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パネルディスカッション「なぜ私は理学を選んだか」

白川 慶介(地球惑星科学専攻博士課程2年)

0. はじめに

皆さんこんにちは。現在大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程2年に在籍している白川慶介です。

私が進学した地球惑星物理学科は一学年が30名ほどで、文字通り地球や惑星上で起こる現象の理解を目指している学科です。大学院ではおとなりの地球惑星環境学科とあわせて地球惑星科学専攻となりますが、地球惑星物理学科の多くの学生がこの専攻の修士課程に進学し、さらにその半数近くが博士課程まで進学します。

私の場合は2006年に進学振り分けを経て理学部地球惑星物理学科に進学し、そのまま大学院に進学しました。現在は博士課程に在籍し研究者を目指していますが、進学振り分けの際に考えていた事や進学してからの体験を紹介することで、少しでも皆さんの進学先の選択に役立てて頂ければ幸いです。

1. なぜ私は理学を選んだか

自分自身が進学振り分けの際にどのように進学先について悩み、進路を決めていったか思い返してみると、"理学を選んだ"という表現よりも、"学びたい事が学べる進学先を選んだら、理学であった"という表現がしっくりくる様に思います。

私は幼少の頃から宇宙に興味がありました。なぜかと聞かれると、はっきりとした理由はよくはわかりませんが、生まれ育った田舎の綺麗な夜空や、実家の本棚にたまたま置かれていたカール・セーガンの「COSMOS」という本が少なからず影響をしている様に思います。その後中学生の頃にみたHale Bopp彗星が強烈に印象に残った事や、科学雑誌Newtonで魅力的に宇宙の謎が紹介されていた事から、高校に入学する頃には既に「大学に行って宇宙の勉強をする」と心に決めていました。

そのような背景があったことから、進学振り分けの際には「宇宙」や「天文」と行ったキーワードを含む学科をリストアップしてガイダンスに足を運んだと記憶しています。宇宙について学べる学科と言えば理学部の物理学科、天文学科、地球惑星物理学科がまず思いつきますが、さらに教養学部広域科学科でも宇宙をテーマにした講座が開講されており、進学先決定にあたっては大変迷った記憶があります。最終的には、地球周辺の宇宙空間から広くは太陽系外の宇宙まで、幅広いスケールで宇宙について学べる理学部地球惑星物理学科に進学する事にしました。理学部に進学する事で、物理学科や天文学科など、地球惑星物理学科以外の学科が開講している宇宙に関する講義も自由に受講できる事も、最終的に理学部に進学した大きな理由の一つでした。

2. 理学部地球惑星物理学科に進学して

進学振り分けに先立って行なわれた学科のガイダンスで驚いたのは、進学してからも物理学科、天文学科、地球惑星物理学科は共通した科目を多く受講する、という事です。いずれの学科に進学しても、土台となる数学や物理の知識は共通している、という事でしょう。

地球惑星物理学科の特色が色濃く現れてきたのは、3年次冬学期の「地球惑星物理学特別実験」という科目です。今では少々様変わりした様ですが、当時は10ほどあるテーマから2つを選択し、テーマを担当する教員や、TAの大学院生の助けを借りながら二ヶ月間、週の午後のコマの大半を使って、ひたすら実験を続けるものでした。私が特に印象に残っているのが2つめに選んだ実験テーマで、「干渉計を自作して木星の衛星イオから出るナトリウム大気を観測する」という実験でした。高校物理で学んだニュートンリングや薄膜干渉の原理を利用して、ナトリウムが発する特定の光を選択的に透過させる干渉計を自分たちで設計し、観測するのが目的の実験でした。実際には観測対象から届く光の量が全く足りず、やむなく月のナトリウム大気、最終的には観測対象を太陽大気中のナトリウムに変更しました。このように、駒場時代に行なっていた基礎実験とは異なり、実験計画そのものから自分たちで練り上げ、場合によっては計画を変更するなど、学生自身が工夫をする大変勉強になる科目でした。1月、2月の寒い中実験メンバーと理学部1号館の屋上まで調整した機器を運び上げ、木星が顔を出す午前3時を待つという経験は当時の私には大変なものでしたが、今から思い返すといい思い出です。また実験期間の最後には、行なった実験の目的や手法、結果までを一枚のポスターにまとめてお互いに発表しあう学科内の発表会があり、ただ実験結果を出すのみでなく、他者にその結果を短い時間でわかりやすく伝える技術についても学ぶ事ができるものでした。

