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  • 【シリーズ連載/第2回】断層のすべりは海溝軸にまで達した

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コンピューターの中につくられた、仮想の沈みこみ帯。日本海溝周辺をモデルにしている。黄色い枠内は宮城沖の断面。東北地方太平洋沖地震で大きく動いた場所ほど、細かいブロックに分けられている。ここで仮想の地震を起こし、断層のすべりかたを色々と変えて、海底地形がどう変化するかを検証した。(Sun et al. 2017 Nat. Commun.)

地震地震

2020年10月22日

【シリーズ連載】
東日本大震災から10年――「定説」をくつがえした巨大地震の全貌

<第2回>
断層のすべりは海溝軸にまで達した

取材・文/藤崎慎吾(作家・サイエンスライター)

2011年の東北地方太平洋沖地震(以下、東北沖地震)は、発生当初から「想定外」と言われてきました。地震の大きさや津波の高さが、私たちの想像を超えていたのは確かです。一方で、その背景には、地震の研究者にとっても「想定外」だった事実が、いくつもありました。

前回は「プレートどうしの固着が弱いため、東北沖ではマグニチュード(M)9クラスの地震は起きない」という思いこみが、くつがえされたことを話しました。

今回は地震後の観測で「起きないはずのことが起きていた」とわかった事例を取り上げます。

海底が31m動いたことを現場で確認

皆さんは「前震」という言葉を聞いたことがあるかと思います。大ざっぱに言えば、大地震の数日前くらいから、その震源付近で起きる比較的小さな地震のことです。

東北沖地震の前震は3月9日に起きていました。M7.3なので、M9.0の本震に比べれば350分の1程度の規模です。とはいえ、それなりの大きさで、1978年に東北全県で死者28人、負傷者1325人を出した宮城県沖地震(M7.4)と、さほど変わりません。

3月11日に東北沖地震が起きた時、東北大学災害科学国際研究所教授の木戸元之さんは、まさに2日前の前震を緊急調査するべく準備にとりかかっていました。観測機器などが置かれている倉庫で突然、強い揺れにみまわれ、ラックなどが倒れないように慌てて押さえたそうです。


前震は後から振り返ってみて、それだったとわかるもので、この時の木戸さんはM9の本震が来たなどとは夢にも思っていません。おそらくM8以下だろうから、揺れも1分くらいでおさまると考えていました。ところが、いつまでもおさまらないので「これはおかしいぞ、まだ経験したことのない地震だ」と強い恐怖を覚え、倉庫から逃げだしました。


木戸元之

木戸元之(きど・もとゆき)

1967年、神奈川県生まれ。東京大学大学院理学系研究科修了、博士(理学)。2015年より現職。海洋研究開発機構の客員研究員なども務めている。専門は海底測地学。海底の動きを計測し、巨大地震の発生機構の研究を行っている。
提供/木戸元之 氏




木戸さんの専門は、海底に置いた装置の位置や動きを正確に測ることです。それによって沈みこみ帯のプレートが、どの方向へどれだけ動いたかを、東北沖地震が起きる前から調べていました。

陸上であれば三角測量や全地球測位システム(GPS)によって、かなり正確に色々なものの位置がわかります。とくに計測用GPSの進歩はめざましく、今ではミリ単位の精度で測れるといいます(スマホやカーナビのGPSには、残念ながらそこまでの精度はありません)。これを使って日本列島がどれだけ動いたか(変形したか)を調べる観測網は、1995年の阪神淡路大震災以降かなり整備されてきました。

ところがGPSは人工衛星からの電波を利用しています。この電波が海の中には、ほとんど届かないのです。

そこで木戸さんがどうしているかというと、音波を使います。まず調べたい海底に音響受信機(海底局)を何台か設置して、それらの中心を観測点とします。そして近くの海上に音響送信機(海上局)を備えた船、あるいはブイを持ってきます。この海上局から出した音波を海底局が送り返すまでの時間から、各海底局がどれだけ離れているかがわかります。船やブイを動かしながら何度もこうした測定をくり返すと、海上局からみた観測点の位置が正確にわかるのです。

