(平成21年10月30日)ミュー株式会社及び株式会社オーシロに対する審判審決について(たばこ用粉末剤の不当表示事件)
平成21年10月30日
公正取引委員会
公正取引委員会は,被審人ミュー株式会社及び同株式会社オーシロ(以下,2社を併せて「被審人ら」という。)に対し,それぞれ審判手続を開始し,審判官をして審判手続を行わせてきたところ,平成21年10月28日,被審人らに対し,独占禁止法第66条第2項の規定に基づき,被審人らの審判請求を棄却する旨の審決を行った(本件平成18年(判)第17号及び同第19号審決書については,公正取引委員会ホームページの「報道発表資料」及び「審決等データベース」参照。)。
1 被審人らの概要
事業者名 | 所在地 | 代表者 |
---|---|---|
ミュー株式会社 | 東京都世田谷区駒沢二丁目11番5号5階 | 佐々木 学 |
株式会社オーシロ | 川崎市麻生区王禅寺東二丁目20番14号 | 大城 令子 |
2 被審人らの審判請求の趣旨
被審人ミュー株式会社(以下「被審人ミュー」という。)に対する平成18年(排)第25号排除命令及び被審人株式会社オーシロ(以下「被審人オーシロ」という。)に対する同第26号排除命令(以下,各排除命令を「原処分」という。)の全部取消しを求める。
3 主文
被審人らの各審判請求をいずれも棄却する。
4 本件の経緯
平成18年
10月19日 排除命令
11月17日までに審判請求
12月14日 各事件につき審判開始通知
平成19年
1月29日 各事件第1回審判
↓
平成21年
1月14日 各事件第11回審判(審判手続終結)
8月22日までに各事件につき審決案送達
9月7日までに被審人らから各審決案に対する異議申立て
10月28日 各事件につき審判請求を棄却する審決
5 審決の概要
(1) 違反行為の概要等
公正取引委員会は,被審人ミューが「ビタクール」と称する商品において,また,被審人オーシロが「タバクール」と称する商品においてそれぞれ行っていた,たばこの先端に付着させて喫煙すれば,たばこの煙に含まれるニコチンがビタミンに変化することによりニコチンを減少させる旨等の表示(以下「本件表示」という。)について,景品表示法(注)第4条第2項の規定に基づき,被審人らに対し,期間を定めて,本件表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めたが,提出された資料(以下「本件資料」という。)が本件表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものであるとは認められなかったことから,本件表示は一般消費者に対し実際のものよりも著しく優良であると示すことにより,不当に顧客を誘引し,公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示とみなされ,同条第1項第1号の規定に違反するとして原処分を行ったところ,被審人らはこれを不服として審判を請求し,その全部の取消しを求めた。
(注) 消費者庁及び消費者委員会設置法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律(平成21年法律第49号)附則第6条第3項ただし書の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の不当景品類及び不当表示防止法をいう。以下同じ。
(2) 本件の争点
ア 本件について,景品表示法第4条第2項を適用することができるか,適用の効果はどのようなものか(争点1)
イ 本件資料は,本件表示に係る景品表示法第4条第2項にいう表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものと認められず,本件表示は同条第1項第1号にいう不当な表示とみなされるか(争点2)
ウ 原処分について公正取引委員会の裁量権の逸脱・濫用がないか(争点3)
6 争点に対する判断の概要
(1) 争点1について
ア 景品表示法第4条第2項の規定は,表示に沿った効果・性能がないかもしれないことによる不利益は一般消費者に負担させるべきではなく,事業者が効果・性能の優良性を示す表示を行う場合には,当該表示をする事業者において当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料をあらかじめ有した上で行うべきであって,かかる資料を有しないまま当該表示をした商品・役務を販売・提供してはならないとの考え方に基づくものというべきである。
この点,被審人らは,景品表示法第4条第2項が,合理的な根拠のない場合に,不当な表示として排除命令をすることとしたのは,当該表示を行う者が提出した資料から表示内容が真実でないことが明らかな場合について簡易・迅速な対応をするためであり,表示の根拠となる資料が提出された場合については,迅速に排除命令をする必要がある場合を除き,同項を適用すべきではなく,同条第1項第1号にいう「実際のものよりも著しく優良であると示す表示」に該当するかどうかの判断をした上で,排除命令をするべきであると主張する。
しかし,景品表示法第4条第2項は,条文上,その適用範囲について被審人らの主張のような限定をしていないし,上記に述べた考え方にかんがみると,同項を適用できる事案は,被審人らの指摘するような場合に限定されるものではなく,その効果・性能の優良性を示して商品・役務を販売・提供する場合一般について同項を適用することができるものというべきである。
