円を超える場合は特定供給事業者とはならない。
なお,「特定供給事業者」に該当し得る事業者は,特定事業者に継続して商品又は役務を供給する事業者であり,例えば,大規模小売事業者たる特定事業者との関係でいえば,特定事業者が販売する商品を納入する事業者に限定されるものではなく,特定事業者が自己の店舗で使用する什器等の商品や店舗の清掃等の役務を供給する事業者も含まれる。
(3) 「平成26年4月1日以後に特定供給事業者から受ける商品又は役務の供給に関し」
特定事業者は,平成26年4月1日以後に特定供給事業者から受ける商品又は役務の供給について,その前に取引条件について交渉を行うのが一般的と考えられる。
特定事業者が特定供給事業者に対して,平成26年3月31日以前に消費税の転嫁拒否等の行為を行った場合であっても,当該行為が,消費税転嫁対策特別措置法の施行日(平成25年10月1日)以後に行われ,かつ,平成26年4月1日以後に供給を受ける商品又は役務に関するものであれば,同法第3条に違反することとなる。例えば,平成25年10月1日から平成26年3月31日までの間に,特定事業者が特定供給事業者に対して,自己が指定する商品を購入させた場合であって,当該行為が同年4月1日以後に供給を受ける商品に関して消費税率引上げ分の値上げを受け入れる代わりに行われたものであれば,同法第3条に違反することとなる。
2 減額(第3条第1号前段)
(1) 減額とは,商品又は役務の「対価の額を減じ(ることにより)特定供給事業者による消費税の転嫁を拒むこと」である。
(2) 「対価」とは,特定事業者及び特定供給事業者の間で取り決めた商品又は役務の供給に係る価格であり,消費税を含めた価格である(以下同じ。)。
(3) 「対価の額を減じ(ることにより)特定供給事業者による消費税の転嫁を拒む」とは,特定事業者が,平成26年4月1日以後に特定供給事業者から供給を受ける商品又は役務について,合理的な理由なく既に取り決められた対価から事後的に減じて支払うことである。例えば,平成26年4月1日の消費税率引上げに際して,消費税を含まない価格(以下「本体価格」という。)が100円の商品について,消費税率引上げ後の対価を108円として契約したにもかかわらず,支払段階で消費税率引上げ分の3円を減じ,105円しか支払わない場合である。
一方,減額とはならない「合理的な理由」がある場合としては,例えば,次のような場合が該当する。
ア 商品に瑕疵がある場合や,納期に遅れた場合等,特定供給事業者の責めに帰すべき理由により,相当と認められる金額の範囲内で対価の額を減じる場合
イ 一定期間内に一定数量を超えた発注を達成した場合には,特定供給事業者が特定事業者に対して,発注増加分によるコスト削減効果を反映したリベートを支払う旨の取決めが従来から存在し,当該取決めに基づいて,取り決められた対価の額から事後的にリベート分の額を減じる場合
(4) 対価の額を減じるとは,例えば次のような行為である。
ア 消費税相当分を支払わないこと
イ 支払時に対価の一部を差し引いて支払うこと
ウ リベートや協力金等,名目のいかんを問わず,対価の一部を徴収すること又は対価の一部を差し引いて支払うこと
(5) 問題となるのは,例えば次のような場合である。
ア 対価から消費税率引上げ分の全部又は一部を減じる場合
イ 既に支払った消費税率引上げ分の全部又は一部を次に支払うべき対価から減じる場合
ウ 本体価格に消費税額分を上乗せした額を商品の対価とする旨契約していたにもかかわらず,対価を支払う際に,消費税率引上げ分の全部又は一部を対価から減じる場合
エ リベートを増額する又は新たに提供するよう要請し,当該リベートとして消費税率引上げ分の全部又は一部を対価から減じる場合
オ 消費税率引上げ分を上乗せした結果,計算上生じる端数を対価から一方的に切り捨てて支払う場合
3 買いたたき(第3条第1号後段)
(1) 買いたたきとは,「商品若しくは役務の対価の額を当該商品若しくは役務と同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価に比し低く定めることにより,特定供給事業者による消費税の転嫁を拒むこと」である。
(2) 「同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価」とは,通常は,特定事業者と特定供給事業者との間で取引している商品又は役務の消費税率引上げ前の対価に消費税率引上げ分を上乗せした額をいう。
(3) 「通常支払われる対価に比し低く定めることにより,特定供給事業者による消費税の転嫁を拒む」とは,特定事業者が,平成26年4月1日以後に特定供給事業者から供給を受ける商品又は役務の対価について,合理的な理由なく通常支払われる対価よりも低く定める行為である。例えば,平成26年4月1日の消費税率引上げに際して,本体価格が100円の商品について,消費税率引上げ後の対価を105円のまま据え置く場合である。
一方,買いたたきとはならない「合理的な理由」がある場合としては,例えば,次のような場合が該当する。