一方で海上局が地球上のどこにあるかは、GPSでわかります。揺れる船やブイの上なのでミリ単位とまではいきませんが、それでも2〜3cmの精度です。すると海底の観測点が地球上のどこにあるかも、間接的にわかる仕組みです。これは「GPS音響測位法(GPS-A)」と呼ばれています。

GPS-A
GPS音響測位法(GPS-A)のイメージ。海底に置かれた音響受信機(海底局)の位置は船やブイの音響送信機(海上局)から音波で測定し、海上局の位置はGPSで測定する。こうすると電波の届かない海底の観測点が、地球上のどこにあるかを正確に知ることができる。
提供/木戸元之 氏

海底局
海底に設置された海底局の例(水深3300m)。東北沖地震では、日本海溝付近の海底が31m動いたことをとらえた。2005年に「かいこう7000」で撮影。
提供/木戸元之 氏

また海底の上下の動きには海底圧力計も使われます。これも名前の通り海の底に設置され、上に乗っている水の重さ(水圧)から、海面までの距離(水深)を割りだします。潮汐によるちがいを除いた上で水深が変化していたら、その差だけ海底が隆起したか沈降したことになります。

東北沖地震の発生後、日本海溝の近くで海底が50m以上動いたのではないかという推定は、かなり早くから出ていました。しかし、これは沿岸での津波観測と、陸上での地震波やGPSによる観測をもとにしていました。200kmほども沖にある日本海溝付近の海底については、非常に大ざっぱなことしかわかりません。そこでGPS-Aの出番となります。

2010年末までの段階で、東北大学は宮城県沖の4ヵ所にGPS-Aの観測点を設置していました。このうち2点は、日本海溝にある太平洋プレートの沈みこみ口(海溝軸)付近にあります。これらの地震後の位置を測定して、地震前の位置と比較すれば、周辺の海底がどれだけ動いたかが、はっきりとわかります。遠い陸や沿岸からの推定ではなく、まさに現場で確認できるのです。

地震直後は救助活動などが優先されたため、木戸さんたちが船に乗れたのは1ヶ月ほど経ってからでした。与えられた時間は短かったのですが、何とか無事に観測を終えました。その結果、海溝軸に最も近い観測点は、水平方向に31mも動いていることがわかりました。少し陸側に離れた、もう一つの観測点は15m動いていました。この2点の間くらいに海上保安庁が設置した観測点もあり、そこでは24m動いていました。ちなみに陸上では牡鹿半島先端の5mが最大です。

GPS-A観測結果
東北沖地震後にGPS-Aで観測された海底の動き。矢印が動いた方向と大きさを模式的に示している(縦方向の矢印は上下の動き)。色分けは海底の深さで、青い部分ほど深い。最も濃い青で塗られた領域に海溝軸がある。黒い矢印が木戸さんらによる観測の結果で、海溝軸に最も近い観測点「GJT3」は水平方向に31m、やや離れた「GJT4」は15m動いている。灰色の矢印は海上保安庁による観測で、海溝軸への近さではGJT3とGJT4の間にある観測点「MYGI」が24m動いていた。牡鹿半島にある陸上のGPS観測点は5mしか動いていない。
提供/木戸元之 氏(Kido et al., 2011, GRL に加筆)

つまり海溝軸に近ければ近いほど、海底は大きく動いていることがわかったのです。海底圧力計で測った上下方向の動きも、海溝軸に近いほど大きくなっていました。

とはいえ、これらは広大な海底の数カ所で得られた結果にすぎません。できればもっと広範囲に調べたいのですが、観測点の数は当時まだ限られていました。また31m動いた観測点が海溝軸に近かったとはいっても、実際は50kmくらい離れています。50m以上すべったかどうかは、もっと近い場所を調べなければなりませんが、そこに観測点はありません。別の方法が必要でした。

海底地形の比較で「点」を「面」に

ここで、もう一人の研究者が登場します。海洋研究開発機構(JAMSTEC)海域地震火山部門地震発生帯研究センター主任研究員の冨士原敏也さんです。

冨士原さんが東北沖地震にみまわれたのも、ちょっと奇妙なタイミングでした。皆さんはスマトラ島沖地震を覚えているでしょうか。2004年12月26日、インドネシアのスマトラ島北西沖で起きたM9.1の地震です。この時も巨大な津波が発生し、20万人以上が亡くなりました。

