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プレスリリース


[画像:プレスリリース]

2008年07月14日
独立行政法人海洋研究開発機構

今夏、3年連続となるインド洋ダイポールモードが発生
〜数値モデルの予測結果を裏付ける予兆を捉えることに成功〜

1. 概要

独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)地球環境フロンティア研究センター気候変動予測研究プログラムでは、地球規模での異常気象を引き起こすインド洋ダイポールモード現象(以下、IOD現象)がこの夏に発生することを数値モデルにより予測しました(図1)。一方、同機構地球環境観測研究センター気候変動観測研究プログラムは、インド洋東部赤道域に設置したインド洋小型トライトンブイ((注記)1)の観測データにより、今年のIOD現象が既に始まっている可能性が高いことを明らかにしました。

人工衛星からの海面観測データに加え、係留ブイによる海洋内部の水温異常が捉えられたことは、数値モデルの予測実験結果の妥当性を検証するだけではなく、この夏に地球規模での異常気象が各地で発生する可能性をも示唆する重要な成果と考えられます。

インド洋でのIOD現象の発生は、2006年および2007年に続いて3年連続となる、1950年代の観測開始以来初の極めて希な状況です。このようなIOD現象に伴う海洋内部での変動をリアルタイムで現場観測により捉えることに成功したことは、短期の気候変動についての理解を深め、数値モデルによる予測精度の向上につながる成果であり、今後、気候変動予測研究を大きく前進させるものと期待されます。

2.背景

IOD現象は太平洋熱帯域のエルニーニョ現象とよく似た、インド洋東部(ジャワ島沖)では海水温が下降し、インド洋西部(アフリカ東方沖)では上昇する現象で、通常5月から6月に発生し、10月ごろには最盛期となり、12月には減衰します。1999年の発見後、世界各地に大雨や干ばつ、猛暑など、さまざまな異常気象を引き起こす一因となっていることが明らかになっています。日本を含む東アジア域でもIOD現象が夏期の猛暑の一因となっていることが示唆されています。このため、その発生を事前に予測することが社会的にも期待されており、世界各国でIOD現象に関する多くの研究が進められてきました。

当機構でもIOD現象に関する研究を進めており、2006年に発生したIOD現象とエルニーニョ現象については、その前年の2005年11月の時点で発生を予測することに世界で初めて成功しています(平成18年10月16日プレス発表)。この2006年のIOD現象に伴い、アフリカ東部沿岸諸国での洪水やオーストラリアでの干ばつにより多大の被害が発生しました。

さらに2007年9月から11月にかけては、2006年に続いてIOD現象が発生し、かつ太平洋のラニーニャ現象と同時発生する状況となりました。当機構では、2007年4月に行った予測実験により、この希な状況を予測することに成功するとともに、トライトンブイによるIOD現象の一連の海洋変動の観測に成功しています(平成19年10月24日プレス発表)。2007年のIOD現象の影響によるオーストラリアの2年連続の干ばつは、小麦価格等の高騰を招いた要因とも言われ、日本の社会経済にも大きな影響を与えています。

3.内容

文部科学省地球観測システム構築推進プラン「インド洋観測研究ブイネットワークの構築」のもとで、当機構が東部インド洋に設置したインド洋小型トライトンブイによって観測した海水温データ(水深0m〜300m)を解析しました(図2)。その際、当機構が2001年より設置して来た従来型トライトンブイの観測データも合わせて利用しています。

2006年および2007年のIOD現象発生時には、その数ヶ月前から海洋内部での水温の低下傾向が確認されています。今年も5月下旬からこの低温化傾向が現れはじめ、今年のIOD現象の予兆と考えられる変化を捉えることに成功しました。

また、人工衛星などで観測した海面水温偏差分布と降水量偏差分布(図3)は、インド洋熱帯域の東部で低温傾向と降水量の減少傾向、中部から西部にかけて高温傾向と降水量の増加を示しており、IOD現象発生時の典型的な気候の分布になりつつあることを表しています。

これらの観測事実は、先端的大気海洋結合モデル(SINTEX-F1)により予測した状況が現在進行中であることを示しています。

IOD現象に伴う影響として、今夏、インドや東部アフリカにおける大雨やインドネシア西部での少雨などの発生が示唆されることから、事前の対策が強く望まれます。

通常、IOD現象が発生すると、その翌年にはその偏差が逆転(海水温が下降した海域で上昇し、上昇した海域で下降)する負のIOD現象となる傾向が強く、今回の様に同様のパターンのIOD現象が3年連続して発生したことは、1950年代以降の観測史上初めてです。このような極めて稀な気候変動現象の予兆を現場観測データから示し、予測実験結果の検証がリアルタイムで行えるようになったことにより、今後の短期的な気候変動の予測研究の著しい進展が期待されます。また、近年の地球温暖化による地球全体の気候の変化が、IOD現象のような短期の気候変動に与える影響を明らかにする上でも重要な成果です。

