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独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)地球内部変動研究センター(センター長 深尾良夫)と国立大学法人東京大学(総長 小宮山宏)は、西オーストラリア州で陸上掘削により採取された岩石試料から、地球最古の酸化的大気(※(注記)1)の直接的な証拠を発見しました。
従来の定説では、地球の大気は24.5〜23.2億年前に酸化的な大気になったと考えられていました。しかし、陸上掘削により地下200mより深いところに酸化的な地下水により赤鉄鉱化(※(注記)2)した玄武岩を発見し、さらにこの赤鉄鉱玄武岩を脈状に切る黄鉄鉱(※(注記)3)の生成年代をRe-Os年代測定法(※(注記)4)により27.6億年と決定することに成功しました。
これにより、従来の定説より3億年以上も前に酸化的大気が存在した可能性が高いことを見出しました。
初期地球の表層環境や生命進化に関する情報は非常に少なく、今回のような当時の環境を直接的に示唆する結果は、地球環境の変遷を知る上でとても貴重な証拠となります。また、酸化的大気の存在は、酸素発生型の光合成生物(シアノバクテリア)が存在した確実な証拠となることから、従来の定説を3億年以上さかのぼる今回の発見は、生命進化の歴史を探る上でも大きなインパクトがあります。
この成果は12月24日頃(米国現地時間)にEarth and Planetary Science Letters(電子版)に掲載される予定です。
地球の大気がいつから酸素を含むようになったのかは、私たち人類を含む酸素呼吸型の地球生命の発生・進化にとって最も重要なターニングポイントであり、科学上の大きな問題でした。
2000年のカリフォルニア大学サンディエゴ校らによる堆積岩中の硫黄の質量非依存同位体分別(※(注記)5)の研究がきっかけとなり、地球の大気は24.5〜23.2億年前にはじめて酸化的になった(これを大酸化事変(Great Oxidation Event)と呼びます)という説が確立されました。
しかしその後、硫黄の質量非依存同位体分別が無酸素大気の光化学反応以外のメカニズムによっても生成する可能性があることが指摘され、新たな証拠が求められていました。
日本、米国、オーストラリアによる太古代生物圏掘削プロジェクト(ABDP: Archean Biosphere Drilling Project)(※(注記)6)の一環として、2003年に西オーストラリア州、ピルバラのマーブルバー地域において地下260mの陸上掘削が行われました(図1)。
それにより210〜235mに一部、赤鉄鉱化した玄武岩が発見されました(図2)。この玄武岩は、34.6億年前に海底に噴出した海洋底玄武岩(※(注記)7)が29〜27.7億年前の地殻変動により地表近くまで露出し、27.7億年前に陸上の洪水玄武岩(※(注記)8)により3km以上覆われて地下深くに埋没され、3億年前以降に再び現在と同じように地表近くまで露出したと考えられています。
この玄武岩の赤鉄鉱化は、チャート(※(注記)9)との接触部付近のせん断帯に限られており、酸化的な地下水が浸透することによって生成したものです。さらにこの赤鉄鉱化した玄武岩を切る黄鉄鉱の細脈が発見されました(図3)。この黄鉄鉱の産状は、黄鉄鉱の生成が玄武岩の赤鉄鉱化よりも後である(若い)ことを明らかに示しているので、黄鉄鉱の生成年代をRe-Os年代測定法により決定すれば、いつ玄武岩が赤鉄鉱化したのかが明らかになります。そこで黄鉄鉱の細脈を20分割して、Re-Os年代測定を試みました。
Re-Os年代測定の結果、この黄鉄鉱の細脈が27.63億年前に生成したことが判明しました(図4)。これにより、玄武岩の赤鉄鉱化は27.63億年より前、マーブルバー地域の地殻変動を考慮に入れると、29億年前から27.7億年前までのどこかで、酸化的な地下水により起こったと考えられます。