2011年3月11日、冨士原さんは千葉県柏市にある東京大学の大気海洋研究所にいました。何とそこでは、7年前に起きたスマトラ島沖地震に関する研究の、中間まとめをする国際シンポジウムが開かれていたのです。もちろんインドネシアの研究者も招かれていました。その会議中に東北沖地震の揺れが襲ってきました。

「びっくりしました。大騒ぎですね」と冨士原さんは振り返ります。しばらく屋内にとどまっていたものの、揺れが激しくなったので建物から逃げだし、駐車場に避難しました。「その時はまだスマホとか普及していなくて、携帯のワンセグで、ずっと映像を見ていました」。まさか日本で再びM9の地震にでくわすとは、インドネシアの研究者も予想だにしていなかったでしょう。


冨士原敏也

冨士原敏也(ふじわら・としや)

1964年、千葉県生まれ。東京大学大学院理学系研究科修了、博士(理学)。2019年より現職。高知大学客員教授、海上保安庁の海底地形の名称に関する検討会委員なども務めている。専門は海洋底地球物理学。地球物理学的観測による海洋底のプレートテクトニクスの研究を行っている。写真は深海調査研究船「かいれい」の船尾近くに立つ冨士原さん。
撮影/藤崎慎吾




冨士原さんも木戸さんと同じように、沈みこみ帯のプレートテクトニクスを研究しています。しかしGPS-Aや海底水圧計による観測はやっていません。前回、紹介したマルチビーム音響測深機(ソーナー)による海底地形の調査(音波探査)から、プレートの動きを読み取ろうとしています。また所属する研究グループとして、これも前回、触れた反射法地震探査などを行っています。

日本海溝の周辺では、1990年代から深海調査研究船「かいれい」などによって、音波探査や地震探査が何度も行われていました。そうしたデータの蓄積があった上で、東北沖地震発生から数日後の緊急調査も行われたのです。JAMSTECは1999年と2004年に宮城県沖で調べた海底と全く同じ場所を、2011年3月に「かいれい」で調査し、地震後の新しい地形データを得ました。これらを比較すれば、広範囲の「面」で海底の動きがわかると考えたからです。

調査海域
東北沖地震直後に「かいれい」が海底地形を調査した海域(黄色い枠)×ばつ印は震源、赤い枠は震源域を示す。
提供/冨士原敏也 氏

とはいえ音波探査は本来、場所ごとの海底地形を知るために行うもので、いわば地図づくりの道具です。時間を追って、細かい変化を見ることは想定されていません。誤差は上下方向に数m、水平方向だと、日本海溝のように深い場所では20mも出る場合があります。そのためメートル単位で比較するのは、難しい可能性がありました。

しかし冨士原さんはあえて比較に挑戦し、それを様々な角度から検証することで、意味のある結果を出していきました。

まず冨士原さんは「海溝軸から海側にある海洋プレート上の地形は、地震の前後でほとんど変化しなかった」と仮定することにしました。つまり動かない基準点を設けたのです。東北沖地震のようにプレート境界で起きる地震では、海溝から沈みこむ海洋プレートではなく、その上に乗っている大陸プレートが動くとされているので、根拠のない仮定ではありません。

その上で冨士原さんは1999年と2004年、そして2011年に調べた同じ海底のデータを、海溝軸より海側の領域、つまり基準点で厳密に重ね合わせました。そして海溝軸より陸側の地形が、どれだけずれているかを調べました。ただ単純に重ね合わせただけだと、絶対的な深さや位置(地球上のどこにあるか)についての誤差が問題になってしまいますが、こうすると相対的な変化だけを見ることになるため、誤差の一部を無視できるようになるのです。

その結果、1999年と2011年を比べた場合で、陸側の海底は東北東方向へ最大50m以上、海面方向へ最大10m以上動いたことがわかりました。しかも、その変化は海溝へ近づくほど大きくなっていました。これは木戸さんらの観測結果と比べても、よく合っています。そしてGPS-Aの観測点がなかった海溝軸近くで、50m以上すべったのではないかという推定を裏づけました。