ア 原材料価格等が客観的にみて下落しており,当事者間の自由な価格交渉の結果,当該原材料価格等の下落を対価に反映させる場合
イ 特定事業者からの大量発注,特定事業者と特定供給事業者による商品の共同配送,原材料の共同購入等により,特定供給事業者にも客観的にコスト削減効果が生じており,当事者間の自由な価格交渉の結果,当該コスト削減効果を対価に反映させる場合
ウ 消費税転嫁対策特別措置法の施行日前から,既に当事者間の自由な価格交渉の結果,原材料の市価を客観的に反映させる方式で対価を定めている場合
(注)「自由な価格交渉の結果」とは,当事者の実質的な意思が合致していることであって,特定供給事業者との十分な協議の上に,当該特定供給事業者が納得して合意しているという趣旨である。
(4) 問題となるのは,例えば次のような場合である。
ア 対価を一律に一定比率で引き下げて,消費税率引上げ前の対価に消費税率引上げ分を上乗せした額よりも低い対価を定める場合
イ 原材料費の低減等の状況の変化がない中で,消費税率引上げ前の対価に消費税率引上げ分を上乗せした額よりも低い対価を定める場合
ウ 安売りセールを実施することを理由に,大量発注などによる特定供給事業者のコスト削減効果などの合理的理由がないにもかかわらず,取引先に対して値引きを要求し,消費税率引上げ前の対価に消費税率引上げ分を上乗せした額よりも低い対価を定める場合
エ 免税事業者である取引先に対し,免税事業者であることを理由に,消費税率引上げ前の対価に消費税率引上げ分を上乗せした額よりも低い対価を定める場合(注)
オ 消費税率が2段階で引き上げられることから,2回目の引上げ時に消費税率引上げ分の全てを受け入れることとし,1回目の引上げ時においては,消費税率引上げ前の対価に消費税率引上げ分を上乗せした額よりも低い対価を定める場合
カ 商品の量目を減らし,対価を消費税率引上げ前のまま据え置いて定めたが,その対価の額が量目を減らしたことによるコスト削減効果を反映した額よりも低い場合
(注)免税事業者であっても,他の事業者から仕入れる原材料や諸経費の支払において,消費税額分を負担している点に留意する必要がある。
4 商品購入,役務利用又は利益提供の要請(第3条第2号)
(1) 商品購入,役務利用又は利益提供の要請とは,消費税の転嫁を受け入れる代わりに,自己の指定する商品を購入させ,若しくは自己の指定する役務を利用させ,又は自己のために金銭,役務その他の経済上の利益を提供させることである。
(2) 「自己の指定する」には,特定事業者が自己の供給する商品又は提供する役務を指定する場合だけでなく,第三者の供給する商品又は提供する役務を指定する場合も該当する。「金銭,役務その他の経済上の利益」とは,協賛金,協力金等,名目のいかんを問わず行われる金銭の提供,作業への労務の提供等をいう。
(3) 「商品を購入させ」には,消費税の転嫁を受け入れる代わりに商品を購入させる場合や,商品を購入しないことに対して不利益を与える場合だけでなく,事実上,購入を余儀なくさせていると認められる場合も含まれる(「役務を利用させ」や,「その他の経済上の利益を提供させる」の考え方も同様である。)。
(4) 「特定供給事業者による消費税の転嫁に応じることと引換えに,自己の指定する商品を購入させ,若しくは自己の指定する役務を利用させ,又は自己のために金銭,役務その他の経済上の利益を提供させる」とは,平成26年4月1日以後に特定供給事業者から供給を受ける商品又は役務について,消費税率引上げ分の全部又は一部を上乗せする代わりに,特定供給事業者に商品を購入させ,役務を利用させ又は経済上の利益を提供させる行為である。
ただし,次のような場合等,取引上合理的必要性があり,特定供給事業者に不当に不利益を与えない場合は,商品購入,役務利用又は利益提供の要請に該当しない。
ア 特定の仕様を指示して商品の製造を発注する際に,当該商品の内容を均質にするため又はその改善を図るため必要があるなどの合理的必要性から,当該商品の製造に必要な原材料を購入させる場合
イ 消費税率引上げに際して,特定事業者が電子受発注システムを新たに導入し,当該システムの利用を全ての取引先との間で取引条件とするなど,受発注業務のコスト削減のために合理的必要性がある場合に,当該システムを使用させる場合
(5) 商品購入,役務利用又は利益提供の要請については,要請をした段階で,違反行為が行われる蓋然性が高いことから,要請した事実が認められた場合は,当該要請を取り消すよう指導することとする。
(6) 問題となるのは,例えば次のような場合である。
【商品購入,役務利用の要請】
ア 消費税率引上げ分の全部又は一部を上乗せすることを受け入れる代わりに,取引先にディナーショーのチケットの購入,自社の宿泊施設の利用等を要請する場合
イ 消費税率引上げ分の全部又は一部を上乗せすることを受け入れる代わりに,本体価格の引下げに応じなかった取引先に対し,毎年定期的に一定金額分購入してきた商品の購入金額を増やすよう要請する場合