4年次にはさらに実験だけでなく理論やデータ解析といったより多くのテーマから1つを選んで担当教員の指導を受ける「地球惑星物理学特別演習/特別研究」が開講され、私の場合はここで現在の研究内容につながるテーマに出会いました。

3. 現在の研究テーマ 〜降着円盤における磁気回転不安定性〜

私は4年生の演習の中で現在の指導教員が担当したテーマを選択し、最初はプラズマ物理の基礎を学んでいました。特にプラズマ中に帯電した塵が含まれるダストプラズマについて教科書を輪読していました。演習の最後に教科書で学んだ事をなにか未知の問題に適用しようと考え、当時の私の興味の一つであった惑星形成理論において重要な塵の振る舞いについて調べたのが、現在の研究テーマとの出会いです。

宇宙空間には中心に原始太陽やブラックホールなど、相対的に質量の大きな天体が存在し、その周辺をガスが円盤状に回転している「降着円盤」という構造が普遍的に存在しています。私たちの太陽系をはじめとする惑星系は、この降着円盤のなかで塵が集積してできたと考えられています。またブラックホール周辺の降着円盤の場合には円盤を構成するガスが中心のブラックホールに"降着"しながら、莫大な重力エネルギーを解放していると考えられています。これらの「惑星形成」や「降着現象」に共通して重要であるのは、円盤内でガスをはじめとした物質を動かす事ですが、回転する物質の角運動量が一定に保たれるという、「角運動量保存則」があるために、物質は簡単に降着する事ができません。「降着円盤内でいかにして角運動量を輸送し、物質を降着させるか」、これが現代の降着円盤研究における重要な問題の一つです。

この解決策として提案されたのが、タイトルにある「磁気回転不安定性」を用いて円盤内で乱流を駆動し、ダイナミックに角運動量を輸送しよう、というモデルです。円盤を構成する物質はその全ての成分が中性の状態にあるわけではなく、物質を構成する原子が原子核と電子とに分かれて運動する"プラズマ"という状態にあると考えられています。プラズマを構成する粒子は電荷を持っていますので、運動する事により周囲の電場や磁場の様子を変え、また自身はその電磁場によって次の瞬間の運動の様子を決めていきます。プラズマと磁場の相互作用に、さらに回転の効果が加わる事でプラズマが乱流状態に発展していく事が今から約20年前のシミュレーションによる研究で指摘され、以来様々な条件でシミュレーション研究が行なわれてきました。図は最近私が行なっているシミュレーションの一例で実線が磁力線です。非常に波打った形状を取っており、初期の条件を様々に変える事で乱流状態に発展していくと考えています。

現在では、「惑星形成」という一種の結果にこだわらず、より広く「回転するプラズマ」+「磁場」というシステムの進化について理解を深めようと研究を発展させているところです。

4. 進学振り分けを控えた皆さんへ

上記の様に書いてきましたが、実は私自身も進学振り分けに際して宇宙以外に興味がなかった訳ではありません。たまたま友人と聞きにいった工学部のガイダンスで「医学物理士」と呼ばれる面白そうな職業がある事を知り、工学部への進学を考えた事もありました。また駒場で開講される様々な教養科目を学ぶにつれ、宇宙以外にも魅力的な学問分野がある事を知りました。このように様々な学問分野にふれて、大いに迷った上で理学部に進学したため、進学後も自分が一番好きなものを学べていると実感できています。

駒場での2年間は多くの学問に触れることのできる貴重な機会であると思います。これから進学振り分けを迎える皆さんは、できるだけ多くの事を吸収し、自分が何を一番学びたいか大いに迷って頂きたいと思います。その上で理学部を選んで頂けたなら、これまで理学を学んできた者としてこれ以上うれしい事はありません。

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