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パネルディスカッション「なぜ私は理学を選んだか」

澁谷 亮輔(地球惑星物理学科 修士課程1年)
澁谷 亮輔

初めまして。現在理学部地球惑星科学専攻に所属する修士1年の澁谷亮輔と申します。学部3年生で理学部地球惑星物理学科に進学し、理学の面白さに魅かれて現在は研究者を目指して勉強しています。

今回は講演テーマ「なぜ私は理学を選んだか」に則し、私の大学1年生時の興味、そして駒場時代を経て理学部に進んだ理由をお話ししたいと思います。今回の話が皆さんの進路に少しでも役立てれば幸いです。

1.温暖化への興味・関心:なぜ理学を選んだか

高校生の頃、私はなんとなく"温暖化"という言葉に魅力を感じていました。それは2007年当時、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が発行した第四次報告書によって、"地球の平均気温は1906年–2005年の100年間で0.74°C(誤差は±0.18°C)上昇しており、長期的に上昇傾向にある事は「疑う余地が無く」"、"この気温上昇の原因が人為的な温室効果ガスである確率は9割を超える"と発表され、一躍ニュースなどで取り上げられるトピックとなったからかもしれません。ともかく「温暖化、面白そうじゃないか!よし大学ではこれを勉強しよう!」と、曖昧な信念だけを持って東大に入学したわけですが、授業選択の際に私は困惑することになりました。温暖化問題には様々な切り口することに気付いたためです。

容易に想像されることですが、温暖化というテーマは多くの分野に登場します。気候変動枠組条約に代表されるような政治・経済的な分野から、地球という気候システムそのものに興味を持つ分野まで多種多様なトピックまで様々です。将来の仕事として温暖化に関りたいと考えていた私ですが、さらに自分がどの立場に立つかを選択する必要がありました。

温暖化を"解決する"という視点―すなわち、エネルギー的課題に取り組みたいのか、または温暖化に関する国際交渉に携わる仕事をしたいのか?あるいは、IPCCの報告書に代表されるように、温暖化現象そのものの実態について知りたいのか?

このような視点の差異について考えることは自分が入りたい学部を選ぶことと同義でした。エネルギー論のように具体的課題の解決・技術の社会への応用という視点を持つならば工学部、国家という社会集団の中で問題を取り扱いたいならば(雑で申し訳ないですが)文系の学部がよいだろうと考えていました。そして、温暖化とはそもそも何なのか?これから地球はどうなるのか?という疑問・好奇心に従うならば理学部がよいだろうと。

結局私は理学部に進んだわけですが、それは温暖化という自然現象の実態を把握し理解したい、もっとストレートに言うならば「知りたい」という欲求が一番強かったためです。そして今でも、一生をかけて自然を理解しようとすることは非常に魅力的だと思っています。

私は、理学(science)の第一の目的を「知る」「発見する」ことだと考えています。対して、工学などの応用科学(applied science)の目的は、基礎科学の成果を実学に応用することであるとされています。この意味でいえば私はまさしく理学を志したわけですが、まだ「どのような手段を用いて現象を知りたいか」について考えられていませんでした。すなわち、理学部の何学科に進学したいかを悩むことになったわけです。

2.学科の選択:「知る」という目的のための手段

例えば興味のある現象が物理学固有の現象ならば、学科選択において迷う自由度は低いでしょう(上記の理学・工学で迷うかもしれませんが)。その現象を理解するには物理学の思考過程に基づいて考察するのが一番であることが明白だからです。

しかし、私のように物理・化学・生物学など複数分野にまたがりうるトピックに興味がある場合、どのような思考体系に沿って考えたいかを判断する必要があります。物理学の考え方について言えば、「自然界に見られる現象には、人間の恣意的な解釈に依らない普遍的な法則があると考え、自然界の現象とその性質を、物質とその間に働く相互作用によって理解すること(力学的理解)、および物質をより基本的な要素に還元して理解すること(原子論的理解)を目的とする」(Wikipediaより引用)とあります。このような理解の仕方が好きな方は物理をぜひ使えばよいし、あまり合わないなと感じるのであれば別の手段を考えるべきでしょう。