ウ 自社の指定する商品を購入しなければ,消費税率引上げに伴う対価の引上げに当たって不利な取扱いをする旨を示唆する場合
【利益提供の要請】
ア 消費税率引上げ分の全部又は一部を上乗せすることを受け入れる代わりに,消費税の転嫁の程度に応じて,取引先ごとに目標金額を定め,協賛金を要請する場合
イ 消費税率引上げ分の全部又は一部を上乗せすることを受け入れる代わりに,通常必要となる費用を負担することなく,取引先に対し,従業員等の派遣又は増員を要請する場合
ウ 消費税率引上げ分の全部又は一部を上乗せすることを受け入れる代わりに,消費税率の引上げに伴う価格改定や,外税方式への価格表示の変更等に係る値札付け替え等のために,取引先に対し,従業員等の派遣を要請する場合
エ 消費税率引上げ分の全部又は一部を上乗せすることを受け入れる代わりに,取引先に対し,取引の受発注に係るシステム変更に要する費用の全部又は一部の負担を要請する場合
オ 消費税率引上げ分の全部又は一部を上乗せすることを受け入れる代わりに,金型等の設計図面,特許権等の知的財産権,その他経済上の利益を無償又は通常支払われる対価と比べて著しく低い対価で提供要請する場合
5 本体価格での交渉の拒否(第3条第3号)
(1) 本体価格での交渉の拒否とは,「商品又は役務の供給の対価に係る交渉において消費税を含まない価格を用いる旨の特定供給事業者からの申出を拒むこと」である。
(2) 「消費税を含まない価格を用いる旨の特定供給事業者からの申出」とは,特定供給事業者が明示的に申し出た場合が該当することはいうまでもないが,例えば,特定供給事業者が特定事業者との交渉において,本体価格と消費税額を別々に記載した見積書等を提示するなど,本体価格での価格交渉を希望する意図が認められる場合も該当する。
(3) 「申出を拒む」とは,特定事業者が,特定供給事業者からの申出を明示的に拒む場合が該当することはいうまでもないが,例えば,次のとおり,特定供給事業者が本体価格で価格交渉を行うことを困難にさせる場合も該当する。
ア 特定供給事業者が本体価格と消費税額を別々に記載した見積書等を提出したため,本体価格に消費税額を加えた総額のみを記載した見積書等を再度提出させる場合
イ 特定事業者が,本体価格に消費税額を加えた総額しか記載できない見積書等の様式を定め,その様式の使用を余儀なくさせる場合
(4) 本体価格での交渉を拒否した場合は,消費税転嫁対策特別措置法第3条第3号違反として,後記7で述べる違反行為に対する措置の対象となるが,本体価格での交渉を拒否し,その後の対価が消費税率引上げ前の対価に合理的な理由がないにもかかわらず消費税率引上げ分を上乗せした額よりも低くなっている事実が認められた場合は,同号に加え,第3条第1号後段(買いたたき)違反として措置の対象となる。
6 報復行為(第3条第4号)
(1) 報復行為とは,消費税転嫁対策特別措置法第3条第1号から第3号までに掲げる行為があるとして,「特定供給事業者が公正取引委員会,主務大臣又は中小企業庁長官に対しその事実を知らせたことを理由として,取引の数量を減じ,取引を停止し,その他不利益な取扱いをすること」である。
(2) 消費税転嫁対策特別措置法第3条第1号から第3号までに規定する転嫁拒否等の行為に迅速かつ効果的に対処していくためには,公正取引委員会等が書面調査等を通じて積極的に違反被疑情報を集めるとともに,転嫁拒否等の被害を受けた特定供給事業者からの積極的な情報提供や調査協力を得ることが不可欠である。
転嫁拒否等の被害を受けた特定供給事業者が,自らその事実を公正取引委員会等に申し出ることや,調査に積極的に協力することは期待しにくいという実態があるところ,特定事業者による報復行為が行われた場合は,特定供給事業者による情報提供や調査協力が一層困難となり,消費税転嫁対策特別措置法の円滑な執行に支障を来すことになりかねない。
したがって,報復行為については厳正に対処し,公正取引委員会は,報復行為に該当する行為があると認めるときは,同法第6条の規定に基づき,勧告・公表することとする。
7 違反行為に対する措置
(1) 転嫁拒否等の行為を防止し,又は是正するために,公正取引委員会,主務大臣及び中小企業庁長官は,消費税転嫁対策特別措置法第4条の規定に基づき,特定事業者に対して必要な指導等をすることとしている。
公正取引委員会,主務大臣及び中小企業庁長官が行う指導の内容としては,[1]転嫁を拒否した消費税額分を支払うこと,[2]遡及的に消費税率引上げ分を対価に反映させること,[3]転嫁と引換えに購入させた商品を引き取り,商品の代金を返還すること,[4]役務の利用料又は提供を受けた利益を返還すること,[5]消費税を含まない価格で価格交渉を行うこと,[6]指導に基づいて採った措置を特定供給事業者に周知すること,[7]違反行為の再発防止のための研修を行うなど社内体制の整備のために必要な措置を講じるとともに,その内容を自社の役員及び従業員に周知徹底すること,[8]今後,転嫁拒否等の行為を繰り返さないことなどがある。