イ 景品表示法第4条第2項に基づく資料提出要求に対して提出された資料が表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料といえるためには,(1)客観的に実証された内容のものであること,(2)表示された効果・性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応しているという要件を満たすことが必要であり,提出された資料が(1)客観的に実証された内容のものであるというには,1試験・調査によって得られた結果,2専門家,専門家団体若しくは専門機関の見解又は学術文献であることが必要である(「不当景品類及び不当表示防止法第4条第2項の運用指針」〔以下「運用指針」という。〕第3の2及び3参照。)。上記1にいう試験・調査については,表示された商品・役務の効果・性能に関連する学術界,あるいは産業界において一般的に認められた方法,あるいは関連分野の専門家の多数が認める方法によって実施されたものであるか,そのような方法がない場合には,社会通念上及び経験則上妥当と認められる方法によることが必要であり,また,上記2にいう見解又は学術文献は,専門家等が専門的知見に基づいて当該商品・役務について評価したものであり,当該専門分野において一般的に認められているものであることが必要である。
ウ 景品表示法第4条第2項は,公正取引委員会は,事業者が商品の販売等をするに当たり,当該商品等の効果・性能の優良性を表示する場合には,当該表示を行った事業者に対し期間を定めて事業者があらかじめ有しているべき当該資料の提出を求めることができ,事業者が当該資料を提出しないときは,当該表示は同条第1項第1号の不当な表示とみなして,同法第6条第1項の規定による排除命令をすることができることとしている。そして,公正取引委員会の求めにより事業者が提出した資料が上記合理的な根拠を示す資料に該当しない場合も,「当該資料を提出しないとき」に含まれる。
本件に即していえば,被審人らが公正取引委員会の求めにより提出した本件資料が上記合理的な根拠を示す資料に当たらない場合には,それにより本件表示が景品表示法第4条第1項第1号の不当な表示に当たるとする効果が確定するのであり,その後の審判手続において新たな資料を提出することによりこの効果を覆すことはできないものと解すべきである。
したがって,被審人らは,審判手続において,新たに「合理的な根拠を示す資料」を提出することはできない。
(2) 争点2について
被審人らは,本件表示について,本件資料を提出したものであるが,本件資料はいずれも景品表示法第4条第2項にいう表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料とは認められず,また,これらを総合勘案しても結論は変わるものではなく,本件表示は,同項により同条第1項第1号にいう不当な表示とみなされる。
(3) 争点3について
ア 被審人らは,指導の段階でこれに従うと回答している業者に対し,表示変更の機会も与えずに原処分を行うことは手続保障に反すると主張するが,景品表示法上,排除命令の前に行政指導を行うことが必要なわけではない。また,被審人らは,事前の相談において公正取引委員会事務総局の担当者から「データがあれば問題ない」との回答を得たことをもって,禁反言の原則から原処分は無効であると主張するが,当該担当者の回答は,合理的な根拠を示す資料があれば景品表示法上問題ないという法律の趣旨を述べたものと認められ,本件表示が景品表示法上問題がないという趣旨の回答をしたものとは認められない。
したがって,原処分が手続保障に欠ける違法なものとは認められない。
イ 被審人らは,原処分を行わなくとも不当な表示を是正することができたのであるから,原処分は比例原則違反であると主張するが,本件については,一般消費者の誤認の排除や違反行為の再発防止等が必要であるから,被審人らの主張は採用できない。
したがって,原処分が比例原則に反する違法なものとは認められない。
ウ 被審人らは,本件より悪質な事案に対して,排除命令を行わず,注意・警告が行われていると主張する。しかし,排除命令が平等原則に違背する違法なものとなるのは,公正取引委員会が,処分の相手方である事業者以外の違反行為をした事業者に対して行政処分をする意思がなく,処分の相手方である事業者に対してのみ,差別的意図をもって当該行政処分をしたような場合に限られるものと解される(東京高等裁判所平成8年3月29日判決〔公正取引委員会審決集42巻457頁〕参照)ところ,被審人らは同裁判例の指摘するような事情があることについての立証をしていない。
したがって,原処分が平等原則に反する違法なものとは認められない。
関連ファイル
ファイルダウンロード 新規ウインドウで開きます。(印刷用)(平成21年10月30日)ミュー株式会社及び株式会社オーシロに対する審判審決について(たばこ用粉末剤の不当表示事件)(PDF:15KB)
ファイルダウンロード 新規ウインドウで開きます。審決書(株式会社ミュー)(PDF:987KB)
ファイルダウンロード 新規ウインドウで開きます。審決書(株式会社オーシロ)(PDF:194KB)
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問い合わせ先
公正取引委員会事務総局官房総務課審決訟務室
電話 03-3581-5478(直通)
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