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知ろう!記者に発表した最新研究

2010年7月9日発表
今とはちがう場所で深層水(しんそうすい)がつくられていた時代があった!
17,500〜15,000年前に北太平洋でつくられていた深層水は、地球の気候のはげしい変化をやわらげていた

世界の海をめぐる海流には、とても重要な働きがあります。それは、地球の熱を運ぶことで気候を安定させること。ですから、海流は地球全体の環境(かんきょう) に大きなえいきょうをあたえます。
海流には、海の浅いところを速く流れる表層水(ひょうそうすい)の流れと、深さ数千mをゆっくりと流れる深層水(しんそうすい)の流れがあります。その深層水は、何万年間という長いあいだ、北大西洋のグリーンランドの近くでつくられて、世界の海を1,000年ほどかけて1周していました。ところが、17,500年から15,000年前の2,500年間に北大西洋でつくられる深層水の流れがストップしてしまった時代がありました。深層水の流れがストップしたことによって、地球の気候は不安定になり、世界中ではげしい気候の変化がおこりました。このように、地球の気候を理解するには、深層水の流れを調べることがとても大切です。けれども、北大西洋の深層水がストップしてしまったその時代、世界の海流がどう流れていたのかはよくわかっていませんでした。
そこで研究者たちは協力して、海の (そこ)からとってきた(どろ)(堆積物(たいせきぶつ) )の分析と、スーパーコンピュータを使ったシミュレーション実験を行い、当時の深層水の流れを調べました。すると、北大西洋の深層水がストップしていた17,500年前から15,000年前には、かわりに北太平洋で深層水がつくられていたことがわかったのです。この北太平洋深層水の流れができたことで、寒い北の海へと熱が運ばれ、地球の気候のはげしい変化をやわらげる働きをしていたことが明らかになりました。

[画像:航海を行う海域]

図1:浅い海と深い海では、ちがう流れがあります

海流は、海の同じ場所でも浅いところと深いところでは、まったくちがう流れになります(図1)。表層から数百mの深さまでの表層の流れは、海の上をふく風の力によって流れます。その速さは、黒潮(くろしお)などでは、秒速1mを()えます(ちなみに、水泳の世界記録が秒速2mくらいです)。一方、水深数千mの深層の流れは、海水の密度(みつど)の差によって流れます。その速さは秒速1cmくらいと、とてもゆっくりです。


このような海流は、地球にふりそそぐ太陽のエネルギー(熱)を、暑い赤道周辺から寒い北極や南極周辺まで運んで、地球の気候を安定させる大切な役わりを果たしています(図2)。

[画像:地球の気候を安定させる大切な海流]

図2:地球の気候を安定させる大切な海流

もし海流がなかったら、赤道のあたりはどんどん暑く、北極や南極はどんどん寒くなってしまいます。深層水は、すべての海の約80%と巨大(きょだい)な容積を()めていて、そのなかに大きな熱を(たくわ)えているので、ゆっくりとした流れでも大きなエネルギーを運んでいるのです。

いま深層水がつくられている場所は、北大西洋のグリーンランドの近く(図3)と南極のまわりです。

[画像:深層水がつくられている場所]

図3:深層水がつくられている場所

グリーンランドの近くでは、大西洋の(ねっ)帯域(たいいき)から北上してきたあたたかく塩分が高いメキシコ湾流(ガルフストリーム)が冷やされて重くなり、深層へとしずみこんでいます(図4)。

[画像:深層水のつくられ方]

図4:深層水のつくられ方

こうしてできた深層水は、大西洋を南下し、南極周辺の海でできた深層水と合流したのち、インド洋や太平洋へと流れこんでいきます。北大西洋でしずみこんでから北太平洋に到着( とうちゃく) するまでにかかる時間は、およそ1,000年だと考えられています。ちなみに、現在の北太平洋では、深層水はつくられません。なぜなら、太平洋表層水の塩分は低いので、冷やされても深層まで沈みこめるほど重くならないからです。

過去(かこ)100万年の間、地球は10万年ごとにあたたかくなったり((かん)氷期(ぴょうき))、寒くなったり(氷期(ひょうき))してきました。最後の氷期は、約2万年前まで続きました。このとき、北アメリカや北ヨーロッパは、まるで南極のように(あつ)さが数千mもある巨大な氷におおわれていました。そして、その氷の分だけ海の水が減ったので、浅い海は陸地となっていました。このように氷期の地球のすがたは今とは大きくちがいましたが、深層水のつくられていた場所は、今と同じ北大西洋のグリーンランドの近くと南極の近くだったと考えられています。

ところが、氷期が終わってしばらくたった17,500年前、とつぜん、北大西洋で深層水がつくられなくなる事件が起きました。北アメリカにあった巨大な氷の一部がくずれて、たくさんの氷山が北大西洋へと流れ出したのです(図5)。その流れ出した氷はとけて水となり、北大西洋の海水の塩分を下げました。塩分が低い海水は、冷やされても深層までしずみこめるほど重くなれません。このため、北大西洋では深層水がつくられなくなってしまったのです。

[画像:深層水がつくられなくなってしまった!]

図5:深層水がつくられなくなってしまった!

深層水がストップすると、あたたかいメキシコ湾流も北部北大西洋へと運ばれなくなります。このため、北大西洋を中心に北半球はとても寒くなりました。この期間は、17,500年前から15,000年前までの2,500年間にわたります。 海流の変化は大きな気候変化をもたらしましたが、この時代の太平洋の深層水の流れがどうなっていたかは、実はよくわかっていませんでした。そこで研究者は、それを明らかにする研究を始めました。

研究者は、ハワイ大学など世界の研究者と協力して、海の底からとってきた泥(堆積物)の分析と、スーパーコンピュータを使ったシミュレーション実験を行い、当時の深層水の流れを調べました(図6)。

[画像:研究方法]

図6:研究方法

すると、北大西洋の深層水がストップしていた17,500年前から15,000年前には、北太平洋で深層水がつくられていたことがわかったのです(図7)。

[画像:海流図]

図7:17,500年から15,000年前の海流図。赤が表層の流れ、水色が深層の流れ、星は深層水がつくられる場所を示します。

北太平洋の深層水がつくられることで、あたたかい熱帯の海から寒い北の海へと多くの熱を運ぶ海流が強まり、地球の気候が急激(きゅうげき) に変化するのをやわらげていたことがわかりました。北太平洋の深層水は、止まってしまった北大西洋深層水の代わりに気候を安定させるバックアップシステムの働きをしていたことが、今回の研究からわかったのです。

今回の研究で、17,500年から15,000年前の世界の海流図をえがくことができました。この時代は、寒い氷期からあたたかい間氷期へとうつる大きな気候変化がありました。この気候変化と、今回わかった海の流れの関係を調べて、地球の気候変動のなぞの1つにせまりたいとの研究者は考えています。

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