(2) また,主務大臣及び中小企業庁長官は,消費税転嫁対策特別措置法第3条に違反する行為があると認めるときは,同法第5条の規定に基づき,「公正取引委員会に対し,この法律の規定に従い適当な措置をとるべきことを求めること」(以下「措置請求」という。)ができる。
ただし,主務大臣及び中小企業庁長官は,消費税転嫁対策特別措置法第5条第1号から第4号に該当する場合は,措置請求をするものとされている。
(3) 公正取引委員会は,前記の措置請求を受けた場合等に調査を行い,違反する行為があると認めるときは,消費税転嫁対策特別措置法第6条の規定に基づき,特定事業者に対して前記(1)で示したような必要な措置をとるべきことを勧告し,その旨を公表することとなる。
なお,前記6に記載の報復行為は,消費税転嫁対策特別措置法第5条第4号に規定する「消費税の円滑かつ適正な転嫁を阻害する重大な事実」に該当するものであり,主務大臣又は中小企業庁長官の措置請求があれば,公正取引委員会は速やかに調査を行い,その結果報復行為が認められれば,勧告・公表することとする。
(4) 消費税転嫁対策特別措置法は平成30年9月30日に失効することとされているが,失効後であっても失効前に行われた違反行為については,附則第2条が定める経過措置により指導等の措置の対象となる。
第2 消費税率引上げに伴う優越的地位の濫用規制等に係る独占禁止法上の考え方
1 概要
消費税率引上げに伴い,消費税の円滑かつ適正な転嫁が行われるためには,転嫁拒否等の行為について,消費税転嫁対策特別措置法により迅速かつ効果的に対応することとともに,同法による規制の対象とならない場合でも,取引上優越した地位にある事業者が,その地位を利用して,取引の相手方に対して消費税率引上げ分の負担を不当にしわ寄せすることがないよう,独占禁止法違反行為に対して厳正に対処する必要がある。このため,どのような行為が消費税率引上げの際に,優越的地位の濫用等として独占禁止法上問題となるのか,具体的な事例を示すことで,消費税率引上げに伴う取引の適正化を図ることとする。
なお,優越的地位の濫用規制に関する独占禁止法上の基本的な考え方は,「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(平成22年公正取引委員会)で示しているとおりである。
2 問題となるのは,例えば次のような場合である。
消費税率引上げに際して,取引上優越した地位にある事業者が取引の相手方に対し,例えば次のような行為を行う場合は,優越的地位の濫用等として独占禁止法に違反するおそれがある。
(1) 対価の一方的設定や値引き(独占禁止法第2条第9項第5号ハ)
ア 既に対価が決定済みの継続的取引などにおいて,取引の相手方に対し,消費税率引上げ分の全部又は一部を負担させるため,消費税率引上げという事情変更を認めず,引き続き消費税率引上げ前の対価での納入を強要すること
イ 取引の相手方に対し,消費税率引上げ分の全部又は一部を負担させるため,消費税率引上げ前に対価を一方的に引き下げさせること
ウ 対価を決める際に,取引の相手方に対し,消費税率引上げ分の全部又は一部を負担させるために,自己の定めた対価を一方的に押し付けること
エ 取引の相手方に対し,消費税率引上げ分を転嫁できないことを理由に,あるいは,消費税率引上げに伴う自己の事務の増大に要する費用の全部又は一部を負担させるため,一旦決めた対価を一方的に値引きすること
オ 取引の相手方に対し,消費税率引上げ分の全部又は一部を負担させるため,検査基準を恣意的に厳しくして,これを満たさないことを理由に,一旦決めた対価を一方的に値引きすること
カ 取引の相手方に対し,消費税率引上げ分の全部又は一部を負担させるため,従来の消費税率での価格交渉で妥結した対価に消費税率引上げ分を上乗せして請求された場合に,消費税率引上げ分を支払わないこと
(2) 受領拒否,納期の延期(独占禁止法第2条第9項第5号ハ)
ア 取引の相手方に対し,消費税率引上げ以後は,現状の対価に消費税率引上げ分を加算することを申し出たことなどを理由にして,それまで発注した分の受領を拒否すること
イ 取引の相手方に対し,消費税率引上げ前と同一の対価で商品を納入させるなど消費税率引上げ前の取引条件を変更せずに,消費税率引上げ前の納期を,消費税率引上げ以後に延期すること
ウ 消費税率引上げ時における自己の販売予測が立ちにくいため,一方的に,消費税率引上げ前の納期を消費税率引上げ以後の販売予測が見定められる期間まで延期すること
エ 消費税率引上げ以後の課税仕入れ分として税額控除の対象とするため,消費税率引上げ前の納期を,一方的に消費税率引上げ以後に延期し,消費税率引上げ前と同一の対価で納入させること
(3) 不当返品(独占禁止法第2条第9項第5号ハ)
ア 消費税率引上げ前に仕入れた商品を消費税率引上げ以後の課税仕入分として税額控除の対象とするため返品し,消費税率引上げ以後,再度,消費税率引上げ前と同一の対価で納入させること
イ 消費税率引上げにより販売実績が販売予測を下回ったため売れ残った商品を返品すること
(4) 支払遅延(独占禁止法第2条第9項第5号ハ)
