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東九州龍谷バレー部の山浦槙

高校バレーボール女子の強豪で「高校3冠」を過去2度達成した「東龍(とうりゅう)」こと東九州龍谷(大分県中津市)のセッター、山浦槙(3年)が「水上の格闘技」に挑戦する。約20倍の難関を突破して、ボートレーサー養成所(福岡県柳川市)の入所試験に合格。相原昇監督(56)によると「東龍バレー部初」という。4月に入所し、複数回にわたるテストなどをクリアしてライセンスを取得した後、順調なら来春に138期の選手として晴れてプロデビューする。

バレーボーラーからボートレーサーを目指す
東九州龍谷高3年の山浦槙

ボートレーサー養成所の試験は昨年12月、全日本高校選手権(春高バレー)の大分県予選と本大会の間に行われた。「水上の格闘技」への挑戦を応援してくれた父芳樹さん(44)とは対照的に、母由佳さん(47)には「危ないから、やめて!」と反対され、ことあるごとに「ほんとになるつもりなの?」と聞かれ続けた。それでも山浦の気持ちは揺らがなかった。

応募資格は男女ともに身長175センチ以下で、女子は体重が44キロ以上52キロ以下。154センチの身長は問題なくても、体重は昨秋の時点で53キロとオーバーしていた。白ご飯など炭水化物を1カ月間断ち、少量のおかずとサラダ中心の食生活で49キロまで減量した。国語、数学、理科、社会の学科試験対策は3カ月前から取り組んだ。スポーツ推薦だったため、試験は2次と3次の計2回。トータルで約1000人が受験し、合格したのは50人だった。年明けの春高後、山浦の手元に、うれしい通知が届いた。

からつボート
佐賀県伊万里市出身、小学3年時に父に連れられ「からつボート」へ

山浦は佐賀県伊万里市出身。夢を抱くきっかけになったのは、父と訪れた同県唐津市の「からつボート」だった。「バレーを始めた小学3年生の頃だったと思います。男女関係なく競えて、勝負できる世界が格好良かった。それ以来、両親には『私もなりたい』と、ずっと言っていました」と明かした。

小中高とバレーボールに打ち込む毎日が続き、ボートレース場に足を運んだのは、その一度だけ。夢は現実の目標へと変わっていった。「中学でも身長が伸びなかったので、上でバレーを続けるのは難しいかなと。でも、頑張って続ければ、体力的にもメンタル的にも鍛えられて(ボートレーサーに)近づけるかも」。

高校は故郷の佐賀から離れた大分の東龍を選んだ。「何回も全国制覇をしている強い学校でやりたかった。それに(ボートレーサー養成所の)受験にも生きるかなと」。有望中学生が集まる全国区の強豪は今年1月の春高でも8強入り。これまで2016年リオデジャネイロ五輪代表の長岡望悠(33)や24年パリ五輪代表の荒木彩花(23)=いずれもSAGA久光スプリングス=ら多くの日本代表選手を生んだ。現チームにも各ポジションに有力選手がいる。

新チームの試合で後輩をサポートした
山浦槙(前列左から3人目)ら東九州龍谷高の3年生たち
「気持ちがぶれない。肝が据わっている」名将も賞賛

スタメンに定着しきれず、試合では後輩をサポートする日々が続いても、山浦は常に自に言い聞かせてきた。「喜怒哀楽を自分でコントロールできるようになりなさい」―。セッターの経験者でもある相原監督の言葉だ。「ボールを誰よりも扱うポジションですし、先生から一番大切なことを学びました」

懸命にボールを上げ、拾い、追った。「悔しかったけれど、勝つために選ばれたメンバーがベストだから」。そのひたむきな姿を相原監督も見ていた。「山浦は気持ちがぶれないし、肝が据わっている」。春高の本大会出場が懸かった昨秋の県予選決勝。「打倒東龍」に燃える大分商との一戦で先発セッターに、山浦を抜てきした。誰もが緊張で硬くなりがちな立ち上がりを任せ、試合が動き出してから主戦セッターの吉村はぐみ(1年)にスイッチした。春高では全3試合、リリーフサーバーと後衛での守備固めで起用。この相原監督の信頼に応え、山浦は役割を全うした。目標の日本一には届かなくても「悔いはありません」と言い切った。

福岡県柳川市のボートレーサー養成所
スマホ禁止、手紙&3分間の公衆電話のみで1年間修行

春から始まる養成所での養成期間中は、厳しい訓練が待ち受ける。「(1年間で)半分近く落とされると聞いています。これからは修了できるように、覚悟を持って取り組みます」。スマートフォンや交流サイト(SNS)は一切禁止。家族との連絡は手紙、もしくは土日の公衆電話での通話(3分間)に限られる。「1年間頑張れば、プロになれるチャンスがやってくる。そのためなら頑張れます」。高校でも寮生活を送っており、相原監督からは「今のうちから養成所での生活をリハーサルしておきなさい」と助言された。

ボートレースは他の公営競技と比べても女性選手の比率が高い。瞬時の判断力、スタートやターンの精度、モーターなどの整備技術...あらゆる要素が求められる。「運動神経は私の強みですし、感情に左右されない性格だと思っています。ここ(東龍)に来たからこそ、そういう自分になれました。だからこそ、恩返しがしたい」。山浦は真っすぐな視線で言い切った。

祖父や父は大工として「木の世界」でなりわいを立ててきた。山浦の名前の「槙」に「木」が入っているのも「欠かせない存在に」との願いからだ。高校の練習着には「気合い」の3文字を縫い付けて、練習に耐え抜いた。「決して期待を裏切らない選手」が、相原監督の山浦評でもある。「応援してくれる人を楽しませる、そんなボートレーサーになりたい。メンタルは...自分でも強い方だと思っています」。コートで培った鋼の勝負心を胸に、新たな道を歩む。(西口憲一)

だいやまーく山浦槙(やまうら・まき)2006年11月2日生まれ。佐賀県伊万里市出身。東山代小3年からバレーボールを始め、6年から「有田中部JVC」でプレー。国見中では部活動以外に「佐賀VBC」でもボールを追った。ポジションは中学からセッター。22年に東九州龍谷高(大分)に入学。身長154センチ。

ボートレーサー養成所を巣立った134期生=2024年3月撮影

だいやまーくボートレーサー養成所 以前は山梨県の「本栖研修所」で養成しており、2001年に現在の福岡県柳川市に移転した。半年ごとに約50人が入所し、1年間の訓練を受け、修了すればプロとしてデビューできる。一方で訓練は厳しく、半数ほどふるい落とされる。入所には一般試験のほか、日本代表などトップクラスの活動実績を持つアスリートが対象の特別試験もある。養成所は全寮制で寮費、食費、学費などは無料。

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西口 憲一

西口 憲一

編集委員

立命館大学でアメリカンフットボールに打ち込み、「人の心を動かし、心に残るような記事を書きたい」とスポーツ記者を志しました。 1993年西日本新聞社入社。 運動部からスタートし、以来、福岡→大分→福岡→東京→福岡→東京→福岡。 主にプロ野球(ダイエー、ソフトバンク、西武)やソフトボールを取材。1999年ダイエー初優勝、2008年北京と2021年東京の両五輪でのソフトボール金メダル獲得に心が震えました。 現在はバレーボールSVリーグ女子のSAGA久光スプリングスの記事も書いています。福岡市出身。

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