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ジャーナリスト
名城大学教授、東京工業大学特命教授
1950年長野県生まれ
慶應義塾大学卒業後、1973年にNHKに入局。
報道記者としてさまざまな問題を担当する。
1994年から11年間、ニュースの裏側や世の中の仕組みをわかりやすく解説するテレビ番組「週刊こどもニュース」のお父さん役として活躍。
2005年よりフリージャーナリストとして、テレビ、選挙報道などでニュースを幅広く解説するかたわら、コラムや書籍の執筆を通じて世代を超えて幅広い人気を得ている。
国立極地研究所 国際北極環境研究センター教授
専門分野は国際法(おもに海洋法)。
気候変動によって北極海の海水がとけてきたことによる船舶の通航の増加と海洋環境保全の両立の在り方など、海の利用と保全に関する問題が主な研究対象。
注:タロとジロとは、第1次南極地域観測隊とともに南極へ渡った2匹のカラフト犬。2次隊の越冬断念のため、南極に置き去りにされたが、約1年後、3次隊によって生存が確認されました。
池上 北極では地球温暖化によって、とくに夏場の海氷が極端に減少しています。すると、氷にとざされているときには難しかった資源開発や北極海航路の利用などが可能になり、その点で世界的に注目を集めていますよね。
西本 そうですね。中国が北極圏のアイスランドとの関係強化に力を入れているなど、北極圏以外の国も強い関心を寄せています。
池上 インドネシアのアチェやソマリア沖に現れる海賊の問題や、スエズ運河の通行料が非常に高いということも考えると、北極海航路は日本の海運業者にとってもメリットがありますよね。
西本 まだまだ課題も多いですが、日本政府が2015年に策定した「我が国の北極政策」でも、非常に期待されているところではあります。
池上 北極海航路を利用する場合、ロシアの沿岸を通るときに、ロシアから通行料を要求されるという心配はないのですか?
西本 ロシアは現在、北極海航路の航行について、事前の届け出と、ロシア砕氷船の同行を義務付けています。また、それにかかる費用も徴収しています。
池上 けれども、国際海洋法では、平和や秩序を乱さなければ、他国の領海や排他的経済水域※(注記)1であっても、自由に通航できるという「無害通航権」がすべての国に認められていますよね。そこで、ロシアが許可申請や費用を要求することに反発はないのですか?
西本 確かに反対意見もあるのですが、ロシアが国際法を無視して勝手な行為をしているとも言えません。同じ国連海洋法の中には、「氷結している海域について、環境保全の観点から沿岸国が通常よりも厳しい規制を課すことができる」という条文が含まれているからです。ただ、これはさまざまな条件付きの複雑な規定で、ロシアの行う事前許可制がこれに当てはまるのかどうかは、議論が必要となっています。
池上 なるほど、国際法の解釈によって、意見が異なる状態が生じているのですね。
西本 ただ、ロシアも北極海航路を経済発展につなげたいという意向をもっていますから、お金をとるといっても、スエズ運河を通る南回りルートと競争できるような相場を設定するでしょう。日本としては、そことどう付き合っていくかが問題になってくると思います。
※(注記)1 排他的経済水域(EEZ)とは、漁業や天然資源の探査・開発、科学的調査を自由に行うことができる水域のこと。領海の外側に200海里(約370km)の線までの範囲で設定することができます。
池上 資源探査ということでは、2007年にロシアが北極点の海底にロシア国旗を立て、世界を驚かせましたね。
西本 センセーショナルに報道され、「ここはロシアのものだと主張している」という誤解を生んでしまいました。
池上 メディアは大げさに言い立てますからね。
西本 でも実際には、ロシアもその他の関係国も、国連海洋法条約に従って、それぞれの主張を調整している状況です。この条約によって、海岸から200海里(約370km)までの大陸棚※(注記)2は、沿岸国のものとされ、海底資源に対する「主権的権利(探査・開発・採取などの独占権)」が認められています。200海里を超えた大陸棚については、条約で作られた大陸棚限界委員会に申請して、勧告を受ける必要があるのです。
池上 平和的な解決がなされているのですね。
※(注記)2 大陸棚とは、地形的には陸に続く比較的なだらかな傾斜の海底部分のこと。国際法では、この部分を陸地の延長と考えて、沿岸国が権利を持つ範囲を決めています。
池上 一方、南極は「南極条約」によって、「どこの国のものでもない」と定められています。北極も同じように対処することはできないのでしょうか。
西本 南極はひとつの大陸ですが、北極は北極海とその周りの地域、アメリカ、カナダ、ロシア、デンマーク(グリーンランド)、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドの8か国が含まれる広い地域です。北極海の中央は「どこの国のものでもない」公海ですが、人々が暮らす各国の国内も含まれているんです。
西本 最後に、池上さんにぜひおうかがいしたいのは、情報発信についてです。もっと多くの人たちに北極ついて関心を持ってもらうには、どうしたらよいでしょうか。
池上 たとえば、身近な事柄と結びつけて発信するのが重要だと思います。私もテレビで海外のニュースを取り上げるとき、スタッフから「で、それは日本にどういう影響があるのですか?」と聞かれます。自分ごととして捉えられないとなかなか人は興味を持ってくれないですよね。たとえば、北極海の漁業資源の話とからめたお話であれば、お魚好きの日本人に響くのではないでしょうか。クイズ形式にするのもよいかもしれません。
西本 なるほど。クイズはおもしろそうですね。
池上 また、情報発信ツールとして、動画配信は欠かせないでしょう。最近の若者は、知りたい情報を検索エンジンではなく、まず動画配信で検索するのだそうです。
西本 北極はビジュアル的にインパクトのある地域だと思うので、うまく動画配信を活用したいですね。
池上 北極の映像、ぜひ拝見したいです。冷戦時代、北極の氷の下では、米ソの潜水艦の追跡劇など文字どおり冷たい戦争がありましたよね。北極の氷がとけるのはよいことではないですが、今まさに「雪解け」で、北極が平和の海になりますようにというメッセージも折に触れて発信していただけるとうれしいです。
※(注記)対談はオンラインで行われました。