このウェブサイトではJavaScriptおよびスタイルシートを使用しております。正常に表示させるためにはJavaScriptを有効にしてください。ご覧いただいているのは国立国会図書館が保存した過去のページです。このページに掲載されている情報は過去のものであり、最新のものとは異なる場合がありますのでご注意下さい。
このプレスリリースには、ジュニア向け解説ページがあります。
1.概要
独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)の運用する地球深部探査船「ちきゅう」は、本年5月10日より、統合国際深海掘削計画(IODP)(※(注記)1)による「南海トラフ地震発生帯掘削計画」(南海掘削:NanTroSEIZE)(※(注記)2)ステージ2を紀伊半島沖熊野灘にて実施していましたが、8月31日にIODP第319次研究航海(平成21年度第1次および第2次研究航海)を終了しましたので、その結果概要をご報告します。
2.実施内容
平成21年度第1次研究航海では、 5月10日から7月31日までの83日の間に、巨大地震発生帯直上域においてIODP初のライザー掘削(※(注記)3)を実施し、海底下約1,500m以深の岩石試料を採取すると共に、各種物理検層を実施しました。平成21年度第2次研究航海では、8月1日から31日までに、地震発生帯から延びる巨大分岐断層浅部をライザーレスによる掘削同時検層(LWD: Logging While Drilling)(※(注記)4)を実施しました。また、将来予定されている長期孔内計測装置設置のための準備を行いました。
本研究航海における共同首席研究者は、荒木 英一郎(海洋研究開発機構・技術研究主任)、Timothy Byrne (米国コネチカット大学・教授)、Lisa McNeill (英国サザンプトン大学・准教授)、Demian Saffer (米国ペンシルバニア州立大学・准教授)が務め、8カ国・計26名の科学者が交代で乗船し研究を実施しました。
3.結果概要
第319次研究航海では、南海トラフの巨大地震発生帯直上域(掘削地点C0009, NT2-11)と地震発生帯から延びる巨大分岐断層浅部(掘削地点C0010, NT2-01)、沈み込む前のトラフ底堆積層(掘削地点C0011, NT1-07)の3地点(図1参照)で掘削を実施し、掘削地点C0009において海底下1,510-1,593.9mの区間で、57.87mの柱状地質試料(コア)の採取に、また、他の2地点において掘削同時検層による孔内物性データの取得に成功しました。各掘削孔の実績概要は表1の通り。
本研究航海の主な成果は以下の通りです。
4.今後の行動予定
現在「ちきゅう」は四日市港で乗船研究者の交代および資機材の積み込みを行っています。9月4日に四日市港を出港し、IODP第322次研究航海(平成21年度第3次研究航海)として、引き続き10月10日頃まで掘削地点C0011においてライザーレス掘削を実施する予定です。共同首席研究者は、斎藤実篤 (海洋研究開発機構・南海掘削研究チームリーダー)およびMichael Underwood (米国ミズーリ大学・教授)で、9カ国・計27名の科学者が乗船し、研究を行います。本研究航海は、地震発生帯に運び込まれる物質の初期状態の解明を目的とし、全層の試料採取及び検層により堆積物の組成・構造・物理特性のデータを取得する予定です。
(※(注記))なお、上記の予定は海気象状況、地質状況等によって変更することもあります。
※(注記)1 統合国際深海掘削計画(IODP: Integrated Ocean Drilling Program)
日・米が主導国となり、平成15年(2003年)10月から始動した多国間国際協力プロジェクト。現在、欧州、中国、韓国、豪州、インド、NZの24ヶ国が参加。日本が建造・運航する地球深部探査船「ちきゅう」と、米国が運航する掘削船を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を行います。
※(注記)2 南海トラフ地震発生帯掘削計画(南海掘削:NanTroSEIZE)
南海トラフは、日本列島の東海沖から四国沖にかけて位置するプレート沈み込み帯で、地球上で最も活発な巨大地震発生帯の一つ。南海トラフの一部にあたる紀伊半島沖熊野灘は、東南海地震等の巨大地震震源と想定される領域の深さが世界のプレート境界のなかでも非常に浅く、「ちきゅう」による掘削が可能な海底下6,000m程度であるという特徴を有しています。
南海掘削では、プレート境界断層および津波発生要因と考えられている巨大分岐断層を掘削し、地質試料(コア・サンプル)の採取や掘削孔内計測を実施することにより、プレート境界断層内における非地震性すべり面から地震性すべり面への推移及び南海トラフにおける地震・津波発生過程を明らかにすることを目的としています。
本計画は、全体として4段階(ステージ)に分けて掘削する計画で、紀伊半島沖熊野灘において南海トラフに直交する複数地点を掘削する予定。第1ステージは平成19年9月21日から平成20年2月5日まで実施しました。
※(注記)3 ライザー掘削
「ちきゅう」と海底の掘削孔を連結したパイプ(ライザーパイプ)の中をドリルパイプが通る二重管構造での掘削方法。ライザーパイプとBOP(噴出防止装置)を用いて、海上での泥水循環掘削(泥水で孔壁を保護し、地層圧力とバランスを取りながら行う掘削)を行うことで、掘削孔の崩れを防ぎ、より深くまで安定して掘削することを可能とします。
※(注記)4 掘削同時検層(LWD: Logging While Drilling)
ドリルパイプの先端近くに各種の物理計測センサーを搭載し、掘削作業と同時に現場での地層物性の計測を行う技術です。地質試料の採取はできませんが、掘削箇所の地層状況を"現場"で連続測定することにより、比較的短時間に地質情報を得ることができます。これらにより、科学情報と共にその後の試料採取掘削等に有用な掘削孔の安全監視及びリスク回避等の情報が得られるため、南海トラフのような複雑な地質構造での掘削には非常に有効です。今回取得したデータは、比抵抗、地層密度、孔隙率、音波速度、自然ガンマ線、流体圧、孔井傾斜など。
掘削提案地点名 (*1) |
NT2-11 | NT2-01 | NT1-07 |
---|---|---|---|
掘削地点名 (*2) |
C0009 | C0010 | C0011 |
掘削孔名 | A | A | A |
掘削の種類 | ライザー掘削 | ライザーレス掘削 | ライザーレス掘削 |
経度 (北緯) |
33° 27.5’ | 33° 12.6’ | 32° 49.7’ |
緯度 (東経) |
136° 32.1’ | 136° 41.2’ | 136° 52.9’ |
日数 | 83.0 | 24.5 | 6.5 |
水深 (海面下 m) |
2054.0 | 2523.7 | 4049.0 |
掘削深度 (海面下 m) |
1603.7 | 555.0 | 952.2 |
掘削作業 |
|
|
|
計測作業 |
|
|
|
(*1)掘削提案地点名:事前に掘削を予定していた候補地点の名称
(*2)掘削地点名:実際の掘削後にIODP掘削孔として時系列に付けられた名称