一方で地震前の1999年と2004年のデータを同じように比較したところ、変化はありませんでした。これは冨士原さんのとった方法が正しいことを示しています。

海底地形比較
Aは2011年に調査した海域(一つ前の図を参照)の海底地形。浅いほど赤く、深いほど青く色分けされている。赤い▼とさんかくで結んだ場所が海溝軸。Bでは2011年と1999年、Cでは2011年と2004年のデータを比べて、差を色で示してある。赤っぽいほど大きく動いており、青っぽいほど動いていない。海溝軸より海側(右側)は動かなかったと仮定して重ねたため、青っぽく示されている。Dは地震前の1999年と2004年を重ねた結果で、全体に青っぽくなっており、ほとんど動いていなかったことがわかる。
提供/冨士原敏也 氏(Fujiwara et al. 2011, Scienceを修整)

さらに冨士原さんはカナダのビクトリア大学や、カナダ地質調査所・太平洋地球科学センターの研究者と共同して、コンピューターも駆使しました。海底地形の動きというのは、地震による断層(プレート境界)のすべりを反映しているはずですが、全く同じとは限りません。では断層がどうすべれば、海底地形が観測されたように動くのでしょう? 実際の断層で試すわけにはいきませんので、冨士原さんらはコンピューターの中に仮想の沈みこみ帯をつくりました。もちろん日本海溝周辺がモデルになっています。

この仮想沈みこみ帯を無数のブロックに区切り、それぞれのブロックにある岩石の状態(どれだけ変形しやすいか)や、ブロックどうしがどう影響し合うかも再現できるようにしました。その上で仮想の地震を起こし、断層のすべりかたを色々と変えて、海底地形がどう動くかを検証したのです。すると陸に近い方から沖へと、すべる量を約5mぶん次第に増加させ、海溝軸で65mに達するようにすると、実際の地形変化に最も近くなることがわかりました。

これで観測結果からわかった海底の動きが、断層のすべりからその通りに生じうることを証明したのです。

数値計算
コンピューターの中につくった仮想の沈みこみ帯(日本海溝周辺)のイメージ。変動が大きい場所ほど細かいブロックに区切ってある。これを使って断層の動きかたを様々に変え、海底地形がどう動くかを検証した。
(Sun et al. 2017, Nat. Commun,を修整)

止まるはずだったすべりが止まらなかった

実はこの「海溝軸に近くなるほど大きくすべった」というのが、研究者にとって「想定外」の一つでした。しかも反射法地震探査で海溝軸付近の地下構造を調べてみると、断層のすべりが海底の表面にまで達してしまった可能性もあるとわかりました。これは驚異的なことです。

東北沖地震が起きる前までは、そんなに浅いところまですべることがあるとは思われていませんでした。プレート境界の地震は、だいたい深さ20〜50kmのあたりが震源(最初に断層が破壊される場所)となって、そこから浅い方へと断層がすべっていきます。しかし普通なら海底まで達する前に、どこかで止まるはずでした。

地下構造
反射法地震探査で調査した日本海溝の海溝軸付近の地下構造。同じ場所を東北沖地震前の1999年(上)と地震後の2011年(中)で比較すると、海溝軸の東北側(陸側)斜面が少し沈降し、中央は変形しながら少し隆起していることがわかる。詳しく断面を読み取ると(下)、東北側の震源から伝わってきた断層のすべりが、いくつかの細かい断層に分岐しながら海底面にまで達したと考えられる。
冨士原敏也 氏(Kodaira et al. 2012, Nat. Geosci.を修整)

海溝軸から沈みこんだばかりの海洋プレートは、まだ海水をたっぷり含んでいて柔らかくなっています。また、その上に乗っていた泥のような堆積物は、次々と剥ぎ取られるようにして大陸プレートにくっついていきます。そういう海底付近の浅い場所では、プレート境界の上も下も柔らかいので固着が弱く、深いところからすべりが伝わってきてもあまり動かない。むしろ吸収するように止めてしまうと考えられていました。この場合、すべる量は海溝軸に向かって減っていくはずです。

岩やブロックのようなものを手で押せば、押しただけ動くでしょうが、泥や砂の山を押しても崩れるだけであまり動かないのと似ているかもしれません。

ところが東北沖地震では、すべりを止めるはずの場所が大きく動いてしまいました。そして巨大津波の原因になった可能性があります。どうしてそうなったのか、考えられる理由については次回に触れたいと思います。

