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知ろう!記者に発表した最新研究

2013年10月17日発表
陸上から海中の無人探査機(むじんたんさき)遠隔操作(えんかくそうさ)!
海と陸の通信、大前進!

海中を泳ぎまわり深海を探査する、無人探査機。その無人探査機を、ずっと(はな)れた陸上の研究室から、遠隔操作できたら? 無人探査機が撮影(さつえい)する映像(えいぞう)や計測データを、リアルタイムで見ることができたら?

そんな海と陸の距離(きょり)が一気にちぢまる通信技術(つうしんぎじゅつ)の開発試験に、石橋 正二郎 博士(いしばし しょうじろう はかせ)独立行政法人情報通信研究機構(どくりつぎょうせいほうじんじょうほうつうしんけんきゅうきこう)(NICT)の研究チームが成功しました。いったいどんなもの? 人工衛星(じんこうえいせい)を使った通信技術の最前線を紹介します!



気候変動予測(きこうへんどうよそく)地震観測(じしんかんそく)資源探査(しげんたんさ)など、地球で生きていくためには海の研究調査は重要です。だから研究調査中に集めた映像や観測データはできるだけ早く船上から陸上の研究室に送りとどけ、くわしい分析(ぶんせき)を始めることが求められます。でも、こうしたデータの容量(ようりょう)は、時に莫大(ばくだい)。人工衛星を経由する船上と陸上の通信では容量と速度に限りがあるため、せっかくのデータを陸上の研究室に送り(とど)けられないケースが多くあります。たとえば、無人探査機が集めた海中映像や計測データが、船上では確認(かくにん)できても陸上へは送れず、くわしい分析が下船後になり研究に時間がかかるのです。

[画像:一般的な船上と陸上の間における通信の現状]

図1 船上と陸上の間における一般的な衛星通信の現状

一方で、いま宇宙には、超高速インターネット衛星「きずな」(WINDS)があります。 宇宙航空研究開発機構(うちゅうこうくうけんきゅうかいはつきこう)(JAXA)とNICTが開発して2008年に打ち上げた衛星で、ふつうの通信衛星よりも大容量かつ超高速で通信できる機能があります。

[画像:さつとまさつ熱]

図2 超高速インターネット衛星「きずな」(WINDS)

そこで石橋博士はNICTと協力して、「きずな」を経由して深海から陸上までつながる通信環境を(きず)くことを目指し、その研究開発として、無人探査機の遠隔操作に挑戦(ちょうせん)したのです。

挑むのは、神奈川県横須賀市にあるジャムステック横須賀本部から、「きずな」を経由(けいゆ)して、海洋調査船「かいよう」と光ファイバでつながった海中の無人探査機「おとひめ」の遠隔操作。

[画像:遠隔操作イメージ。]

図3 遠隔操作イメージ

「おとひめ」とは、水深3,000mまでもぐり、複数(ふくすう)のカメラで海中を撮影したり、マニピュレータを使って作業をする無人探査機です。

[画像:無人探査機「おとひめ」]

図4 無人探査機「おとひめ」

まず石橋博士は、「おとひめ」を「かいよう」を通して「きずな」の通信に対応(たいおう)するように設定(せってい)しました。さらに、最新の中央処理装置(CPU)を組みこみました。CPUとは頭脳(ずのう)のようなもの。たとえばライトの点灯(てんとう)、プロペラの速さ、(かじ)の向き、現在地を計算する 慣性航法装置(INS)などの仕事をコントロールします。

[画像:CPU]

写真1 CPU

のせたCPUの台数は、深海巡航探査機(しんかいじゅんこうたんさき)「うらしま」が開発当初(1998年)は2台だったのに対し、今回の「おとひめ」は6台。()やした理由は、1台のCPUに仕事を集中させずに6台で分担(ぶんたん)させるためです。すべてのCPUはネットワークでつなぎ、それぞれの仕事の進み具合や状況(じょうきょう)などをたがいに知らせあうようにしました。万が一、どれか1台がこわれても、他のCPUが助けます。「おとひめ」の仕事達成能力がアップ!

[画像:CPUの機能イメージ]

図5 CPUの機能イメージ

ジャムステック本部には、「きずな」と通信するためのアンテナと「おとひめ」を遠隔操作する装置(そうち)を組みこんだコンソールを設置しました。

アンテナは、大型車に積んだタイプで移動もできます。

[画像:CPU]

写真2 JAMSTEC本部に設置したアンテナ

コンソールは、モニタを見ながらコントローラを使って遠隔操作できるようにしました。

[画像:JAMSTEC本部のコンソール]

写真3 JAMSTEC本部のコンソール

一方の「かいよう」船上にもアンテナとコンソールを設置しました。

[画像:「かいよう」船上に設置したアンテナ]

写真4 「かいよう」船上に設置したアンテナ

アンテナは「おとひめ」のCPUネットワークとつながり、光ファイバケーブルを通ってきた「おとひめ」のすべての情報を、「きずな」を経由して陸上へ送ります。船がゆれるとアンテナの方向が「きずな」からそっぽを向いてしまいそうですが、(つね)にアンテナは「きずな」の方向へ向くジンバル機構を組みこんだので大丈夫!

[画像:船上のコンソール]

写真5 船上のコンソール

こうしてシステムがたがいに通信するようにつくり、いよいよ遠隔操作の試験です...!

遠隔操作試験は2013年10月6日に行いました。「おとひめ」がいるのは、相模湾初島沖(さがみわんはつしまおき)の深さ130mの海域。ジャムステック横須賀本部との直線距離(ちょくせんきょり)は、約60kmです。

[画像:地図]

図6 遠隔操作試験海域

ジャムステック本部からの操作によって、「おとひめ」が4台のカメラで撮影した海中の様子やたくさんの計測データが「きずな」を経由してリアルタイムで送ることができました。ジャムステック本部のモニタには鮮明な海中の映像が映し出されました。調査する場所(海)と操作する場所(陸)は遠く離れているのに、まるですぐそばにいるみたい!

[画像:陸上から、映像を見ながら遠隔操作!]

写真6 陸上から、映像を見ながら遠隔操作!

今回の成功により、船と陸の間の通信技術が大きく前進しました。この技術を使えば、研究者やオペレータ(操縦(そうじゅう)する人)がわざわざ乗船してその調査海域(ちょうさかいいき)へ行かなくても作業ができるしデータも手に入るので、研究のスピードも効率(こうりつ)も上がるでしょう。観測できる範囲も広がると期待されます。

今後は、「きずな」がカバーしていない海域ではどう通信していくか、研究開発を進めます。

石橋博士は、「『おとひめ』は、遠隔操作型探査機のなかまでもあります。その遠隔操作で、海上からでも陸上からでも、同じ環境や映像を見せることができれば、"遠い距離"を一気にワープさせることができる」と話します。

[画像:石橋博士からメッセージ]

今回の成功は、石橋博士が一つのシステムにこだわりを持ち何年も開発を続けてきたことが秘訣。だから石橋博士は、「読者のみんなには、何かに取り組むとき、途中(とちゅう)であきらめないでがんばってほしい」と話します。「たとえば縄跳(なわと)びをたくさん練習すれば二重飛びができるようになるかもしれない。今度は二重飛びができるようになった脚力(きゃくりょく)で、100m走のタイムが上がるかもしれない。何かにこだわって、そこで生まれたことは、それだけじゃない新しい何かにつながることが多いんだ」とのこと。みなさん、がんばってくださいね!

[画像:「おとひめ」のマニピュレータをにぎる石橋博士]

写真7 「おとひめ」のマニピュレータをにぎる石橋博士

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