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National Institute of Polar Research

大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所

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研究成果

東南極リュツォ・ホルム湾沿岸でのGNSS観測と地殻変動の検出

2021年9月9日
国立大学法人 総合研究大学院大学
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所

  • 寒冷だった約2万年前から現在にかけての間に、南極大陸を覆う氷床は減少したと考えられています。それによる氷床質量の減少が、地球表面・内部に加わる力を変化させた結果、地殻変動が生じました。さらに、それが現在に至っても緩やかに続いています。
  • 東南極のリュツォ・ホルム湾沿岸の露岩域で実施したGNSS観測から、当地域が現在隆起していること、またその隆起速度が南北方向に空間的な特徴を持つことを明らかにしました。
  • このように精密に観測された現在の詳細な地殻変動は、過去の南極氷床の融解史と地球の内部構造を明らかにするための重要な知見となります。

本研究では、日本の南極地域観測事業によって実施された東南極リュツォ・ホルム湾沿岸でのGNSS(Global Navigation Satellite System)観測のデータ解析から、当地域の現在の地殻変動を明らかにしました。これに加えて、当地域は近年の衛星重力観測や衛星高度計観測の結果から積雪が増加していると考えられるため、積雪が荷重となって引き起こす短期的な変形を補正することで、長期的な地殻変動の大きさを評価しました。その結果、現在この地域は全体的に隆起の傾向にあること、また南側の地域ほどより速く隆起するという空間的特徴が明らかになりました。南極氷床は約2万年前には現在より大きく発達していたと考えられ、その後、数千年スケールで生じた氷床融解によって、今もなお地殻変動が継続していることが予測されています(氷河性地殻均衡)。本研究結果は南極氷床の融解史、および地球の内部構造の理解に貢献する重要なデータとなります。

研究背景

約2万年前の最終氷期最盛期は南極、グリーンランドをはじめとして、現在よりも氷河・氷床が発達していたと考えられています。これら高緯度地域に存在していた氷が融解し、地球表面で水の移動といった質量の移動が生じることによって地球表面・内部に加わる力が変化し、地殻・マントル・コアからなる固体地球は変形します。GIA(Glacial Isostatic Adjustment、氷河性地殻均衡)と呼ばれるこの固体地球の変形を詳しく調べることで、過去の氷床分布やマントルの粘性構造などが明らかできると期待されます。

GNSS観測は、人工衛星から発信される時刻情報を含んだ電波を受信することで、受信したアンテナ位置を推定する測地観測手法のひとつです。同じ観測点でGNSS 観測を継続的に実施することで、その場所の地殻変動を捉えることが可能となります。南極は極限の自然環境のため現場観測が容易ではないことから、GNSS観測点はあまり多くなく、特に東南極(おおまかに南極大陸のうち東半球側)では非常に少ない地点でしか観測が実施されていません。そこで日本の南極地域観測隊は、20年以上にわたって昭和基地を中心にGNSS観測拠点の整備を進め、地殻変動観測を実施してきました。本研究では、GNSS 観測のデータを解析することで、当地域のGIAによる地殻変動を明らかにすることを試みました。

研究の内容

本研究では、昭和基地内のIGS(International GNSS Service:国際GNSS事業)点SYOG、リュツォ・ホルム湾沿岸露岩域(ラングホブデ、スカルブスネス、パッダ、ルンドボークスヘッタ)で実施されたGNSS観測データの解析を行いました(図1)。

図1:本研究の対象地域とリュツォ・ホルム湾沿岸露岩GNSS観測点の位置。

リュツォ・ホルム湾は日本の南極観測拠点・昭和基地のあるオングル諸島を内包する南北にひろがる湾で、過去複数回のキャンペーン観測の実施、また定常観測点の設置が進められてきました。これらの点で得られた観測データをPPP(Precise Point Positioning、精密単独測位)手法を用いて解析することで、各点で水平変動・上下変動の時間変化を推定しました(図2)。

図2:GNSS観測データを解析することで得られた、各観測点の上下変位の時系列。全体的に隆起の傾向が見られる。縦軸は上下方向の変位(隆起が正の方向)、横軸は観測年を示す。

