このウェブサイトではJavaScriptおよびスタイルシートを使用しております。正常に表示させるためにはJavaScriptを有効にしてください。ご覧いただいているのは国立国会図書館が保存した過去のページです。このページに掲載されている情報は過去のものであり、最新のものとは異なる場合がありますのでご注意下さい。
2012年 1月 31日
独立行政法人海洋研究開発機構
1.概要
独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)地球内部ダイナミクス領域の尾鼻主任研究員らは、文部科学省の科学研究費補助金(特別研究促進費)による「2011年東北地方太平洋沖地震に関する総合調査」の一環として、宮城県および福島県東方沖の日本海溝東側(太平洋プレート側)において、自己浮上型海底地震計を用いた海底地震観測を2011年4月下旬から7月上旬に行い、東北地方太平洋沖地震後に活発化した太平洋プレート内部の地震活動について、震源位置と震源メカニズム(断層の向きと運動方向)を調べました。
その結果、この海域の太平洋プレート内部の深さ40km付近の応力場が、東北地方太平洋沖地震後に圧縮場から伸張場に変化しており、正断層地震活動の活発化と関連していることが判明しました。
今回の成果は、米国地球物理学連合発行の学術誌 Geophysical Research Lettersに1月 31日付けで掲載される予定です。
2.背景
2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(M9.0)では、地震の発生に伴って震源域周辺の広い範囲で地震活動が活発化しています。海溝東側の太平洋プレート内部でも、本震の約40分後にM7.5の地震が発生したのをはじめ、正断層型のメカニズムを持つ地震が数多く発生しています(図1)。日本海溝東側(海溝海側斜面)の太平洋プレート内部で発生する地震は震源が比較的浅いため、大規模な地震が発生した場合に大きな津波を伴うことが懸念されています。例えば三陸沖で1933年に発生し、大きな津波被害をもたらしたM8.1のプレート内正断層地震(昭和三陸地震)は、津波地震として知られる1896年M8.2の地震(明治三陸地震)の震源域東側の太平洋プレート内部で発生しています。
東北地方太平洋沖地震の発生後に太平洋プレート内部で活発化した地震活動を評価するためには、太平洋プレート内部の地震活動を正確に把握する事が欠かせません。
3.観測
東北地方太平洋沖地震の震源域東側に位置する、日本海溝東側(海溝海側斜面)は陸から遠く(約250km以上)離れているため、陸上観測からこの領域に発生する地震の正確な震源分布を求める事は困難です。
本研究では、太平洋プレート内部で発生している地震の震源位置と震源メカニズムを正確に求めるため、日本海溝東側(海溝海側斜面)の太平洋プレート上の水深5000mから6000mの海域に自己浮上型海底地震計20台を設置し、海底地震観測を行いました。海底地震計20台の設置は、2011年4月下旬に、深海調査研究船「かいれい」による東北地方太平洋沖地震の震源域の地殻構造・海底地形調査とあわせて行われ(成果は4月28日、12月2日既報)、2011年7月上旬までに深海潜水調査船支援母船「よこすか」で全て回収されました。
この回収された自己浮上型海底地震計によって観測された地震波の記録から、地震の震源位置と、震源メカニズムを解析しました。
4.成果
約2ヶ月間の観測期間中に得られたデータから、約1700個の地震の震源を決定するとともに、50個の地震について震源メカニズムを決定することができました(図2)。その結果、太平洋プレート内部で発生している地震は、約40kmの深さまで分布しており、深さによらず正断層型の震源メカニズムを持つ事が分かりました。
日本海溝東側(海溝海側斜面)の太平洋プレート内部の応力場は、海溝からの沈み込みに伴うプレートの折れ曲りにより、浅部で伸張場となるのに対し深部では圧縮場であると考えられています(図3:左上)。東北地方太平洋沖地震の発生前に東北大学等が本研究の調査海域で実施した海底地震観測(Hino et al., 2009)では、正断層型の地震の発生は深さ20kmまでに限られるのに対し、深さ40km付近では逆断層型の地震が発生していることが示されており、プレートの折れ曲りにより生じるとされる応力場と調和的です。
一方、本研究で求められた震源メカニズムは、深さ40km付近まで深さによらず伸張場が卓越している事を示しています(図3:右下)。地震前後での太平洋プレート内部の応力場の違いは、2011年東北地方太平洋沖地震の影響により、太平洋プレート内部の深さ40km付近が圧縮場から伸張場に変化した可能性を示しています。このような応力場の変化が、本震発生以後の太平洋プレート内部での活発な正断層地震活動に結びついていると考えられます。
5.今後の展望
本研究の成果は、M9.0の海溝型巨大地震の発生により沈み込む海洋プレート内部の応力場が変化し、地震活動に大きな影響を及ぼした事を示しています。海洋研究開発機構では、今後も日本海溝東側(海溝海側斜面)を始め、十勝沖・房総沖など東北地方太平洋沖地震の震源域周辺の地震活動調査を実施し、2011年東北地方太平洋沖地震が周辺域に与えた影響の評価に取り組む予定です。
図1:海底地震計の設置位置(逆三角)
星印は東北地方太平洋沖地震の本震(M9.0)と海溝東側で発生した正断層地震(M7.5)の震央を示す。破線で囲まれた範囲は、それぞれの地震のおおよその震源域を示す。
図2:観測結果
(A):海底地震観測により決定された地震の震央と震源メカニズム。色は震源の深さを表す。震源メカニズムの大きさは地震のマグニチュードに比例。赤い破線に沿った断面を(B)に示す。
(B):(A)に示す赤い破線に沿った震源分布の断面。海溝海側斜面の太平洋プレート内部において、深さ40km付近まで地震が発生していることが分かる。
(C):断層の運動方向と震源の深さの関係。純粋な正断層の場合に-90°を示す。地震の深さによらず、正断層型の地震が発生していることが分かる。
図3:東北地方太平洋沖地震前後の太平洋プレート内部の応力場の比較
地震発生前は太平洋プレート内の浅部と深部で応力場が異なっていたが、地震発生後は深さ40km付近まで全体的に伸張場となっていることが示された。