アフリカ南部では、夏の気温がこの30年で2度ほど高くなっています(図1)。その原因の一つが南極上空のオゾン層にあることを、ジンバブエ出身のデスモンド・マナツサ博士をはじめとする東京大学、ジンバブエのビンドゥラ大学などの研究チームがつきとめました。いったいどういうこと? アフリカの気候研究の最前線にせまります!
まず、オゾンとは酸素の原子が3つ集まっていて、人体に有毒で独特のにおいがする気体です(図2)。そのオゾンが地上20�qほどの高さに広がり地球をおおう層をオゾン層と呼びます。オゾン層は、太陽から降り注ぐエネルギーのうち人体に有害な紫外線を吸収し、地球上の生物を守っています。
ところが1980年代から、南極の春先(10〜12月)にオゾンの量が極端に少なくなるオゾンホール(図3)が発生するようになりました。原因は、人間の活動により大気中に放出されたフロンガスなどによるオゾン破壊です。このオゾンホールは「南半球の気候に影響を与えるのではないか」という指摘がありますが、これまでくわしくはわかっていませんでした(図3)。
そこで、ジャムステックと共同研究をしているジンバブエ出身のマナツサ博士が、アフリカ南部の気候とオゾンホールの関係について研究を始めました。
マナツサ博士は、アメリカの国立環境予測センターと大気研究センターにある1979年〜2010年までの約31年分の観測データを解析しました。
まず、アフリカ南部の地上気温と南極のオゾンホールの関係を調べました。その結果、1993年以前はオゾンホールが小さく気温も低かったのですが、1993年以後はオゾンホールが大きくなり、気温も高くなる傾向がありました(図4)。
そこでマナツサ博士は、オゾンホールが大きい時と小さい時の大気の状態を比べました。その結果、オゾンホールが大きくなるとアフリカ南部の低気圧が強くなり、赤道域から暖かい空気が入りこむことをつきとめたのです。
ふだん南極では、太陽から降り注ぐ紫外線がオゾン層で吸収されて上空があたたまります。ところがオゾンホールが大きくなると紫外線があまり吸収されなくなり、上空の気温が下がります(図5)。空気は気温が低いほど重いので、冷たく重い空気は下の方の暖かく軽い空気と混ざろうとします。これにより大気が不安定になって低気圧が発達します。
南極で低気圧が発達する一方で(図6上)、アフリカ南部の周辺ではマスカリン高気圧とセントヘレナ高気圧が南極側に引き寄せられます(図6中)。これにともない2つの高気圧の間にあるアンゴラ低気圧が強まります。低気圧の周りでは風が時計回り(南半球では時計回り)に吹きこむため、赤道域から暖かい空気が流れこみ、アフリカ南部の気温が上がっていたのです。
反対に、オゾンホールが小さかった時には逆の現象が起きていました(図7)。太陽から降り注ぐ紫外線はオゾン層で吸収され、上空が温まって南極の上空に強い高気圧が居座ります。一方、マスカリン高気圧とセントヘレナ高気圧は北側に押しやられます。アンゴラ低気圧は弱くなり、高緯度から冷たい空気が入りやすくなって、アフリカ南部の気温は下がっていました。
こうして、アフリカ南部で夏に気温が上がっている原因の一つに、オゾンの影響があることが明らかになりました。
地球温暖化の原因というと二酸化炭素などの温室効果ガスを考えますが、実はそれだけではなく地域ごとに異なる原因があるのです。地球温暖化のメカニズムを解明するには、地域別にも考えなければなりません。
アフリカ南部の夏が暑くなれば、トウモロコシなど農作物の収穫量が変わったり、蚊を通じて感染病のマラリアなどが広がる恐れがあります。その影響は世界に広がる可能性もあります。マナツサ博士は、「気温が上がらないように、南極のオゾンホールがこれ以上大きくならないよう、今後も世界各国でオゾンホールの対策を進めることが必要です。」と話します。
ジンバブエを代表して日本でがんばっているマナツサ博士を技術的にサポートする森岡 優志博士から、「読者のみんなには、目の前で起きたことをうのみにせず、「どうして起きたのかな?」と思って、自分で調べてほしい。」とメッセージを頂きました。みなさん、がんばってくださいね!
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