このウェブサイトではJavaScriptおよびスタイルシートを使用しております。正常に表示させるためにはJavaScriptを有効にしてください。ご覧いただいているのは国立国会図書館が保存した過去のページです。このページに掲載されている情報は過去のものであり、最新のものとは異なる場合がありますのでご注意下さい。

ご覧いただいているのは国立国会図書館が保存した2021年10月16日時点のページです。このページに掲載されている情報は過去のものであり、最新のものとは異なる場合がありますのでご注意下さい。収集時のURLは http(s)://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20120619 ですが、このURLは既に存在しない場合や異なるサイトになっている場合があります。

(注記)このページの著作権について

ヘルプ


保存日:

ヘルプ


保存日:

ご覧いただいているのは国立国会図書館が保存した2021年10月16日時点のページです。このページに掲載されている情報は過去のものであり、最新のものとは異なる場合がありますのでご注意下さい。収集時のURLは http(s)://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20120619 ですが、このURLは既に存在しない場合や異なるサイトになっている場合があります。

(注記)このページの著作権について

プレスリリース


2012年 6月 19日
独立行政法人海洋研究開発機構

ベーリング海における近年の植物プランクトン群集の大きな変化

1.概要

独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦)地球環境変動領域の原田尚美チームリーダーらは、近年のベーリング海東部陸棚域における円石藻ブルームの発生について、過去70年にわたる海底堆積物を分析・解析した結果、1970年代後半を境にその発生が顕著になっていること、さらにその要因は、温暖化の影響による可能性が高いことを明らかにしました。

本成果は、我が国も魚資源を得ている、世界的にも豊富な水産資源の宝庫として知られるベーリング海において、生態系の底辺を成す低次生態系群集が昨今の温暖化の影響によって変化していることを明らかにしたものであり、近い将来の生物資源環境の変動予測に寄与する事が期待されます。

この成果は、米国地球物理学連合発行の学術誌Global Biogeochemical Cyclesに6月19日付け(現地時間)で掲載される予定です。

タイトル:
Enhancement of coccolithophorid blooms in the Bering Sea by recent environmental changes
著者名:
原田尚美1, 佐藤都1, 小栗一将1, 萩野恭子2, 岡崎裕典1,3, 香月興太4, 辻敬典5, Kyung-Hoon Shin6, 多田井修7, 齋藤誠一8, 成田尚史9, 今野進3,10, Richard W. Jordan10, 白岩善博5, Jacqueline Grebmeier11
所属:
1.海洋研究開発機構, 2.岡山大学, 3.九州大学, 4.Korea Institute of Geoscience and Mineral Resources, 5.筑波大学, 6.Hanyang University, 7.マリンワークジャパン, 8.北海道大学, 9.東海大学, 10.山形大学, 11.University of Maryland

2.背景

ベーリング海は北太平洋と北極海をつなぐ縁辺海であり、サケやカニの好漁場として知られ、日本のみならず、米国、カナダでは、魚資源の多くをベーリング海に頼ってきました。この海の豊富な水産資源は、植物プランクトンで二酸化ケイ素(SiO2)の殻をもつ珪藻が優占種として食物網の底辺を支えることで成り立っているとされてきました。

ところが、1997年にSeaWiFS注1(シーウイフス)という海の色を可視波長域で観測するセンサーを搭載した衛星の運用が開始されて以来、別の植物プランクトンで炭酸カルシウムの殻をもつ円石藻(図1)のブルーム(大増殖)がベーリング海で観測されるようになり、年によっては数ヶ月もの長期間にわたって円石藻ブルームが持続することがわかってきました(図2(b))。

円石藻は、亜熱帯域などの貧栄養で光環境の安定した海域(荒天などによる海洋表層の鉛直混合が起きにくい)に多く生息する植物プランクトンであり、栄養塩に富む荒天海域の代表であるベーリング海では、円石藻ブルームはこれまで報告されていませんでした。

このため、ベーリング海が珪藻の海ではなくなってきているのではないか?と多くの海洋生態系や水産に携わる研究者を驚かせ、将来の食物網に影響を及ぼすのではないかといった懸念を抱かせることとなり、その原因究明が喫緊の課題となっていました。

3.成果

2006年、海洋地球研究船「みらい」の航海において、円石藻ブルームが観測されるベーリング海東部陸棚域の12地点で海底堆積物を採取し、堆積物中に含まれる放射性同位体210Pbと137Csの鉛直分布を利用して堆積構造に乱れのほとんどない6地点の堆積物を選び出しました。堆積物の年代を見積もった結果、この6地点の堆積物は最長で過去70年前まで遡ることができる試料であり、この堆積物から円石藻が特異的に合成するバイオマーカー(有機化合物の長鎖不飽和アルキルケトン)を分析し、その濃度変化から過去の円石藻のブルーム出現のタイミングを明らかにすることを試みました。同時にこの海域の優占種である珪藻の現存量にも変化があるかどうか解析を行いました。

