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海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)は、相模湾及び駿河湾の海域において、新たに開発した深海生物追跡調査ロボットシステム「PICASSO(ピカソ)」の初めての海域試験を実施しました。
「PICASSO」は深海の生物調査を目的に開発された小型の無人探査機で、ハイビジョンカメラや深海現場調査用実体顕微鏡(ビジュアル・プランクトンレコーダー:VPR)(*1)、高輝度ライトを搭載することができ、プランクトンなどの深海生物を高解像度で撮影することができます。
本試験では、今まで計測が困難であった微小なマリンスノー(*2)やプランクトンなどの浮遊生物の高解像度画像を深海の現場において撮影することに成功し、さらにUROV形式探査ロボット(*3)としては世界で初めて、深海生物の姿をハイビジョン映像で撮影することにも成功しました。
今後「PICASSO」の開発・運用を進めることで、深海生物の高解像度画像を様々な方法で多数撮影し、海洋生態系の解明に大きく貢献することが期待されます。
水深約200m〜1,000mの深海では、そこに棲息する藻食性プランクトン、肉食性プランクトンが食物連鎖によって活発な鉛直移動を行っており、海洋における炭素循環を研究する上で重要な場所となっています。
しかし、これら生物のうちクラゲなどゼラチン質プランクトンは、ネット等で採取するには体が脆弱であるものが多く、研究が遅れています。また、大型の支援船を必要とする従来の無人探査機による調査では、地域的、季節的、また昼夜の周期で変動する海洋の生物群集に合わせた柔軟な運用が難しいという問題点もありました。
このため、水深約200m〜1,000mの深海域の生態系をより正確に調査するためには、生物試料採取だけでなく高解像度の画像を撮影することが不可欠となります。また、より機動的に調査を行える、小型無人探査機の開発が望まれていました。
「PICASSO」は、"Plankton Investigatory Collaborating Autonomous Survey System Operon" の略称で、水深1,000 m までの海域において、深海の浮遊生物及びマリンスノーの調査を行うことを目的として開発した小型無人探査機です。高解像度カメラ(ハイビジョンカメラ等)やビジュアル・プランクトンレコーダー(VPR)、高輝度ライトを選択して搭載することができます。小型船舶にも搭載できる大きさであるため、運用経費を低減し、調査の頻度を増やすことが可能です。
現在はリアルタイムで画像情報を船上へ送信するための細径光ファイバーによる運用を主としていますが、プランクトンを追跡しながら航行できるような、生物認識・自律追跡航行機能を開発中です。
将来、複数のピカソを同時に協調して運用することが可能になれば、小型ロボット1基では不可能である対象生物の多角的な観察や同一地点での高解像度カメラとVPRの同時運用なども可能となります。
画家のピカソのように、ものを普段見ている眼で見るのではなく、新しい見方で周りを見ることを目指します。(仕様:別紙-1)
引き続き、「PICASSO」の生物認識・自律追跡航行機能などの開発を進め、他の方法では調査できないような深海の浮遊生物やマリンスノーなどの様子を様々な観察方法で取得していく予定です。
また、今後は地球温暖化や生物多様性に関する研究において重要とされている、南太平洋などの海域において、現地の小型船舶から「PICASSO」を用いた調査を行うなど、機動性が求められる研究への活用も視野に入れています。
調査現場で微小な生物の姿をとらえるための水中顕微鏡です。海中で、生きたままプランクトンを撮影するデジタルカメラでもあり、2 本のアームの先端部に、それぞれカメラと光源が装備されています。光源は周囲から光が当たるようにつくられており、透明なプランクトンの輪郭を浮き上がらせる「暗視野」をつくり出す構造になっています。
プランクトンの死骸や分泌物などの沈降粒子。海中に沈降していく様子が雪のように見えたことから、この名が付けられました。主成分は炭素であり、海洋全体としての量は膨大なものとなるため、地球の炭素循環を考える上で重要存在となっています。
母船から太いケーブル経由で電源を供給するのではなく、バッテリーを探査機本体に搭載し通信は直径1mmほどの細い光ファイバーで行ない、光ファイバー経由で映像を母船に送る無人探査機です。ファイバーが細いので海流など水の抵抗を受けにくく、深海における生物の追跡などに適しています。