対価を消費税率引上げ分引き上げることを受け入れるが,その代わりに,既に決定済みの支払期日を守らず,支払を遅延すること
(5) 協賛金等の負担の要請等(独占禁止法第2条第9項第5号ロ)
ア 対価を消費税率引上げ分引き上げることを受け入れるが,その代わりに,取引の相手方に別途,協賛金,販売促進費等の名目で金銭の提供を強要すること
イ 消費税率引上げに伴い,取引の受発注に係るシステムを変更する際に,取引の相手方に対し,そのシステム変更に係る費用の全部又は一部の負担を強要すること
ウ 取引の相手方に対し,対価を消費税率引上げ分引き上げることを受け入れるが,その代わりに,値札付け,値札の作成などの事務の実施,又は事務に係る費用の全部又は一部の負担を強要すること
(6) 購入・利用強制(独占禁止法第2条第9項第5号イ)
対価を消費税率引上げ分引き上げることを受け入れるが,その代わりに,取引の相手方に当該取引に係る商品以外の商品の購入を強要すること
(7) その他の取引条件の設定・変更等(独占禁止法第2条第9項第5号ハ)
ア 取引の相手方に対し,対価を消費税率引上げ分引き上げることを受け入れるが,その代わりに,取引の相手方の不利益となるよう支払条件,運送条件,納入条件などの取引条件を変更し,又は設定すること
イ 取引の相手方に対し,対価を消費税率引上げ分引き上げることを受け入れるが,その代わりに,消費税率引上げ分の全部又は一部に見合った分の増量を強要すること
(8) 取引拒絶(独占禁止法第2条第9項第5号ハ,不公正な取引方法(注)第2項)
取引の相手方に対し,消費税率引上げ前の対価で引き続き納入することに合意しないこと,消費税の転嫁の方法の決定に係る共同行為に参加していることなどを理由にして,将来の取引を拒絶すること又は取引数量を減らすこと
(9) 差別対価,差別的取扱い(独占禁止法第2条第9項第2号,同項第5号ハ,不公正な取引方法(注)第3項,第4項)
消費税率引上げ分を転嫁して取引した相手方,消費税の転嫁の方法の決定に係る共同行為に参加した取引の相手方,簡易課税事業者になってほしいとの要請を拒否した取引の相手方などに対し,価格,リベート,支払条件(支払時期等),運送条件,納入などに関する取引条件又はその実施について,他の取引の相手方に比べ差別的な取扱いをすること
(注)「不公正な取引方法」とは「不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)」をいう。
3 消費税転嫁対策特別措置法と独占禁止法との関係
消費税転嫁対策特別措置法と独占禁止法のいずれにも違反する行為については,消費税転嫁対策特別措置法を優先して適用し,同法第7条の規定により,特定事業者が同法の勧告に従った場合,その勧告に係る違反行為と同一の行為について,重ねて独占禁止法第20条の規定(排除措置命令)及び同法第20条の6の規定(課徴金納付命令)を適用することはない。
他方,特定事業者が消費税転嫁対策特別措置法の勧告に従わない場合で,独占禁止法に違反する行為については,同法に基づき厳正に対処する。
また,消費税転嫁対策特別措置法による転嫁拒否等の行為の規制から逃れる目的で,同法が適用される取引関係から適用されない取引関係へと殊更に取引関係を変更する場合に,変更後の取引関係において独占禁止法に違反する行為が行われている場合は,同法に基づき厳正に対処することとする。
第3 消費税率引上げに伴う下請法上の考え方
消費税率引上げに伴い,下請取引における消費税の円滑かつ適正な転嫁が行われるためには,転嫁拒否等の行為について,消費税転嫁対策特別措置法により迅速かつ効果的に対応することとともに,同法による規制の対象とならない場合でも,親事業者が,下請法に違反して消費税率引上げ分の負担を下請事業者に不当にしわ寄せをすることがないよう,下請法違反行為に対して迅速かつ的確に対処する必要がある。このため,どのような行為が消費税率引上げに際し,下請法上問題となるのか,具体的な事例を示すことで,消費税率引上げに伴う下請取引の適正化を図ることとする。
なお,下請法の運用に関する基本的な考え方は,「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」(平成15年公正取引委員会事務総長通達第18号)で示しているとおりである。
1 下請代金の額について
下請代金とは,下請法第2条第10項で規定しているとおり,親事業者が製造委託,修理委託,情報成果物作成委託及び役務提供委託(以下「製造委託等」という。)をした場合に下請事業者の給付(役務提供委託をした場合にあっては,役務の提供。)に対し支払うべき代金であり,消費税を含めた額である。
2 下請法に違反する親事業者の行為
消費税率引上げの際に,親事業者が下請事業者に対して,例えば次のような行為を行う場合は,下請法に違反する。
消費税率引上げの際に行われる減額(下請法第4条第1項第3号),買いたたき(下請法第4条第1項第5号),購入・利用強制及び不当な経済上の利益提供要請(下請法第4条第1項第6号,下請法第4条第2項第3号)は消費税転嫁対策特別措置法第3条の規制の対象となるため,以下では,これら以外の行為類型を示すこととする。
