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National Institute of Polar Research

大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所

国立極地研究所ホーム >研究成果・トピックス

研究成果

[プレスリリース]クラゲを利用して魚をとる海鳥

Science誌web newsで取り上げられました

2015年8月26日

国立大学法人 総合研究大学院大学
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所

近年、クラゲが爆発的に増加する現象が世界中の海で報告されています。クラゲの増加によって引き起こされる海洋生態系への様々な影響が懸念されています。

総合研究大学院大学・極域科学専攻の佐藤信彦氏らを中心とする総研大、国立極地研究所、北海道大学、アラスカ大学フェアバンクス校の共同研究チームは、クラゲの増加が報告されているベーリング海で、海鳥の一種、ハシブトウミガラスに小型ビデオロガーを装着して「動物の目線」での水中の映像を取得し、行動を観察しました。その結果、クラゲの長い触手に小魚が集まっており、ハシブトウミガラスがその小魚を頻繁に餌として捕食している事実を明らかにしました。

クラゲが海洋生態系に与える影響として、これまでクラゲが動物プランクトンを餌として大量に消費し、食物連鎖を通じて魚類、海鳥類、海生哺乳類にマイナスの影響を及ぼす可能性が注目されてきました。しかし、本研究は「海鳥がクラゲを餌取りに利用している」ことを示し、海鳥の餌取りにプラスの影響をもたらしていると結論付けました。この結果は、クラゲ類の増加が生態系に与える影響が従来考えられていたよりも多方面にわたっていることを示唆するものです。

本研究成果は、英国王立協会出版の学術雑誌Biology Letters(バイオロジーレターズ)に掲載されます。オンライン版には、8月26日16時01分(日本時間)に掲載されます。

研究の背景

日本海におけるエチゼンクラゲの大量発生のように、気候変化や人間活動の変化にともなってクラゲの生物量が爆発的に増加する現象が世界中で報告されています。こうしたクラゲの増加が海洋生態系にどのような影響を与えるのかが注目され、研究が進められています。例えば、クラゲが増加することで動物プランクトンを餌として大量に消費し、食物連鎖を通じて魚類、海鳥類、海生哺乳類へマイナスの影響を及ぼすことが示唆されています。しかし、クラゲの増加は、もっと直接的に海鳥類や海生哺乳類の行動に影響を与えることも考えられます。高い密度でクラゲが浮遊している水中で餌をとる海鳥や海生哺乳類の行動は、クラゲによってどのような影響を受けているのでしょうか。

研究の内容

研究チームは、海鳥の水中での行動・生態を「鳥の目線」で観察するため、米国アラスカ州プリビロフ諸島セント・ジョージ島に繁殖する海鳥ハシブトウミガラスUria lomvia(写真1)を対象として、新たに小型化したビデオロガー(14.5 g:リトルレオナルド社製、従来のものに比べ半分の重量に小型化)を装着、4個体から計97回の潜水映像を記録しました。ハシブトウミガラスは、時には3分以上かけて水深100m以上潜り、魚やイカ、オキアミなどを捕食する潜水性の海鳥です。

ハシブトウミガラスに装着した小型ビデオロガーから得られた映像には、3m以上の触手を持つアカクラゲの一種Chrysaora melanasterとの遭遇が高頻度(全潜水回数の約85%)で観察されました。それと同時に、ハシブトウミガラスが、クラゲの触手周辺に集まっている小魚、主にスケトウダラの稚魚(写真2)を捕食していることが確認されました(全捕食回数の約20%が該当)。また、ハシブトウミガラスは、クラゲに集まっている魚の数が多いほど高確率で捕食に挑んでいる傾向が見られました(図1)。より高い確率で捕食を成功させるため、クラゲに集まっている魚の数を認識し、捕食に挑むか否かを決定していることが示唆されました。

小魚は、クラゲの触手に付着しているプランクトンを捕食したり、退避場所として利用するため、クラゲの触手付近を遊泳することが先行研究で報告されています。ハシブトウミガラスは、クラゲが小魚を集める性質を利用することで、効率的に餌を捕食していることが本研究から明らかになりました。

今後の展望

クラゲ類の増加が海洋生態系に及ぼす影響は、これまで考えられていた以上に大きく、また多方面にわたっている可能性があります。これまで動物プランクトンの大量消費を引き金とした生態系の高次動物(魚類、鳥類、哺乳類)へのマイナスの影響が注目されてきましたが、本研究は少なくとも潜水性の海鳥についてはクラゲの存在が餌取りにプラスの影響を与えることを示しました。この餌取りへのプラスの影響は、海鳥の子育ての成功率や個体数の変化にまで影響を及ぼしているのでしょうか。また海生哺乳類の餌取り行動への影響はどうでしょうか。今後、様々な側面からの研究が必要になると考えられます。

資金

本研究は、GRENE北極気候変動研究事業、JSPS科研費15H02857の助成を受けて実施されました。

写真・図

写真1:セント・ジョージ島で繁殖するハシブトウミガラスUria lomvia。体長約45cm(©総研大/国立極地研究所)

写真2:ビデオロガーで記録されたクラゲとその触手に集まる小魚。クラゲ本種Chrysaora melanasterは、触手の長さが3mに達するほどの大型種である。(©総研大/国立極地研究所)

図1:クラゲ1匹あたりに集まる魚の匹数(横軸)とハシブトウミガラスが捕食に挑む確率(縦軸)の関係。黒丸の大きさは、ビデオロガーを装着した4個体にて観察された各イベント数(上:捕食に挑んだ回数。下:挑まなかった回数)を表す。魚の数が増えるほど、二項分布に従って算出された捕食に挑む確率(図中、赤線)が高くなる結果となった。(©総研大/国立極地研究所)

発表論文

全著者
・佐藤信彦 総合研究大学院大学 極域科学専攻 5年一貫制博士課程4年
・國分亙彦 国立極地研究所 生物圏研究グループ 助教 ; 総合研究大学院大学 極域科学専攻 助教
・山本誉士 国立極地研究所 北極観測センター 特任研究員(論文執筆当時。現:名古屋大学環境学研究科・日本学術振興会特別研究員)
・綿貫豊 北海道大学水産科学院 教授
・Alexander S. Kitaysky アラスカ大学フェアバンクス校 教授
・高橋晃周 国立極地研究所 生物圏研究グループ 准教授 ; 総合研究大学院大学 極域科学専攻 准教授
論文原題
The jellyfish buffet: Jellyfish enhance seabird foraging opportunities by concentrating prey
発表雑誌名
Biology Letters
出版社名
Royal Society Publishing
オンライン掲載日
2015年8月26日16時01分(日本時間)

補足資料

動画1:クラゲとの遭遇

動画2:クラゲの触手に集まる小魚を捕食する瞬間。
(注記)機器トラブルのため動画中の記録日時が、誤っている。正しい日時は、2014年8月4日09:42:14〜

動画3:単独で泳いでいる小魚を捕食する瞬間。

(注記)報道機関向けの動画ダウンロードはこちら(ZIP、約12 MB)。ZIPファイルの解凍にはパスワードが必要です。ご希望の報道機関の方は、下のお問い合わせフォームから広報室へご連絡ください。解凍がうまく行かない場合は、右クリック→すべて展開 をお試しください。

お問い合わせ先

国立極地研究所 広報室
お問い合わせフォーム
TEL:042-512-0655

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