テレビ、コンピュータ、自動車。みなさんに身近なこれらの製品を作る部品には、必ずと言っていいほど金属が使われています。その金属の中には、使われる量は少なくても、欠かせないレアメタルやレアアース、金、銀などの貴金属があります。これらは、きわめてわずかな量しか取れない貴重な資源です。
いま、それらが眠っていると注目されているのが、海底です。カギをにぎるのは、温泉のように海底から熱水をふき出す熱水噴出孔。資源の宝庫である「熱水鉱床」につながるのです。
ジャムステックでは、その熱水噴出孔を人工的につくる実験を行った結果、資源になりうる黒鉱を採ることに成功しました! 将来は、人工熱水噴出孔から資源を育てて利用することができるかも知れません!
海水は海底下深くまでしみこむと、マグマに熱せられ、まわりの岩石から金属などをとかしこんだ後、海底にむかって上昇します(図1)。この熱水が海底面に近づいて冷やされると、銅や亜鉛、鉛、金、銀などをふくんだ鉱物があらわれます。これが連続してたくさんたまると、資源として役立つ熱水鉱床になります。
島国である日本は、調査や漁業など行える沿岸から約370�qまでの範囲(排他的経済水域EEZ)の面積が世界6位(図2)。そして、日本のEEZには、多くの熱水噴出孔が見つかっています。
2010年9月、地球深部探査船「ちきゅう」は統合国際深海掘削計画第331次研究航海を行い、沖縄トラフの熱水噴出孔について調べました(参考:2010年10月5日発表)。
研究航海を行った海域は、沖縄の北西150�qに位置する伊平屋北フィールド(図3)。
水深は約1,000mと比較的掘りやすく、海底下は熱水が充満していることがわかっています。その海底に「ちきゅう」で人工熱水噴出孔を掘りました(図4)。
1年にわたって熱水のふき出し方、熱水の成分、熱水が海水に冷やされることによって金属などがしずんでできる煙突のような「チムニー」の変化を調べました(図5)。
結果 1
熱水は、2010年9月は金属をふくんだ黒味のある熱水でしたが、2011年9月には黒味のない透明なクリアスモーカーに変化し、蒸気は減っていました(図6)。
結果 2
人工熱水噴出孔をほった4ヶ月後(2011年2月)、C0016には、新しいチムニーができていました! その高さは、なんと6m! サンプルをとろうとしましたが、こわれてしまいました。
そして11ヶ月後の2011年9月。こわれたチムニーが、なんと8mを超える高さに再成長していました(図7)!
結果 3
C0016で採ったサンプルは、主成分が金属(閃亜鉛鉱・ウルツ鉱・方鉛鉱・黄銅鉱)で、ほぼ成熟した黒鉱でした(図8)。黒鉱とは、銅、亜鉛、鉛、金、銀などをふくむ黒っぽい鉱石で、以前は秋田県地方などの鉱山でさかんに採掘されていました。日本周辺の熱水活動域に多く見られます。
一方、C0013で採ったサンプルは石膏(硫酸カルシウム)がほとんどで、金属(黄銅鉱・閃亜鉛鉱・方鉛鉱・ウルツ鉱)は少ししかふくまれていませんでした。
むむ? 8mを超える高さのチムニーができる所や、黒鉱ができる所とできない所があるのはなぜ? そのひみつは、熱水の成分のちがいによると考えられます。
伊平屋北フィールドの海底下は、キャップロックとよばれる層が重なった構造になっています(図9)。これは、水を通さない岩石が、ふせたおわんのように堆積物をおおい、それが層になっている構造です。それぞれのキャップロックの中には熱水が充満しています。その熱水の上層は沸とうにより「蒸気が濃縮された熱水」、下層は沸とうにより「塩分が濃縮された熱水」です。その下層の「塩分が濃縮された熱水」が、黒鉱をつくる成分が濃いと考えられるのです。
キャップロック内の下層、つまり黒鉱成分の濃い熱水を人工熱水孔から噴出させれば、チムニーの成長速度は速く、黒鉱もできやすいといえます。
ジャムステックでは、人工熱水噴出孔に回収装置を設置して、チムニーを成長させてから鉱物を回収するアイディアの特許を出願しています。
将来、低いコストで環境にも影響を与えず、資源を育て回収する、という新しい資源の時代が来るかもしれません!
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