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農業環境技術研究所 > プレスリリース・お知らせ

プレスリリース
NIAES
平成28年3月25日
国立研究開発法人農業環境技術研究所

農薬の生態リスクを評価する解析手法の技術マニュアルを公開

ポイント

・ 農薬の生態リスク評価のための「種の感受性分布」という新たな解析手法についての技術マニュアルを公開しました。

・ 技術マニュアルには、解析手法の技術的な背景や実際の解析方法、生態リスク評価への活用方法などが記載され、付録の表計算ファイルを用いることで簡単に解析を実施することができます。

・ 試験研究機関による農薬の生態リスク評価だけでなく、行政による農薬のリスク管理や、大学等での実習、さらには農薬メーカーによる自主管理などのためのツールとしての活用が期待されます。

概要

1. 国立研究開発法人農業環境技術研究所(農環研)は、農薬の生態リスク評価*1のための「種の感受性分布」解析の技術マニュアルを公開しました。

2. 河川や湖沼などの水圏生態系には、多種多様な生物が生息していますが、農薬の毒性は対象となる生物種によって極端に異なることが知られており、このような生物種間の感受性差を統計学的に表現したものを 「種の感受性分布」 (Species Sensitivity Distribution, SSD)(図1) といいます。

3. SSD の曲線は、農薬の濃度が上昇するにつれて、影響を受ける生物種の割合が高くなっていくという関係を表現しています。これを用いて、環境中の農薬の濃度から 「影響を受ける種の割合」 を計算してこれをリスク指標とする活用法と、95%の種を保護する濃度を推定してリスク管理の目標値とする活用法があります。海外ではすでに活用されている手法ですが、日本国内では、あまり利用されてきませんでした。

4. 本技術マニュアルは、この SSD を用いた解析を積み重ね、技術的な検討を行ってきた結果を、手法の基本的な紹介や歴史的背景、海外での活用事例などと共にまとめたものです。

5. 農環研のウェブサイト ( http://www.niaes.affrc.go.jp/techdoc/ssd/ ) から、本マニュアルの電子ファイル(PDF)と、解析ツール(MS-Excel 用ファイル)をダウンロードできます。

予算: 環境省環境研究総合推進費 「適切なリスク管理対策の選択を可能にする農薬の定量的リスク評価法の開発(5C-1102)」(平成23〜25 年度)、 環境省委託事業 「農薬水域生態リスクの新たな評価手法確立事業(調査研究)」(平成23〜27 年度)

問い合わせ先

研究推進責任者:

国立研究開発法人 農業環境技術研究所 茨城県つくば市観音台 3-1-3

理事長 宮下 清貴

研究担当者:

国立研究開発法人 農業環境技術研究所 有機化学物質研究領域

主任研究員 永井 孝志

広報担当者:

国立研究開発法人 農業環境技術研究所 広報情報室

広報グループリーダー 小野寺 達也

TEL 029-838-8191
FAX 029-838-8299
E-mail kouhou@niaes.affrc.go.jp

開発の社会的背景と経緯

1. 農薬は安定した食物生産に不可欠な資材ですが、農地の外に流出した場合には防除の対象外である生物に悪影響を与える懸念があります。特に日本の農業は水田を中心としているため、そこで使用された農薬は水田排水を通じて河川に流出しやすいという特徴を持っています。現在、農薬の水圏生態系への影響を評価する一般的な手法としては、農地から流出した農薬の河川等の環境中濃度と、特定の指標生物種*2に対する毒性値を比較しています。

2. 農薬は、病害虫や雑草など特定の生物に対して毒性が高く、人間など対象外の生物に対して毒性が低くなるように作られています。そのような作用特性により、農薬による影響は生物種によって極端に異なるため、限られた特定の指標生物種に対する毒性を調べるだけでは農薬の生態系に対する影響の実態把握は困難です。一方、欧米等諸外国ではこのような問題の解決のため、生物種間の感受性差を統計学的に解析するツールとして、「種の感受性分布」(SSD)という手法が活用されてきました。

3. SSD 解析の手法は、日本国内では研究者の間でもあまり知られておらず、活用事例は限られていました。この解析手法を詳しく解説した日本語の文献がほとんどないことがその大きな理由ではないかと考えられました。そこで、農環研では我が国における農薬の水圏生態リスク評価にこの手法を適用するための技術的な検討を行い、その結果を日本語の技術マニュアルとして公表することにしました。

4. さらに、この検討を続ける中で、SSD 解析に興味を持った方々から、統計の専門知識がなくても簡単に解析できるツールの要望をいただきました。それに応えるため、計算ツールとしての表計算ファイルを作成することにしました。

5. また、大学や地方自治体等の研究者によって、河川水中の農薬モニタリング等が各地で行われていますが、その測定結果の解釈が難しいため、明確な生態リスク評価ができない面がありました。そこで、環境中農薬濃度の測定結果を入力するだけで種の感受性分布を用いた生態リスク評価が可能な表計算ファイルも追加することにしました。