この結果は、従来の定説より3億年以上も前に酸化的大気が存在したことを示しています。さらに玄武岩の化学組成変化を計算し、そのときの大気中の酸素濃度が、現在の1.5%くらいであることも明らかとなりました。
本成果により、地球大気の進化が大きく書き換えられることになりました。
さらに、地球生命の進化史にも大きな影響を与えます。酸化的大気の出現時期を特定することは、酸素呼吸型生命の歴史を探ることでもあり、究極的にはなぜ酸素呼吸型生命が地球上に存在できるようになったかを探ることと言っても過言ではありません。
さらに研究が進めば、太古の地球表層環境変動と生命の進化の密接な関連性の全容が紐解かれると期待されます。
現在の酸素の濃度の10-5(10万分の1)倍程度(約0.0002%)を超えると酸化的であるとされる。
鉄が酸化されて形成される鉱物。酸化的な環境下で形成されることが知られている。ヘマタイト、Fe2O3。
鉄と硫黄が反応して形成される硫化鉱物の一種。堆積岩、鉱床で頻繁に見られる。色調から金と間違われることが多い。パイライト、FeS2。
質量数187のレニウム(Re)が質量数187のオスミウム(Os)に約400億年の半減期でベータ壊変(ベータ線(電子)を放出する壊変)することを利用した年代測定法。放射線同位体であるレニウム(親核種)は放射線を出しながら、次第に安定な核種であるオスミウム(娘核種)に変わっていく。放射壊変がある一定の割合で起きることを利用して、壊変してできた同位体の量がわかれば、さかのぼって年代がわかる仕組みである。石の年代を決めるウラン-鉛年代測定法、遺跡の年代を決めるC-14法なども同様の原理を利用した年代測定法である。
様々な天然での現象の中で、元素の同位体は、重さに応じた振る舞いをする。通常は、その同位体の質量に応じて変動をする。例えば、水を蒸発させた時の酸素の同位体を考えた場合、質量に応じた割合で、残った水より蒸気の方に、軽い酸素が集まる。
一方、質量「非」依存同位体分別とは、その同位体が質量に応じない変動をすることである。室内実験において、無酸素環境下で二酸化硫黄にある波長の紫外線があたって分解した際に、硫黄の質量非依存同位体分別が起こることが確認されている。その結果、硫黄の質量非依存同位体分別は大気が無酸素だった根拠とされていたが、最近大気が無酸素でなくても硫黄の質量非依存同位体分別が見られるという報告もあり、硫黄の質量非依存同位体分別と無酸素大気の関係に関しては、現在も議論が続いている。
初期地球の環境変動と生命進化を解明する目的で、日本、米国、オーストラリアの共同研究として、西オーストラリア州のピルバラ地塊で行われた陸上掘削計画。
海洋プレートが生み出されている海底の火山山脈(海嶺)で噴出した溶岩が冷えてできた岩石
地下深くのマントルで起きる大きな上昇流によって地表に大量に噴き出した溶岩が冷えてできた岩石
海水中に溶けていたケイ酸が、生物の作用、あるいは化学的に大量に沈殿して形成された岩石。ケイ酸塩濃度が95%を超えるものも多く、非常に硬い。
図1 西オーストラリア州のマーブルバーにおける陸上掘削の風景
図2 地下211.0-218.0mから得られた赤鉄鉱化した玄武岩のコア試料
図3 赤鉄鉱化した玄武岩を切る黄鉄鉱の細脈(上図)
赤鉄鉱に富んだ部分を斜交して切る黄鉄鉱の細脈(下図)
図4 アイソクロン年代図
黄鉄鉱はその形成時にすべて同じ187Os/188Os同位体 比を持っていたと考えられる。一方,187Re/188Osは、黄鉄鉱ごとに異なる。すなわち、黄鉄鉱ができた時に、この図の上に、各黄鉄鉱のデータをプロットすると、水平に寝た直線の上にプロットされる。黄鉄鉱形成後時間がたつにつれて、質量数187のレニウムが質量数187のオスミウムに、ある一定の割合で壊れていくために、187Re/188Osは減っていき、一方、 187Os/188Os比は187Re/188Osが減ったのと同じ割合で増えていく。すなわち、時間がたつことによって、水平だった直線は図に示したように、直線のまま立ちあがるようになる。この立ち上がりの角度を測れば、黄鉄鉱が形成されてから現在までの時間が計算される。27.63億年という年代は、この角度から計算された年代である。