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女性および高齢者の脂質異常症

公開日:2016年05月18日

最終更新日:2025年06月25日

国立成育医療研究センター

この記事を監修したドクター

子どもと女性のための病院と研究所国立成育医療研究センター

脂質異常症で問題となるのは、血液中の脂質である悪玉(LDL)コレステロールや中性脂肪が多すぎる、または善玉(HDL)コレステロールが少なすぎるなどの所見を示す場合です。女性の場合は閉経によってホルモンバランスが変化することでなりやすく、動脈硬化を引き起こしやすくなり、心筋梗塞や脳梗塞のリスクも高まるので注意が必要です。

脂質異常症とは

血液中の脂質として検査されているものは、総コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪の4つです。LDLコレステロールが高い、HDLコレステロールが低い、中性脂肪が高い、のいずれか一つでもあれば、脂質異常症と診断します。この中で、動脈硬化性疾患(狭心症、心筋梗塞、脳梗塞など)と最も関係が深いのは、LDLコレステロールです。

女性は閉経すると、脂質異常症になりやすくなり、動脈硬化が進みます

脂質代謝には性差があり、女性では閉経後に大きな変化がみられます。女性の総コレステロール値、LDLコレステロール値は50歳以前では男性と比較して低いですが、50歳以降は急速に上昇して男性よりも高くなります。(図1)

脂質異常症は動脈硬化のリスクファクターの一つですが、女性では内因性の女性ホルモンであるエストロゲンが動脈硬化に対して保護的に働くため、閉経前に動脈硬化が起こることはとても少ないです。しかし50歳以降になると、閉経に伴い急速に女性の発症頻度が増加し、70歳代ではほとんど男女変わらなくなるのは、閉経頃から高LDLコレステロール血症の方の増加と、内臓脂肪蓄積型肥満を基盤としたメタボリックシンドロームの方の増加が大きく関与すると考えられています(図2)。

このような閉経に影響される脂質値の変動や心血管疾患の発症率の増加から、日本動脈硬化学会のガイドライン(1)では閉経を1つのリスクファクターとしており、閉経後の女性では男性と同じように脂質異常症が動脈硬化のリスクファクターになると考えなければなりません。


図1 年齢別に見た血清LDLコレステロール値の平均値
(令和5年 国民健康・栄養調査)


年齢別に見た血清LDLコレステロール値の平均値


図2 年齢別に見た肥満者(BMI≧25)の割合(%)
(令和5年 国民健康・栄養調査)


年齢別に見た肥満者(BMI≧25)の割合

脂質異常症の治療では、生活習慣の改善が基本です

脂質異常症の中で遺伝によりLDLコレステロールが異常に高くなる、家族性高コレステロール血症などの特殊な病型を除けば、食事療法で十分な改善が得られることが多いです。閉経後女性では肥満が増えていることからも、摂取エネルギーの適正化を図ることが重要となります。また、閉経後女性の肥満や運動不足が増えていることからも、ウォーキングやサイクリングなど1日30分以上の中強度以上の有酸素運動を中心に、運動習慣を日々の生活に取り入れることが望ましいです。運動は消費エネルギーの増大と代謝改善を通じて、脂質異常症、肥満、糖代謝異常などのメタボリックシンドロームの予防ならびに治療効果が大きいです。運動に関して詳しくは「健康日本21アクション支援システム健康づくりサポートネット」もご覧ください。

食事療法や運動療法などの生活習慣の改善を行って3カ月以上たっても効果が認められない場合は薬物療法を考慮します。脂質異常症のタイプにもよりますが、多くは、動脈硬化予防効果の強いエビデンスがあるHMG-CoA還元酵素阻害剤(スタチン)が薬剤の第一選択となります。

高齢になると、人によって治療法が変わります

高齢者の理想体重は若い人よりも高めです。高齢者では、少し太っているくらいの方が、死亡率が低くなることが知られています。免疫力が高くなり、骨も丈夫になるからです。また、高齢者では、一般的に食事量が少ないため、厳しい食事療法は栄養状態を悪くしてしまうため注意する必要があります。運動療法についても、ひざや腰の痛みを抱えていることがあり、それらの悪化を招くこともあるため、それぞれに適した運動を行います。

スタチンは高齢者において新たな糖尿病発症リスクを増加させる可能性があるため、注意して使用する必要があります(2)。スタチンで不十分な場合には、コレステロール吸収阻害薬や陰イオン交換樹脂などを必要に応じて併用、あるいは単独で使用します。

75歳以上の高齢者の脂質異常症管理については、動脈硬化性疾患を起こしたことのない患者さんに関しては、まだ十分なエビデンスはなく、それぞれの患者さんの病態を考慮して、主治医の判断で柔軟に対応することが求められます。

1: 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版、一般社団法人日本動脈硬化学会
2: 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015、日本老年医学会、2015

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