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知ろう!記者に発表した最新研究

2010年12月16日発表
サブテラネウムがどんなアーキアなのかわかった!
生命の進化のなぞにせまる!

地球上の生命は、どのように進化してきたのでしょうか。すべての生命に共通する祖先(そせん)は約40億年前に誕生し、バクテリア(細菌(さいきん))とアーキア(古細菌(こさいきん))(参考:2010年11月8日発表)に分かれ、そして動物や植物などのユーカリア(真核生物(しんかくせいぶつ))へと進化しました(図1)。

[画像:生命の進化の道のり]

図1:生命の進化の道のり

いま、数え切れないほど多くの生命が息づく地球。中でも大きな割合(わりあい)をしめるのがアーキアとバクテリアで、地球上のあらゆるところにいます。しかし、そのアーキアの多くは人間の手で育てる(培養(ばいよう))のがむずかしいので、実は研究があまり進んでいません。けれど、生命の進化のなぞを解き明かす上で重要です。

[画像:アーキア]

写真1:アーキア

そこで研究者は、カルディアーケルム サブテラネウムというアーキアを研究しました。その結果、サブテラネウムから「ユビキチン—プロテアソームシステム」に必要な 遺伝子群(いでんしぐん)を発見したのです。ユビキチン—プロテアソームシステムとは細胞(さいぼう)の中にある大切なしくみの1つで、いらなくなった細胞の中の部品(タンパク質)をより分けて分解(ぶんかい)します。ユーカリアの細胞が生きるには欠かせません。そのしくみは、これまでアーキアやバクテリアからは見つらなかったので、ユーカリアの誕生時(たんじょうじ)につくられたと考えられてきました。けれど今回、そのユビキチン—プロテアソームシステムに欠かせない遺伝子群を、アーキアであるサブテラネウムからも発見したのです。つまり、ユーカリア細胞の特徴(とくちょう)の1つとされてきたユビキチン—プロテアソームシステムは、アーキアからユーカリアが誕生する前からすでに存在していた事実をつき止めたのです!これまで考えられてきたよりも、アーキアとユーカリアの細胞のしくみが近いことが、明らかになりました。

今回の発見は、生命の進化のなぞを解明する上で大きな手がかりです。研究者はこれからも研究を続けて、そのなぞにせまります。

まず、アーキアとは微生物(びせいぶつ)の1種で、サイズは1-10μmと小さく肉眼では見えません。地球上のあらゆる場所に棲んでいて、人間にとっては過酷(かこく)な環境である高塩分の湖やまっ暗で高水圧の深海底などにもいます。中でも、海底から熱水をふき出す熱水噴出孔(ねっすいふんしゅつこう)(参考:2009年9月10日発表)や温泉など、45°C以上の環境に棲む種類を好熱性(こうねつせい)アーキアといいます(図2)。

[画像:色々な場所に生きるアーキ]

図2:色々な場所に生きるアーキア

その好熱性の種類は、アーキアの中でも特に生命の共通祖先に近い存在(そんざい) なので、生命の進化のなぞを解明する上で重要です。けれど、まだまだなぞばかり。そこで研究者は、好熱性アーキアの1つカルディアーケルム サブテラネウムの研究を始めました。

微生物を解析する方法の1つに、ゲノム解析というものがあります。ゲノムとは遺伝子の集まりで、すべての生命がもつ設計図のようなものです。そのゲノムは一度に全体を解析することはできません。だから、微生物から取り出したゲノムを一度バラバラにして、断片(だんぺん)(かけら)ごとに解析し、その得られた情報(じょうほう)をコンピュータ上でつなぎ合わせて、ゲノムの構造(こうぞう)を調べます。生き物をとてもくわしく解析できる方法です。

微生物の研究では、ふつうは目的の微生物だけを育て(培養)数を増やしてから解析します。数を増やせば、よりくわしく調べられるからです。けれども、現在の技術(ぎじゅつ)で培養できる微生物は全体の1%もありません。なぜかというと、微生物が育つ環境、つまり微生物が快適(かいてき)にくらせる環境を実験室で再現(さいげん)するのは非常にむずかしいからです。今回のサブテラネウムも、今まで培養された例はありません。