マニュアルの内容・意義

1. 環境中には数多くの生物種が生息しています。河川や湖沼などの水圏生態系では、緑藻や珪藻などを含む水生植物、ミジンコや水生昆虫などの節足動物、魚類や両生類などの脊椎動物が主なものです。すべての種に対する毒性試験を行って、生態毒性データ*3を得ることは現実的には不可能です。一方、多数の生物種の化学物質に対する感受性は対数正規分布*4に適合することが、経験的に知られており、図1 のような累積確率分布として表現できます。このように種間の感受性差を統計学的に表現したものが種の感受性分布(SSD)です。その活用には、環境中の農薬の濃度から「影響を受ける種の割合」を計算してこれをリスク指標とする方法と、95%の種を保護する濃度 (すなわち5%の種が影響を受ける濃度、 5% Hazard Concentration, HC5) を推定して、リスク管理のための目標濃度を決める方法の二通りがあります。

2. 本技術マニュアル(図2)は、この SSD を活用して解析を積み重ね、技術的な検討を行ってきた結果をまとめたものです。SSD は、海外では既に活用されている手法であり、この手法の基本的解説、歴史的背景や海外での活用事例を第1章に整理しました。また、SSD の解析には多数の生態毒性データが必要となりますが、この毒性データの収集と評価方法について第2章に記載しました。SSD の具体的な解析方法と、これまで行ってきた解析結果、さらにそれを用いた生態リスク評価手法について第3章で解説しました。第4章では、解析に必要なデータ数や、複数の農薬による複合影響の評価法など、専門家向けのさらに高度な解説を行いました。特に、リスク評価は評価結果としての数値が一人歩きする懸念があるため、数値の解釈の仕方について丁寧に解説してあります。

3. 本マニュアルの電子ファイル(PDF)と解析のための MS-Excel ファイルは、農業環境技術研究所のウェブサイト( http://www.niaes.affrc.go.jp/techdoc/ssd/ )から、ダウンロードできます。また、希望者には印刷物を配布します。付録としてダウンロードできる MS-Excel ファイルでは、利用者自身が手持ちの毒性データを入力して SSD の解析を行ったり(図3)、モニタリングによって測定した河川水中農薬濃度を入力して生態リスク評価を行ったり(図4)することができます。

今後の予定・期待

本技術マニュアルによって、試験研究機関における生態リスク評価だけでなく、行政による農薬のリスク管理、大学等での実習、さらには農薬メーカーによる自主管理などのためのツールとして活用され、農薬の生態リスク評価やリスク管理がより高度化されることを期待しています。また、農薬以外の一般化学物質の生態リスク評価やリスク管理にも広く利用できます。さらに、論文等では通常記載されない、詳細な技術的情報を記載したことで、リスク評価・管理の具体的方法に関する理解が深まります。

用語の解説

*1 生態リスク評価
化学物質管理の意思決定に使用することを目的として、化学物質の環境中濃度とその化学物質の毒性値を比較してリスクの有無を判断したり、リスクの大きさを指標化して定量的に表現したりすることが生態リスク評価です。リスクを定量的に表現することで、リスクの大きさの比較やリスク低減対策の効果の評価などの解析が可能となります。

*2 指標生物種
水生生物に対する化学物質の影響を調べる際には、水圏生態系の各栄養段階を代表する指標生物種として、一次生産者の緑藻 (Pseudokirchneriella subcapitata)、一次消費者のオオミジンコ、二次消費者のコイやメダカのいわゆる3点セットと呼ばれる生物種を使用するのが一般的です。

*3 生態毒性データ
単一の生物種を実験室内で飼育し、そこに化学物質を段階的に異なる濃度で加え、生死や増殖等への影響を調べる試験が生態毒性試験です。その結果から、実験に使用した個体の半数が死ぬ濃度や増殖が半分になる濃度を算出したものが、その生物種の感受性を表した数値 (生態毒性データ) となります。

*4 対数正規分布
自然現象の中に現れるバラツキは釣鐘型をした正規分布に近似できるものが多く、ある化学物質に対する種間の感受性の対数値も正規分布に近似できることが経験的に知られています。このような対数値を正規分布で表現したものが対数正規分布です。対数正規分布は二つのパラメータ(対数平均値と対数標準偏差)でその曲線の形が決まります。対数平均値は分布の相対的な位置を意味し、値が大きいほど相対的な毒性が低いことを意味しています。対数標準偏差は分布の傾きを意味し、値が大きいほど種間の感受性差が大きくなります。

図1 種の感受性分布の概念図
この例では、6種の生物を農薬によって影響を受けやすい順番に並べ(図上段)、それぞれの種の毒性値に従って対数正規分布曲線(図下段の曲線)に適合させています。この曲線は、農薬の濃度(の対数値)が上昇するにつれて、影響を受ける種の割合が高くなっていくという関係を示しています。(注:この図はあくまで概念的な説明であり、生物種に対する感受性の順序は農薬の種類によって異なることが知られています)

図2 技術マニュアル表紙
農環研ウェブサイトから、技術マニュアルと計算用ファイルがダウンロードできます。

図3 MS-Excelを用いた種の感受性分布の計算
手持ちの毒性データを入力して、最尤法による種の感受性分布のパラメータ(対数平均値、対数標準偏差値)の決定を、ソルバー機能を用いて行うことができます。

図4 MS-Excelを用いた「影響を受ける種の割合」の計算
68農薬の種の感受性分布のパラメータが予め入力されており、農薬名を選択して河川水中農薬濃度(μg/L)を入力するだけで「影響を受ける種の割合」が計算されます。また、そのリスクの大きさの判定結果も示されます。

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