(1) 受領拒否(下請法第4条第1項第1号)
ア 消費税率引上げ以後の課税仕入分として税額控除の対象となるようにするため,消費税率引上げ前であった納期を消費税率引上げ以後に変更すること
イ 親事業者が供給する商品又は役務の取引先との間で消費税率引上げ以後の単価交渉がまとまらないことを理由に,下請事業者に対して,納期を延期し,又は発注を取り消すこと
(2) 下請代金の支払遅延(下請法第4条第1項第2号)
ア 消費税率引上げ以後の課税仕入分として税額控除の対象となるようにするため,消費税率引上げ前に納入されたものを消費税率引上げ以後に納入されたものとして取り扱うことにより,下請代金を支払期日の経過後に支払うこと
イ 消費税率引上げ前に納入されたものを帳簿上返品し,消費税率引上げ以後再度納入があったものとして取り扱うことにより,下請代金を支払期日の経過後に支払うこと
(3) 不当返品(下請法第4条第1項第4号)
ア 消費税率引上げ前に納入された在庫分を消費税率引上げ以後に引き取るとの約束を付して返品すること
イ 自己の取引先との間で消費税率引上げ以後の単価交渉が難航し,取引先への納入が順調でないとして返品すること
(4) 割引困難な手形の交付(下請法第4条第2項第2号)
下請代金の額について,消費税率引上げ分引き上げることを受け入れるが,その代わりに,割引を受けることが困難であると認められる手形を交付すること
(5) 不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(下請法第4条第2項第4号)
ア 販売時期の延期により,消費税率引上げ後の販売となったことに伴い,下請事業者が添付して納品した製品の値札を無償で差し替えさせること
イ 消費税率引上げ等により,製品の売行きが悪く製品在庫が急増したという理由で,下請事業者が要した費用を支払うことなく,発注した部品の一部の発注を取り消すこと
3 消費税転嫁対策特別措置法と下請法との関係
消費税転嫁対策特別措置法と下請法のいずれにも違反する行為については,消費税転嫁対策特別措置法を優先して適用し,特定事業者が同法第6条に基づく勧告に従った場合,当該勧告の対象となる行為に対して,下請法第7条に基づく勧告を重ねて行うことはない。
消費税転嫁対策特別措置法の対象とはならない一方で下請法に違反する前記2のような行為が行われている場合は,同法に基づき迅速かつ的確に対処することとする。
第2部 消費税の転嫁及び表示の方法の決定に係る共同行為関係
第1 消費税の転嫁及び表示の方法の決定に係る共同行為についての消費税転嫁対策特別措置法上の考え方
1 概要
(1) 消費税転嫁対策特別措置法第12条の規定により,事業者又は事業者団体は,公正取引委員会に届け出ることにより,消費税の転嫁及び表示の方法の決定に係る共同行為を独占禁止法に違反することなく行うことができる(転嫁の方法の決定に係る共同行為の場合は,一定の要件を満たす必要がある。)。
当該共同行為には,消費税法上の課税事業者,簡易課税事業者及び免税事業者のいずれも参加することができる。また,内国事業者又は外国事業者のいずれであるかも問わない。
(2) 共同行為を行うに当たっては,「消費税の転嫁の方法又は消費税についての表示の方法の決定に係る共同行為の届出に関する規則」(平成25年公正取引委員会規則第4号)で定めるところにより,事前に公正取引委員会に対しその共同行為の内容等を届け出る必要がある。
なお,共同行為に参加した事業者間で,共同行為の実効を担保するために必要な合理的範囲内の制裁を課すことを併せて決定することができるが,その場合には,これを共同行為に付随する内容として届け出る必要がある。
(3) 共同行為が認められる期間については,平成26年4月1日から平成30年9月30日までの間における商品又は役務の供給を対象とするものであって,平成25年10月1日から平成30年9月30日までの間に行う共同行為に限られる。このため,前記の条件のいずれかを満たさない取引に係る共同行為の届出は認められない。
(4) 共同行為を行うかどうか又はこれに参加するかどうかは個別の事業者及び事業者団体の自主的判断に委ねられており,消費税転嫁対策特別措置法により共同行為の実施や参加を義務付けるものではない。
2 「消費税の転嫁の方法の決定」に係る共同行為
(1) 「消費税の転嫁の方法の決定」に係る共同行為は,市場における価格形成力が弱い中小事業者に特に配慮して認められたものであるため,当該共同行為を実施できるのは,次の要件を備えた事業者又は事業者団体に限られる。
(注)「事業者団体」とは,事業者としての共通の利益を増進することを主たる目的とする事業者の集まりをいい,具体的には,○しろまる○しろまる協会,○しろまる○しろまる協議会,○しろまる○しろまる工業会,○しろまる○しろまる商店会といった業界団体や地域団体 が事業者団体に該当する。