その結果、円石藻ブルームの出現は、1970年代後半に始まっており(図3)、円石藻ブルーム出現のタイミングは、1976-77年に北太平洋中高緯度全域で生じた気候のレジームシフト注2(この時期を境にベーリング海を含む北太平洋東部高緯度域は温暖になった)と大きく関わっている可能性が示唆されました。しかしながら、ベーリング海が温暖-寒冷になるメカニズムは、北太平洋十年規模振動(PDO)注3と密接に関係しており、1930-40年代にもベーリング海は温暖な環境でしたが、この時には円石藻ブルームは起きていないことがバイオマーカー分析から明らかになりました(図3)。また、ベーリング海北部域では、円石藻ブルームの出現が1990年代後半と、ごく最近の現象であることも明らかになりました(図4)。これは、PDOに起因する自然変動が、ベーリング海の円石藻ブルーム出現を十分に満たす要因ではないことを示しています。

このため、原田らは、円石藻生息に関するデータとベーリング海に関する既存の研究との照合を行い、円石藻の成長を促す最適な条件である、海洋表層の安定した光環境や低塩化(低い栄養塩環境)が、現場海域にもたらされた結果であることを明らかにしました。具体的には、既存の研究で指摘されている近年の温暖化に伴うベーリング海の海氷域の減少が、この海域全体の光環境改善につながっている可能性があります。また、温暖化は、大気—海洋間の水循環を活発化させ、その結果、ベーリング海を含む亜寒帯域は低塩化の傾向にあることも既存研究から明らかとなってきています。温暖化による表層の昇温や低塩化は表層付近の鉛直混合を妨げ、海洋深層から表層への栄養塩供給を弱化させることになり、結果、貧栄養環境で優占する円石藻のような群集がベーリング海でも活発に生息するようになってきた可能性があります。

近年、北極海の植物プランクトンのサイズが小型化しているという報告例はありますが、温暖化が低次生態系の優占種を変化させるまでの影響をもたらしたという報告は、他の海域でもほとんどなく、本成果がその可能性を示した初めての報告となります。

4.今後の展望

本研究による海底堆積物に記録された長期間にわたるバイオマーカー解析の結果は、海洋低次生態系群集への温暖化の影響を顕在化した世界に類を見ない解析・検証データであり、地球規模での環境変動を捉える新たな手法として、さらなる進展が期待されています。今後、温暖化によるベーリング海における低次生態系の変化が海洋環境変化とそれによる食物網を構成する生物応答のバロメータとして捉えられ、今後の生物資源環境の変動予測に寄与することが期待されます。

(注記) 1 SeaWiFS(シーウイフス):1997年から運用開始となった衛星に搭載された可視波長域で観測可能な海色センサー。SeaWiFSのデータから円石藻が持つ特異的な波長を抽出するアルゴリズムを開発した結果、円石藻のブルームを識別できるようになった。。

(注記) 2 レジームシフト:大気循環や気温がある状態から別の状態へと急激にジャンプするように変化する様子を言う。水産資源の変化と結びつけた現象として提唱され、1988年以降のマイワシの激減もレジームシフトが原因と考えられている。

(注記) 3 北太平洋十年規模振動(PDO):1900年代以降の北緯20度から極域の範囲における表層水温の平均値からの偏差が20-30年程度の周期性を持って変動を繰り返す様子を言う。1930-40年代、1970年代後半から1990年代はベーリング海東部を含む北太平洋東部高緯度域は暖かくなった。

図1: 円石藻ブルームを構成する種Emiliania huxleyiの電子顕微鏡写真。2006年のMR06-04航海で採取されたブルーム海域の海水試料をろ過し、ろ紙上に回収された試料の一部を撮影。本研究で観測した円石藻のブルーム海域では、植物プランクトン種のほぼすべてがEmiliania huxleyiで構成され、海水1 ℓ中200〜500万個体存在していた。白いのは炭酸カルシウムの殻。

図2:(a)四角の枠で囲った海域が本研究の観測海域(b)海色センサーSeaWiFSによるベーリング海東部陸棚域で観測された円石藻ブルーム(2000年9月)。赤い領域がブルーム域。白丸と青丸は堆積物を採取した観測点。青丸は、本研究で分析に用いた試料を採取した地点を示す。

図3: (A)観測点1、(B)4、(C)6、(D)9、(E)11の堆積物に記録された円石藻バイオマーカー(長鎖不飽和アルキルケトン)の濃度変化(6測点中、ここでは5測点の結果を紹介)。グラフFは北太平洋十年規模振動を示すPDO index。PDO indexが正の時はベーリング海を含む北太平洋東部高緯度域は温暖で、負のときは寒冷気候になる。ベーリング海北部域(A、B、C)では、円石藻ブルームの出現が1990年代後半と、ごく最近生じている。

図4:ベーリング海北部(A)と南部(B)の堆積物に記録された円石藻バイオマーカー含有量(黒丸)と珪藻の個体数(白丸)の変化。青いラインは、円石藻の生産率と珪藻の生産率の比。ベーリング海北部域では、珪藻の生産も年々増加している。しかし、円石藻と珪藻の生産率の比が右肩上がりであることから、円石藻の生産率の増加が珪藻の生産率の増加を上回っているのがわかる。

お問い合わせ先:

独立行政法人海洋研究開発機構
(本研究について)
地球環境変動領域 物質循環プログラム
古海洋環境研究チーム チームリーダー 原田 尚美 電話:046-867-9504
(報道担当)
経営企画室 報道室長 菊地 一成 電話:046-867-9198

AltStyle によって変換されたページ (->オリジナル) /