将来の地球環境は、どう変わると思いますか?それを予測する方法に、気候モデル実験というものがあります。スーパーコンピュータを用いて将来の地球をモデルで表現し、そのモデルを使って実験する方法です。それによる予測の1つが、「地球温暖化が進むと、台風などの熱帯低気圧の数は減るが、勢力が強くなる」という説()。けれどこの予測には、まだあいまいな部分が残されていました。その原因は、雲のかたまりです。雲のかたまりは熱帯低気圧の予測にあたって重要なのですが、その雲の動きを細かく表現できるモデルがまだなかったのです。そこで研究者は、新しいモデルを開発しました。そのモデルは、あのふわふわの雲のかたまりを、なんとできる瞬間から消える瞬間まで精密に表現できるもの。その精密さは世界初です。そのモデルの名はNICAM()といいます。研究者はNICAMを使って、21世紀末に大気中の二酸化炭素が現在の2倍になったら、熱帯低気圧はどう変わるのかを実験しました。その結果、熱帯低気圧の発生する数は減りましたが、勢力が強まりました。まさに、先にお話しした予測を裏付ける結果です。今回の結果によって、地球の将来予測の技術が大きく前進しました。研究者は、「この気候モデルでくわしく正確に気候変動を予測して、社会に役立てたい」と話しています。
地球温暖化が進むと、猛暑や集中豪雨などの異常気象がさらに増えるかもしれません。被害をふせぐためには、発生する時期や規模などの予測が必要です。そこで利用されるのが、気候モデル実験です。スーパーコンピュータで気候に関する方程式を解いて、将来の地球をモデルで表現し、そのモデルで実験を行う方法です。実験の流れは次の通りです。まず、地球全体を緯度経度、垂直方向に四角に細かく区切ります(図1)。
それぞれの区切りの中で風の速さ、温度、水蒸気の量などを計算して表現します。さらに、太陽光や空気の流れ、雲の発生なども計算して、となり同士の区切りをつなげて1つの「地球」にします。気候モデル実験の強みは、条件をかんたんに色々と変えられること。「大気中の二酸化炭素が2倍に増えたら?水蒸気が半分に減ったら?」と色々なパターンを実験できるのです。
その気候モデル実験にもとづく予測の1つが、「地球温暖化が進むと、熱帯低気圧の数は減るが勢力は強まる」という説。けれど、その予測にはあいまいな部分が残されていました。その原因は、積雲です。
ここで、まずは温暖化における雲の役目からお話ししましょう。雲は地球を冷やし温める働きがあります。たとえば、あつい雲が地球をおおうと、まるで日傘のようになって太陽の光をはね返します(図2a)。そして、地球を冷やすのです。反対に、高いところの雲は、陸上から上がってくる熱をためこみます(図2b)。そして、地球を温めるのです。その地球を冷やし温める効果は、雲の高さやあつみによって変わってきます。
次に、気候モデル実験における雲の役わりについてお話ししましょう。様々な姿をもつ雲の中で、積雲というわた菓子のようなモコモコ雲があります。積雲は熱帯域(図3)でできて成長すると、熱帯低気圧となります(図4)。
つまり積雲は、地球を冷やし温める働きや、熱帯低気圧の発生において大切な役わりをもっているのです。ですから、その動きを精密に表現することは、温暖化や熱帯低気圧の予測にとって極めて重要です。そんな積雲ですが、その動きを精密に表現できるモデルがなかったために、予測にあいまいさを残す原因とされてきました。そこで研究者は、それを解決できるモデルを開発し、実験に挑んだのです。
研究者が開発したモデルの名は、NICAM。なんと、あのふわふわの雲ができる瞬間から消える瞬間までの様子を、実に精度よく表現できます。雲だけではなく、雲を作る大気の現象も表現します。
それでは、今世紀末に大気中の二酸化炭素の濃度が現在の2倍になったら、地球はどうなるのでしょうか。熱帯低気圧の変化の様子を、研究者はNICAMを使って地球シミュレータで実験しました。その結果、熱帯低気圧の発生する数が、現在より2割以上減りましたが、強い熱帯低気圧の割合が増えました。世界全体で、最大風速が55mを超える熱帯低気圧の数が、現在よりもずっと増える可能性があるのです(図5)。これは、温暖化によって海水が温められて蒸発する量が増えて、熱帯低気圧に取りこまれやすくなるためと考えられます。
今回は、世界で初めて積雲のかたまりを精密に表現できるモデルを使って、熱帯低気圧の発生数や強さの変化を予測しました。将来の地球環境が心配される中で、これは大きな成果です。研究者は、「この気候モデルを使って、よりくわしく正確に気候変動を予測して社会に役立てたい」と話しています。
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