断層のすべりかた
東北沖の広域な地下構造(深さは5倍に強調してある)と、プレート境界型地震による断層のすべりかた。従来は黄色い線で示したように、浅い場所のどこかで、すべりは止まるものと思われていた。しかし東北沖地震では赤い線で示したように、海溝軸の海底まで達していた。

「ドローン」を使っての観測を目指す

観測点は少ないけれど確実な数値を出せる木戸さんのGPS-Aや海底水圧計、そして誤差は大きいけれど広範囲をカバーできる冨士原さんの海底地形調査、双方が補い合って巨大地震の驚くべき特徴が明らかになりました。これらの手法を、二人はさらに磨いていきたいと考えています。

「地形の変化が確実にとらえられることがわかったので、私の希望としては、今後は定期的に重要な場所のデータをとり続けて(毎年比べるということを)やりたい。あわよくば地震と地震の間の変動もとれると、うれしいんですけどね」と冨士原さんは言います。誤差を減らすために、観測の方法なども工夫していくようです。

木戸さんらは東北沖地震の後、GPS-Aの観測点を大幅に増やしました。現在は日本海溝沿いに20ヵ所設置されています。海上保安庁が新設したものを合わせると、全部で29ヵ所になります。水深が深いため設置が難しかった海溝軸のすぐ近くにも、技術的な課題を克服していくつか並べました。

GPS-A設置点
本記事掲載時点で、東北沖に設置されているGPS-Aの観測点。黒い丸が東北大学、灰色の丸が海上保安庁によって設置された観測点。
提供/木戸元之 氏

しかし木戸さんは、それで満足していません。やはり冨士原さんと同じように、できれば地震と地震の間に起きている変化も調べたいのです。それによって東北沖地震の性質についてはもちろん、次に起きるかもしれない地震についても、より多くのことがわかるかもしれないからです(これについては次回以降に触れる予定です)。しかし地震間の動きの変化を細かく見るには、もっと観測頻度を上げなければなりません。

とはいえ資金的にも人員的にも、今より頻繁に観測するのは難しくなっています。そこで人が船で行くのではなく、無人ボートのようなもの(一種の海上ドローン)を使って、自動的に観測させていけるシステムを、JAMSTECと共同で開発しようとしています。それが完成すれば1年中、海を走らせて観測させることもできるでしょう。

自動観測システムのドローン
木戸さんらが自動観測システムで用いようとしている、ドローンのようなもの。JAMSTECと共同で開発を進めており、無人海上観測機「ウェーブグライダー」と呼ばれている。波の力で進むため燃料を必要とせず、1年中、海上を走らせることができる。2020年6月から7月にかけての約40日間、東北大学が設置したGPS-Aの観測点を単独で自動的に巡回し、14の観測点でそれぞれの位置を測定することに成功した。暫定的な解析結果によれば、その精度は有人の船で測定した場合と同程度だった。
提供/木戸元之 氏

「将来的にそういったものを大量に投入できるような状態にもっていきたいなと。そうすると今まで船で測ってきたときに比べたら、ぜんぜん次元のちがう頻度で観測ができますので、全く種類の異なるデータがとれるのではないかと期待しています」と木戸さんは胸を膨らませていました。(次回に続く)




藤崎慎吾

藤崎慎吾(ふじさき・しんご)

1962年、東京都生まれ。米メリーランド大学海洋・河口部環境科学専攻修士課程修了。科学雑誌の編集者や記者、映像ソフトのプロデューサーなどを経て、99年『クリスタルサイレンス』(朝日ソノラマ)でデビュー。同書は早川書房「ベストSF1999」国内篇第1位となる。現在はフリーランスの立場で、小説のほか科学関係の記事やノンフィクションなどを執筆している。近著に《深海大戦 Abyssal Wars》シリーズ(KADOKAWA)、『風待町医院 異星人科』(光文社)、『我々は生命を創れるのか』(講談社ブルーバックス)など。ノンフィクションには他に『深海のパイロット』、『辺境生物探訪記』(いずれも共著、光文社)などがある。

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