ア 共同行為が複数の事業者の間で行われる場合には,参加事業者の3分の2以上が中小事業者(注)であること
(注)中小事業者の定義(消費税転嫁対策特別措置法第2条第3項)
製造業等
卸売業
サービス業
小売業(政令による特例)
[1]ゴム製品製造業
[2]ソフトウェア業又は情報処理サービス業
[3]旅館業
300人以下又は3億円以下
100人以下又は1億円以下
100人以下又は5千万円以下
50人以下又は5千万円以下
900人以下又は3億円以下
300人以下又は3億円以下
200人以下又は5千万円以下
イ 共同行為が事業者団体で行われる場合には,構成事業者の3分の2以上が中小事業者であること。また,事業者団体の連合会で行われる場合には,傘下の事業者団体のそれぞれの構成事業者の3分の2以上が中小事業者であること
ウ 事業者と事業者団体が共同して行う場合,事業者団体同士が共同して行う場合には,それぞれが前記ア及びイの要件を満たしていること
(2) 「消費税の転嫁の方法の決定」として行うことができる行為とは,例えば,次のような行為が該当する。
ア 各事業者がそれぞれ自主的に定めている本体価格に消費税額分を上乗せする旨の決定
イ 消費税率引上げ後に発売する新製品について,各事業者がそれぞれ自主的に定める本体価格に消費税額分を上乗せする旨の決定
ウ 消費税率引上げ分を上乗せした結果,計算上生じる端数について,対象となる商品の値付け単位,取引慣行,上乗せ前の価格からの上昇の度合等を考慮して,切上げ,切捨て,四捨五入等により合理的な範囲で処理する旨の決定
(例1)×ばつ8パーセント=消費税額7.84円→8円
(例2)×ばつ8パーセント=消費税額7.44円→7円
(3)「消費税の転嫁の方法の決定」として認められない行為としては,例えば,次のような行為が該当する。
ア 「消費税の転嫁の方法の決定」に該当しないもの
(ア) 消費税率引上げ後の税抜価格又は税込価格を統一する旨の決定
(イ) 消費税率引上げ分と異なる額(率)を転嫁する旨の決定
(例1)全商品を消費税率引上げ前の税込価格から7パーセント引き上げる旨の決定
(例2)消費税率引上げ前の税込価格から,A商品は7パーセント,B商品は5パーセントを上乗せし,C商品は据え置く旨の決定
(例3)個別商品ごとの消費税額に関係なく,全商品を一律○しろまる○しろまる円引き上げる旨の決定
(ウ) 消費税の全部又は一部の転嫁をしないことの決定
(エ) 合理的な範囲(注)を超える不当な端数処理を行う旨の決定
(注)合理的な範囲については,前記(2)ウ参照
(オ) 簡易課税方式を選択する(又は選択しない)旨の決定
イ 一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を維持し若しくは引き上げることとなるとき
(例)消費税率引上げ前の税込価格に消費税率引上げ分を上乗せする旨の共同行為を通じて消費税率引上げ分を上乗せした後の対価を不当に維持したり,消費税率引上げ分以上に対価を不当に引き上げたりすること
ウ 事業者が不公正な取引方法を用いるとき又は事業者団体が構成事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにするとき
(例1)事業者団体が,共同行為に参加しない構成事業者に対して,それを理由に制裁を課すことにより当該構成事業者の事業活動を困難にさせること
(例2)共同行為に参加した事業者間で,当該共同行為に違反した事業者に対して,必要な合理的範囲を超えた制裁(事業者団体からの除名,除名と同様の効果を有する高額な過怠金等)を課すことにより,当該事業者の事業活動を困難にさせること
(例3)共同行為の参加事業者が,共同して,取引先に対して共同行為に参加していない事業者との取引を拒絶するように仕向けること
(4) 今回の共同行為の対象は「事業者又は構成事業者が供給する商品又は役務」について,すなわち,販売についてのものであり,購入についての共同行為は対象とはならない。
3 「消費税についての表示の方法の決定」に係る共同行為
(1) 「消費税についての表示の方法の決定」に係る共同行為は,全ての事業者や事業者団体に認められる。
(2) 「消費税についての表示の方法の決定」として行うことができる行為とは,例えば,次のような行為が該当する。
ア 消費税率引上げ後の価格について統一的な表示方法を用いる旨の決定
(ア) 税込価格を表示する場合
(例1)「税込価格」と「消費税額」とを並べて表示すること
(例2)「税込価格」と「税抜価格」とを並べて表示すること
(イ) 税込価格を表示しない場合(消費税転嫁対策特別措置法第10条第1項の要件を満たす場合に限る。)
(例1)個々の値札に,税抜価格を表示した上,「+税」と表示する旨の決定
(例2)個々の値札は税抜価格を表示した上,商品棚等の消費者に見やすい場所に,「消費税は別途いただきます」などと表示する旨の決定
(例3)個々の値札は税率引上げ前のままとし,商品棚などの消費者に見やすい場所に,「消費税は新税率で計算した額を別途いただきます」などと表示する旨の決定