しかし高校までの暗記中心の勉強だけでは、各分野の考え方などという崇高な概念はよく分からないかもしれません(事実私はそうでした)。そこでお勧めするのが、その分野の"考え方を理解するつもりで"授業を受けてみることです。

3.駒場時代の過ごし方のススメ:積極的に質問をする

駒場で皆さんに授業をしてくれている教授の方々は、各分野で世界の最先端の研究をされている方ばかりです。ただ授業を受けるだけでもその分野の考え方を習得するに大きな役割を果たしてくれますが、もっと積極的に質問をしてみてもよいと思います。「この分野に興味があるけれど、どんな面白い研究テーマがあるか分からない...」と悩んでいるのならば、ぜひ関連した授業を取って、授業後にいろんな質問をしてみてください。きっと自分で調べるだけでは分からなかった、理学の面白い世界を紹介してもらえると思います。

ちなみに私の場合は、2年生の夏学期、地球惑星科学専攻の中村尚教授が担当されている総合科目:惑星地球科学II『地球気候の形成・変動と大気海洋システム』を受講し、地球の大気システムが物理を使って非常に美しく表現できることを初めて知りました。授業後中村先生に「地球惑星科学専攻に進学すると温暖化に対してどのようなアプローチが出来るようになるか?」など、様々な質問をしたことで学部進学後のイメージが強く持てたことがよかったと思います。この授業を受けたのがきっかけで地球惑星物理学科に進学することを決めました。

4.現在の研究テーマ 〜大気境界層における乱流構造の力学〜

ここからは私が現在研究している事柄についてお話させていただきます。

私の専攻している地球惑星物理学は、地球や惑星の上で生起する様々な現象を、物理的手法を用いて解明する学問分野です。天気予報や緊急地震速報といった日常生活上のニーズを背景に、地球惑星物理学の対象は極めて多岐に渡っており、太陽系や惑星の進化、大気や地震、宇宙空間での現象までを含んでいます。近年では地球温暖化予想や深海探査、固体地球深部の探査、宇宙における生命発生の探求など、活躍の場は従来にもまして広がりつつあります。今日のコンピューターの進歩や衛星などの観測機器の発展に伴い、これから非常に面白くなってくる分野であると思います。

さて、私は地球惑星物理学科で勉強するうちに大気システムを物理学に基づいて研究する姿勢に興味を持ち、大学院で気象力学を専攻することにしました。現在は大気境界層における乱流の力学を研究しています。

大気境界層とは、低気圧・高気圧や台風などの現象が起きる対流圏の中でも、さらに地表に近い層のことです。大気の流れが木々や山・ビルなどとぶつかるために流れが非常に複雑で、乱流と呼ばれる大気現象が起こっています。

人間の生活圏に接している大気層であるために、この領域で起きる物理現象を解明することは社会的に大きな意義があります。特に昨今では福島原子力発電所事故において放射性物質の拡散の問題が大きく取り上げられましたが、このような物質拡散の予測には境界層の力学を正しく理解する必要があります。このように、気象に関する研究は理学的な好奇心を十分に満たしてくれるだけではなく、社会に対して明確な貢献が出来る点も魅力の一つであると考えています。

また、境界層の現象として非常に興味深いものの1つが、山の風下側に出来ると言われるつるし雲です。その形状から天空の城ラピュタに出てくる「竜の巣」とも呼ばれるそうですが、どのような物理機構が働いてこのような雲が形成されるのかは未だはっきりとは解明されていません。私は現在、大気境界層における乱流構造を陽に解像出来るモデルを開発し、つるし雲の再現と物理機構の解明についての研究をしています。

このように、気象力学は実際に目に見える世界を研究できるところが素敵だと思っています。空を見上げて思うさまざまな「なぜ?」を突き詰めて考えられる今の環境は、何にも代えがたいものであると感じています。

5.最後に

より原点に戻れば、私の研究に対するモチベーションは、理学の根幹である「物事の理を解明したい」という欲求に基づいています。既存の思考体系を理解する意味での"勉強"ももちろん大事ですが、未知の現象について"研究"を行うことはとても素晴らしい体験です。もし興味を持ってくれた方・共感してくれた方がいらっしゃったら、ぜひ理学部に来てください。先輩として皆さんが理学部の扉を叩いてくれるのをお待ちしています。

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