一方、当地域は近年の降雪量増加によって質量が増えていることが衛星重力観測や衛星高度計観測から示唆されています。GNSS観測から推定される地殻変動には、この近年の積雪に起因する成分が含まれます。GNSS観測の結果に近年の積雪による影響を補正することで、GIAによる地殻変動を抽出しました。これによって得られた上下方向のGIA成分と、いくつかのGIAモデルから求められた予測値との比較を行い、当地域の変動を説明することができるGIAモデルと想定される過去の氷床変動史について考察しました(図3)。

図3:GNSS観測の結果に近年の積雪成分を補正することで得られたGIA成分と、既存のGIAフォワードモデルとの比較。右側ほど南側の観測点を示す。青、赤、水色の線は、最終氷期からの南極氷床融解史のモデルの違い(ANU:オーストラリア国立大モデル、ICE6G:トロント大モデル、IJ05:NASAモデル)によるGIAモデルによるシミュレーション結果を示す。

今回の解析結果によって、まず、リュツォ・ホルム湾でのGIA 起因の上下変動に、観測点の位置に関係した特徴的な違いが存在することが明らかになりました。後述するようにラングホブデでは異なった傾向が見られましたが、その他の観測点では南側ほどより速い隆起が観測されました(図3)。特に、より南に位置するルンドボークスヘッタでの隆起速度は、一番北であるSYOGよりも1年あたり1.5mm大きい隆起速度を示しました。これは、解析の推定誤差を考慮しても地点間でのGIAの違いを議論する上で十分に大きな違いです。過去の南極氷床変動については、GIAモデルに基づくいくつかの融解史が提案されていますが、融解史の選択によっては予測される現在の地殻変動が大きく変化します。今回の解析で比較に用いたGIAモデルのシミュレーションによる予測値は、GNSS観測を十分説明可能であることが示されました。また、予測値の幅は、シミュレーションの入力モデルである過去の氷床分布およびその融解時期と、地球内部の粘性構造との微妙なバランスによって特徴づけられていることを示唆しており、観測値が詳細なモデルの拘束条件になることを示すものです。

今後の展望

本研究ではリュツォ・ホルム湾沿岸で実施されたGNSS観測の解析を行うことで、観測報告の少ない東南極におけるGIAによる地殻変動を明らかにしました。これにより、地質学的研究など関連する他分野の研究と連携することで、過去の南極氷床融解史や地球内部構造の理解がより進むと考えられます。また、今回のGNSS観測の結果では、ラングホブデの観測点はやや異なる傾向を示しました。これは、よりローカルな荷重の変動による影響や、観測期間の長さが不十分であることによる推定誤差の影響などが要因として考えられます。これらの問題を解決し正確な議論を進めるためには、より長期にわたって今後も観測を継続し、観測点を広範囲に拡げていくことが非常に重要となります。

用語解説

最終氷期最盛期:約2万年前に全球的に気温が約7°Cほど低下した時代で、北アメリカのハドソン湾やスカンジナビア半島を中心として、最大厚さで3000mを超えるような巨大な氷床が存在したと考えられている。

GIAモデル:地球を弾性的性質と粘性的性質をもつ物体と仮定して、その地球表面に加わる力が変化することで、どのような変形が生じるかを計算する数値シミュレーションモデル。

研究サポート

本研究はJSPS科研費(17H06321)、および、国立極地研究所のプロジェクト研究費(KP306)の助成、総合研究大学院大学の支援を受けて行われました。また、本研究では南極地域観測事業で得られた GNSSデータを使用しました。

発表論文

掲載誌:Geophysical Research Letters
タイトル:GNSS Observations of GIA-Induced Crustal Deformation in Lützow-Holm Bay, East Antarctica

著者:
 服部晃久(総合研究大学院大学 複合科学研究科 極域科学専攻)
 青山雄一(国立極地研究所 地圏研究グループ 准教授)
 奥野淳一(国立極地研究所 地圏研究グループ 助教)
 土井浩一郎(国立極地研究所 地圏研究グループ 准教授)
DOI:10.1029/2021GL093479
URL:https://doi.org/10.1029/2021GL093479
論文公開日:2021年7月4日(Issue Online)

お問い合わせ先

(研究内容について)
総合研究大学院大学 複合科学研究科 極域科学専攻 服部晃久
国立極地研究所 地圏研究グループ 准教授 土井浩一郎

(報道について)
総合研究大学院大学 総合企画課広報社会連携係

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