イ 見積書,納品書,請求書,領収書等について,消費税額を別枠表示するなど消費税についての表示方法に関する様式を作成し,統一的に使用する旨の決定
ウ 価格交渉を行う際に税抜価格を提示する旨の決定
(注)特定事業者たる取引の相手方が税抜価格での価格交渉を拒否する場合,転嫁拒否等の行為として違法となる(消費税転嫁対策特別措置法第3条第3号)。
(3) 「消費税についての表示の方法の決定」として認められない行為としては,例えば,次のような行為が該当する。
ア 「消費税についての表示の方法の決定」に該当しないもの
形式上,表示の方法を決定するものであっても,共同行為の内容に転嫁の方法の取決めが含まれている場合には,「消費税の転嫁の方法の決定」についての届出が必要となる。
(例)消費税率引上げ分を消費税率引上げ前の対価に上乗せした結果,計算上生じる端数を切り上げにより処理して税込価格を表示する旨の決定
イ 一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を維持し又は引き上げることとなるとき
ウ 事業者が不公正な取引方法を用いるとき又は事業者団体が事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにするとき
第2 消費税率引上げに伴う転嫁及び表示に係る事業者団体等の行為についての独占禁止法上の考え方
1 原則として問題とならない行為
消費税の円滑かつ適正な転嫁に資する次のような行為は,消費税転嫁対策特別措置法に基づく届出によらなくても,原則として独占禁止法上問題とならない。ただし,このような活動を通じて,価格の維持,引上げ等について暗黙の了解又は共通の意思が形成されれば問題となる。
(1) 法令を遵守する旨の宣言
事業者又は事業者団体が,「消費税の円滑かつ適正な転嫁を行う」旨宣言することを決定することは,法令を守るという趣旨にとどまる限り問題とならない。
また,事業者又は事業者団体が,「消費税の転嫁を受け入れる」あるいは「消費税率引上げに際して,消費税転嫁対策特別措置法で禁止されている転嫁拒否等の行為や,独占禁止法で禁止されている不当な買いたたき等は行わないようにする」旨宣言することを決定することは,法令を守るという趣旨にとどまる限り問題とならない。
(2) 消費税の転嫁についての理解を求める要望等
事業者団体が,構成事業者の取引先事業者団体等に対し,消費税の円滑な転嫁の受入れについて一般的な理解を求める要望を行うことや,構成事業者に対して,それぞれの店頭に,「今回消費税率が引き上げられることとなったので,その負担についてお願いします」など消費税の転嫁についての理解を求める掲示を行うよう要請することは問題とならない。
(3) 消費税の表示に関する自主的な基準の設定
事業者又は事業者団体が,消費税に関する表示について単にひな型を示すなど自主的な基準を設定することは,構成事業者等にその遵守を強制しないものである限り問題とならない。
(4) 客観的資料・情報の提供等
事業者団体が,構成事業者に対して,消費税に関する客観的な資料や一般的な情報を提供したり,制度の仕組みを説明したり,関係官庁からの協力依頼の内容の通知を行うことは問題とならない。
(5) 過去の事実に関する情報の収集・提供
事業者団体が,需要者,構成事業者等に対して,消費税導入時又は平成9年の引上げ時において構成事業者が採用した転嫁又は表示の方法や,消費税率引上げ後に実際に取引された価格に関する概括的な情報を任意に収集して,客観的に統計処理を行い,個々の構成事業者の転嫁状況等を明示することなく,概括的に需要者を含めて提供すること(事業者間に価格についての共通の目安を与えることのないようなものに限る。)は問題とならない。
(6) 中小企業者に対する指導
主として中小企業者を構成員とする事業者団体が,構成事業者に対して,消費税率引上げに伴って生じる原価計算の方法等企業経営上の諸問題について,合同で又は求めに応じて個別に指導することは問題とならない。
(7) 取引先等への一般的な業界の実情の説明等
事業者団体が,構成事業者の取引先等に対して,消費税の転嫁についての一般的な業界の実情を説明し,理解を要請することは問題とならない。
(8) 消費税率引上げの客観的な影響に関する広報
事業者団体が,構成事業者に対して,消費税率引上げが業界に及ぼす客観的な影響についての広報を行うことは問題とならない。
2 独占禁止法上問題となる行為
独占禁止法上問題となる事業者団体等の行為については,第2部第1に記載のとおりである。また,前記のような行為等が手段・方法となって,便乗値上げカルテル等の競争制限的行為が行われた場合には,独占禁止法に基づき厳正に対処する。
関連ファイル
ファイルダウンロード 新規ウインドウで開きます。消費税の転嫁を阻害する行為等に関する消費税転嫁対策特別措置法,独占禁止法及び下請法上の考え方(PDF:463KB)
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