そこで開発されたのが「メタゲノム解析」です。環境の中の様々な微生物がまざった状態で、そのまま、ゲノム解析をする方法です。これなら、培養できない微生物のゲノムを解析でき、その情報から、培養できない微生物の特徴や役わりなどがわかります。

今回研究者は、そのメタゲノム解析でサブテラネウムを調べました(図3)。

[画像:実験の流れ]

図3:実験の流れ

サブテラネウムからゲノムの断片を集めつなぎ合わせて、合計で1,680,928個のDNA塩基(えんき)からなる環状(かんじょう)ゲノムを作ることに成功し、計1777個の遺伝子を見つけることができました!そして、次のことがわかりました。


【その1】サブテラネウムは、新しい分類の生き物!
地球上の生命は、それぞれの特徴に分けて細かくまとめられます。分類といいます。その分け方は、大きな方から細かい方へ、界−門−綱−目−科−属−種となります(図4)。 今回、サブテラネウムは他の生命とは全くちがう性質を持つことが明らかになりました。分類では、なんと"門"レベルで新しい種類です。

[画像:実験の流れ]

図4:分類


【その2】水素をエネルギー源にする独立栄養生物(どくりつえいようせいぶつ)である可能性が高い!
たとえば海では、植物プランクトンが日光のエネルギーを利用して光合成をして、自分で栄養分を作り成長します(図5)。そして、その植物プランクトンは動物プランクトンに食べられます。さらに、その動物プランクトンは魚に、魚は哺乳類(ほにゅうるい)などに食べられます。そのつながりの中で、植物プランクトンのように環境中からエネルギー(げん)を取り出して自分で栄養分を作るものを「独立栄養生物」と言います。一方、動物プランクトンや魚のように、他の生き物を食べてエネルギー源にするものを「従属栄養生物(じゅうぞくえいようせいぶつ)」と言います。

[画像:独立栄養生物と従属栄養生物]

図5:独立栄養生物と従属栄養生物


サブテラネウムは、その独立栄養生物にあたり、環境中の水素からエネルギーを取り出して自分で栄養分をつくる種類とわかったのです。


【その3】「ユビキチン—プロテアソームシステム」に欠かせない遺伝子群を発見!
共通生命が進化して、アーキアとバクテリアに分かれユーカリアが誕生するとともに、生命の体(細胞)のしくみも大きく発達しました。そのしくみの1つが、ユビキチン—プロテアソームシステムです。ユビキチンとは小さなタンパク質です(図6)。

[画像:ユビキチン]

図6:ユビキチン

たとえば、人間の細胞内では毎日タンパク質が作られていますが、中には不良品やいらなくなるタンパク質もあります。それらが細胞内にとどまっていると、病気を引き起こしてしまいます。それをふせぐために、不要なタンパク質を探し出すのがユビキチンなのです。ユビキチンが不要なタンパク質にくっ付くことで、「いらないよ!分解して!」という印になります(図7)。すると、それを目印にプロテアソームという 酵素(こうそ)が不要なタンパク質を分解するのです。

[画像:ユビキチンプロテアソームシステム]

図7:ユビキチンプロテアソームシステム


このような、ユビキチンがタンパク質にくっ付いてからプロテアソームが分解するまでをユビキチン—プロテアソームシステムと言います。これまで、このしくみはアーキアやバクテリアからは見つからなかったので、ユーカリアが誕生した時につくられたものと考えられてきました。

けれども今回、そのユビキチン—プロテアソームシステムに不可欠な遺伝子群が、好熱性アーキアであるサブテラネウムからも見つかったのです。この発見によって、ユビキチン—プロテアソームシステムの原型が、これまで考えられていた時点よりも前から存在していた可能性(かのうせい)が示されました(図8)。世界初の発見です!

[画像:ユビキチンープロテアソームシステムの存在]

図8:ユビキチンープロテアソームシステムの存在

今回はサブテラネウムのメタゲノム解析に、世界で初めて成功しました。そして、ユビキチン—プロテアソームシステムの原型と考えられるしくみを発見しました。これからは、その原型がユーカリアでも機能するのかを確かめます。また、そのしくみはユーカリアの進化にともなって広がったので、どのように発達してきたのかを解明していきます。

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