4. 今後の方針

IOD現象は、熱帯域での顕著な季節内変動に大きく影響を受けることが分かっており、今後、これにより現在進行中のIOD現象の発展の動向が変化する可能性が残されています。より良い予測を行うため、予測モデルの改良を進めるとともに、インド洋小型トライトンブイによるリアルタイム観測データの充実をはかる予定です。この観測網は、国際的な協力のもとで進められているインド洋熱帯域でのブイ観測網構築計画の一部を形成するだけではなく、GEOSS((注記)2)に直接貢献するシステムとなり、気候変動予測の精度向上が望めるものとして期待されています。

また、予測結果を最大限活用するためには、観測と予測の連携に加え、予測成果を一般社会へと還元させる一連の流れを効率良く結びつける仕組みが不可欠です。本発表のような気候変動観測予測結果は、世界各地の局所的な気候変動や異常気象への対応策を講じる際の貴重な情報となり得ることを重視し、2008年4月に発足した「アプリケーションラボ」((注記)3)を今後強化していき、予測研究と予測結果の応用利用を促進していきたいと考えております。

(注記)1:インド洋小型トライトンブイ

当機構海洋工学センターが文部科学省地球観測システム構築推進プランにより、インド洋熱帯域での観測を目的として開発した、大深度係留可能な洋上観測ブイシステム。従来型のトライトンブイと同程度の観測性能を保持しつつ、小型軽量としたことで操作性、可搬性に優れる。

(注記)2:GEOSS

Global Earth Observation System of Systems(全球地球観測システム)の略。地上や洋上における現場観測、人工衛星による観測など、複数の観測システムを利用しデータの統合を図ることを目的とする。2005年2月第3回地球観測サミットにおいてGEOSS構築のための10年実施計画が承認された。

(注記)3:アプリケーションラボ

海洋研究開発機構内に2008年4月に発足した組織横断型研究チーム。当機構の目指す気候変動の観測、予測研究と強く連携しつつ、社会経済的影響という観点を重視しながら、気候変動の画期的な観測・予測・検証システムの構築を目指し、かつ予測精度の向上並びに予測情報の提供検証を実施するための研究開発を行う。

なお、本研究チームの趣旨を社会一般に広く理解いただくため、本年8月6日(水)上智大学において、「気候研究からのイノベーション創出-経済・社会の持続的発展に向けて-」と題したアプリケーションラボシンポジウムを開催する。(平成20年7月11日プレス発表)

図1. SINTEX-F1結合モデルを用いた2008年IOD現象の予測結果
2008年5月の観測データ等に基づく、2008年9〜11月の海面水温の平年値からの偏差の分布予測。黒実線の円内はインド洋東部で海面水温が平年より低いことを示しており、IOD現象の発生を予測している。

図2:南東部熱帯インド洋(5°S, 95°E)における海水温の平均値からの偏差。2008年5月後半より海面から深さ300mまでの海洋全体で低温偏差が現れるようになった。このような偏差は2006年、2007年のIOD発生時の状況とほぼ同様であり、既に海面下ではIOD発生の準備が整っていることが示唆される。


図3. 人工衛星などから観測された海面水温偏差の分布(上図)および降水量偏差の分布(下図)。インド洋熱帯域では、典型的なIOD現象発生時の偏差と同様に、東部で低温傾向と降水量の減少傾向(図中の黒楕円)、中部から西部にかけて高温傾向と降水量の増加傾向(図中の赤楕円)を示しており、IOD現象が既に始まりかけている傍証と考えられる。

お問い合わせ先:

独立行政法人海洋研究開発機構
(本研究について)
地球環境フロンティア研究センター 気候変動予測研究プログラム グループリーダー
地球環境観測研究センター 気候変動観測研究プログラム サブリーダー
升本 順夫 電話:03-5841-4665(東京大学大学院理学系)
地球環境フロンティア研究センター 研究推進室長
中村 英俊 電話:045-778-5670
地球環境観測研究センター 研究推進室長
續 辰之介 電話:046-867-9398
(報道について)
経営企画室 報道室長
村田 範之 電話046-867-9193

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